ブロックチェーン×金融の国内外の最新動向【2017年7月版】

ブロックチェーン×金融の国内外の最新動向【2017年7月版】

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世界中で行われているブロックチェーンの実証実験により、ブロックチェーンが抱えていた課題が克服されつつある。ブロックチェーンはついに実用段階を迎え、革命を起さんと動き出した。本稿では、多数の事例や公知情報を基に、世界と日本のブロックチェーン活用事例の最前線を紹介する。

  1. はじめに
  2. 海外のブロックチェーン活用動向 ~ワーキング・グループ編
  3. 海外のブロックチェーン活用動向 ~金融業界編
  4. 国内のブロックチェーン活用動向 ~ワーキング・グループ編
  5. 国内のブロックチェーン活用動向 ~金融業界編
  6. まとめ

はじめに

ビットコインの根幹を担うブロックチェーン技術は、国内外ともに金融システムのインフラを一新し、金融取引のコストを劇的に削減できる可能性があると期待されている。アクセンチュアとベンチマーキングサービス大手マクラガン社によると、ブロックチェーン技術によって投資銀行のインフラコストを30%削減できる可能性があると試算されている(※1)。

このため、ブロックチェーン技術については、さまざまな実証実験が続けられてきた。これらの取り組みを通じて、浮き彫りとなった課題は克服されつつあり、実用化に向けて大きく動き始めている。昨今の海外、国内の動きをまとめた。

海外のブロックチェーン活用動向 ~ワーキング・グループ編

ブロックチェーン技術を活用した海外の動向 ~ワーキング・グループ編

まず、実証実験に関する報道や各社の発表より、その代表例としては、エストニアのLHV銀行の債権管理システム(※2)や、ドイツ銀行の社債プラットフォームテスト(※3)、NASDAQによる未公開株式取引システム「Nasdaq Linq」(※4)などが挙げられる。

これらの実証実験を通じて、ブロックチェーンの有効性は確認されてきたものの、データ更新の確定タイミングが不明瞭、大量の金融取引を処理するための十分な性能が確保できないといった“技術的な課題”に加え、その効果を享受するための“参加者の確保”や、ブロックチェーン上の記録やスマートコントラクトが正式なものと承認されるような“法規制上の課題“があり、実用化に時間を要してきたといえるだろう。

上記の課題のうち、“技術的な課題”の解決と“参加者の確保”に向けて、ワーキンググループや企業連合の形成が進んできた。各グループは、それぞれが実用化に向けたプラットフォームを提供しており、その普及に取り組む段階にあるといえる。以下に主なグループと最近の活動状況をまとめた。

R3

2015年9月、バークレイズ、UBSなど世界的な金融機関9行で立ち上げられたコンソーシアム(※5)。現在、金融機関やテクノロジー企業など80社以上が参加している(2017年4月時点)。

R3では金融機関に特化したブロックチェーンのプラットフォームCordaを提唱しており、2016年11月にはオープンソース化を発表し、デベロッパーへの普及を図っている。これを受けて、Corda上で金融市場向けシステムの開発を表明したデベロッパーも出てきている(※6)。

Hyperledger Project(ハイパーレッジャー プロジェクト)

2015年12月、Linux Foundationによって発表されたブロックチェーン技術の共同開発プロジェクト(※7)。現在、アクセンチュアやDigital Asset Holdings社といったテクノロジー企業から、J.P.モルガンなどの金融機関など幅広い分野から130社超が参加している(2017年4月時点)。

Hyperledger Projectは、いくつものフレームワークを推進している。このうちビジネス向けのブロックチェーンとして、管理者によるアクセス権の設定を可能とするなどの特徴をもつFabricは、すでにオープンソースとして提供されており、これをベースにしたプラットフォームの提供や、実用的なサービスの提案に取り組んでいる企業も多い。

Ripple(リップル)

2016年9月、Rippleはバンクオブアメリカ・メリルリンチやサンタンデール銀行など世界的な6行と国際銀行間送金を行う「Ripple’s Global Payments Steering Group」を設立(※8)。

2017年3月には、三菱UFJフィナンシャル・グループもこのグループに参加しており(※9)、報道によれば2018年初めから新たな国際送金サービスの開始を目指している。

  • ※8 Rippleコーポレートサイト, 2016年9月23日
  • ※9 Rippleコーポレートサイト, 2017年3月30日

Ethereum(イーサリアム)

