2022年5月26日(木)開催 FINANCE WEBINAR「金融機関におけるバックオフィス業務のデジタル化」<アフターレポート>

2022年5月26日(木)開催 FINANCE WEBINAR「金融機関におけるバックオフィス業務のデジタル化」<アフターレポート>

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2022年5月26日セミナーインフォ主催FINANCE WEBINAR「金融機関におけるバックオフィス業務のデジタル化」が開催された。近年、日本では少子高齢化社会による人手不足が社会問題となっている。さらには新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、人手不足が常態化している。そこで、RPA、AI、OCR、電子契約・サイン、クラウドなど様々なテクノロジー技術を駆使し業務を自動化させ、さらなる業務の効率化を推進していくことが求められている。本セミナーでは、基調講演として株式会社千葉銀行、特別講演として株式会社ふくおかフィナンシャルグループに最新の取り組み事例をご紹介いただいたほか、各先進企業の講演を通じ、最新テクノロジーを活用した金融機関におけるバックオフィス業務をご紹介した。

  1. 「千葉銀行が業務効率化施策において大切にしている「考え方」と具体的事例」
    株式会社千葉銀行 松岡 宏明 氏
  2. 「金融業界に今求められるバックオフィスの文書業務デジタル化」
    アドビ株式会社 岩松 健史 氏
  3. 「契約業務のデジタル化で業務効率アップ
    ~金融機関だからこその電子契約のメリットとは~」
    弁護士ドットコム株式会社 稲葉 誠人 氏
  4. 「金融業界におけるAIトレンドと最新のAI活用事例」
    株式会社シナモン 家田 佳明 氏/林 弘樹 氏
  5. 「ふくおかFGでのRPA、AI-OCRによる業務効率化」
    株式会社ふくおかフィナンシャルグループ 野田 享弘 氏

「千葉銀行が業務効率化施策において大切にしている『考え方 』 と具体的事例」

松岡 宏明 氏
基調講演
【講演者】
株式会社千葉銀行
デジタル改革部 副部長 
松岡 宏明 氏

「効率化」によってコストは減らせたのか?>

効率化の目的は事務部門のローコスト化であり、「人数削減」「単価減少」のどちらかの成果が必要だ。業務効率化の成果として「年間1万時間分の業務量を削減した」といった表現を耳にすることが多いが、当行の場合は「その部門から実際に〇人が減りました」といった成果でなくてはならない。実際に事務部門で削減できた人数は、融資部門は5年間で100人、預金部門は5年間で320人、本部集中部門は2年間で50人だ。

「紙への依存」がなくなるとどんな良いことが?

デジタルで受付してデジタルで処理完了できれば、「紙に書かせない」「紙の情報を入力させない」「紙を片付けない」の3点は確実に効果が出る。「紙を片付けない」ことには、紙を探さなくて済むというおまけも付いてくる。さらなる効果として、システムチェックがかかるため、人の目によるチェックを極小化できる。また、紙と同じ場所に居なくても仕事ができるようになるため、場所的制約から解放される。

「単価の高い人」たちの仕事は自動化できるか?

「単価の高い人」はチェック、判断、審査など「経験が必要な仕事」をしていることになっている。役席者のチェック業務は次の2種類に分かれる。1つが紙に書いてある情報が間違いなく入力されているかのチェック、もう1つが取引内容に問題がないかのチェックだ。特に取引内容の妥当性のチェックは経験が必要と言われている部分であり、ここにシステムチェックをかけられる状態にする必要がある。

ご本人たちは否定するが実際はこれらのほとんどが「定型的判断業務」だ。しかしルールが曖昧なままになっていたり、ルールが一部の人の脳のなかでブラックボックス化していたりする。ルールが不透明になっているのは、整理して自身が責任を負いたくない、自分だけが知っている状態にすれば組織内のプレゼンスが高まるといった理由がある。そうならないようにするには「シンプル」「明確に」「みんなで共有」の3原則が重要だ。

仕事をする「場所的制約」からの解放

主たる目的は「本部集中化」とその先の「店舗軽量化」だ。紙のまま集中化すると、紙をトラックで運ばなければならず、授受が大変で紛失のリスクもある。ペーパーレスで集中化すれば、輸送も授受も必要なくなる。離れた場所に情報をデータで送信して処理を行うことによって、急いでいるお客さまの利便性を損なうことなく、店舗を軽量化していくことを考えている。

場所的制約からの解放には、働き方改革の側面もある。2020年の2月のコロナ禍で、当行はお店のメンバーをA班とB班といったようにグループに分け、互いに接触しないようにする「スプリット勤務」を行っていた。融資業務は稟議が完全ペーパーレス化していたため在宅勤務でも問題なく処理できたが、預金業務は伝票やチェックシートに検印するルールのため、紙のある場所にいないと仕事ができなかった。預金業務でさらなるペーパーレス化を推進することになった理由である。

