ブロックチェーンとスマートコントラクトが創る未来の決済ビジネス


ブロックチェーンとスマートコントラクトとIoTが未来の自動車を創る。自動車自身がリースや保険の契約を行い、決済情報をセキュアに管理し、給油の頃合と近隣のガソリンスタンドを提案し、飲食店を検索して予約・ナビ・支払いまで済ませる。事例をもとに決済の未来に迫る。

  1. ブロックチェーンを利用した自動車リース契約
  2. スマートコントラクトとブロックチェーン
  3. 自動車リース契約にスマートコントラクトとブロックチェーンを用いるメリット
  4. IoTによる未来の決済「自動車のウォレット化」
  5. まとめ

※本稿は株式会社インフキュリオンの許可を得て、転載・編集しています。

目次

ブロックチェーンを利用した自動車リース契約

高い関心を集めているブロックチェーン。仮想通貨ビットコインを支える基盤技術だが、「分散台帳を実現する技術」としてのインパクトは、契約や登記など社会経済を支えるインフラにまで及ぶ。

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ブロックチェーンとは?金融業に革命を起こす新技術 入門編

2015年秋、VisaDocuSignはブロックチェーンによって車のリース契約プロセスを効率化するという概念実証(Proof of Concept)を公表した。

車のリースは従来、リース契約だけでなく保険契約や決済など多くの書類が必要な業務だったが、VisaとDocuSignによる概念実証では、ブロックチェーンを活用することで業務がどのように変わるのか、具体的なコンセプトが示された。

ブロックチェーンの衝撃

スマートコントラクトとブロックチェーン

DocuSignが公開したYouTube動画では、ブロックチェーンやIoT、決済まで含まれた自動車分野のスマートコントラクトの将来像が示されている。

動画は自動車リース会社でのやり取りを通してスマートコントラクトを紹介したもの。運転席に座った顧客がダッシュボードの画面で車内アプリを操作することで、リース契約、保険契約、決済カードの登録がペーパーレスで完了する。

スマートコントラクトとは

スマートコントラクト(smart contract)を直訳すると賢い契約という意味になります。スマートは「スマートフォン」のスマートと同じですが、ここでは「自動化」と考えるのが分かりやすいです。つまりスマートコントラクトとは契約の自動化といえます。

スマートコントラクトの考え自体はビットコインよりも古く、1990年代にNick Szaboという法学者・暗号学者によって最初に提唱されました。Szaboはスマートコントラクトを最もはじめに導入した例として、自動販売機を挙げています。つまり、「利用者が必要な金額を投入する」、「特定の飲料のボタンを押す」の二つの契約条件が満たされた場合にのみ、自動的に「特定の飲料を利用者に提供する」という契約が実行されることになります。

このように、ここでいう契約とは書面上で作成され契約のみをさすのではなく、取引行動全般をさします。

– ビットコイン日本語情報サイト
スマートコントラクトとDAO

動画のスマートコントラクトの流れ

  1. 車のIDをブロックチェーンに登録。車が「スマート資産」として利用可能に。
  2. 想定される年間走行距離のレンジに基づきリースプランを選択。
  3. リースプランに電子署名して契約。リース契約をブロックチェーンに登録。
  4. 複数の保険会社のオファーの中から自動車保険を選択。
  5. 自動車保険に電子署名して契約。保険契約をブロックチェーンに登録。
  6. リース料と保険料の決済に用いるクレジットカードを登録。契約が完了する。

自動車リース契約にブロックチェーンを応用するということ

DocuSignとVisaの概念実証は、ビットコインだけではイメージしづらかったブロックチェーンの良い活用モデルと言える。

自動車リース契約にブロックチェーンを利用したこの概念実証は、多くの紙文書への署名や保管が必要だった従来のリース契約を効率化している。

このモデルは、リース契約だけでなく購入にも適用できると考えられるため、将来、自動車の登記までブロックチェーンで管理できる日が来るかもしれない。

自動車リース契約にスマートコントラクトとブロックチェーンを用いるメリット

自動車リース契約にスマートコントラクトとブロックチェーンを用いるメリット

スマートコントラクトによる自動車リースの契約情報をブロックチェーンで管理する方法は、様々なメリットを生む。

まず、車内アプリに契約情報を持たせずブロックチェーンで管理することにより、サイバー攻撃による契約改ざんを防ぎやすくなる。

同時に、自動車の利用状態と契約の突合が容易になる。例えば、今月の走行距離が一定基準以下だった場合、契約に基づいて翌月の保険料が自動的に割り引かれる、といった新たなサービスも展開できるようになる。

