INSURANCE FORUM テクノロジー・ベースの保険業務革新<アフターレポート>

INSURANCE FORUM テクノロジー・ベースの保険業務革新<アフターレポート>

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2017年10月5日(木)、セミナーインフォ主催「INSURANCE FORUM テクノロジー・ベースの保険業務革新」が開催された。保険会社にとって、最新テクノロジーをいかに業務に組み入れ、サービスの向上と効率化を実現していくかは極めて重要な経営課題である。本フォーラムでは、業界先行企業による取り組み事例をはじめ、ITに関する知見豊富な各社の講演を通じ、これからの時代を生きる保険業務の形を探った。

  1. 第一生命グループにおけるInsTech取組の今後の方向性
  2. FinTechは保険業界の何を変えるのか?
  3. テクノロジー進化による保険業務オペレーションの再定義
  4. AIやRPAーその前に準備すべきオペレーション業務と顧客エクスペリエンスのデジタル化 ~保険業界におけるデジタルバリューチェーン~
  5. シェアリングエコノミー時代~デジタル技術が支える新しい保険サービス~
  6. デジタル化が保険業界へ与える影響とSOMPOの取り組み

第一生命グループにおけるInsTech取組の今後の方向性

北堀 貴子 氏
基調講演
第一生命ホールディングス株式会社
国内営業企画ユニット ユニット長
北堀 貴子 氏

国内3社、海外6ヵ国で生命保険事業を展開している第一生命グループは、テクノロジーの進化によって顧客と保険会社の関係が大きく変化する時代を迎えるにあたり、保険ビジネスも進化させなければ顧客評価を得られないという危機感を持ったことをきっかけに、2年前からInsTechをグループの重要課題と捉え取り組み始めた。当社では主に、顧客手続の迅速化、診査・告知項目の簡素化、引受基準の緩和を目指すアンダーライティング領域、個人ごとの保険料率設定や顧客の健康寿命延長に資する商品・サービスの提供を目指すヘルスケア領域、最適なタイミングで最適な商品の提供を可能にするマーケティング領域という3つの領域で取り組みを進めている。

高齢化の進展に伴い社会保障費の増加が見込まれる中、社会保障の補完という役割を担う保険会社にとって、特にヘルスケア領域での取り組みは重要だ。死亡や病気の際の安心確実な支払実行というこれまでの役割に留まらず、今後は健康増進のインセンティブ等、顧客のQOL向上につながる価値提供を目指したいと考えている。

これを踏まえ、計8社のパートナー企業との協業で、顧客の健康増進をサポートする「健康第一アプリ」を開発した。顔や肌に関するテクノロジーを駆使したフェイスAIによる、未来の顔のシミュレーション機能や、目標歩数の達成度に応じたクーポン抽選機能等が好評で、2017年3月の提供開始から約半年で、既に70万超のダウンロードを記録している。さらにこの10月には、生活習慣病の重症化予防プログラムや常時メディカルサポート等、より充実した内容へとバージョンアップしている。このアプリ提供の狙いは、契約期間中の継続的なタッチポイントの確保とデータの収集にある。とくにこれまで顧客から得られる健康状態等の情報は、生命保険加入時と、給付金等受取時に集中しており、契約期間内での接点が少なく情報入手は困難であった。この取り組みにより、顧客とのタッチポイントの拡大や、プッシュ通知等によるダイレクトコミュニケーションが可能となった。顧客の嗜好やライフログ、健診結果等、収集した情報をビッグデータ解析し、新たな商品・サービス開発への活用につなげることを目指している。

国内子会社のネオファースト生命では、実年齢ではなく、健診データに基づく将来の疾病発生率分析により算出した健康年齢で保険料率が算定される、新しい概念に基づく仕組みの商品の提供を始めた。また、外部データを含めた医療ビッグデータの解析により、引受査定基準の緩和を実現する等、アンダーライティング領域にも力を入れている。米国子会社のProtective社では、健康データに加え、公的データや行動履歴情報等から信用スコアを算定し、信用スコアの高い人は医的審査を省略する等、さらに進んだ取り組みも行っている。

