海外デジタルバンクにおける先進事例と日本における展望


2021年12月、第一生命が住信SBIネット銀行および楽天銀行と提携して銀行サービスを始めることを発表した。また2022年1月には、三菱UFJ銀行がBaaS(バンキング・アズ・ア・サービス)に切り替える考えを示し、わが国のデジタルバンク市場に大きなインパクトを与えている。本コラムでは、海外のデジタルバンクにおける先進事例から、今後有望なビジネスモデルと日本における展望について考察した。

目次

デジタルバンク事業の成否

(1)欧米ではBaaSが成功

欧米のデジタルバンクのうち、チャレンジャーバンクとネオバンクは既存銀行を含めて同じ市場の中で熾烈な顧客獲得競争を戦っている。主な収益源はインターチェンジフィーやサブスクリプションなどの手数料関連と融資利息の2つしかなく、他の銀行とビジネスが競合しやすい。事例で挙げた銀行のうちOakNorthは独自サービスの強みにより唯一黒字であるが、他の銀行はすべて赤字であり極めて厳しい収益状況である。

それに対して、BaaSはまだ市場参加者が少なく競争が比較的緩やかであり、非金融事業者の銀行サービス参入が増えてきたことで、BaaSモデルが成功しやすい傾向にある。収入をパートナー企業の取引利用手数料に頼っていることから、顧客数が多い大手パートナー企業の獲得が成功のポイントになっている。

BaaSの中でも、スタートアップのネオバンクを主なパートナーとする欧州系は苦戦しており、メガテックや大手非金融事業者をパートナーとする米国系が成功している。アメリカのGreen Dot Bankは、欧州系に比べて収入が約10倍、パートナー企業の顧客数が100倍以上あり、高い収益を挙げている。如何に大手のパートナー企業と提携し、大量の顧客取引を獲得できるかが成功のポイントになっている。

(2)日本のBaaS市場の展望

わが国におけるBaaSビジネスは一部の銀行が先行しているが、本格的な市場拡大はこれからと考えられる。第一生命や三菱UFJ銀行の発表を受けて大手企業参入によるBaaS市場の活性化が期待される。欧米の事例から大手非金融事業者の参入が活発になり、近い将来にBaaS市場が拡大すると想定する。

わが国の銀行が目指すべきは、BaaSによる非金融事業者との協業である。BaaSは、チャレンジャーバンクやネオバンクと異なり、既存の銀行が勘定系システムをデジタル化しなくても市場参加が可能である。既存の銀行がBaaSを実現するためには、銀行システムと非金融事業者のアプリとの間を接続するイネーブラーの存在が重要である。イネーブラーに必要な条件として、非金融事業者と接続するためのAPI設計やパートナー企業の需要掘り起こしなどがあり、実力があるイネーブラーとの協業が重要だ。 わが国には、これまでイネーブラーを介した既存銀行のBaaSモデルの事例がないと思われる。イネーブラーは主に大手のシステムベンダーがその役割を担うと考えられるが、既存の銀行が勘定系システムをデジタルバンクに作り替えず継続利用するための施策の一つにはイネーブラーの発掘や協業の検討が今後の課題になろう。

櫻井 正明 氏
寄稿
株式会社クニエ
プリンシパル
櫻井 正明 氏
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