金融サービスにおけるブロックチェーンの可能性と効果的活用のためのベストプラクティス


仮想通貨で注目されはじめたブロックチェーンを応用し、革新的なサービスが生み出されようとしている。本稿では、ブロックチェーンを取り巻く環境からブロックチェーンで金融ビジネスはどのように変わるかについて、ふくおかフィナンシャルグーループの具体事例を紹介しながら、ブロックチェーンの可能性と活用におけるベストプラクティスを解説していく。

  1. ブロックチェーンの取り巻く環境
  2. ブロックチェーンがもたらす3大メリット
  3. ロックチェーン活用における4つのベストプラクティス

※本稿は株式会社アクセンチュアの許可を得て、転載・編集しています。

目次

ブロックチェーンの取り巻く環境

近年仮想通貨の世界では、バブルの崩壊や数々の流出事件が発生した。これを受け、仮想通貨の技術的ベースとなるブロックチェーンに対する懐疑論や限界説を唱える声が一部で聞くことがある。しかし我々はこの流れが、ブロックチェーンという技術自体の信頼性や有用性を損なうものとは考えていない。

その理由の1つは、仮想通貨の分野で生じた様々な出来事を受け、新たな流れが生じていることである。

ブロックチェーンを取り巻く法規制環境の整備が進むとともに、官民両セクターで同テクノロジーに対するユーザーの理解が深まりつつある。また実世界の社会・ビジネス活動領域でブロックチェーンをどう活用すべきかという議論も幅広く行われるようになっている。

2018年には、国内外金融機関の多くが実証実験(PoC)の枠組みを超え、実ビジネスにブロックチェーンを活用しはじめた。例えば昨年10月には、R3コンソーシアムが貿易金融の分野で瑣末な手続き業務の効率化を実現するシステム「ボルトロン(Voltron)」を提供開始するなど数多くの事例が見られるようになっている(※)。

https://www.r3.com/news/trade-finance-solution-voltron-launches-open-platform-on-corda-blockchain/

ブロックチェーンの活用は必ずしも急速に拡大していない。しかし、このテクノロジーが誕生してから僅か10年しか経っていないという事実を考えれば、むしろ妥当と言えるだろう。

現在インターネットの基盤となっているプロトコルTCP/IPの発展の歴史とブロックチェーン普及の流れには、類似点が少なからず見られる。

例えばTCP/IPは、一部の研究機関や軍事関係者から企業イントラネットへと、約10年単位でいくつかのフェーズを経て利用が拡大した。2000年代初頭のインターネット普及によって活用がさらに進み、Amazonをはじめとする複雑な商業ネットワークやSNSが台頭するまで約40年間という年月がかかっている。

テクノロジーの進化が著しい現在の環境で40年も必要とするかはさておき、ブロックチェーンがTCP/IPのようにいくつかのフェーズを経て着実に広まりつつあり、現在新たな活用段階に差し掛かっていることは確かである。

ブロックチェーンがもたらす3大メリット

では日本の金融機関は、新たなフェーズにさしかかるブロックチェーンの活用をなぜ加速させるべきなのだろうか?その大きな理由は、同テクノロジーがもたらす3つのメリットがある。

メリット① ITコストの劇的な低減

冗長性やスケーラビリティ、セキュリティ、対改ざん性といった面でレガシーITシステムが持つ物理的な制約をなくし、ITコストの劇的な低減を可能にする。

レガシーITシステムでは、サイバーレジリエンスを強化し、一拠点で情報を一元管理するという物理的必要性から生じる災害リスクを回避・緩和するために、継続的な大規模投資が求められる。

P2Pネットワーク上で分散してデータを管理するブロックチェーンを活用すれば、こうした課題を全て仕組みで解決することができる。

メリット② 業務コストの低減

効率化やプロセスのスピードを向上し、業務コストの低減を図ることができる。

あらゆる分野でこうしたメリットを実現できるわけではないが、貿易金融など取引・業務に組織・国をまたいだ多くのステークホルダーが関わる場合には、大きな効果を期待できる。

金融機関では、業務依頼の出し手と受け手が違う組織・会社・国である場合の確認・承認プロセス(リコンサイル)が効率化の大きな妨げとなりがちだが、外部企業が関わることもあり改善は容易ではない。