これら以外にも、各大学や他業種と協業し、例えば2型糖尿病の予測モデル構築に向けた共同研究等、様々な産学連携を積極的に行っており、新たな価値創造に向けてこれからも取り組みを強化していく方針だ。RPA活用による業務効率化にも着手しており、各支社や営業店で行われる大量業務のロボティクス化で、既に150人程度の業務量削減の目処を立てている。今後もAI等を合わせ、更なる効率化を進めたい。

顧客が情報の受け手から出し手へと変化する中で、あるべき保険ビジネスの形は、供給側の論理でマス向け商品を提供するB2C型から、顧客側が主導権を持ち、パーソナライズ化した商品を提供するC2B型へと変化している。徹底した顧客視点とスピード感をもち、既存事業強化と新規事業創造両方でのイノベーションに向けて、InsTechの取り組みを更に加速していきたい。

FinTechは保険業界の何を変えるのか?

藤井 秀樹 氏
【講演者】
パクテラ・コンサルティング・ジャパン株式会社
代表取締役社長
藤井 秀樹 氏

当社は、日本の保険業界や、FinTech分野で先行する中国における様々なクライアント企業との意見交換を通じて、ニーズの収集や課題に対する提案等を行ってきた。ITインフラ性能監視および最適化サービス、GRCソリューション、デジタルマーケティング等、あらゆる企業と提携しながら保険業界向け新サービスの提供に取り組んでいる。

現在バックオフィス業務に活用範囲が留まっているRPAも、営業活動等のフロント部分から導入することで、一気通貫の自動化が実現可能だ。当社はパソナ社との協業で「AI(人工知能)搭載OCR×RPA導入支援サービス」に取り組んでおり、業界特化型のモジュール化されたRPAソリューションと、移行に伴う人的・技術的サポートを提供することで、保険会社におけるRPA導入や、運用・保守をより容易にすることを狙っている。

これらを通じて当社が最終的に描いているのが、FinTechプラットフォームの実現だ。様々な技術を駆使し、保険に限らず、投資やローン等金融全般の情報を集め、提案、決済、CRM、GRC等あらゆる機能が一つになった共通プラットフォームを構築し、業界全体でのビジネスモデルの変革を構想している。

情報が閉ざされがちな保険業界でFinTechを推進するには、各社がデータを共有してビッグデータを作り出し、AIを十分に活用できる体制をいかに構築できるかがポイントとなる。他業界での取り組みも参考にしながら、顧客に支持されるベストな形を作り出していきたい。

上野 雄司 氏
【講演者】
iBeed株式会社
ファウンダー/取締役
上野 雄司 氏

データを分散管理することで中央集権的なシステムを不要とするブロックチェーン技術は、P2P家財保険、旅行遅延保険等、海外の保険業界においても活用され始めている。当社はこの分野において、ソフトウェアやサービスの開発・販売・サポートおよびコンサルティング事業を行っている。

ブロックチェーンは、業務効率化、コスト削減、リスク低減等が期待できる画期的な仕組みだ。導入にあたっては、代理店、病院、銀行等、各保険業務プロセスの中で関係する様々なプレーヤーの中から、どこまでを仕組み上に載せるかという点、また、証券情報、保全情報、収納情報の中から、どの情報が分散管理可能かという点を、当局と十分に議論しながら検討する必要がある。

多くの人があらゆる種類の保険に加入しているにも関わらず、契約者本人がそれらを十分に把握していないことから、消費者、保険会社双方にとって、あらゆる手続きが煩雑化、高コスト化しているのが現在の姿だ。当社は、あらゆるプレーヤーが参加するブロックチェーンプラットフォームを用いることで、例えば、利用者がアプリ上で住所や名義変更等の操作を行えば、全ての保険会社や代理店あてに情報通知ができたり、一括操作で全保険契約の給付手続きが完了できたりする仕組みが構築できないかと考えている。

