2021年12月2日(木)開催 FINANCE FORUM「デジタライゼーションに向けたデータ利活用の今後」<アフターレポート>

2021年12月2日(木)開催 FINANCE FORUM「デジタライゼーションに向けたデータ利活用の今後」<アフターレポート>

印刷用ページ

2021年12月2日セミナーインフォ主催 FINANCE FORUM 「デジタライゼーションに向けたデータ利活用の今後」が開催された。令和3年度の金融庁の行政方針の取り組みの一つに、 データ分析の高度化が求められ、多くの金融機関の関心を集めた。さらには、新型コロナウイルス感染拡大により、リモートワークが広がる中、データを起点としたデジタル化は急務となっている。本フォーラムでは金融業界におけるデータ利活用の先進事例や、各協賛企業の講演を通じて、日本企業が今後直面する課題とその解決策などをご紹介いただいた。

※株式会社セールスフォース・ジャパンのレポート記事の掲載はございません。

  1. 「地域DXとデジタル地域振興券」
    株式会社みずほフィナンシャルグループ 多治見 和彦 氏
  2. 「データ活用で金融機関を変える!キーエンス流データ活用術」
    株式会社キーエンス 鈴木 辰弥 氏
  3. 「第一生命におけるデータ活用とリアルビジネスへの生かし方」
    第一生命保険株式会社 板谷 健司 氏

「地域DXとデジタル地域振興券」

多治見 和彦 氏
基調講演
【講演者】
株式会社みずほフィナンシャルグループ
次長
多治見 和彦 氏

<はじめに>

今回は「地域DXとデジタル地域振興券」と題し、当行が各自治体・地域で取り組んできた一連の試みを通じて得たデジタライゼーションとデータ利活用についての知見、さらに今後の展望・課題についてお話しできればと思う。

当行でデジタルイノベーション部が発足したのは、2017年4月のことである。部署の立ち上げと同時にデジタルイノベーション部に所属することになった私は、以後一貫して新規ビジネスを創出するという業務に携わってきた。こうして我々が挑戦してきた新規ビジネスの1つが、今回ご紹介するデジタル地域振興券である。

金融分野のイノベーションの流れ~総合金融サービスの危機

まず金融分野のイノベーションの流れについて、簡単に振り返っておきたい。日本でフィンテックという言葉が登場して久しい。登場から年数がたつにつれ、その意味するところは多少少しずつ変わってきているような印象があるものの、依然として金融業界における1つの新しい動きを代表するキーワードとして定着している。

フィンテックという言葉が登場した当時、新興企業がクラウドなどの先進的な技術を使いこれまで従来非常にコストのかかっていたサービスを素早くローンチしていくということがいわれていた。実際、そういったプレイヤーが非常に多く登場してきたように思う。

従来の金融のシステムは非常に重いものだった。一方、新興企業、スタートアップが新しい技術を使ってクイックに開発し、サービスを展開していく。またスマートフォンのアプリといったフロントエンドで、ユーザーにとって使いやすいサービスが開発される。こういったスタートアップのソリューションが数多く出てくると、我々みずほフィナンシャルグループも展開していた総合金融サービスというものの足下が若干揺らいでくる。

それぞれのソリューションそのものはスタートアップが作った優れたもので、それゆえに利用者の側にも個別のソリューションはスタートアップのものを使った方がよいのではという流れが出てくる。そうして起きたのが金融サービスの分断化、アンバンドリングである。この流れはしばらく続いたように記憶している。

一方で、個別のサービスにも個別のサービスだからこその使いにくさがあった。ユーザー側にはワンストップでサービスを受けたいというニーズもあったからだ。それゆえにアンバンドリングと平行して、分断化したサービスを再び1つに集めるリバンドリングという動きも起きてきたように思う。このような状況下で、我々も新しい動きに対応するべく、顧客ニーズの変化や新規ビジネスの創出、従来型の業務スタイルの変革といった点に目を向けるようになった。試行錯誤をしながら、他のパートナー企業と手を携えてデジタライゼーションに取り組んできたところだ。

これからご紹介するデジタル地域振興券という新しいプロジェクトができたのも、こうした取り組みの延長線上にある。

<スマートスタジアム構想からデジタル地域振興券へ

我々のデジタライゼーションのゴールのひとつは利用者を集めることであり、実際に利用者に使ってもらうことともいえる。そのためにも施策の実行に役立つデータを集めなければならない。

