世界初の中銀デジタル通貨の商用化と日本における展開


カンボジア国立銀行とブロックチェーンを活用した中銀デジタル通貨を共同開発し2020年4月に正式運用を開始、日本発のオープンソース・ブロックチェーンを開発するソラミツ。本稿では、ソラミツ代表取締役社長宮沢氏にデジタル通貨の商用化と日本における展開について解説する。

  1. カンボジア中銀と共同開発
  2. 日本発のブロックチェーン
  3. 地域の付加価値を高める
目次

カンボジア中銀と共同開発

我々ソラミツは、2017年4月にカンボジア国立銀行とブロックチェーンを活用した中銀デジタル通貨の共同開発契約に調印した。2019年7月に商用システム「バコン」が完成。テスト運用を実施後、2020年4月に正式運用を開始した。

中国やスウェーデンなどが中銀デジタル通貨を検討する中で、カンボジアは世界初の商用化を達成した。現在12の銀行が参加し、国民はスマートフォンでデジタル化した現地通貨のリエルやドルを送金や店頭での決済に活用している。少額のリテール決済から高額の銀行間取引まで一貫してブロックチェーン化し、国家全体の決済アーキテクチャーの大幅な簡素化・低コスト化を実現した。

デジタル通貨には、現金に近いトークン型と銀行口座に近い口座型の2つの実現方法がある。「バコン」はトークン型のデジタル通貨であり現金と同等の価値を持つ。ファイナリティ(決済の確定)があるため、リテール決済における加盟店での支払いや企業間の送金においても、現金決済と同様に後日の資金清算や振込指示・着金確認の必要がなく、企業の業務が大幅に削減される。また「バコン」は転々流通(不特定の者への譲渡が繰り返される性質のこと)可能なデジタル通貨であるため、企業は「バコン」を受け取ると即座に仕入れなどの次の支払いが可能で、経済活動全体の資金の流動性が大幅に高まる。

カンボジア国立銀行は、民間銀行に対してデジタル通貨を発行し、民間銀行が企業や個人に対して発行する間接発行型を採用した。民間銀行が本人確認や口座管理などを行う点は現在と変わらない。

「バコン」は、匿名でも利用可能であるが1日の利用額が250米ドルに制限される。本人確認を実施して銀行口座を開設すると限度額が2500米ドル以上に引き上げられ利便性が向上する。匿名利用による金融包摂と限度額アップによる銀行口座開設率の向上が中銀の狙いである。

日本発のブロックチェーン

ソラミツは、2016年にブロックチェーンの世界標準を目指すハイパーレジャー・プロジェクトに参加し、IBM、インテル、ソラミツの3社が採択された。

日本発のオープンソース・ブロックチェーン「ハイパーレジャーいろは」として開発が継続され、2019年5月にはセキュリティ・安定性・耐久性などのテストに合格。政府・金融機関・企業が安心して利用できる商用バージョンV1.0として全世界にリリースされた。

「ハイパーレジャーいろは」は、業界最速レベルの2秒以内の決済と秒間数千件の処理能力を誇る。ブロックチェーンを階層的に接続する事により、数億から数十億人の処理も可能である。

特殊なプログラミング言語が不要で、JavaやPythonなどでスマート・コントラクトを作成するため、開発期間・コスト・品質確保の点で有利である。柔軟なプライバシーの設定や携帯電話紛失の際でも、鍵ペアの付け替えができるなど利用者保護の機能も充実しており、デジタル通貨やアイデンティティ管理、サプライチェーン・マネージメントなどに最適化したプラットフォームだ。

地域の付加価値を高める

日本銀行は、欧州の6中銀と共同で中銀デジタル通貨を検討すると発表しているが、ソラミツは自民党の金融調査会において財務省、金融庁、日本銀行と共にカンボジア中銀デジタル通貨の研究や日本における展開の検討を進めている。

日本のリーテル決済における課題は、①キャッシュレス決済手段が乱立し相互運用性がない、②加盟店への現金振込に1カ月以上かかる場合があるため中小加盟店の資金繰りが厳しくなる、③給与のキャッシュレス手段での受け取りが解禁されると銀行への預金量減少が予想され、地域金融への影響が懸念される。

これらの課題を解決するために、地域銀行においてトークン型のデジタル地域通貨を導入し、給与から直接デジタル地域通貨に振り込まれるサービスの検討が進んでいる。ブロックチェーンを活用しているために、相互接続が可能で中銀デジタル通貨との互換性も期待される。

決済、電力、MaaS(次世代移動サービス)、医療情報、データ活用などにおける地域の地産地消や分散化により、地域の付加価値を高め相互運用性を実現するためのデジタル地域通貨の導入は、喫緊の検討課題である。

寄稿

ソラミツ
代表取締役社長
宮沢 和正 氏

電子マネー楽天Edy創業者、
デジタル通貨・ブロックチェーン第一人者、
東京工業大学講師、
ISO/TC-307ブロックチェーン
国際標準化日本代表委員、
元金融庁金融審議会委員。

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