奈良橋 美香 氏
【講演者】
TH総合法律事務所
パートナー弁護士
奈良橋 美香 氏

保険業界においてもロボ・アドバイザーの導入が注目されている。顧客属性やニーズを踏まえた最適な保険商品の提案や説明が、人手を介さず可能となる魅力的な技術ではあるが、これは保険業法上、原則として再委託が禁じられている「保険募集」に該当するため、FinTech業者と提携してサービスを開始する場合には、委託範囲を慎重に検討する等、注意が必要だ。

テクノロジーの発達に伴い、高度なAIを備えたコミュニケーション型ロボットを店舗に設置して募集活動を行うに至った場合、顧客の側からすると、募集人から保険商品の提案を受けているに近い感覚になるかもしれない。しかし、現行法上、「対面募集」は自然人である募集人を前提としているため、「非対面募集」として整理されることになる。ただ、「電話」「郵便」「インターネット」を前提とする「非対面募集」の既存規制では対応しきれないため、実際の導入時には「対面募集」の規制も参考にしながら、当局と具体的に協議する必要がある。

テクノロジー進化による保険業務オペレーションの再定義

大窪 章敬 氏
【講演者】
アクセンチュア株式会社
金融サービス本部
マネジング・ディレクター
大窪 章敬 氏
真鍋 彰 氏
【講演者】
シニアマネージャー
真鍋 彰 氏

テクノロジーは我々の予測を超えるスピードで進化しており、消費者同士が繋がるデジタル・プラットフォームの加速的な拡大は、我々のライフスタイルを抜本的に変えている。IT領域に限らず、医療等の非IT分野を含め、今後実用化が見込まれる新技術が多数出現している状況下、これらが保険業界に及ぼす影響を慎重に見極める必要がある。

コールセンターや引受、保険金請求等の多くの保険関連業務は、今後20年でAIやロボットに代替されると見込まれているが、影響はこれら業務面だけのものではない。保険会社の役割は顧客の不安に向き合うことにあるが、新たな医療技術や自動運転等、あらゆる分野でのテクノロジーは、一般消費者の価値観や行動を大きく変え、顧客が感じる不安そのものが大きく変質するだろう。それに対して、保険会社がどのような価値を提供していけるかが問われている。徹底した業務効率化はもちろん、万が一時の経済的保障に留まらず、予防面やアフターケアにも力を入れる等、顧客視点でサポートの幅を広げていかなければならない。

自動車保険を例にとって考えたい。前提となる「快適なカーライフを送りたい」という消費者のニーズはどう変わるか。自動運転の普及と同時に、所有から利用へということが主流となることを前提に考えると、個人による車の所有や手動運転者は希少となるだろう。車両リスクに対する保険契約はB2Bが主流となる一方、例えば遅延リスクの担保等、利用者としての新たなニーズが生まれてくると予想できる。車両自体に保険をかける現在の姿から、利用状況に応じたリスクへの保障が求められるようになるとすると、乗車行動のリアルタイムモニタリングによりあらゆるデータを入手し、より精緻なリスクの分析をすることで、個々の利用特性に基づく料金設定を実現していかなければならない。

家の火災保険の姿もテクノロジーの進化で大きく変わる。現在は住宅構造等の静的な情報により保険料が算定されているが、将来はこれに加え、例えば家電等に備わるあらゆるセンサーで収集される、居住者の日々の住み方に関するデータから予想された火事発生リスクを、保険料算定に利用することが可能になるかもしれない。また、これら住環境で集めたライフスタイルのデータを生命保険に活用する等、商品の枠にとらわれない発展も期待できる。

健康に関する保険の在り方も考え直す必要がある。IoTやスマートダスト、遺伝子解析、再生医療等の確立により高齢化が一層進めば、超長生き時の経済・就労保障等、新たなニーズが出てくるだろう。医療データを病院ではなく個人が所有する時代となり、死因や余命の精緻な予測が可能となれば、引受査定の基準も大きく変えられる可能性がある。

