- デジタル給与とは
(1)定義
(2)解禁日
(3)上限額
(4)仕組み - デジタル給与に対応している資金移動業者(決済サービス)
- デジタル給与が解禁される背景・理由
- デジタル給与に対する厚生労働省の取り組み
- 給与がデジタル払いされることに対する賛成意見・反対意見
(1)賛成意見
(2)反対意見 - デジタル給与のメリット
(1)企業側のメリット
(2)従業員側のメリット - デジタル給与のデメリット
(1)企業側のデメリット
(2)従業員側のデメリット - 給与のデジタル払いの始め方
- デジタル給与のよくある誤解
(1)デジタル払いが義務化されて銀行振込で給与を受け取れなくなる?
(2)ポイントや仮想通貨などでも給与を受け取れる?
(3)今後は給与を受け取るために銀行口座は不要になる?
(4)資金移動業者が破綻したら貯まっていた給与が消えてしまう? - 海外のデジタル給与の成功事例
(1)アメリカ – ペイロールカードでの給与支払い
(2)中国 – デジタル人民元での給与支払い - まとめ
デジタル給与とは
(1)定義
デジタル給与とは、使用者が労働者に対して支払う給与を、電子マネーや任意のスマホ決済アプリで支払うことです。
つまりこれまで一般的であった、銀行振込による給与の受け取りから、資金移動業者のアカウントのデジタル通貨として、給与を受け取ることも可能になったということです。たとえば「PayPay」「楽天ペイ」などのスマホ決済アプリで、給与を受け取るなどです。
なお、デジタル給与の支給について定めた「労働基準法の省令改正案」では、現金化できないポイントや仮想通貨での賃金支払いは認められていません。
デジタル給与を受け取るためには、使用者と労働者の同意が必要となっており、使用者は労働者に対して強制をしないことが前提となっています。
そのため、労働者はこれまで通りの銀行振込で給与を受け取るか、使用者と同意してデジタル給与として受け取るかを選択できるようになります。
(2)解禁日
デジタル給与は2023年4月1日から解禁されます。厳密に言えば、2023年4月1日から資金移動業者が厚生労働大臣に指定申請を行うことができるようになり、一般事業者は許可が下りた資金移動業者の中から選択した上で、各企業にて労使協定を締結し、使用者に同意書を提出して利用可能になる流れです。
利用される同意書は「資金移動業者口座への賃金支払に関する同意書」になります。この同意書を以て、使用者と労働者の同意が認められます。
2023年4月1日に解禁されます。厳密に言えば、2023年4月1日から資金移動業者が厚生労働大臣に指定申請を行うことができるようになり、一般事業者は許可が下りた資金移動業者の中から選択した上で各企業にて労使協定を締結し、使用者に同意書を提出して利用可能になります。
(3)上限額
デジタル給与では、上限額が100万円に定められています。
厚生労働省の「資金移動業者の口座への賃金支払について」においても、「口座残高上限額を100万円以下に設定又は100万円を超えた場合でも速やかに100万円以下にするための措置を講じていること」とあります。
つまりデジタル給与として受け取る口座が100万円以上となった場合、労働者の意思に関係なく、余剰の金額が別の銀行口座に送金されます。
たとえば「楽天ペイ」のスマホ決済アプリで受け取った金額が100万円以上となったため、楽天ペイに紐付けられた「楽天銀行」の口座へ、自動的に余剰金額が送金されるなどです。
資金移動業者は、こうした措置を速やかに行う仕組みが必要になります。
(4)仕組み
デジタル給与の仕組みは、シンプルです。
まず使用者は、デジタル給与を希望する労働者の給与計算を行います。給与計算は、これまでの銀行振込を行う場合と変わりません。
給与が確定したら、労働者の資金移動業者のアカウントに対して、使用者の資金移動アカウントから支払いを行います。銀行口座を介さずに、使用者から労働者へ資金が移動しているイメージです。
デジタル給与に対応している資金移動業者(決済サービス)
デジタル給与に対応している資金移動業者(決済サービス)については、「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」にて、「厚生労働大臣が指定した資金移動業者の中から選択できます」と明記されています。
しかし現時点(2023年2月9日)では、未確定となっています。今後、情報が更新され次第、本記事でもお知らせいたします。
デジタル給与が解禁される背景・理由
