金融機関におけるクラウド活用の効果的かつ効率的な進め方とは


デジタル技術を中心とするITトレンドの変化、そこから生まれるデータ・情報による顧客ニーズの変化。それらの変化に柔軟にかつ迅速に対応することが、金融業界におけるデジタル変革の肝であり、その実現がIT部門に求められている。クラウドが、変化への順応性に対応するための必要条件として改めて注目されている。一方、情報セキュリティの観点から難しいとされてきたクラウドをいかに活用するか、変化に強いIT部門を実現するためにはどうすればよいか。デジタル変革の鍵を握るクラウドの活用について、分かりやすく解説する。

  1. はじめに
  2. クラウド活用が求められる背景
  3. クラウド活用における金融機関にもたらす4つのメリット
  4. クラウド活用の現状と選択肢の多様化

※本稿は株式会社アクセンチュアの許可を得て、転載・編集しています。

目次

はじめに

金融業界では近年、クラウドを活用したデジタル変革と新たなビジネス戦略の展開に大きな注目が集まっている。

日本の金融機関によるクラウド活用は今のところ限定的ですが、昨年発表された市場動向調査によると、クラウドサービスの国内売上高は2017年から2022年にかけて3倍近い規模になることが予測されている(※)。

IDC Japan, 2018年9月「国内パブリッククラウドサービス市場 産業分野別予測 2018年〜2022年」(JPJ42855818)

また2017年に行われたアンケート調査でも、基幹系システムでのクラウド利用が15.6%にとどまる一方、次期更新のタイミングで導入するとした国内企業の回答者が43.8%と28%以上増加している(※)。

IDC Japan プレスリリース「国内エンタープライズインフラ市場 ユーザー動向調査結果&発表」(2018年4月12日)

クラウド活用の拡大を通じた変革の実現が、ますます重要視されている。

クラウド活用が求められる背景

今なぜ金融業界で、より積極的なクラウド活用が求められているのだろうか。その背景は大きく分けて3つ挙げられる。

背景① 顧客ニーズの変化

1つ目が、顧客ニーズの変化である。近年の金融業界では異業種(特にITプレーヤー)の参入などを背景にデジタル技術の利用が加速しており、消費者の間でも膨大なデータ・情報が行き交っている。

その結果、急速に多様化する顧客の嗜好への対応がますます重要になっている。

背景② デジタル技術の導入拡大とビジネスへの効果的活用が必須

2つ目は、デジタル技術の導入拡大とビジネスへの効果的活用が必須となっていることである。

市場競争が激化する中、金融機関はグローバル展開の加速や、協業を通じたビジネス創出、変化へ迅速に対応するためのアジリティ強化など、新たな課題を突きつけられている。

これらのチャレンジに対応するためには、ツールとしてだけでなく、ビジネスとしてのデジタルをうまく取り込んでいく必要がある。

背景③ 金融機関のIT部門に求められる役割が変わりつつある

3つ目は、こうした変化を背景に、金融機関のIT部門に求められる役割が変わりつつあることである。

これまでIT部門の重要なミッションとなっていたのは、自社システムの安定性・品質を維持し、ビジネスのサポート役として業務効率化などを支援することであった。

しかし今後は、スピードやアジリティ、異業種との連携支援、ビジネス価値の向上など、変化への対応と新たなビジネス価値創造をより主導的に牽引する役割が求められている。

市場環境の大きな変化に対応し、金融機関として新たな価値を生み出していくためには、クラウドの活用拡大が不可欠なのである。

クラウド活用における金融機関にもたらす4つのメリット

ではクラウドを活用することで、金融機関は具体的にどのようなメリットを享受できるのでしょうか。

メリット① 高いスケーラビリティと小さな初期投資

これまでのように5年後を見据えてハードウェアを購入するといった準備が不要で、段階的な拡張が可能など、高いスケーラビリティが確保できる。

また利用に応じた課金のため、初期投資を非常に低いレベルに抑えられ、投資決定がこれまでより容易になる。

メリット② ニーズの変化へ柔軟かつ迅速に対応

システムをゼロから作るのではなく、既存のIT基盤を活用しながら、アジャイルで開発を進められるため、ニーズの変化へ柔軟かつ機動的に対応できる。

また、クラウドプロバイダそのものがグローバル仕様に対応できているため、日本で開発したアプリケーションを海外で容易に導入でき、グローバル規模のシステム標準化やITガバナンス強化も迅速に実現できる。

メリット③ 新技術への対応力

AIやIOTなど、人材確保やインフラ整備が必要となる新たなテクノロジーへの対応を、クラウドを使うことによって比較的容易に実現できる。

またクラウドはオープンソースのソフトウェアをベースとしているため、ベンダーに依存することなく新技術を使った様々なサービスを展開することが可能である。

メリット④ 柔軟な協業・連携の基盤を提供

クラウドはインターネット上で稼働するため、異業種との連携やエコシステムの構築がしやすく、特にオープンAPIの導入を通じた協業企業とのデータ連携の基盤として有用である。

各社との連携を進める場合には、DevOpsプラットフォーム上で柔軟かつ迅速なサービスの市場投入が可能なアジャイル開発が不可欠であり、クラウドはこうした開発環境の構築になくてはならない存在である。

すなわち、変化に強いビジネス・IT組織を実現する上で、クラウドの活用は不可欠といっても過言ではない。

クラウド活用の現状と選択肢の多様化

こうした様々なメリットをもたらすクラウドですが、現状では海外と国内の活用状況に開きがある。欧米では基幹系も含めた100%のクラウド化に取り組むなど、移行を大々的に進めている事例が目立つ。

一方、日本の金融機関では、新規ビジネス展開に使われるケースはあるものの、基幹系領域で利用するケースはあまり見られないなど、活用の取り組みは今のところ限定的である。

その大きな理由の1つとなっているのは、システムの安定性や厳格なコンプライアンス・セキュリティ対応への懸念でしょう。しかし近年のトレンドを見ると、クラウド活用の選択肢は大きく広がっており、課題や要件を段階的にクリアしながら、それぞれの環境にあった柔軟な導入が可能になりつつある。

そもそもクラウドにはオープンソース化して利用を促すという思考があり、各社がほぼ同様のサービスを提供している。その結果、コンテナ上のアプリケーションをどのプロバイダーでも依存関係がない形で作れるようなフレームワークが整いつつあり、アプリーケーションのプロバイダー依存は低下している。

またマルチクラウドの進化により、用途や目的に応じた複数のベンダーの使い分けが容易になり、金融機関に求められる高いレベルの冗長性・品質・稼働率を実現できるようになっている。

ハイブリッドクラウドの存在も選択の幅を広げる要因になっている。現在は、パブリッククラウドにある機能をそのままプライベートクラウド上で実現できるようになっており、様々な制約の中でパブリッククラウドへの移行が現時点で難しい場合も、クラウドネイティブのアプリケーションをプライベート上で動かし、将来的に条件が整えばパブリッククラウドへ移行するといった選択が可能である。

オンプレミスのインフラとプライベート・パブリッククラウドを柔軟に使い分けできる環境ができつつある。

こうしたトレンドを背景に、各社がそれぞれの目的や事業環境に即した形で、クラウドへの全面的な移行を最終目標とした様々なシナリオを描くことができるようになっている。

自らのいるステージを見極めながら、戦略的にクラウド化を進めることが、これからの金融機関にはますます求められるだろう。

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新井 英明 氏
寄稿
アクセンチュア株式会社
融サービス本部
マネジング・ディレクター
テクノロジーコンサルティング グループ統括
新井 英明 氏
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