「データ利活用を進めたい人向け現場を本気にさせる、風土の作り方(道半ば)」

牧野内 俊治 氏
【講演者】
ほけんの窓口グループ株式会社
上席理事 システム部長
牧野内 俊治 氏

《現場が本気になるデータ活用とは:当社のケース》

<データ活用の必要性>

なぜ、いまデータ解析が必要なのかと問われることがある。我々としては必要かどうかではなく、なるべく事実を知りそれに基づいて“適切な判断をする”ということがビジネスの原点だと考えている。

デジタル社会の進展によりデータ・事実が把握しやすい環境が整ってきているため、うまく使いこなす『術』を自分たちが持たなければならない。

データ・情報に基づくことが重要だ!とする意見は、2600年前から存在する。中国春秋時代の軍事戦略家、孫子だ。孫氏の言葉はビジネスにも適用可能な金言であるが、データ活用の必要性という文脈で置き換えると、何か判断するのであれば、きちんとデータを取得し計算・比較をしなくてはならないということだ。

加えて、何のため/何を目的に“判断する”のか?という命題が重要となる。孫氏の場合には戦争に勝つ(そもそも戦争しない/国が存続・繁栄する)ということが命題となる。当社では、来店されたお客さまをしっかり理解し、日々我々がお客さまに合わせて能動的に変化することで提供価値を向上させ、自社ビジネスを発展させていく事が命題となる。

<データ活用の歴史・背景>

始まりは、2014年にTableau社のセミナーに参加したことである。それ以降、5年ほどの間、草の根活動を実施した。その中で当時メインの分析ツールだったExcelの代替としたのがきっかけで、店長がTableauを使うようになっている。

ここまで広がった後押しになったのが、社会のデジタル化に呼応していくため2019年にデジタル社会成長戦略部が創設され、その機能組織としてデータ解析チームが発足したことがある。

活動の足がかりとして神奈川エリアを対象に現場ニーズ・課題を汲み上げ、データ解析チームが一緒になって“データを使って課題を解消していくトライアル”を行い一定の成果を得た。それを成功事例として経営の理解を得て、現場からの要望もあり、使う店舗が順次拡大していった。

<ビジネスモデルにおけるデータ活用ポイント>

当社のデータ活用は、お客さまを知るという所からスタートする。当社のビジネスフローにおいてお客さまとのタッチポイントは、ご来店前、相談会、アフターフォローの大きく3つに区分できる。これらの中で最も注力しているのが相談会で、我々の生命線は相談会の品質をいかに上げるか、という所になる。

また、このビジネスフロー全体をカバーするシステム基盤:「営業管理」「顧客契約管理」「相談会システム」のシステム基盤があり、そこで日々蓄積されるデータを、柔軟にアクセスできる分析環境を戦略的に整備し、お客さまを多面的に知れる状態を創った。

<データ解析アプローチ>

一般論になるが、これまで金融機関ではPush型サービスでのデータ活用が多かったのではないだろうか。既存/見込み顧客をモデリングし、購入確率の高そうな顧客のリストを作成する『プロダクト・アウト視点』のデータ活用だ。これに対して我々はPull型『マーケット・イン視点』のデータ活用アプローチを採用している。すなわち、来店されたお客さまをしっかり理解し、お客さまに合わせて我々が能動的に変化していくための“要点”を得るための手段として分析をするのである。

データ活用のレベルを低レベルから高レベルに、①集計、②可視化、③統計・多変量・要因分析、④予測モデリング/最適化に分けた場合、“お客さまを知り/自分達が変わる”という点に合致する②可視化に注力している。当社においてTableauがここまで広がったのは、まさにTableauが得意とする可視化/ビジュアライゼーションがハマったことが理由の一つである。

ただし、分析アプローチとしては、Push・Pullはどちらかだけでなく両方とも必要だ。

保険は売って終わりではなく、長期に亘るお付き合いがあるため、既存顧客との関係強化を図っていくことも必要であり、今後Push型の予測モデリングにも注力していく。

<現場(店舗)での取り組み>

“現場が使える分析”、言い方を変えると“現場が腹落ちし、使いたいと思う”を実現していくため、データ解析チームが取った方法は、現場で一緒に取り組む/一緒に汗をかきながら試行錯誤するというものだ。

