【連載】金融×新潮流⑤-後編- 金融分野におけるWeb3を活かしたサービス

【連載】金融×新潮流⑤-後編- 金融分野におけるWeb3を活かしたサービス

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本稿では、金融領域においてWeb3を活かしたサービスの進化の可能性について解説する。

主なポイント

  • Web3は、レンディング、インシュアランス、インベストメント、ペイメントといった金融領域におけるサービスを進化させる可能性を秘めている。
  • 政府の検討も緒に就いたばかりのため、本稿サービス案が全く実現されない可能性もゼロではないが、具体化しつつある新潮流に対して、早期から戦略を練り、個々の会社ごとに実行計画や対応策を議論しておくことは、昨今の変化のスピードに鑑みれば勝敗を分ける大きな要素になることが明らかだ。

Web3の金融サービス領域

前編では、Web3におけるブロックチェーンをはじめとしたテクノロジー面の特徴とマネタイズの変化や意思決定の在り方も含めたビジネス面の特徴を正しく理解することや、日本企業がWeb3に取り組む際に検討が必要な論点を意識することが重要であると述べた。これらを踏まえつつ、金融サービスの進化を4つの領域から考えてみたい。

(1)レンディング

Web3におけるレンディングでは、暗号資産を確実に回収するために、貸し付けた金額以上の暗号資産(150-300%)を担保とすることが一般化しつつある。担保を必要とすることで、債務者が返済不履行となった場合は、ウォレットから自動的に回収するなどのルールをあらかじめスマートコントラクト化することで、貸し倒れリスクを低減することが可能だ。一方で、無担保のレンディングについては、サービス開発の余地が大きいと考えており、グラミン銀行を題材にWeb3を掛け合わせた進化の方向性について検討したい。
グラミン銀行はバングラディッシュ発のマイクロファイナンス機関でノーベル平和賞を受賞したことで有名だろう。貧困層に対して小口融資を行い、5人1組のグループで連帯責任を負うことで高い返済率を実現している。一方で、グループを組めない本当の貧困層を援助できない課題や、グループの中で非公式な貸し借りが生じ、元々の関係性まで破綻してしまう等の課題が浮き彫りになった。

これらの課題に対して、Web3のDAOの要素を掛け合わせることで、現状の解決策とは異なるアプローチが可能になると考えている。例えば、グループ内での非公式な貸し借りによる関係性破綻の課題を解消する打ち手として、連帯責任のグループをDAOによって広げることもあり得る。現状は、金融機関が借入希望者の信用度を元に、与信できる連帯責任のグループを決め、個々人の返済に向けた自助努力や、借入者同士で完済を促す相互牽制が機能することを前提としているため、非公式なお金の貸し借り以外の有効な助け合いが難しい。一方、同じビジョン・目的を有するDAOとして、連帯責任を負うグループが形成され、資金を借りることができれば、追加資金が必要な際は、共感者を集めることで、返済不履行を免れるばかりか、目的に向かって新たなリソースを得ることも可能となる。
例えば、持続可能な農業を目指す人たちで作ったコミュニティをオーガニック食材の小売りやレストランなどのバリューチェーン横断の関係者も関与する形に発展させることで、金融機関目線の単なる信用リスク分散化の集合体ではなく、コミュニティ目線の同志の結束力を通じた自律的な相互扶助の集合体を生み出せる。これにより、持続可能なマイクロファイナンスへと進化させることができるのではないだろうか。
なお、グラミン銀行を題材とした事例については、Web3のビジネス面の特徴で述べた論文でも触れられており、人格や評判を示す概念であるSoulやそれらを証明するためのトークンであるSBTがグラミン銀行のような無担保融資の基盤となり得ることが示唆されている。

(2)インシュアランス

インシュアランス領域では、テレマティクス保険やカーシェアリングを題材にWeb3の可能性について検討したい。
現状、インシュアランス領域では、資金の獲得や保険金の支払いの事例が先行しているようだ。例えば、米国のP2P保険で有名なLemonadeは、農業向けの気候変動に関するパラメトリック保険のためのDAOを組成した。パラメトリック保険とは、あらかじめ定められた条件に基づき、自動で保険金が支払われるものであり、迅速に支払われる点が着目されていることから、特に自然災害等からの早期復興に貢献する仕組みとして活用されている。あらかじめ定められた条件に基づき、支払いが実行されるという点でブロックチェーンと相性の良い仕組みと言えよう。しかし、Web3を活用した保険は、支払いの効率化などに留まらず、購買の意思決定にまで影響を及ぼし得ることも考慮した方が良い。