業務改革グループの役割

「全体最適」を目指して所管部のサポート・調整を行っており、仕事は主に次の3つ。1つ目が施策の早期実現に向けて各部をサポートする「所管部のシステム開発のPMO」。2つ目が「RPAの開発・管理」で、当行では実効性を高めるためにRPAのノウハウを当グループに一元化している。3つ目が「各種ルールの見直し」で、現場が本当に困っていることの見直しに迅速に対応している。

融資業務の改革

融資の本部集中化に関して、各部が自分の所管業務ごとにバラバラにシステムを作っていたことが大きな障害であった。融資の各プロセスにおいて、CRMや財務分析といった複数のシステムの使い分け・紙やツールでの資料作成等が必要だった。これらを「営業融資支援システム」として1つのシステムに統合することにより、業務の一気通貫に加え、ペーパーレス化にも成功した。

システムリリースの際、審査部は「資料を印刷せずに審査なんてできない」という反応だった。そこでモニターをプレゼントしたところ、現在は1人あたり2画面・3画面に拡張してペーパーレスで仕事をしている。審査部門のペーパーレス化は完全に浸透し、休日出勤やコロナの出勤制限も、在宅勤務で対応可能となった。

現在当行では、住宅ローンの90%超が電子契約による契約である。法人向け事業性融資の電子契約は2022年上半期にリリース予定であり、これによって融資関係の業務は受付から顧客への書類交付までペーパーレスで処理できるインフラが整うこととなる。

預金(テラー)業務

金融機関では組織間で「適正人数」「忙しさ」に認識ギャップが存在することが多いのではないだろうか。人員削減を求める本部と人員不足を訴える営業店で、話がかみ合っていないのだ。営業店では業務量が多すぎるのではなく、時間のかかるローカウンターのお客さまが被ったときに「受付できる人がいない」「待たせてお客さんが怒る」ことが大変なのだ。ローテラーの業務は「プロ仕様化」しており、ベテランの行員しか受付できない状況だった。新たなルールが追加されるたびつぎはぎで足し続け、すべて紙と人力で回す事務にしてしまっていたのだ。

ローカウンター業務で2020年2月に導入したのが、タブレット受付システムの「TSUBASA Smile」だ。よくある業務はボタンをポチポチ押していくだけで完結できるようになった。最大の特徴は買い切り(ソースコード開示)で、銀行側で修正可能な点だ。業務フローの改定があってもベンダーに依頼せず、自分たちで修正対応ができる。しかし、ワークフローが存在しないため「役席のチェック」は紙を印刷する必要があるという課題があった。

そこで中国銀行様と共同でシステムの追加開発を行い、2つの機能を2022年6月にリリースすることで後続処理まで完全ペーパーレス化する予定だ。1つ目の「各種申請のタブレット受付」では、使用頻度が高くないシンプルな業務の受付をタブレットで受付可能とする。受付フォームは紙の帳票をベースに約1人日で作成できる。2つ目の「汎用電子ワークフロー」では、現在紙で回付している役席チェックを電子化することによって離れた場所で一連の業務を遂行できるようになり、後続処理の完全ペーパーレスを実現する。これにより将来的には「リモートテラー」「TSUBASA アライアンスでの後続事務共同化」「集中事務センター不要(在宅で事務処理)」などが検討できるようになる。

本部集中業務

当初は営業店でのやり方のまま本部に仕事を集めていた状態だった。約2年間RPAを活用して見直しを続けた結果、RPAだけでは人は減らせないということがわかった。仕事のやり方が紙ベースの事務を前提の著しく非効率なものになっているため、デジタルに最適化された形にゼロベースで見直す必要があった。

税務署からの取引記録照会業務の事例では、当初7,000件の在庫が溜まっていた。RPAで作業を一部自動化したことにより処理能力が上がり、在庫は2ヵ月で0になった。WEBで受け付けた無担保ローンの後処理の事例では、当初データで受付したものをすべて印刷して人が紙で処理していた。チェックや登録をRPAに回し、3月のピーク時でも仮審査の在庫は0になった。RPAの他にも作業の順番の入れ替えによる処理件数削減、あいまいな判断基準の明確化といった審査ルールの見直しによる効果も大きい。

RPAの活用

2年間で70個のロボを作り、20万時間・50人を削減し、事故やトラブルもほとんどない。成功要因はまず自分たちでロボを作ってみたこと、経験者のノウハウを借りて管理の仕組みを作ったことだ。業務改革グループでロボを一元管理しており、稼働状況を一覧できる。当行では2種類のロボを使い分けており、開発難易度高めの案件はBlue Prism、低めの案件はWin Actorを使う。

最後までやり遂げる

これまでのルール・システムを変えるのはとても大変なことで、システムを使ってくれるまで繰り返し発信する必要がある。システムやRPAは手段であって目的ではない。「やりっぱなし」にせず「当初目指した姿」になるまで、みんなが機能を使いこなすまで粘る。また現場で「よくわからないから念のため」と余計な仕事をしているケースもある。ルールを明確化して発信し、みんなが余計な動きをしなくなるまで粘ることも必要だ。実際に効果を出すために必要なのは「人間の思考回路の改革」という非常にドロ臭い活動なのではないか。