具体的には、ユースケースを仮説ベースで企画し、実データで可視化、現場で使ってもらってブラッシュアップする(いわゆるPDCAサイクル)。また、現場でデータからインサイトを得られるようなレクチャーを含め、現場主導で打ち手が取れるよう、現場に寄り添い、鍛え上げるというものだ。

この取り組みを通じて作り上げたのが分析ダッシュボードで、ポータルサイトからリンクをつけることで、最新版にいつでもアクセスすることが出来る。

エリアマネジャー向けの予算達成状況や来店動向、店長向けの来店マップや属性別指標、本社の各部門向けの店舗適正人数・配置など、それぞれのレイヤーで必要とした事項を提示し、会社全体としてお客さま動向把握や店舗運営状態を多面的に確認・評価し、打ち手に繋がるデータ(情報)プラットフォームとして提供を行っている。

<現場を本気にさせる取り組み>

この取り組みを行う体制としては、一般的に言われるデータサイエンスに必要な3要素:業務、統計・数理、エンジニアリングの3つがきちんと重なり合うような体制にしていくことが肝要だ。特に重要なのは『業務』の部分となり、現場と一緒になって行動・推進していくためには、現場の心がわかる人員をどれだけ配置できるかに尽きる。

そのため当社では、本社で計数管理を担っていた現場出身の人員や、数学素養があった若手を現場から抜擢し、チーム組成を行うことで、データ解析チームが現場を絶えず意識する態勢となり、奏功してデータ活用の定着化につながっている。

また、現場に定着化させていく際の鍵となるのが2:6:2の法則と考えている。上位2割と成功事例を創出し、中位6割に共有することでデータの活用範囲の裾野が加速度をもって広がっていく。下位2割のレベルに揃えようとすると全体の成長が鈍化してしまうため、ある程度の割切りが必要だ。

この点をもう少し切り込んでご説明したい。

現場が「データを活用したい」と本気にさせるには、まず現場に寄り添うことを徹底するのが大切だ、と先に説明させていただいた。本社と現場がワンチームで取り組み、分析方法や活用方法を一緒に考え、成果を生み出すまでやりきり、現場から信頼を勝ち取る。言い方を変えれば“戦友”になるまで逃げない、ということだ。

ただ、それだけでは局所的な活動に留まってしまうので、それを広げていく仕掛けを作っている。分析フレーム(ダッシュボード画面)を創り上げた現場が褒められるような場をつくり、次の成功事例が生まれる土壌作りを行っている。「身近で同じような境遇にいる同僚ができたのなら、自分も」と、思ってもらえる雰囲気を感じてもらえるようにしている。

併せて、創り上げた現場の成功体験を広げ定着化していくため、生の声として同じ立場にいる他の現場の仲間にダイレクトに伝える場を作ったりもしている。

当社の固有のケースかもしれないが、良いものはどんどん広がっていく文化があり、本社の施策として伝えるよりも、同じ現場が作ったものだという認識があると勝手に広がるという体質を活用している。

当然、現場の声が経営の耳に入るようにし、必要な予算が配分されるような活動も実施しているが、現場の答えは現場にあり、現場が困っていることをデータ分析の社内専門家の立場から、どのような貢献ができるのか?という姿勢で常に接することこそが、現場が本気でデータ活用したくなる一番の要点だと考える。

当社のケースが、社内におけるデータ活用の一助になれば幸甚だ。

最後に、冒頭でもお伝えしたが、データ活用の本質は昔から変わるものではない。データ活用の“手段”はマシンラーニング/ディープラーニングなどの手法によって広がっていっているが、本質はデータ活用の目的であり、見栄えの良い手法を使うことではないと考える。

現場が腹落ちし、使ってもらえる打ち手に繋がるデータ活用・分析を、愚直に続けていくことが、データ活用が定着する最短の道であり、現場が本気になる風土に繋がる道だと確信する。