そこで、我々が考えたのが、特定の閉じた空間で我々のサービスだけを使ってもらうということであった。閉じた空間内で、そこにいる方たちに共通のアプリケーションを使ってもらえればデータの利活用を横断的に行うことができ、スマート化における次のステップに進むための知見も得られるのではないか。そのような仮説を立てて、我々が最初に試みたのが「スタジアム」である。しかしながら、スポーツに関する知見がなかったこともあり、スタジアム内で使える専用のアプリケーションを開発したり、データを集めたりといった取り組みを行うのは現実的には難しかった。

そこで、我々は方針を転換し、金融機関の強みの生きる「お金を使う場面」にターゲットを絞って、実証実験を行うことにした。目を付けたのが、事前にチケットを買って同じ商店街内の飲食店をはしごする「はしご酒」イベントである。はしご酒イベントを行っている自治体は全国各地にあるが、イベントに必要な紙のチケットをデジタル化すれば効率的にイベントを運営できるのではないか、と考えたのだ。幸運にも新型コロナウイルス感染症拡大前のタイミングで、実証実験をする機会に恵まれた。そこで手応えを得て、紙のプレミアム付き商品券をデジタル化するソリューションとして「デジタル地域振興券」というプロジェクトに応用する機会を得て購入手続きのオンライン化、QRコード決済や残高照会機能を実装するなど利便性を考えサービス設計をした。新型コロナウイルス感染拡大にて「はしご酒」のソリューションの利用はないが、デジタル地域振興券は延べ20の自治体などで実施された大きなプロジェクトになった。現在は、各地域の金融機関と提携しつつ、みずほの支店網がない地方都市にもアプローチをしている状況である。

<金融分野のイノベーションとこれからの地域DX

上記のようなプロジェクトを進める中で、データ利活用に関する知見も増え、データに基づいて施策を打てるような環境が整ってきた。たとえば前述の「はしご酒」イベントであれば、利用者のデータの分析を通して、はしご酒イベントに開催場所の最寄り駅以外に住んでいる人以外の参加者が多かったことがわかり、沿線単位で広告を展開するなど今後のイベントを企画する上で必要な知見を得ることができた。収集したデータをいろんな角度で眺め、可視化した上で、それをベースに仮説を作り、アイディアを出して提案している。

データ活用のインフラ整備や人材確保に力を入れ、データの活用サイクルをできるだけ短くしていくことが今後の目標だ。また、データを多く集めるためにも、さまざまなソリューションと連携を行うためのインフラであるデータ連携の基盤を拡張していくことを考えている。

<地域DXとその先

今、足下ではスマートシティ構想やデジタル庁発足をはじめ、国の方でもデジタル化に力を入れる動きが出ている。データを集めサービス向上につなげるためにも、たとえば都市OSやデータ連携基盤のような、各サービス・データを司るデータ利活用のための共通インフラが求められる。我々としても、こうした動きをふまえてプロダクトを考える必要を感じている。たとえば自治体向けのサービスとしては、デジタル地域振興券の発展系ともいえるデジタル地域通貨であるとか、自治体職員向けの健康管理・資産管理のソリューションといったものを構想している。

今、Banking as a Service、Embedded Financeのように金融業と非金融業の連携による新しい金融の流れに注目が集まっている。こうした新しい潮流の中にあって、いわばお金を回す仕組み等を提供するプレイヤーとして銀行が存在するべきであるとの期待を感じている。

従来の金融機関は資金を提供することによって取引先企業に成長していただき、その一部を利息として受け取るという役割を果たしていたように思う。

これまで申し上げてきたようなソリューションやサービスを提供できる存在に金融機関がなれるかどうかはこれからの取り組み次第であるが、今後はさまざまなサービスをつなぎあわせて、取引先企業や自治体、地域に寄り添っていき、取引先企業や自治体、地域の成長を支援することができるだろう。金融機関はその成長の一部を対価としていただけるような新しいビジネススタイルを目指すべきだろう。金融機能の提供のみならず、データ利活用に基づくコンサルティングも含め、幅広い意味での経済成長を支援することが今後の金融機関に求められている役割ではないかと考えている。