西日本シティ銀行のデジタル戦略とデータ利活用の取組みについて

尼田 雅典 氏
【講演者】
株式会社西日本フィナンシャルホールディングス
オープン・イノベーション推進室長
尼田 雅典 氏

<中期経営計画で目指す姿>

当社の中期経営計画において「地域の元気を創造する」というキャッチフレーズを掲げている。お客さま起点のOne to Oneソリューションを、ヒューマンタッチとデジタルの両面で提供することが核心だ。ヒトとデジタルをどのようにして最適に融合させるかが課題である。当社の場合はデジタルテクノロジーでお客さまのニーズを掴み、ナーチャリングを行い、最後は人で完結させる施策がやや多いと感じている。現中計は3年目に入り、今年のテーマはデジタルトランスフォーメーションである。昨年のデジタライゼーションからデジタルトランスフォーメーションには高い壁があると感じながら、少しずつ施策を進めている状況だ。

<主なデジタルチャネル>

個人のお客さまに向けては「西日本シティ銀行アプリ」を提供し、アプリの機能強化を図っている。一方法人のお客様には、法人向けプラットフォームの「NCBビジネスステーション」を提供している。あらゆるチャネルのデータを一元化するため、マーケティングオートメーションの導入、コールセンターのクラウド化、現場のCRMのクラウド化を進めている。

<個人向けチャネル:西日本シティ銀行アプリ>

「スマホの中にも銀行を!」をコンセプトにサービスを開始し、現在117万ダウンロードと地銀トップレベルの実績となっている。昨年3月に「アプリ3.0」へリニューアルを行い、アプリとインターネットバンキングのシームレスな一体化を実現した。

特徴的な機能が3つあり、1つ目は地銀初となる「家族口座見守りサービス」だ。残高や入出金を家族がアプリ等で照会することができ、一定金額以上の取引を家族へ通知する機能もある。2つ目は「着せ替え機能」で、アプリのデザインを自分好みにカスタマイズできる。20万人以上と、想定以上に多くのお客さまにご利用いただいている機能だ。3つ目の機能は「スマホATM」で、セブン銀行様のATMでスマホのみで出金ができる。

<法人向けチャネル>

NCBビジネスステーションは2020年12月に導入した、法人向けのプラットフォームだ。トランザクションレンディングや、各種帳票の受け取りといったサービスを開始する予定となっている。「西日本FH Big Advance」はビジネスマッチングを中心としたサービスを有料で提供している。

<オウンドメディアを通じた送客>

当社はオウンドメディアにも力を入れており、Twitterのフォロワー数が約9万人と地銀でNo.1だ。また「Go!Go!ワンク」は地域の元気を創造するメディアとして、お金や街・ヒトに関する情報を提供している。地元メディアで活躍
していた人材を中途採用し、2名で運営している。このブログ記事を作るパワーが、後々マーケティングオートメーションで生かされていった流れだ。

<マーケティングオートメーション>

2020年6月、当社はSalesforce社の「Marketing Cloud」と当社のビッグデータを組み合わせ、独自のマーケティング自動化システムを構築した。お客さまに最適なタイミング・チャネルで、最適な内容をご案内するための仕組みだ。具体例としては、給与受取のために新規口座開設をした方へ、お礼メールとアプリの案内を送信している。アプリをダウンロードすると、AI等が取引やアプリの利用状況を分析し、お客さまに応じた最適な情報をアプリ上に表示する。

ここで皆様に1つ問いかけたいのが、銀行のデータだけでお客さまのことは分かるのかということだ。銀行はお客さまに関する数多くの情報を有しているが、そこに過信があったのではないかと思うようになった。口座情報だけを分析しても、一人ひとりの趣味嗜好やライフスタイルは把握できず、お客さま理解には至らないのではないだろうか。

<当行のマーケティングオートメーション>

お客さまの主なデジタルの反応データをしっかり掴んでいくことが肝要だ。元々保有している取引・属性データを組み合わせ、ビッグデータを作っていく。その中でSAS様のツールでお客さまをセグメントし、アウトプットをするところでSalesforce様のツールを活用している。

<仮説検証>

マーケティングオートメーションのシナリオとして、現在は十数本を展開している。マーケティングオートメーションと同じ環境を手作業で行うため、いくつかのPoCを実施したので、今回はその結果についてお話しする。

1つ目はデジタルチャネルの反応データとヒット率の関係だ。アプリ上にバナー広告を掲載し、広告をクリックした顧客とそうでない顧客のヒット率を比較した。その結果、バナークリック有りの顧客のローン申込はヒット率が6.1倍に、積立商品来店誘致はヒット率が2.3倍に向上した。

2つ目はDMにQRコードを付けたアプローチでのヒット率の検証だ。個人特定が可能なQRコードを添付したDMを発送、読み取ったお客さまを特定し、3日以内にコールセンターからフォローを入れた。その結果、QRを読み取った方のローン申込率は5.7倍に向上した。

3つ目は新規口座開設先へのアプリの紹介だ。SMSやDMを送ったお客さまは、そうでないお客さまと比べてアプリダウンロード率が高くなった。現在は6割ほどのお客さまにアプリをダウンロードいただけている状況だ。

4つ目はクリエイティブの作り分けの事例で、ローンのDMを男女別に作り分けた。従来型・男性型・女性型の3種類でヒット率を比較したところ、女性のヒット率は1.5倍と大きく向上した。

<情報資源拡大の必要性>

様々なモデルを作るなかで、時間が経過するについて対象先リストが劣化し、ヒット率が落ちてしまう。劣化を改善するには、情報資源拡大によるリストの高度化が必要となる。そこで行った取り組みの1つが、当社発行のクレジットカードのデータ活用だ。カードローンの利用率が高いお客さまの、クレジットカード利用店舗の組み合わせを分析した。その結果、セブンイレブンでの決済あり、ミスターマックスでの決済あり、ユニクロでの決済なしの組み合わせでカードローンの利用率が高いことが分かった。しかし楽天カードなど他社のカード利用も伸びており、自社カードのデータだけでは限界があるのが課題だ。

<アカウントアグリゲーション>

そこで必要だと感じているがアカウントアグリゲーションで、様々な取引データを銀行に蓄積し、使わせていただくことだ。とある銀行のスマホアプリでは、利用者が登録した口座やクレジットカード等の取引データ取得を実現している。利用者の18.8%がアカウントアグリゲーションを利用しているとのデータもあり、しっかりしたUIのものを作れば利用して頂けるのではないかと考えている。

<口座振替Web契約システム「口座振替.com」>

口座振替申込書は地方銀行の課題の1つで、申込書の配布・回収や不備対応に多大な手間が発生し、ベンダーからのシステム導入のコストも高い。そこでリリースしたのが自社開発したこのサービスで、システムチェックにより不備発生を0にし、4営業日後から口座引き落としが可能となる。金融機関だけでなく、小学校・中学校からの引合も発生している状況だ。銀行が保有していない重要なデータの1つに家族構成がある。小学校入学前のお子さんをお持ちの方は金融ニーズが高い。そういった方を特定するのにこちらのサービスのデータが役立つ。

<BaaS(事業者Pay)>

今後は銀行が直接お客さまに金融サービスを提供するのに加え、事業会社を通じて提供するケースも増えてくるだろう。我々が今進めているのは、地元のお客さまのアプリの中に決済の機能を組み込んでいただくことだ。クレジットカード決済手数料の問題解消やお客さまの囲い込みなどに役立つと考えている。