【連載】金融×新潮流④ 金融が導くエンタメ産業の未来


本稿では、グローバルにおいてアニメ産業が拡大しているなかで、世界に誇る日本のアニメ産業の課題を深堀し、金融の切り口から今後発展につながる可能性について示唆する。

目次

NFT活用取り組み

(1)ファンと共創するアニメ制作|企画・資金調達~制作

昭和のアニメを彷彿させる新星ギャルバース。製作委員会方式とは異なる新たなアニメ制作に挑戦する2人の日本人女性アーティストが発足させたプロジェクトだ。美少女戦士セーラームーンのような女性キャラクターの特徴的なデザインに加え、星母の爆発によって誕生した8,888個の女神の欠片がギャルとなり、星母の使命を果たすことで、いつか輝く新しい星になることを目指すというストーリー性や、NFTを活用したweb3コミュニティ型のプロジェクトということもあいまってグローバルで注目されている。世界最大のNFTマーケットプレイスOpenSeaにおいて、2022年4月14日に世界オールカテゴリーで1位を獲得し、販売開始から数日で約18億円相当の取引総量に達する成果をあげたことで多くの反響を呼んだ。

このプロジェクトの特筆すべき点は、資金調達と制作方法の刷新にある。資金調達に関しては、公式サイトで販売した8,888種類のキャラクターデザインNFTコレクションの売上と、NFTによって可能となる二次流通取引額から制作者が得られる取り分で賄うと想定される。また、制作方法は、NFTホルダーのみが参加できるコミュニティを通じて、アニメ制作の方向性を話し合って決めるという斬新なものだ。従来の製作委員会方式では、出資者のリクープ計画(投資回収計画)の影響を受けざるを得ず、二次流通ビジネスを見越した制作予算の決定や、内容に関する要求が制作会社の悩みの種であったが、それらとは無縁の状態ともいえる。投機目的でNFTを購入するユーザーが多い中、「We’re gonna make an anime…together! (一緒にアニメを作ろう!)」 の掛け声と共に、NFTをアニメ制作に関与できるコミュニティへの参加権として位置づけ、限定アートやテーマソングなどの特典も付けることで長期保有するインセンティブを作り、目指す世界観の実現に向けた“同志”としての関わりを促している点も秀逸だ。

これまでもコンテンツ信託などの機関投資家などから資金調達する試みはあったが、製作委員会方式では資金調達が難しい無名クリエイターを中心に支援する構図となりがちで、投資の色合いが強く、作品の目利き力も不足するなか、利益を生み出すことが難しい課題に直面していた。本取り組みは、投資よりもアニメのストーリー企画やイラスト、志のある制作チームの応援を主眼としたファンから資金を調達し、共にコンテンツを育む状態を築けている点がこれまでとは一線を画している。アニメ制作を資本家主導から、制作者とファンが共創するものに変える野心的な取り組みであることに加え、資本主義の新たなあり方を追求する側面も感じられるため、筆者としては非常に注目している。

(2)二次利用ビジネスを拡大|ライセンス管理~二次利用

2022年3月2日、ブロックチェーンゲームやNFT、メタバースなどを幅広く手掛ける香港のアニモカブランズと三菱UFJ銀行が協業し、NFTなどのデジタル資産事業に参入するニュースが話題を呼んだ。グローバルで通用する日本のアニメ作品やキャラクターなどの有力IP(知的財産)を持つ企業や団体のNFTを発行し、ゲームのアイテムやメタバースのアバターへの活用を想定して海外での販売を支援する狙いだ。三菱UFJ銀行としては、これまで培ってきた金融機関としてのノウハウを活かし、NFT売買時の本人確認や、デジタル資産を安全に保管するなどの業務提供も視野に入れているようだ。

昨今、巷を賑わせているメタバースは、「場」そのものの魅力を訴求するための特徴が必要なことや、自己表現としてアバターに着せるスキン等の観点から、エンタメコンテンツと相性が良いと言われている。肌感はあると思うが、日本はグローバルで戦えるエンタメコンテンツを数多く有している。アメリカの金融会社TITLEMAXが発表した全世界で人気のキャラクター総収益ランキングでは、一位がポケモン、二位がハローキティと、ミッキーマウスやスターウォーズ等のディズニー作品を上回っていることに加え、Top 25の中に日本のキャラクターが10個もランクインしており、グローバルにおける国産IPの強さを物語っている。メタバースの詳細については、【連載】金融×新潮流① メタバース社会がもたらす金融の可能性に説明を譲るが、仮想世界が普及するにつれて、有力な国産IPを活用できる機会が格段に広がる可能性がある。また、リアル世界においてもNFT×アニメをフックに聖地巡礼をきっかけとした観光誘致や地域創生を目指す考えもあり、こちらの詳細は【連載】金融×新潮流③ 日本のインバウンド観光の発展に向けた金融の役割と最新トレンドを参照されたい。いずれにしても国産IPのNFT発行によって、国内外、リアル・仮想世界とアニメコンテンツにおける二次流通ビジネスのすそ野が広がると期待されている。