リコンサイルの作業にブロックチェーンを活用すれば、こうした問題を解消することができる。

メリット③ シームレスに情報へのアクセスが可能

ネットワークに参加する全ユーザーが、等しくシームレスに情報へアクセスできる。

ブロックチェーンは分散的に台帳を保有するテクノロジーであるため、蓄積された情報を特定の管理者・権限者が統制しない。

そのために、組織や企業、国といった垣根を超えて、参加者全員がスムーズに情報を共有・活用ができる。

ブロックチェーンの普及により、様々な組織やシステムがテクノロジーの力で簡単につながれる時代が到来しつつある。上に紹介したようなメリットを活用すれば、技術的な制約からこれまでは不可能だった形で、業務の最適化やエコシステムの構築、新商品・サービスの開発を実現できる。

ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)とアクセンチュアが最近リリースしたポイントサービス「マイコイン」はその一例である(※)。金融エコシステムの構築や換金サービスも視野に入れた同サービスは、ブロックチェーン・テクノロジーの活用なしには実現できなかったサービスである。

マイコインは、地元でポイント利用先や提携先を増やし、APIをはじめとする様々なテクノロジーをアクセンチュアのブロックチェーンハブを通じて接続することで、地域経済通貨へと発展する可能性を秘めている。

また、時間・地域限定の特典を提携先の店舗で提供し、スマートコントラクトでポイントを発行するなど、様々な消費活動を促進する形で顧客行動にポイント付与を行うことも可能である。

ブロックチェーンの活用を通じて昨年実現したこの取り組みは、福岡から九州全体に利用可能範囲を広げ、仮想通貨経済圏へと成長させることも視野に入れている。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000034.000029076.html

ブロックチェーン活用における4つのベストプラクティス

この取り組みはブロックチェーンの大きなポテンシャルを物語るものだが、多くの金融機関はさらなる活用の分野や方法を模索しているのが現状である。では、同テクノロジーを活用する際には、どのようなポイントが重要となるのだろうか。

ベストプラクティス① プライベート領域あるいはコンソーシアムを通じたブロックチェーンの活用

現状で最も有効なのは、プライベート領域あるいはコンソーシアムを通じたブロックチェーンの活用である。仮想通貨インフラをはじめ、パブリック領域でも利用は進んでおり、今後の動向を注視する必要がある。しかし、今の段階で最も大きな効果を期待できるのはこの2つの領域である。

ベストプラクティス② 導入そのものを目的にしないこと

ブロックチェーンの導入そのものを目的にしないことも重要なポイントです。同テクノロジーのポテンシャルを検証するために導入を決定し、いつまでたっても実証実験(PoC)段階から先へ進まないというケースも少なからず見られる。

金融機関はまず何を実現したいのかを考え、その上でブロックチェーンがメリットをもたらすのか、戦略にフィットするのかといった点を見極める必要がある。

ふくおかフィナンシャルグループによる前述のiBankプロジェクトを進めた際も、同テクノロジーの活用を必須条件とは考えていない。取り組みを進める中で、私たちがしたいことを実現する上で最適なツールであるという結論に達したために導入を決定している。

ベストプラクティス③ 部サービスや他社との連携

外部サービスや他社との連携を積極的に進めながらブロックチェーンを活用することも重要である。1つの企業が単独で価値あるサービスを生み出せる時代は終わりにさしかかろうとしている。

1つのブロックチェーン・エンジンに特化し、そのエンジンとビジネスシステムを「密結合」に作るのではなく、将来の変化を見据えたオープンで業界横断型のネットワークを構築することで、デジタル・エコシステムの持つポテンシャルを最大限活用できるはずである。

特に金融サービスは、他業種企業のエコシステムでも必要不可欠なインフラとして大きな役割を担うポテンシャルを秘めている。

ベストプラクティス④ 段階的にスケールアップするというアプローチ

小規模でプロジェクトを始め、段階的にスケールアップするというアプローチも鍵となる。

テクノロジーや金融ビジネスが急速な進化を遂げる今、5〜10年後のデジタル・エコシステムの姿を正確に予測することは容易ではない。

着実に成果を得られる領域で小規模プロジェクトを始め、環境の変化に適応しながらスケールアップしていくという考え方が現実的だろう。

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山根 圭輔 氏
寄稿
アクセンチュア株式会社
テクノロジー コンサルティング本部
インテリジェントソフトウェアエンジニアリングサービス
グループ統括
マネジング・ディレクター
山根 圭輔 氏
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