例えば、今後CASE化が進む中で一般化が目されるテレマティクス保険の進化系として、ユーザーの運転データを元に、最適な保険を一つのトリップ(自宅などの登録住所から出発し帰着するまでの1旅程)ごとにマッチングすることが可能になると考えている。現状の保険は概ね年間単位での契約となり、契約料を支払って切り替える際には前年度までの事故の有無などに応じて利用条件が変動する形が一般的だが、CASE化されたモビリティが一般的になり、尚且つ個人がデータの主導権を持つことで、テレマティクス保険を都度選択できることが予想される。また、運転データのスコア化を前提にすると、保険会社と加入者それぞれがお互いを選び合う環境になることも想像に難くない。運転ごとに最適な保険を選べる半面、危険な運転をするにつれて保険料が割高となっていくため、安全運転を持続するインセンティブが働きやすく、事故の抑制に繋がる。その結果、少額短期保険にありがちな限定的な保障範囲や保険金額といったデメリットも解消できる可能性があると考えている。但し、保険商品の設計においては、大数の法則が働く一定ボリュームの加入者が必要となるため、運転スコアが類似するグループ単位の保険加入スキームとするなど、考慮が必要だ。

同様の考え方で、カーシェアリングにおいても、良い行いをするユーザーが報われるサービスを検討することができる。カーシェアリングの場合は、車をシェアするグループが組成されることからDAOとしての側面も織り込んで検討すべきだろう。例えば、カーシェアサービスの提供者側が、ユーザーグループの安全運転スコアを見て貸し出しを判定でき、また利用料を変動させることができる世界観をイメージしてほしい。
ユーザーたちはシェアしたい車種、つまり目的を定める。当然、人気の車種であれば多くのグループが利用したいと考えるため、ユーザーグループは自分たちの平均スコアよりも高い安全運転スコアを有するユーザーを仲間に入れることに積極的に取り組むことになる。サービス提供者側は、従来通りの車種・季節などに応じた価格設定に加えて、運転スコアの低いユーザーグループには通常より高く、運転スコアの高いユーザーグループには通常より低く料金設定することが可能だ。
その結果、事故を減らす社会的意義があることに加え、車の状態を良好に保ち続けられることで中古市場での再販価値の向上にも繋がり、サーキュラーエコノミーの実現にも貢献し得る。
これらのWeb3の活用の考え方は、データドリブンな保険であれば車以外にも発展できると考えており、多様なサービスが生まれる可能性を秘めている。

(3)インベストメント

インベストメント領域では、「新しい資本主義」でも重要施策に据えられているスタートアップ支援についてWeb3活用の可能性を検討したい。
日本ではユニコーンと呼べるスタートアップの数が限定的で、欧米などと比べて少ない現状に甘んじており、グロース力の低さが課題と捉えられている。スタートアップの資金調達先がエンジェル投資家やベンチャーキャピタルなどの資本家に偏重しており、他国に比べて上場しやすい環境も相まって、十分に事業・サービスを育てる機会が不足していることが一因だ。
現状の打開策の一つとして、DAOの可能性について言及したい。DAOを媒介としたスタートアップ支援のスキームを創り上げることで、従来の資本家による出資に留まらず、DAOメンバーからの出資や、サービス発展に必要な活動の支援を受けることができる。例えば、PartyDAOは、PartyBidというNFTオークション参加のために仲間を募ることができるプロダクトを世に送り出した事例だ。PartyDAOは、ソフトウェア開発を通じたプロダクトの創出を目的としたDAOの一つで、第一弾のプロダクトのPartyBidでは高騰を続けるNFTをグループとして購入するための手間やUXの改善を目的としている。PartyDAOでは、エンジニアやデザイナーにプロダクトを作成してもらうとともに、個人およびベンチャーキャピタルからの出資も受け付けている他、PartyBidからの売上も活動資金として運用されている。また、これまで述べてきたWeb3の特徴と同様に、PartyDAOはトークンを発行し、報酬として支払っている点に加え、12週間の有給休暇など伝統的な会社に見られるルールも整備されている。ただ、何よりも重要なことは、出資以外にも貢献の形が多様化することで意思決定者が分散されるため、合意形成には時間を要するものの、一部の出資者の近視眼的なトークンの売買損益ニーズによる過大な影響を受けず、腰を据えた成長への取り組みが可能になる点だ。