信託スキーム活用アイディア

日本アニメ産業の発展を牽引する海外市場の更なる取り込みに向けては、韓国エンタメがグローバルで成功した要因の一つとも言われる権利関係の問題にも取り組む必要がある。コンテンツビジネスは、ディズニーのように垂直統合型で事業を展開し、IPをシンプル化して、自社で一元管理できるようにすることがグローバルで成功するための定石となりつつある。しかしながら、資本力が必要なため、中小の制作会社が多い日本においては、SONYグループのアニプレックスなど一部に留まるのが現状だ。裏を返せば、中小の制作会社が多い日本の業界構造において、当たり外れのあるアニメ制作のリスクを分散するうえで、製作委員会方式が上手く機能してきたともいえる。それがゆえに発生する出資者間での二次利用ビジネスに関わる各種権利の分かち合いや、制作過程で権利関係を明確化して関係者から事前に同意を得ておく業界慣習がなかったこともあり、複雑な権利関係となりがちな国産コンテンツはグローバル展開がしづらい状況にある。

アニプレックスなどの大手とは異なり、中小制作会社が自らIP管理・運用まで担うことは現実的でないが、この状況を打開するうえで信託スキームが一つの活路になるかもしれない。単なる信託機能の提供にとどまらず、グローバルで受け入れられやすい原作の目利きやIP管理・運用に長けた人材やノウハウの獲得、電子コミックサイトのwebtoon等を通じて得られるユーザーの反応データを元に科学的にアニメ化の成功確度を検証できるような仕組みや、IPの一元管理化による全体収支の可視化・投資家への開示環境などを整備できれば、以前のコンテンツ信託が直面した課題を乗り越えられるかもしれず、NFTとは異なる視点から日本アニメのグローバル展開を加速させることができるかもしれないと期待を寄せている。中小制作会社が多い日本の産業構造において、グローバルで成功するアニメを増やし、制作関係者が二次流通含めたビジネスから実利を得られるモデルに転換するうえでは、過去の課題も踏まえた新たな信託スキームの在り方を模索する価値もあるのではないだろうか。

NFTをフックとした取り組みや、信託スキーム活用による中小制作会社のコンテンツIP育成・運用を支える環境整備によって、日本アニメの市場が海外で更に拡大する可能性に関して言及してきたが、これらの取り組みは、二次流通市場から制作関係者が実利を得られる構造転換も促せるものだ。その結果、国内外から多様な資金や人材を惹きつける流れが生まれ、製作委員会への依存体質からの脱却や、国際標準の雇用・賃金形態シフトへの機運醸成などを呼び起こし、産業としての魅力度が向上することで、グローバルで輝く新たなIPが生まれる好循環を創り出すことが期待できる。

最後に

海外市場が急拡大しているアニメを中心に、日本のエンタメコンテンツは、グローバルでまだまだ伸びしろがある。その果実を得るためには、足許で盛り上がりを見せるSNS中心のファンを基軸とした拡がりに加え、中長期で期待されているメタバースやNFTなどが生み出す新たな経済圏の潮流を捉えることも重要だ。そのうえで、エンタメコンテンツ産業が抱える課題に向き合い、制作関係者、ファン、関連事業者が三方良しとなるモデルへの進化に向けた挑戦が不可欠であり、金融を切り口とした取り組みが一筋の光明になるのではないかと期待している。

寄稿
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
ストラテジーユニット/モニター デロイト シニアマネジャー
三由 優一 氏
大手SIer、外資系コンサルティングファームを経て現職。金融機関に対する中長期戦略策定・新規事業立案・全社デジタル改革プラン策定・M&Aのほか、異業種に対する金融事業参入構想策定・Fintechビジネス企画・決済事業立上・海外展開プラン策定等の支援経験に富む。現在は、Future of Financeオファリングチームをリードしており、脱炭素を軸とした社会・地域課題解決やweb3やメタバース等による新たな金融の在り方やサービス検討にも取り組んでいる。
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