保険料算定の根拠が、車や家等のモノから、それを使う人の動きに変化していくと、商品単位でリスクを検証して保険を設計していた現在のスタイルではなく、生活にまつわるあらゆるデータを総合的に分析して算出するリスク総量に応じた、包括的な保障プランが誕生する等、商品設計自体の変革が起きることも十分考えられる。

消費者ニーズの変化に伴い、保険の役割も、万が一のリスクへの備えという今の姿から、例えば予防に資するサービス等、非金融分野にも及んで価値そのものを提供する立場へと変わっていかなければならない。そのためには、保険会社単独で活動するのではなく、あらゆる業種との連携によるエコシステムの形成が有効だろう。顧客接点、情報分析、商品プロバイダ、プラットフォーマー、オーガナイザー等それぞれのポジションの中で、自社がどこに重点を置くかを見極めながら戦略を立てることが重要だ。

AIやRPAーその前に準備すべきオペレーション業務と顧客エクスペリエンスのデジタル化 ~保険業界におけるデジタルバリューチェーン~

中村 由貴子 氏
【講演者】
オープンテキスト株式会社
エンタープライズ & CEM営業本部
アカウントエグゼクティブ
中村 由貴子 氏
柿本 伸明 氏
【講演者】
ソリューションコンサルタント
柿本 伸明 氏

コスト削減やスピードアップへの期待から、多くの企業がAIやRPAを導入しようとしている。しかし、その前提として必要な準備が整っていない場合も少なくない。例えば、AIトレーニング用デジタルデータやコンテンツの量や質、あるいは現場での実運用展開とのギャップなどだ。RPA導入でも、紙ベースの事務プロセスや、印刷会社などの委託先に丸投げ状態のために、ソフトウエアロボットを適用しようがない、といったケースもある。AIやRPAを効率的に活用するには、データや事務プロセスのデジタル化と、ビジネスが現場で応用するための可視化といった事前準備が必要だ。

地道なアプローチとしてAIでは、企業内に散在する非構造化データもデータレイクへ取り込んだり、ベンダーやデータサイエンティスト任せにせず、現場レベルに落とし込んでいく自社主導の「AIの民主化」が有効だ。RPAでは、いまだに紙が残る事務プロセスを完全にデジタル化することが、まず必要だ。また保険業界にとって重要なブランドと差別化の観点からは、カチンコチンのレガシーなWebアプリから、APIエコノミーを生かすウルトラパーソナライゼーションに移行して、ログインや契約後の優れた顧客体験(UX、CX)を提供することもポイントとなる。

カナダに本社を置く当社は、業務を支えるドキュメントやプロセスなどの情報を最適化するEIMのリーダーとして成長を続けてきた。各業界のグローバルトップ企業の多くが当社の顧客である。保険業界には過去、FAX、保管、ワークフローなどを提供してきたが、「Automation」「API」「AI」のトリプルA戦略を掲げる現在は、事務プロセス全体とカスタマーエクスペリエンスのデジタル化を広くサポートしている。複雑な業務システム、業務プロセスやカスタマージャーニーの隙間を、使いやすいプラットフォームとAPIやAI、BI等の技術で埋めるフレームワークだ。

事務プロセスのデジタル化では、例えば、キャプチャによる書面のデジタル化や、セキュアで使いやすい保管を実現するECMにより、企業内のあらゆる非構造化データをデータレイクでAIに活用し、社内外のペーパレスコラボレーション等を実現する。顧客レター等の書面作成を完全にデジタル化して効率化するユニークなExstream Interactiveも用意している。パーツごとの編集可否制御、日付や担当者情報等の一括修正、選択に応じた自動計算、資料の自動添付機能等を備えたこの仕組みを導入した企業では、実際に89%の時間削減と1/10のテンプレート統合を実現している。電子署名による返送プロセスのデジタル化も、圧倒的な時間の短縮に有効だ。