現在、DAOを会社のように活用する方向性は大きく2つある。
一つ目は、PartyDAOのようにDAOから始まり、DAOのまま運営するケースである。
二つ目は、米国ワイオミング州で2021年7月に承認されたDAOの法人格化である。ワイオミング州で承認されたDAOは、American Crypto Fed DAOといい、mSHIFTという会社から発足し、ペイメントシステムの開発に取り組んでいる。法人化できるということは、その先のIPOなど、従来の株式市場への接続も可能になり、より多様なオプションを組織のステージに合わせて選択できることになる。

金融関連サービスの検討という観点で、インベストメント関連で見られるDAOは、投資先をメンバーで選定するベンチャーキャピタルのような事例が多い。例えば、HoneyDAOやNeptuneDAOは、適切な投資を通じてDeFiの発展に貢献するとしている。しかしながら、先に述べた日本におけるスタートアップ投資の構造的な課題に寄り添えるWeb3のサービスは、アントレプレナーや事業への投資を促すだけではなく、貢献と報酬の仕組みに多様性をもたらせるサービスであるべきだ。例えば、アントレプレナーに対するDAOの組成および参加メンバーとのマッチングが、有望なサービスではないだろうか。このマッチングサービスにその先の選択肢の一つであるDAOの法人化や株式会社化したうえでのIPOなど、従来の株式市場とのつなぎ込みまでサービスに盛り込めれば、黎明期のスタートアップの立ち上げからユニコーンとしての資本政策の策定まで、長期的な目線で支援・投資することが可能になるはずだ。

(4)ペイメント

ペイメントについては、残高の範囲内での送金・支払いと、無担保与信枠の範囲内での支払いの2種類におけるWeb3を通じた進化の可能性を検討したい。
Web2では、ひとつの企業が情報を管理し、決済に必要な機能やサービスを充実させることで円滑な決済サービスを提供してきた。基盤を作り上げたプラットフォーマーが、ユーザーの拡大やデータの活用を通じた経済圏の構築を進めた結果、他のプラットフォーマーとのユーザーの奪い合いが発生することで、様々なプラットフォームが乱立する結果となった。一方、Web3では、企業が管理してきたデータをユーザー自身が管理できるようになることで、ユーザー自身がウォレット上でお金を管理し、ウォレット間で金銭的価値を直接、移転できるようになるため、送金や支払いにおいて、金融機関や決済事業者などの仲介業者が不要となる。

最も近い事例は、イーサリアムが挙げられる。イーサリアムのブロックチェーン上であれば、暗号資産であるイーサを仲介業者なくユーザー間で直接やりとりできる。更に最近では、イーサリアムとその他ブロックチェーンとの接続により、異なるブロックチェーン上のウォレットを個別に保有して換金せずともイーサのまま支払えるようになるといったブロックチェーン間の互換性を担保する技術(インターオペラビリティ)の開発も進んでいるため、今後ユーザーは一つのウォレットを持っていれば、どんなブロックチェーン上のサービスでも送金や支払いができるようになる。