2017年2月、J.P.モルガンをはじめとした30以上の企業が参画し、「エンタープライズ・イーサリアム・アライアンス(EEA)」を設立、業界標準の構築を目指している(※10)。スマートコントラクトと分散型アプリケーションを構築するプラットフォームとして開発が進められている。

法規制上の課題

“法規制上の課題”についても対応が活発化してきた。各種報道によると、2017年2月、ドバイ首長国、グルジア共和国が相次いでブロックチェーンの利用推進を発表。アリゾナ州ではスマートコントラクトの合法化法案が 2017年3月に成立。

フィリピン中央銀行も仮想通貨(VC)取引所規制ガイドラインを策定するなど、政府や中央銀行による法規制対応の動きも出ている。

次に、金融業界における実用化に向けた具体的な動きを見てみよう。

海外のブロックチェーン活用動向 ~金融業界編

海外のブロックチェーン活用動向 ~金融業界編

銀行: 国際銀行間送金、為替サービス、国際貿易などサービスの準備が進む

Rippleが国際銀行間送金での実用化に取り組んでいるほか、外為取引決済サービス業者のCLSグループは、ブロックチェーンを利用した為替サービスの開始を目指すと発表している(※11)。

また、国際貿易の分野では、2016年9月にバークレイズ銀行がブロックチェーンによる国際貿易取引を成功させた(※12)。これに続き、ドイツ銀行やHSBCなどの7行が共同で国際貿易金融プラットフォーム「Digital Trade Chain(DTC)」を開発し、取引プロセスのスピードアップと事務処理の大幅な効率化を計画している(※13)。

証券: 2017年も引き続き、金融取引での実証実験が進む

オーストラリア証券取引所では、ブロックチェーンベースのシステム導入を検討しており(※14)、ドイツ取引所は、システム改革プロジェクト「Exchange 4.0」においてブロックチェーンの利用を掲げている(※15)。シンガポールにおいても、金融管理局がブロックチェーン技術の推進を目的に試験運用の対象を債券取引、国境を超えた取引に拡大している(※16)。

保険: 実用化事例が見え始めた

ブロックチェーンへの投資は活発であり、小規模ながら実用化事例も見え始めた。SafeShare Global社の発表によれば、シェアリングエコノミーの提供者と利用者双方向けの保険商品をブロックチェーン技術により構築し、2016年ワークスペースのシェアリングエコノミー運用会社であるVrumi向けの保険商品として利用開始している(※17)。

国内のブロックチェーン活用動向 ~ワーキング・グループ編

国内のブロックチェーン活用動向 ~ワーキング・グループ編

2016年以降、国内でも“技術的な課題”への対応や“参加者の確保”に向けて、業界団体ブロックチェーン推進協会(BCCC)の設立や各企業間における事業提携、実証実験が多数行われている。

ブロックチェーン推進協会(BCCC)

2016年4月、テックビューロら34社がブロックチェーン技術の普及啓発・研究開発推進や関連投資の促進などを目的に設立した、国内初の業界団体(※18)。現在、加盟企業は100社を超えている(2017年6月時点)。

Chance FinTech Lab

2016年11月、常陽銀行、十六銀行といったChance地銀共同化行と三菱東京UFJ銀行などで結成された。なお、Chance地銀共同化行とは、三菱東京UFJ銀行の勘定系・情報系などの基幹システムを基に構築した「Chance地銀共同化システム」を共同利用する地銀の広域連携である(※19)。

内外為替一元化コンソーシアム

2016年10月、SBIホールディングス社とSBI Ripple Asia社が事務局となり発足。現在、みずほ銀行や地銀(新生銀行、横浜銀行他)、ネット銀行(イオン銀行他)など国内61金融機関が参画している(2017年7月時点)

また、2017年3月には国内外為替を一元的に扱う決済プラットフォーム「RCクラウド」の実証実験を実施した(※20)。2017年4月には、三菱東京UFJ銀行も本コンソーシアムへの参画を表明している(※21)。

“法規制上の課題”に関しては、2017年4月より「資金決済に関する法律」の改正法が施行され、仮想通貨を利用した決済に関する法整備がなされた。利用者保護の観点から、仮想通貨の売買や仲介は、一定の財務要件を満たさなければ行えない登録制が導入される(※22)。

早速、ブロックチェーン推進協会(BCCC)は、2017年7月から会員企業向けに仮想通貨「Zen」を発行し、日本円に対して為替変動の少ない運用ができるか実用化に向けた検証を開始した。(※23)。

