- FinTechとは
- 預金/資金運用サービスを提供する特徴的なFinTechスタートアップ
- 融資/資金調達サービスを提供する特徴的なFinTechスタートアップ
- 送金/決済サービスを提供する特徴的なFinTechスタートアップ
- 世界のFinTechへの取り組み
- 日本の金融機関とFinTech
- FinTechビジネスの特徴
- まとめ
FinTechとは
FinTech(フィンテック)とは、FinanceとTechnologyを掛け合わせた造語で、今、FinTechスタートアップと呼ばれる企業が、金融サービスの改革を促進する要因となっている。
1994年、ビルゲイツは次のように語った。
Banking is necessary, but banks are not.
(銀行の機能は必要だが、銀行は必要か?)– Mr. William Henry Gates III (Microsoft Co-Founder)
– Intuit社への投資にあたって(1994/10/30)
スマートフォンやビッグデータ通信などに代表されるICT(情報通信技術)の急速な発展を受け、これまででは考えられなかった発想や方法で、金融の三大業務(預金、融資、決済)を代替する新しい金融サービスのスタートアップが数多く台頭して来ている。
日本でも、金融グループ規制改革に代表されるように、金融ビジネスの改革を進める環境が整いつつある。
金融機関はFinTechがもたらす革新の波を捉え、今後誕生する最新技術やサービスを駆使し、顧客への付加価値向上や抜本的な効率化につなげていくことが求められている。
本稿では、台頭してきているFinTechスタートアップの紹介から、世界のFinTechへの取り組み、日本の金融機関とFinTechの取り組みについて、体系的に説明する。
預金/資金運用サービスを提供する特徴的なFinTechスタートアップ
MX
MXは、PFM(個人財務管理)を活用した小規模金融機関向けマーケティングサービスを提供している。主に小規模金融機関を中心に400行もの金融機関がMXのサービスを採用している。2015年5月にデジタルガレージおよびUSAAなどの投資家から、3,000万ドルを資金調達した。
Bluebird
American Expressが流通大手のWalmartと提携して立ち上げたプリペイドカード、Bluebird。銀行口座を持たない顧客に対しても、身近で利便性の高い金融サービスを提供し、サービス開始から3ヶ月あまりで約60万口座、2億7,500万ドルの預金を獲得。利用者の85%はAmerican Expressを初めて利用し、うち45%が35歳以下となる。
Moven
Bank3.0の著者として有名なBrett Kingが創業したMovenでは、顧客の“Financial Health”を改善することを目的とした資金管理アプリを提供。付属のデビットカードを利用するとアップルウォッチなどのウェアラブルデバイスにも対応するほか、利用者の財政状況を把握して、設定した予算を超過すると画面の色が変わるなどのサービスを展開している。MovenのサービスはUXに定評がありニュージーランドやカナダなどでもサービス開始予定
WealthFront
WealthFrontは、AI(人工知能)が自動的に資産管理をするロボアドバイザーサービスを2011年より提供。若年層をターゲットにサービスを提供し、預かり資産は20億ドルに上る。インデックス運用の大家であり、「ウォール街のランダムウォーク」で有名なBurthon Maliel氏がチーフ・インベストメント・オフィサーを勤める。
融資/資金調達サービスを提供する特徴的なFinTechスタートアップ
LendingClub
2014年12月にIPOを果たしたLendingClubは、貸し手と借り手を市場から募り、双方での融資を実現させるマーケットプレイス・レンディングと呼ばれるサービスを展開。時価総額は一時約9,000億円を超え、日本の横浜銀行(約9,200億円)に匹敵する。フォーブス誌より2014年の「最も有望な会社」に選定されるなど市場から高評価を受ける。2015年1月にはGoogleとの提携を発表した。
BNK To The Future
イギリスのBNK To The Futureは、仮想通貨を含む多様な通貨に対応するクラウドファンディングのプラットフォームを提供することで、多様な資金調達手段を提供している。ソーシャルアカウントと連携させることで、利用者の活動内容がSNS上でスコアリングされ、投資活動が活性化される。
Kabbage
Kabbageは、中小・個人事業者に対して独自のスコアリングモデルを用いた融資を行っており、これまで銀行融資を受けられなかった企業に対しても運転資金の提供を実施。ECサイトでの売上・在庫データ、事業者向け会計ソフトでの財務データなどのデータ連携により独自に事業者の財務状況を判断し、新たなビジネスセグメントを開拓している。2015年5月からは、中小企業・個人事業主に対する新サービスKabbage Cardをリリース。口座やPayPalに資金移動を行うことなく、必要なときに即座に決済が行える。
LendUp
LendUpは、低所得者向けインスタントローンを提供。ローンの提供ばかりでなく、ゲーミフィケーションを活用し、利用者に金融教育を実施。銀行向けAPIも提供し、金融機関での利用拡大を目指す。
送金/決済サービスを提供する特徴的なFinTechスタートアップ
Dwolla
2008年に創業したスタートアップ企業であるDwollaは、独自の決済基盤を活用することで、金融機関や公的機関と提携した新たな決済サービスを提供している。リアルタイムでの資金移動を可能とし、10ドル以下の資金移動が無料。2014年には、アイオワ州との提携により一部の税公金の支払いに利用されるほか、大手銀行とも提携し、リアルタイム決済基盤の利用が拡大。
Coinbase
世界で120万のBitcoinアカウントを有する、最大級のBitcoinアカウント管理事業者、Coinbase。法人向けに“為替差損”なしでBitcoin決済を行えるソリューションを開発した。
Ripple
Rippleは、仮想通貨による決済ネットワークを提供している。XRPという仮想通貨を活用した送金ネットワークの構築により、あらゆる「価値」をデジタル資産に置き換えて流通できるネットワークとなることを目指す。米国ならびにドイツにある3行がRippleとの提携を表明。SWIFTに代わる新たなグローバル決済ネットワークとしての成長が期待される。
Ondot Systems
Ondot Systemsは、スマートフォンを活用したクレジットカードの利用管理ソリューションを提供。加盟店コードなどのクレジットカード会社のデータと位置情報を組み合わせることで、利用できる店舗や上限額を設定したり、盗難時にカード利用を自動的に停止させたりすることができる。
Dynamics
独自のプラスチックカード技術を持つDynamics社では、MasterCardと提携し、ワンタイムでカード番号を生成できるクレジットカードを開発。これにより、決済ごとにカード番号を生成できるため、カードのスキミング等の被害を防ぐことができる。
GoNow
GoNowは、全ての磁気カードの情報を一枚のカードに集約して活用できるソリューションを提供。セキュアエレメント(データ格納領域)を持つカードを利用してカード情報を管理する。スマートフォン上のGoNowアプリでカードを管理できる。
STRATOS
STRATOSは、物理カードと連動したモバイルウォレットソリューションを提供。ユーザーは、所有するカードをカードリーダーを利用してスマートフォンに取り込み、利用したいカード情報をBLE(Bluetooth Low Energy)を用いて物理カードに転送する。
世界のFinTechへの取り組み
Mobile World Congress 2015にてビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA) CEOのフランシスコ ゴンザレス ロドリゲスが以下のような発言をした。
BBVA will be a software company in the future.