また、与信の考え方やリアル資産の回収などをWeb3でどのように実現するかも重要な論点だ。有担保での回収についてはレンディングで触れた通りだが、クレジットカードやBNPL(Buy Now Pay Later)といった決済手段において論じるために、ペイメントにおける無担保融資のWeb3化についても検討が必要だろう。
無担保で暗号資産を借りされるソリューションで有名なDeFiの事例としては、GoldFinchが挙げられる。これまで世の中になかった「保有資産以上の借入」を実現するために、借入者がスマートコントラクトとして返済期間などを提案する形で、賛同を得られた場合に貸し付けが実行される仕組みがGoldFinchのユニークと捉えられている所以だ。
GoldFinchでは、一次貸付のバッカーと一次貸付の金額とレバレッジ比率に応じて金額を定めるシニアプールという2種類の貸し手が存在している。まず、借り手がトークンを使って、金利やレバレッジなどの条件を借り手のプールに登録する。登録された条件に対してバッカーと呼ばれるプレイヤーが、貸し付けを実行するか判断し、自分の資本から一次貸付を行う。一次貸付の実行に伴い、登録されたレバレッジ比率で、シニアプールと呼ばれる資本プールからも貸出金を受け取れる仕組みだ。借り手は自身のアドレスまで公開しているために返済不履行の場合は常に履歴が残ることになることから、返済のインセンティブが働きやすい。また、より多くのリスクを負うバッカーに対して、より多くの利息が分配される仕組みになっている。バッカーは、直接借り手とコミュニケーションし、法的な契約書を結ぶことも許可されており、バッカー次第ではあるが、暗号資産含めたデジタル資産での回収が難しい場合は、リアル資産(法定通貨の現預金や金融資産など)で回収するスキームとすることも可能だ。
リアル資産で回収する場合、現時点でルールが明確化されているソリューションとしては、Teller Protocolが挙げられる。Teller Protocolでは、クレジットスコアや銀行口座関連情報を用いて融資の妥当性を検証している。また、万が一、返済が滞る場合、こうした情報に基づいて第三者を通じた取立を行う事が明文化されており、債権を回収できる仕組みが整っている。

GoldFinchもTeller Protocolも、現状では、Web2上の仕組みに信頼性の検証を委ねている部分も残るが、SoulやSBTが導入されれば、Web3上でもデジタル上の人格や評判に基づいた信頼性の検証が可能となる見込みだ。また、担保内での送金・支払いがすべてユーザーに一元的につながったウォレットが実現され、車や家など実社会での資産の売買や法定通貨の残高まで暗号資産から追跡できるようになれば、販売した企業などが明確になることで、個人を追跡できなくなったとしても履歴から企業を辿るなど、新たな債権回収の形が成立しうると考えており、今後イノベーションが起こる可能性を秘めた領域として期待している。

まとめ

政府の検討も緒に就いたばかりのWeb3において、特徴や金融領域において可能性のあるサービスの特徴について論じてきた。当然ながら税制や法務といった制度面の設計が追いつかない限りは、ここまで述べてきたサービス案が全く実現されない可能性もゼロではない。
しかしながら、世界を変えたインターネットの、更に次の展開として目されている技術の変化点、それも既に具体化されつつある事象に対して、早期から戦略を練り、個々の会社ごとに実行計画や対応策を議論しておくことは、昨今の変化のスピードに鑑みれば勝敗を分ける大きな要素になることが明らかと言えよう。
前編では、「Web3とは何か」から一歩踏み込んだ価値創造の在り方に関する議論を促すべく、戦略等を整理した。後編で述べたサービス案を用いて、更に具体的な実現方法の議論が活発に交わされることを期待している。

※本稿は2022年8月時点の情報に基づいて作成されています。

Future of Finance|ストラテジー|デロイト トーマツ グループ|Deloitte
著者
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
モニター デロイト ストラテジーユニット
マネジャー
坂下 真規 氏
電機業界を経て現職。新規事業立案を中心にクロスボーダー案件や戦略策定プロジェクトに従事しており、大企業における下流から上流までの幅広い経験やマルチナショナルな経験に基づいた提言に強みを持つ。近年は、金融業界での新規事業立案や、DAOなどを活用したサービスの検討にも取り組んでいる。
共著
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
モニター デロイト ストラテジーユニット
シニアコンサルタント
齋藤 亮 氏
大手金融機関にてフィンテック領域を中心に、国内外の事業会社および投資先の経営管理、成長戦略の立案、価値向上施策の実行を経験。事業会社の経営経験に基づいた、確かな成長戦略の立案に強みを持つ。
共著
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
モニター デロイト ストラテジーユニット
ディレクター
三由 優一 氏
大手SIer、外資系コンサルティングファームを経て現職。金融機関に対する中長期戦略策定・新規事業立案・全社デジタル改革プラン策定・M&Aのほか、異業種に対する金融事業参入構想策定・Fintechビジネス企画・決済事業立上・海外展開プラン策定等の支援経験に富む。近年は、脱炭素を軸とした社会・地域課題解決に資する金融の在り方やサービス検討にも取り組んでいる。