- 主なポイント
- 日本が世界に誇る産業、アニメのポテンシャル
- 日本のアニメ産業に忍び寄る危機
- アニメ産業の進化をもたらす金融の可能性
- NFT活用取り組み
(1)ファンと共創するアニメ制作|企画・資金調達~制作
(2)二次利用ビジネスを拡大|ライセンス管理~二次利用 - 信託スキーム活用アイディア
- 最後に
主なポイント
- エンタメにおいて日本が世界に誇るアニメ産業は、海外マーケットが急激に拡大しており、日本がグローバルで戦える数少ない産業の一つと期待されている
- ただし、アニメ産業のクリエイターである制作関係者の生活水準が低い課題は根深く、このままでは国際競争力を失いかねない懸念がある
- 打開に向けては、グローバル視点での取り組みが重要であり、NFTや信託スキームなどの金融の切り口から新たなアニメ産業の在り方を見いだせる可能性がある
日本が世界に誇る産業、アニメのポテンシャル
2021年5月10日、日本のアニメが世界に金字塔を打ち立てた。日本でも空前のヒットとなった「鬼滅の刃 無限列車編」が、アメリカの映画データサイト「ザ・ナンバーズ」が公表した2020年公開映画の世界興行収入ランキングにおいて、全世界1位に輝いたのだ。日本のエンタメコンテンツにおいて、ゲームと双璧をなすアニメは、日本が世界で戦える数少ない産業の一つとも言われている。これまでのアニメ産業の発展を振り返ってみると、2002年は1兆円程度であった国内外の日本アニメ市場規模がCOVID-19前の2019年には約2.5兆円と20年近くで2.5倍にまで拡大している。変化点は2012年頃であり、2002年から2011年の年平均成長率が約2%であったものが、2012年から2019年は約9%と、ここ10年近くで市場が急速に拡大したことが分かる。主な要因は、海外市場と、NetflixをはじめとしたSVOD(Subscription Video On Demand:定額制動画配信)サービスが該当する配信市場の拡大だ。特に、海外市場の伸びは凄まじく、2012年の2,408億円から2019年には約1.2兆円と年平均成長率は26%、アニメ市場全体に占める海外比率も同期間で18%から48%と目覚ましい成果をあげており、アニメ産業発展のけん引役となっている。
海外でもアニメ≒オタクではなく、ポップカルチャーとして受け止められるようになったこともあって、黄金期を迎えつつある。例えば、世界的なシンガーのビリー・アイリッシュが日本のアニメを題材にしたPV(Promotion Video)を発表したことや、米国最大のスポーツであるNFL(アメリカンフットボール)のロサンゼルス・チャージャーズというチームが全米注目のスケジュール発表告知において、鬼滅の刃、進撃の巨人、ONE PIECEなどのキャラクターを引用した動画をTwitterに投稿したことが大きな話題となった。また、ファン同士がアニメについて語り合うこと自体がビジネスとなる動きもでてきている。例えば、注目アニメ作品の共有や、特定シーンの解説などを動画配信するThe Anime Manは3百万人強のフォロワーを抱えており、Youtubeで有名なアニメ系のチャンネルである。アニメを盛り上げる動きは、枚挙にいとまがなく、海外を軸に更なる市場成長が期待できる。
日本のアニメ産業に忍び寄る危機
一方、国内に目を移すと明るいニュースばかりではない実態が浮き彫りになる。2015年の国内市場規模は、狭義で1,700億円、広義で1.2兆円と両者に大きな乖離がみられる。前者はアニメ制作に関わる企業の売上総額で、後者は一般消費者がアニメ関連で消費した総額だ。これほどの大差がつく理由は、莫大な収益を生む二次流通ビジネスにクリエイターであるアニメ制作者が関われていない実情がある。TVアニメ新世紀エヴァンゲリオンの大ヒットが起爆剤となって広く浸透した製作委員会方式が一つの要因と言われており、制作コンテンツの利権に絡めるのは、二次流通ビジネスを主力とする玩具メーカーや出版社、広告代理店などの出資者が中心となっている。アニメ制作に関わるクリエイターは、下請けとしての委託料しか得られず、文化庁が実施した「アニメーション制作者実態調査報告書2019」によると、制作会社の経営者や監督も含めた年間収入の中央値が370万円と薄給だ。就業形態も特殊で、正社員の14.7%、契約社員の6.0%に比べ、フリーランスの50.5%、自営業の19.1%が圧倒的に多い。このような状況も影響してか、全国平均に対して、持ち家率は約6割が35.1%、万一・老後の備えにおける生保・損保の加入は約8割が33.2%、株式や不動産投資は約2割が8.9%と非常に低く、金融サービスへのアクセスが十分ではないことが顕著だ。これでは、アニメが好きで制作に携わりたい人や、才能のあるクリエイターが、安心して働ける、自分が思い描くライフプランを目指せる環境とは言えず、産業として有望な人材を呼び込むことが難しい。
一方、海外では、世界的なアニメブームの潮流も踏まえ、国策として力を入れる中国を筆頭に日本の座を虎視眈々と狙う国が出てきている。例えば、中国では、政府が2004年から国産アニメ育成の目的で、海外作品のテレビ放映を3割未満とする規制を導入し、2008年にはゴールデンタイムでの海外アニメ放送を禁止、2013年には衛星チャンネルで毎日30分以上の中国アニメ放送を義務付ける政策を展開している。また、中国企業には、税制優遇や奨励金提供などを通じて国産の作品づくりを後押しするなど、国を挙げてアニメ産業の発展に力を入れている。最近では、日本の倍近い給料を提示する中国企業に日本の優秀なクリエイターが引き抜かれることや、日本の制作会社が国内の仕事だけでは経営が苦しいことから中国企業のアニメ制作を下請けするケースが出てきている。その結果もあってか、月間1,800万人以上が利用する世界最大級のアニメ・マンガデータベースのMyAnimeListにおいて、中国アニメ「時光代理人」がユーザーによる平均評点が8.83、19,000以上ある登録アニメ作品の中で25位というトップクラスの座を獲得するなど存在感を増している。このような状況も踏まえ、アニプレックスを抱えるSONYも急拡大する市場の取り込みに力を入れている。2019年の現地法人設立に始まり、2020年4月には、月間利用ユーザー(MAU)が約2億人、課金ユーザーが約1,800万人と巨大な顧客基盤を抱えており、日本アニメの配信権購入も行っている中国の動画配信サービスbilibili(ビリビリ)に約430億円の出資をするなど、中国でのアニメ事業拡大に本腰を入れている。これらの動きが中国のアニメ産業を更に発展させることは言うまでもない。
アニメ産業の進化をもたらす金融の可能性
製作委員会方式やフリーランス中心の雇用形態が一因となって顕在化している「制作関係者の生活水準向上」の課題解消に向けては、「資本家依存モデルからの脱却」や、「戦略的なコンテンツIPの育成・運用」が一つの方向性となりうる。今回は、具体例として、NFTを活用することで「ファンと共創するアニメ制作」や「二次利用ビジネスの拡大」を図る取り組み、信託スキームを活用することで「グローバルでの国産コンテンツIPビジネスの拡大」を目指す筆者のアイディアを紹介したい。いずれも二次利用ビジネスから制作関係者が実利を得られるモデルへの転換に繋がるものだ。
- 寄稿
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デロイト トーマツ コンサルティング合同会社三由 優一 氏
ストラテジーユニット/モニター デロイト
シニアマネジャー