これは自動車がセンサーやネットワーク機能を持つことで実現されるInternet of Things (IoT、モノのインターネット)の応用だと言える。

IoTによる未来の決済「自動車のウォレット化」

スマートコントラクトによる自動車リース契約の際に登録したクレジットカードは、ネットワークに繋がった車内アプリ経由で飲食店やガソリンスタンド、パーキングなど様々な決済に使われるようになるだろう。Visaが2015年3月4日に公開した動画は「自動車のウォレット化」が現実のものとなった近い未来を描いている。

動画で説明されたような自動車のウォレット化が進んだ世界では、車内アプリで近くの飲食店に事前注文をし、店舗に到着すると同時にスタッフが車まで商品を運んでくれる、といったサービスが生まれる。

トヨタが取り組む「自動車のウォレット化」

自動車のウォレット化にはトヨタ自動車も取り組んでいる。米国のトヨタIT開発センターが、業務IT大手のSAPとともに実施した「コネクテッド給油(Connected Fueling)」の概念実証の紹介動画が、YouTubeに公開されている。

トヨタとSAPが目指す自動車のウォレット化は、米国にて2015年10月から提供が開始された自動車IoT用クラウドサービスSAP Vehicles Networkを活用して実現される。

動画の2:33頃から始まる説明によると、ガソリンスタンドや飲食店、パーキングなどが自社サービスをSAP Vehicles Networkに登録することで、ドライバーは車内アプリやモバイル端末から各社サービスを利用できるとされている。

コネクテッド給油の流れ

  1. 車がガソリン量の低下を検知、給油を提案。ドライバーはそれを承認。
  2. 車が近隣のガソリンスタンドの価格を表示、ドライバーは給油先を選択。
  3. 選択されたガソリンスタンドへのナビがスタート。
  4. ガソリンスタンドに到着すると、車と給油機が通信し、互いを識別。
  5. 車は、これから利用する給油機をドライバーに確認。
  6. ドライバーが承認すると、車に登録されたカードで決済(オーソリ)処理。
  7. 決済(オーソリ)完了後、車がドライバーに給油開始を促す。

トヨタとSAPによるコネクテッド給油の事例も、ガソリン量など車が自身の状態を踏まえてドライバーに行動を促し、ネットワークを介して外部と通信することで注文や決済を代行するという、IoTの要素を強く持つ事例だと言える。

まとめ

DocuSignとVisaによる自動車リース契約のスマートコントラクトも、トヨタとSAPによる自動車のウォレット化も、実はスマートフォンを利用することで同様の機能を実装することができてしまう。ではなぜ、あえて自動車そのものにこれらの機能を持たせるのだろうか。

その答えは、人間の行動導線との整合にある。

リース契約のケースもウォレット化のケースも、ドライバーは運転席に座っている。そのシーンにおいて、契約や給油、店舗検索、決済のために、わざわざスマートフォンを取り出すこと自体が導線から外れた行動であり、ドライバーの利便性を損ねる原因となる。

運転中のことは、すべて自動車が自然な形で提案・処理してくれるのが、ドライバーの行動導線に最も合っている。

運転という日常的な行動の中に、シームレスに契約や決済が埋め込まれることで、人と自動車の関係がひとつ上の階層にシフトする。「彼ら」は誰よりも優秀なアシスタントとなることだろう。助手席という言葉は、いつか懐かしく響くのかもしれない。

転載元:infcurion insight(株式会社インフキュリオン)

寄稿
The Finance
編集部
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