「データ×AIで安心・安全な未来を拓く 三井住友海上の取り組み紹介」
- 【講演者】
- 三井住友海上火災保険株式会社
ビジネスイノベーション部 データサイエンスチーム 課長
黒木 賢一 氏
<会社概要>
三井住友海上火災保険はMS&ADインシュアランスグループの中核を担う損害保険会社として、グローバルな保険・金融サービス事業を通じて、安心と安全を提供し、活力ある社会の発展と地球の健やかな未来を支えることをミッションとしている。デジタルなど新しいテクノロジーの価値を認めて事業に活かしていく風土がある会社であり、当社の取締役社長は過去にCDOとしてデジタルの取り組みを推進してきた人物でもある。
<損害保険会社を取り巻く環境>
損害保険会社を取り巻く環境は大きく変化している。例えば、求められる役割が変化している。事故や災害に遭われたお客さまに素早く保険金をお支払いし元の生活に戻れるよう支援するといった従来の取り組みに加え、「そもそも事故が起こらないようにできないか」「災害時の被害を減らせないか」といった防災減災の観点など、保証の前後についても価値を提供していく必要があると考えている。また、自動運転やシェアリングエコノミーのようなテクノロジーの発展や生活様式の浸透に伴い新たなリスクが生まれている。このような新しいリスクを素早くケアすることで世の中の発展や新しいチャレンジを後押しすることも求められる役割と考えている。さらに、損害保険会社は特にリスクに関する大量なデータを蓄積しており、それらを活用することで、世の中やお客さまに貢献できる存在であると考えている。
以上の背景から当社ではデータ×AIの取り組みを多く進めているが、その中から今回はデータ×AIの力を自社のビジネス変革に活用した取り組みとして「MS1 Brain」、お客さま企業の課題解決のために活用した取り組みとして「RisTech」を紹介する。
< MS1 Brainについて>
MS1 BrainはAIを搭載した損害保険業界初の代理店営業支援システムである。主な機能として、営業活動を支援するSFAの機能や顧客接点を強化していくCRMの機能を備えているが、特に特徴的な機能としてニーズ予測やネクストベストアクションの機能がある。これらは社内システムに蓄積した契約や顧客、事故等のビッグデータと、外部データを活用しながら予測モデルを構築して実現している。予測結果からリードリストを生成し、MS1 Brainから代理店に提供することで、代理店がお客さまのニーズに沿った提案活動ができるよう支援している。
MS1 Brainの活用によりお客さま一人ひとりに最適な提案を行うことでお客さま本位の業務運営を実践するとともに、営業社員の業務効率化を進め、役割を変革・高度化することを目指している。
<RisTechとは>
RisTech(Risk×Technology)は、損害保険によるお客さまの経済的な損失の補てんだけでなく、リスクをテクノロジーでコントロールして低減化していこうといった思いのもと2019年から進めている取り組みである。RisTechの軸は大きく3つある。1つ目は自社や取引先企業様が保有するデータを活用した取引先企業様の課題解決支援、2つ目は新しい保険商品やサービスの開発支援、そして3つ目は自然災害への備えや公共交通機関への貢献等の社会的課題の解決だ。
<当社保有データと活用事例>
当社はお客さまデータや契約データ、事故傾向・場所・時間帯などの事故データ、コールセンターの入電データなど、特にリスクに関する幅広いビッグデータを保有している。これらのデータを活用することで、お客さまや社会に貢献できるよう取り組みを推進している。
具体的なデータ活用の事例として、2022年5月にプレスリリースをした矢崎総業社と進めているAIによる運転リスク診断の事例を紹介する。こちらは、矢崎エナジーシステム社のデジタルタコグラフの運転挙動データと三井住友海上の自動車事故や運転リスクに関するデータ等を活用し、運転リスクを診断するモデルを矢崎総業社と構築しソリューション化したものである。実証実験において利用前後での事故率の低減効果を確認しており、この取り組みを通じ交通事故ゼロ社会の実現を目指して進めている。
<RisTechの価値提供パターン>
RisTechは2つの価値提供パターンがある。1つ目は当社が保有するデータを統計化して提供し、取引先企業様の自社サービス等に活用していただく「統計データ提供」である。2つ目は取引先企業様のデータや当社保有データを活用し、当社のデータサイエンティストが分析を行い、取引先企業様の課題解決に貢献する「分析支援」である。
特に分析支援について、我々の強みと考えている点が2点ある。1点目が2019年から累計で約200件の分析実績があり、豊富な知見・分析ノウハウを蓄積している点である。2点目が在籍するデータサイエンティストがデータサイエンティスト協会の理事など専門性の高いスペシャリストである点である。これらを活かしてお客さまの課題解決に貢献している。分析はPythonやRなど様々なツールを利用しているが、特に可視化に関してはTableauを活用している。分析の切り口を変えてのアドホックな分析や、お客さまが理解しやすいビジュアライゼーションができることが、Tableauのメリットであると考えている。
<統計データの活用例>
統計データの活用例について2つ紹介する。1つ目が自動車保険データから高齢ドライバーの割合を地図上に可視化したものである。2つ目が火災保険データから耐火建物普及状況や築年数を地図上に可視化したものである。例えば、前者は高齢ドライバーの割合が高いエリアは今後に免許返納等で公共交通に関するニーズが出てくるのではといったマーケティングでの活用、後者は地方自治体の防災減災施策立案時の活用などが考えられる。このように業種や利用シーンによっては非常にマッチする統計データである。
<分析支援事例>
分析支援については、損害保険会社は幅広い業界のお客さまに保険を提供していることもあり、小売・製造・運送・金融など幅広い業種の分析実績がある。これまで依頼いただいた分析目的を整理すると大きく2つのパターンに分類される。1つ目のパターンはトップラインへの貢献を目的としたマーケティング等の分析、2つ目のパターンはコスト削減を目的とした事故対応コスト削減等の分析である。
1つ目のパターンの事例としてマーケティング分析事例を紹介する。サービス認知度の向上に向け、注力してプロモーションを進めるエリアの選定に悩まれているお客さまがいた。それに対して当社の顧客や保険契約等の統計データとお客さまのサービス加入状況等のデータを活用して今後サービス加入する可能性の高いエリアを予測し、該当エリアに注力してプロモーションを展開することで、結果としてウェブサイトへの大幅なアクセス数の増加等を確認した。
2つ目のパターンの事例として事故対応コスト削減に関する分析事例を紹介する。実店舗の設備故障に伴う機会損失やブランドイメージ低下に課題を抱えるお客さまがいた。それに対して設備の稼働データや事故・故障データ等を活用し、故障が発生しやすいタイミングや故障の兆候を分析し、AIを活用した故障の予兆検知を実施した。また、再故障が発生しにくい修理作業員の作業の特徴等を分析し、修理プロセスの標準化等も行ったことで、大幅なコスト削減に繋がった。
<最後に>
以上のように、当社では幅広い分野のデータ分析の取り組みを進めている。皆さまの中で「データを活用してリスク低減したいが、分析ノウハウやリソースがない」「三井住友海上の豊富な分析ノウハウや統計データを利用してみたい」等の課題やご要望をお持ちの方がいましたら、ぜひRisTechの活用をご検討いただきたい。