国内のブロックチェーン活用動向 ~金融業界編

国内のブロックチェーン活用動向 ~金融業界編

国内金融機関についても、実用化に向けた具体的な動きを見てみよう。

銀行:メガバンクは独自コインが一部実用化へ

報道によると、「三菱東京UFJ銀行は2017年5月1日、独自の仮想通貨「MUFGコイン」の実証実験を始め、来春には一般向けに発行する計画」(※24)という。また、みずほフィナンシャルグループでは、「2016年12月に仮想通貨「みずほマネー」を開発した」という報道も見られた(※25)。

一方、三井住友銀行では2017年2月、貿易分野におけるブロックチェーン技術の適用可能性に関する実証実験を開始すると発表。貿易関連の書類の電子化や迅速かつ安全な交換など、業務プロセスへの適用可能性と影響を検証する(※26)。

証券:実用化案件も出始めたネット証券

2016年10月、カブドットコム証券が三菱UFJフィナンシャル・グループのイノベーションラボとイスラエル発のZEROBILLBANK LTD社と企業コイン「OOIRI」の導入を開始した(※27)。

楽天証券もブロックチェーン技術を用いた本人確認システムを開発中であり、2017年10月にもサービス開始を見込んでいる(※28)。SBI証券は2016年10月に債券取引システム構築のための実証実験を開始した(※29)。

2016年9月、大和証券グループ傘下の大和総研ホールディングスが中心となり、ミャンマーにおける資本市場システムを対象としたブロックチェーン技術の実証実験が完了している。

これは顧客資産管理にブロックチェーン技術を適用し、証券会社間の振替指示や残高の自動共有、株主名簿作成のリアルタイム化などの業務効率化を実証したものだ(※30)。またJPXグループでは、ブロックチェーン技術の証券市場インフラへの適用可能性を見極めるため、2017年春より業界連携型の技術検証を進めると発表した(※31)。

保険:東京海上日動火災保険が実証実験を実施

2016年12月から2017年3月にかけて、東京海上日動火災保険は、外航貨物海上保険の保険証券へのブロックチェーン技術適用に向けた実証実験を実施し、貿易関係者の業務効率向上などが確認されている。(※32)。また、同社では2017年1月から福岡地域戦略推進協議会と連携し、医療機関などにおけるブロックチェーン技術の活用に向けた実証事業を開始した。

傷害保険金請求書に記載の医療機関に対し、ブロックチェーンを通じて入通院期間などの医療情報の提供を要求し、データ連携基盤を通じて医療情報などのデータを受領することで、保険金支払業務の簡略化・迅速化について検証を進めている(※33)。

まとめ

まとめ

この様に近年、海外、国内ともに金融業界におけるブロックチェーン技術への期待は高く、多くの実証実験がなされ、仮想通貨や送金サービスについては、一部の金融機関が実用化に踏み出した。

非金融業界においても、データの共有・トレーサビリティの確保・契約履行のシステム化などの機能を活かし、食品の生産地・流通経路の記録・追跡、電力売買、不動産賃貸権利の発行・流通・譲渡の管理が可能か、国内外の企業が可能性を探り始めた。

例えば、ビックカメラでは2017年4月より、bitFlyer社のシステムを導入し、仮想通貨ビットコインによる決済サービスをビックカメラ2店舗で試験導入を開始している(※34)。

当初、金融業界では決済・取引といった特定領域への導入に期待がもたれていたが、その裾野は広がりつつあり、非金融業界とのコラボレーションを通じて、ブロックチェーン技術は爆発的に普及することが予測される。

その一例として、全世界に11億人以上いると推定される、公的な個人認証手段を持たない人々に対し、ブロックチェーンとバイオメトリクス認証技術を活用したデジタル認証システムの実現といった国際的な取り組みも加速している(※35)。

この様な状況において、今後は技術者の確保が急務である。アクセンチュアでもブロックチェーン技術の導入支援に特化した専門チームを発足させ、金融機関向けに、同技術を活用した新たな収益機会の獲得、オペレーション効率、セキュリティ、顧客サービスの向上を支援している。

また、フランスにブロックチェーン・センター・オブ・エクセレンス(CoE)を有し、あらゆるタイプのブロックチェーン技術(パブリック型、コンソーシアム型、プライベート型)関連のソリューションの開発などを推進している。今後、金融機関におけるブロックチェーン導入推進を牽引する一当事者として貢献できれば幸いである。

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