デジタル給与が解禁される背景には、「キャッシュレス決済の普及」と「デジタル給与に対する一定のニーズ」が挙げられます。
日本では、キャッシュレス決済の比率を2025年までに4割程度、将来的には世界最高水準の80%まで上昇させることを目指し、キャッシュレス決済の推進を、経済産業省が主導して取り組んでいます。経済産業省が発表した「2021年のキャッシュレス決済比率」によれば、2021年のキャッシュレス決済比率は、32.5%と過去最高を記録しています。
しかし、同じく経済産業省が発表した「キャッシュレス更なる普及促進に向けた方向性」によれば、世界各国のキャッシュレス決済比率と、日本のキャッシュレス決済比率を比較すると、主要各国では40%~60%台となっているため、日本はこれからさらなる普及が見込まれると言えるでしょう。
また「デジタル給与に対する一定のニーズ」については、公正取引委員会が令和2年に発表した「QRコード等を用いたキャッシュレス決済に関する実態調査報告書」が理由として挙げられます。この調査において、「ノンバンクのコード決済事業者のアカウントに対して賃金の支払が行えるようになった場合,自身が利用するコード決済のアカウントに賃金の一部を振り込むことを検討するか。」という問いに対して、39.9%が「検討する」と回答しています。
加えて、紀尾井町戦略研究所株式会社が行った「給与のデジタル払いについて、どう思う?」の調査でも、「利用したい」と回答した人の割合が32%となっているため、多数派ではないものの、一定のニーズがあると言っても過言ではありません。
こうした社会的な背景から、デジタル給与の解禁につながっています。
デジタル給与に対する厚生労働省の取り組み
これまでデジタル給与に対して、厚生労働省が行ってきた取り組みは以下の通りです。
なお、今後さらなる取り組みが行われた場合、情報は適宜更新して参ります。
2020年8月27日 | 労働政策審議会労働条件分科会における議論が開始 |
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2021年4月19日 | 制度設計案(骨子)と論点を提示して議論 |
2022年4月27日 | 具体的な検討の方向性を提示して議論 |
2022年9月22日 | パブリックコメントを実施 |
2022年10月26日 | 労働政策審議会労働条件分科会において「労働基準法施行規則の一部を改正する省令案要綱」を諮問・答申 |
2022年11月28日 | 労働基準法施行規則の一部を改正する省令公布 |
2023年4月1日 | 労働基準法施行規則の一部を改正する省令施行 資金移動業者からの指定申請の受付を開始 |
給与がデジタル払いされることに対する賛成意見・反対意見
(1)賛成意見
デジタル給与の賛成意見については、以下のようなものが挙げられます。
- 電子マネーへチャージを行う手間が省け、利便性が向上するから
- 普段からキャッシュレス決済のため、現金をほとんど使わないから
- 使用者側の振込手数料が減るため、コスト削減につながるから
賛成意見の多くは、利便性の向上などが挙げられています。なお、日本トレンドリサーチが行った「デジタル給与に関するアンケート調査」によれば、若い世代ほど賛成の割合が大きくなったとしています。
しかし、デジタル払いはまだまだ多数派ではないため、今後さらなる浸透を図るためには、一層の啓蒙活動や価値の浸透が進むことが不可欠と言えます。
(2)反対意見
一方で反対意見については、以下のようなものが挙げられます。
- 個人情報流出などのニュースを見ることがあり、給与を支払う媒体として、安全性が確保されていないと感じるから
- デジタル給与で受け取ってしまうと、現金での引き落とし等に対応する際に手間になってしまうから
- お金の出入りが実感できないため、金銭感覚がおかしくなりそうだから
現状では、デジタル給与に対してはネガティブな意見が多く上がっています。前章でも取り上げた「デジタル給与に関するアンケート調査」においても、「自分が受け取る給与がデジタル払いになって欲しいと思いますか?」という問いに対して、「なってほしいと思わない」と回答した人の割合は79.1%にも上っています。
さまざまな調査においても、反対意見の割合が賛成意見を上回っており、浸透には時間がかかると考えられます。
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株式会社セミナーインフォTheFinance編集部