データサイエンティスト育成のための産学官による学びなおしの場を提供

データサイエンティスト育成のための産学官による学びなおしの場を提供

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ビッグデータ利活用の環境が整備されつつある中、その担い手となるデータサイエンティストが世界的に注目されて久しい。今や各国の政府が将来の国力を左右する材料として重視し、専門人材の育成に本腰を入れ始めた。データサイエンス人材に関する産官学の動きや、世界最高峰のデータサイエンティストが数多登録するプラットフォーム「Kaggle」などを関係者に聞いた。本稿では、文部科学省が超スマート社会の到来に向けてスタートさせた取り組みと、その狙いや目標について解説していく。

  1. 超スマート社会(Society5.0)に向けた3つの取り組みと事例
  2. データサイエンスの人材育成における政府の指針と目標

超スマート社会(Society5.0)に向けた3つの取り組みと事例

従来の情報社会(Society4.0)から、来たる「超スマート社会(Society5.0)」の到来に向けて、政府や企業の多くがいろいろな取り組みを進めている。2018年度より、文部科学省は「Society5.0に対応した高度技術人材育成事業」として、①成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成(enPiT)②超スマート社会の実現に向けたデータサイエンティスト育成事業③持続的な産学共同人材育成システム構築事業~リカレント教育等の実践的教育の推進のための実務家教員育成・活用システムの全国展開~─の3つをスタートした。

このうち、②は2018年3月に対象大学を公募し、9月に選定。同事業は、産官学による実践的な教育ネットワークを構築し、文系理系を問わず幅広い分野へデータサイエンスの応用展開を図る取り組みだ。各分野でデータから価値を創出し、ビジネス課題や社会課題に答えを出す人材(データサイエンティスト)を育成する大学を支援する。教育内容は、大学院修士課程レベルとしている。

選定された大学は、北海道大学、名古屋大学、大阪大学、九州大学、横浜市立大学の5つ。例えば横浜市立大学は、A「課題発見・解決型データサイエンティスト」、B「データ分析型データサイエンティスト」、C「データエキスパート」の3コースを設けた。文部科学省 高等教育局 専門教育課 情報教育推進係の田口佑輝氏は、「各コースの現状の見込み受講者比率は、A15名、B15名、C200名と社会人が多い。同校は5年間で1000名のプログラム修了生数を目標としており、うち800名は社会人受講者だ」と話す。

横浜市立大学の共同申請校は東京理科大学と明治大学。連携企業はマイナビ、全日空商事、日産自動車など業種は多岐にわたる。地方公共団体は横浜市が連携。連携企業や連携地方公共団体はそれぞれが保有するデータなどを大学へ提供する。これを基に、大学は実課題によるPBL(Project Based Learning=課題解決型学習)やインターシップなど教育プログラムを開発し、実践していく。

データサイエンスの人材育成における政府の指針と目標

同局 専門教育課 情報教育推進係 係長の水越裕一氏は、「連携企業から研修の一環として受講生を送り込むケースも考えられる。データサイエンスを学ぶ必要に駆られた社会人の学び直しの場を提供し、Off−JT(職場外でのセミナーや講義による研修)の産官共同実施の機会やコミュニティ形成を醸成する狙いだ」と語る。

2019年6月、政府は「AI戦略2019」を公表。同戦略では、デジタル社会における基礎知識「数理・データサイエンス・AI」は従来の「読み・書き・そろばん」に当たる素養として、大学生や高等専門学校生全員に、文理問わず初級レベルの数理・データサイエンス・AI教育展開を目標とする(年間約50万人卒)。このうち約25万人は各専門分野で応用基礎力が習得できるよう、大学入試の時点で入学者を選抜する大学を支援するという。さらにエキスパート人材として年間約2000人、うちトップクラスを年間100人と、ピラミッド構造でAI人材を育成することが政府の目標だ。

同局 専門教育課 企画官の梅原弘史氏は、「『超スマート社会の実現に向けたデータサイエンティスト育成事業』などを呼び水に、企業や大学の連携事例が増加することを期待するとともに、人材不足が深刻化しているサイバーセキュリティやデータサイエンスなどの人材育成を担う大学を引き続き支援していきたい」と語った。

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