(BBVAは将来ソフトウェア会社になるだろう)– Mr. Francisco González Rodríguez (BBVA Chairman&CEO)
– Mobile World Congress 2015 (2015/03/04)
このように、海外の金融機関では、FinTechによる潮流の脅威に対しいち早く対応しようとオープン・イノベーション(外部からの知見を取り入れた改革)を推し進めるために、以下のような方法を取っている。
- FinTech向けにベンチャーキャピタルを運営し、買収・出資を行う方法
- 異業種・スタートアップとパートナーシップを結ぶ方法
- 自行内に研究所やインキュベーション組織などのイノベーション組織を設立する方法
ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA)
例えば、スペインの大手銀行であるBBVAでは、2011年に米国サンフランシスコに、FinTechに特化したベンチャーキャピタルを設立。スタートアップへの投資を通じて、自行サービスの高度化を図っている。
ウェルズ・ファーゴの取り組み
アメリカの金融機関であるWells Fargoでは、自社のベータ版サービスをテストするDigital Innovation Labをサンフランシスコとシアトルに設立し、顧客を巻き込んだベータ版サービスの開発を行っている。
イギリスの国を挙げたFinTech支援
英国では、財務大臣のジョージ・オズボーン氏が、2014年8月のスピーチで、英国を2025年までに、「global FinTech capital」とすることを宣言。国を挙げてFinTechに対する支援を拡充する方針を示し、これに対して財務省や金融行為監督機構、貿易投資総省が取り組みを発表している。
アジア諸国におけるFinTechの取り組み
アジア諸国でも、FinTech推進の取り組みは過熱しており、特にシンガポールや韓国では、国主導で積極的にFinTechを推進し、自国のグローバル競争力向上を目指している。
欧州諸国におけるFinTechの取り組み
欧州諸国では、アイルランド政府やデンマーク政府によるFinTechスタートアップへの支援が行われている。
日本の金融機関とFinTech
このような中、日本においても変化の兆しが見え始めている。金融審議会の「決済業務の高度化に関するスタディ・グループ」において、金融機関の業務範囲規制など、制度のあり方を見直すことを求める議論が活発化してきている。
また、数は少ないものの、国内のFinTechスタートアップが成長してきている。
銀行本業とのシナジーが発揮できる分野について、金融機関が積極的に業務展開を図ることが認められると、今後、金融機関とFinTechスタートアップとのつながりが強化される可能性も出てきたと言える。
FinTechビジネスの特徴
成功・失敗が不透明
これまでにない新しいサービスへの挑戦であるため、ほとんどのFinTechサービスは失敗する。しかし、成功した企業は、グローバル決済を行うPayPalやSquareなどのように、市場のルールを変えうる力を持つ可能性がある。
自身がビジネス主体として取り組まない限りビジネス機会は小さい
基本的に「Winner Takes All(勝者総取り)」の傾向が強く、この分野での成功者の多くは、先行した主体的な企業である。しかし、これらの企業との関係性次第で企業価値を大幅に向上させる可能性がある。
試行錯誤や失敗時のコストを抑え、FinTechの果実を得る仕組みの構築が急務と言える。
まとめ
FinTechは現在、光を浴び流行のように語られている。しかし、これはICTの大きな進化によるビジネスの変化であり、他のサービスでも起こってきたひとつの潮流だと言える。
グローバルで見ると、FinTechスタートアップが銀行の三大業務を代替し始めており、この大きな波はやがて日本にも広がりを見せる。
金融の機能や利便性を向上させ、金融を高度化し、競争力強化に繋げていくための、FinTechスタートアップとの付き合い方を模索する必要がある。
そういった中、重要になってくるのがイノベーションだ。中でもオープンイノベーションである。
スタートアップ企業と伝統的な大企業の対等なエコシステムの開発、早く失敗する(Fail Fastな)組織風土を構築しイノベーションを取り込む姿勢、APIの開放とコンソーシアム化を通じた仲間作りによるつながることの重要性の3点が、FinTechの推進要因となる。
- 寄稿
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株式会社富士通総研隈本 正寛 氏
シニアマネジング
コンサルタント
- 寄稿
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株式会社富士通総研松原 義明 氏
シニアコンサルタント