顧客体験のデジタル化では、カスタマージャーニーのいつでもどこでも、あらゆるデバイスで、一貫したコンテンツとパーソナライズされたエクスペリエンスを実現するオムニチャネルプラットフォームを提供している。レスポンシブなWebやEメール等のデジタルはもちろん、いま必要な印刷でも、契約内容や契約者の属性に応じたパーソナライゼーション、タイムツーマーケットとPDCAの高速化を実現する。また大掛かりな仕組みだけでなく、例えば、通常は難しいログイン後画面の特定箇所変更といった改善を、すぐに実現できるサービスも取り揃えている。

さらに当社は、これらプラットフォームを簡単に活用するためのオープンなAPIとLow Code開発を提供している。システム構築時に必要な機能をAPIで即座に組込んだり、高速でアジャイルな開発が可能となる。オープンなAI 、Magellanとともに当社自身も製品開発に活用している。

当社は保険業界におけるデジタルトランスフォーメーションを、インサイドアウトとアウトサイドインの両面から支えている。

シェアリングエコノミー時代~デジタル技術が支える新しい保険サービス~

高橋 正敏 氏
【講演者】
コグニザントジャパン株式会社
金融事業部
ディレクター
高橋 正敏 氏

自家用車や住宅の普及率が高止まりした成熟マーケットにおいては、単なるモノの売買から、効率的で経済的に優れたシェアリングエコノミーサービスへと、ニーズが変化している。近年、シェアリングエコノミー関連ビジネスは、投資額が世界規模で伸びており、今後は大型施設や人的リソース等も含めたあらゆる分野で広がっていくだろう。

これを支える重要な基盤が、AIやブロックチェーン等のデジタル技術だ。デジタル技術は、単にモノの貸し借りを仲介するだけでなく、データを収集し、より良いサービスに向けて活用することが可能で、例えば、配車サービスを行うUBER社においては、リアルタイムな交通状況を加味した最適な経路検索や、より精度の高い予想到着時間の算出にAIが活用されている。他の分野でも、レンタル自転車の設置場所や、最適な宿泊価格の設定に活用される等、シェアリングエコノミーサービスはAI等のデジタル技術無しでは成り立たない時代になっている。

新たなサービスが次々と現れる中、利用者と提供者双方にとって最も関心が高い不安要素が、事故やトラブル時の補償だ。これに応えるため、保険サービスはどう変わるべきか。自己所有資産ではなく他人の資産を一時的に利用することが主流となり、また、複雑で前例の少ない事故案件や、低額でユーザビリティの高い取引が多くなるという前提をおさえた上で、保険業務プロセス毎に、あるべき姿を整理したい。保険商品の開発においては、保険対象となるサービス自体の頻繁なビジネスモデル変更にリアルタイムで対応が可能な体制をとり、販売においては、シェアリングエコノミー企業に対する包括保険契約や、場合によっては従量的な考え方で料金設定を行う必要があるだろう。アンダーライティングにおいては、取引が一過性かつ小規模であることを踏まえ、徹底した手続の自動化と、クレジットカード利用履歴等の新たなパラメータの創造的利用が必要だ。保険金支払においては、事故受付時の正確な情報を確実に収集できる仕組みを整えることも不可欠となる。

自動運転の普及は、保険にどのように影響するか。人間よりも機械のほうが正確であるという前提からすると、事故率の低下により保険料は安くなるだろう。査定は搭載機能の充実度に依存するため、保険料の算出根拠は透明化していくと考えられる。事故等の責任の所在は、運転者から自動車メーカーやシステム・ネットワーキングプロバイダに移る可能性が高く、より適切な保険金支払のため、事故原因を特定できるよう運転自体のトラッキングの重要性も高まるだろう。当社でも、来たる自動運転社会の到来に向けて、テレマティクス、AI、アナリティクス等のデジタル技術の向上に取り組んでいる。

医療情報活用については、電子カルテの活用度から見ても、日本はまだ発展途上にあるのが現状だが、ここ数年の改善スピードは速く、今後急速に発達すると予想されている。当社はシンガポールにおいて、保険契約者が自身の医療情報を保険会社に開示せず、行政機関である保健省で一元管理されている記録を元に、短期保険契約を結ぶことを可能とする仕組みを開発した。ブロックチェーン環境で個人情報を厳重に管理しながら査定プロセスを実行することで、プライバシーと効率性の両方の向上を実現している。

