“一点突破型”と”エコシステム”の両面から考えるInsurTech
これらの企業のように、保険会社が革新的な商品や価値を生み出し、魅力的な存在であり続けるため、一点突破型とエコシステムの両面から考察してみる。
逆説的であるが、一点突破型に至るには幅広く様々なニーズを探索していく必要がある。前述の「ボート バイ メニー」が良い例で、結果だけみれば「ペット保険の需要の世界的な高まりの波に乗った」と言える。実際、コロナ禍もあり英国では300万人以上の人が新たにペットを飼い始めている(※2)。しかし、元々は見過ごされがちな消費者からの要望を地道に拾い上げ、保険商品化する活動を進めていたのだ。丁寧に顧客の声を聞く姿勢があったからこそ、ペット保険の需要の成長にも乗れたのだろう。「何十億以上の売上が見込める新規事業」などと、皮算用で大きな売り上げを描ける事業を計画しても、成功させることは難しい。大きな利益が見込めずとも、保険という視点から愚直に顧客の声を聞き続け、事業案を探索し続けることで、新しい価値創造を実現できるのではないだろうか。
万人受けではなく、ごく一部が熱狂する商品を開発する視点も忘れてはならない。起業の指南書でも多く見受けるが、ターゲットを絞らないと誰の琴線にも触れず、コアなファンがつきにくい。物事が瞬時に拡散されていく現代では、一部の顧客の要望を根本から理解し、解決することでコア層に支持され、拡散で複利的な価値を生む。机上では計り知れぬ利益となる可能性を秘めている。顧客の声を理解し成功した海外InsurTech企業の姿勢は一助となるかもしれない。
エコシステムの姿勢は顧客体験の向上と業界の革新の両面でメリットがある。前述のZoomのように、各業界は顧客体験に目を向け、業界内外を問わず連携し、新たな価値を生み出している。人材獲得競争が激化している今、自社だけであらゆる領域を解決するのは限界がくるだろう。金融業界で進むオープンAPIの取り組みを保険業界まで広げ、業界を横断することで、これまで見えなかったデータ分析も可能になる。個社独立ではなく、業界全体を標準化していくと、業務が効率化されるだけでなく、一般消費者の利便性も向上するだろう。
- 寄稿
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株式会社hokan尾花 政篤 氏
代表取締役CEO