「日経平均株価2万円」と「コロナ収束」も停止の目安に
2020年3月、日銀が金融緩和策としてETFとJ-REITの購入を当面の間、年間6兆円と900億円から、倍の年間12兆円と1,800億円に引き上げると発表した。
この“当面”という表現がポイントだと、第一生命経済研究所主任エコノミストの藤代宏一氏は指摘する。「日銀の発表した文書には、注釈でETFの原則的な買い入れは、年間6兆円と900億円のペースで買う、としている。あくまで時限的な措置ということだが、今のところ、おそらく1年以内か、足元の買い入れ額から逆算すると9カ月くらい、つまり2020年末までを念頭に置いているのではないかと考えている。このETF購入は実質的に株価を下支えしているため、日経平均の株価2万円、もしくは、新型コロナウィルスの感染拡大以前の株価まで回復した場合に買い入れ額を減らすことはあるだろう」。
日本の中央銀行によるリスク性商品の購入について海外の投資家はどう見ているのか。「過激なことをやっていると見る向きもあるが、実は海外でも似たような動きはある。BOE(イングランド銀行)などは、経済対策で市場性の資産を購入して損失を出した場合は『政府が損失を補填する』と、最初から宣言している」(藤代氏)。
中央銀行が損失も覚悟で市場性の金融商品を買うことは、グローバルではトレンドになりつつあると藤代氏は見ている。FRB(米連邦準備理事会)では、社債の購入を一部始めたという。今のアメリカの法律では株の購入はできないが、今後の状況によっては法律が改正され可能になるかも知れない。
「コロナ・ショックは、リーマン・ショックのようにサブプライムローンで利益に走りすぎた結果ではなく、不可抗力であるとの共通認識がある。このため、経済対策の法案も通りやすく『そのくらいやれ』というのが世間の空気だ。世界的なトレンドとして、政府が景気の悪化をリスク性資産への投資で調整するのは不思議ではない」(藤代氏)。
そうした流れは日本にも影響するのだろうか。「今、株を買っているのは日本だけだが、たとえばFRBが買い始めれば世界的にもOKになるだろう。10年後くらいには、中央銀行が株式を買い入れるのは普通のことになっているかも知れない」。世界の金融のメガトレンドが今後どう変わっていくかに注目だ。
コロナの影響を受けた景気の先行きサプライチェーンの指標にも注目
日銀のETFの購入がいつまで続くのかは、コロナの影響を受けた景気の悪化が今後どうなるか次第である。
景気の先行きを見るうえでの指標として藤代氏が注目しているのが、サプライチェーンや入荷遅延の指標だ。サプライチェーンの乱れが発生し、長引くことがあれば物価の上昇は否めない。
「これまでのサプライチェーンの構造は複雑だったので一本調子にCPI(消費者物価指数)が上がることはないと思う。グローバルでサプライチェーンが分断したのは今回が初めての経験だ。そうなると今後は、コストはかかるけれどやはり国内生産でという動きが出てくるだろう」と藤代氏。
今後はPMI(購買担当者景気指数)の項目にも入っている、サプライヤーの納期や入荷遅延の指標が参考になると藤代氏。製造業で部品などのデリバリータイムや納期の指数。この指数と企業物価は関係が強く、小さい波でいうと2019年の台風19号の際には、入荷遅延が伸びて、短期間だが物価が上がった。
「それがインフレの始まりになる可能性がある。これまでは効率化重視で安い人件費を求めて海外へ出ていたが、今回のような事態に備えてサプライチェーンを国内で構築するということが世界的に起こり得る。そのためのコスト増によってインフレが起こるかも知れない。その場合は、スタグフレーション(景気は悪いが物価は上がる状況)が起こり、これまでに経験のない状況に日銀も市場参加者も陥る可能性がある。今後は生産が滞る企業はかなり出てくるだろう。日銀のETF買い入れの動きも、影響を受けると思われるので注視していきたい」(藤代氏)
マーケットメイク制度で流動性向上商品性改善へ金融機関にヒアリング
日銀のETF「年間12兆円」購入は2020年末まで継続する?
低金利対策の「利回り追求型」人気4つのマクロ環境が投資判断に影響
- 寄稿
-
第一生命経済研究所藤代 宏一 氏
調査研究本部 経済調査部
主任エコノミスト