日本において先進的な取り組みを進めるには、政府、企業、労働者それぞれが協力し合うことが不可欠だ。理想的な社会の構築に向けて、政府には、積極的な規制緩和や産業団体との議論が、企業には、資産の保有から共有・協業への発想の転換と、グローバル規模でデジタル技術を考える姿勢が求められている。

デジタル化が保険業界へ与える影響とSOMPOの取り組み

中島 正朝 氏
特別講演
SOMPOホールディングス株式会社
デジタル戦略部長
中島 正朝 氏

保険業界にとってデジタル化の流れは、単に社内業務プロセスの改善に留まらず、顧客の行動そのものを変容させ、ビジネスを根本から変える可能性のある、非常に重要なテーマだ。その危機意識から当社では、デジタル化対応をITシステム戦略の一環としてではなく、ビジネスモデルや競争環境の変化への対応、即ち経営課題そのものであると捉え、3年前より経営陣主導で様々な施策に着手してきた。

保険の商品プライシングはデジタル化でどう変化するだろうか。従来は、蓄積した静的な過去データを使って算出された料率を元に保険料を設定していたが、今後IoTの普及であらゆるものにセンサーが備わると、例えば、運転技術のスコアリングを元に自動車保険の料率が個人ごとに設定される等、パーソナライズ化が進むと予想される。将来的には、健康データや天気情報等、他分野のデータも組み合わせた、より精緻なリスク分析等も可能となるだろう。

リスクマネジメントにおける保険の役割も大きく変わる。これまで保険は、リスクを「転嫁」する機能を提供する役割を担っていたが、今後はリスクそのものの「回避」や「極小化」という分野への期待がより高まると予想される。当社では、この領域にまでサービスのドメインを拡大し、保険だけではなく、安心・安全・健康サービスまで幅広に提供できる事業者となることを目指し、あらゆる取り組みを行っている。

デジタル化推進の一環として、東京とシリコンバレーにSOMPO Digital Labを設置した。ここでは、顧客接点強化、業務効率化、デジタルネイティブ向けマーケティング、新たなビジネスモデル構築をテーマに研究を行っている。シリコンバレーでは、米国Plug and Play社において保険プログラムの設立を実現し、InsurTechのみならず、AI、IoT、ブロックチェーン、デジタルヘルス等、あらゆる分野でのスタートアップ企業とのネットワーク作りに力を入れている。

自動運転技術の普及により、近い将来登場する新たな移動サービスへの対応は、我々保険会社にとって最重要課題の一つだ。当社は、世界的な自動運転プロジェクトにも参画し、来るべき自動運転やシェアリング時代を支える補償制度に関する議論を行っている。

保険という枠組みを超えたビジネスにも積極的に挑戦しており、例えば、ドライビングレコーダー「SMILING ROAD」や、セゾン自動車から提供している「つながるボタン」等の開発は代表的な事例だ。「つながるボタン」は、運転特性を計測し、ドライブレポートの提供を通じて安全運転をサポートする目的で提供しているが、事故発生時には、位置や契約情報の連携により、必要なサポートをスムーズに受けられるよう設計している。

その他にも、あらゆる新技術の分野において、保険の概念にとらわれない商品の開発を進めている。シリコンバレーの企業との提携で開発した、健康増進をサポートするウェアラブル端末「Fitbit」は、実用化に向けた実証実験の段階に入った。ドローン技術の活用も模索中で、事故現場を空からデータ化する使い方や、広域災害時の活用等を検討している。介護事業におけるデジタル化については、高齢化が先行する日本のみならず、世界中で関心が高い。当社はこの分野でも、センサー活用等による「IoT介護」の実現に向けた研究に力を入れている。データサイエンティストの養成学校や、スタートアップへの投資を行うデジタルファンドも創設した。今後も、保険の先を見据えたデジタル化の取り組みを加速していきたい。