人工知能(AI)とは?非エンジニアのための「よくわかる人工知能」

人工知能(AI)とは?非エンジニアのための「よくわかる人工知能」

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人工知能(AI)の分野では、米国の大学や企業が研究開発をリードしている。ディープラーニングやビッグデータなどの新技術を駆使し、GoogleやFacebook、Microsoftなどの大手プレイヤーが鎬を削る。本稿は人工知能の全2回連載の第1回目。人工知能の全体像と世界の先進プレイヤーの取り組みを、一般のビジネスマンに向けてわかりやすく説明する。

  1. 人工知能(AI)とは?
  2. 人工知能の活用が進み始めている
  3. ディープラーニング(深層学習)やビッグデータなどの新技術と人工知能
  4. Googleの人工知能への取り組み
  5. Facebookの人工知能への取り組み
  6. Microsoftの人工知能への取り組み
  7. Amazonの人工知能への取り組み
  8. IBMの人工知能への取り組み
  9. 大手各社に共通する3つのポイント
  10. 人工知能の活用に積極的な大手製造業プレイヤー
  11. 日本の製造業の人工知能への取り組み

人工知能(AI)とは?

人工知能

人工知能(じんこうちのう、英: artificial intelligence、AI)とは、人工的にコンピュータ上などで人間と同様の知能を実現させようという試み、或いはそのための一連の基礎技術を指す。

– Wikipedia
人工知能

人工知能の活用が進み始めている

人工知能の活用が進み始めている

このところ、毎日のように人工知能やAI(Artificial Intelligence)という言葉を見聞きするようになった。将棋やチェスよりはるかに難しいとされる囲碁で、人工知能「AlphaGo」が世界最強のイ・セドル棋士に勝った、という話題も記憶に新しい。

市場変化の予測まで織り込まれた自動株取引、コールセンターの自動対応、ロボットタクシーや受付窓口ロボット、製造や物流の高度な自動化など、これまで人間が対応せざるを得なかった様々な場において人工知能の活用が進み始めている。

ヒトの言語理解や推論能力が高まれば、スターウォーズのR2-D2のようなドロイドの実現も夢ではなくなりそうだ。

▼筆者:竹内孝明氏の関連著書
3000億円の事業を生み出す「ビジネスプロデュース」戦略

ディープラーニング(深層学習)やビッグデータなどの新技術と人工知能

ディープラーニング(深層学習)やビッグデータなどの新技術と人工知能

過去の人工知能は、膨大な知識やルールなどを人間が全て教える必要があり、現実社会で通用するレベルにはなかなか近づけなかった。だが、最近の人工知能は「機械学習」、つまりコンピュータが勝手にルールを学んでくれる技術が軸となっている。

特に、大量のデータから自分で物事を分類するルール(特徴量と言われる)を見つけ出す「ディープラーニング(深層学習)」という技術のおかげで、人工知能の能力が飛躍的に進化し、実用レベル、適用の幅、可能性が大きく広がったと言われている。

周辺技術の進化も人工知能の発展の大きな要因だ。「ビッグデータ」や「クラウドコンピューティング」など大量データをネットワークで集めて処理する技術、ネットワーク自体の高速化、ヒトから機械まで全て繋がるIoT(Internet of Things)、大量の画像を高速処理できるGPU(Graphics Processing Unit)の進化など、近頃よく話題になるITの進化が、実は人工知能の発展、実用化にも直結している。

Googleの人工知能への取り組み

Googleの人工知能への取り組み

人工知能の研究・開発から試行・実用において、動きの顕著な大手ITプレイヤーの動向を下図にまとめた。

全方位で動いているのはGoogleだ。完全自動運転車の試行は皆が知るところだが、「ディープラーニング」の生みの親、ジェフリー・ヒントン氏等を招聘し、自社の人工知能研究を推進すると共に、人工知能やロボティクスに関連するベンチャーの買収も20社を超えるほど積極的に仕掛けている。

前述の「AlphaGo」も、Googleが買収した「ディープラーニング」のベンチャーDeep Mindが開発したものだ。

さらに先日、「機械学習」に特化した半導体チップ「TPU」の自社開発も含め、今後一層人工知能にフォーカスするとの発表が行われた。データ、アルゴリズムだけでなく、「無いなら作ってしまえ」とばかり専用ハードまで創ってしまう動きには、脅威さえ感じる。

様々な活動をどう融合させて事業にしていくのかが気になるところだが、ヒトや移動体に関わるデータを徹底的に集めて解析できる状態を築き、自社のユーザ接点を活用したビジネスに繫げていくのだろう。

大手ITプレイヤーのAI領域における ”覇権争い”

Facebookの人工知能への取り組み

Facebookの人工知能への取り組み

一方、人工知能をコミュニケーション支援での活用にフォーカスしているのがFacebookやMicrosoftだ。

Facebookは「ディープラーニング」の開発第一人者、ヤン・ルカン氏を招聘してAI研究所を創設し、SNS上で交わされる大量な会話や写真画像などの認識・解析を進めている。Googleに負けじと人工知能関連ベンチャーも10社ほど買収している。

4月には、企業向けにチャット・ボット(ユーザのメッセージや質問に自動応答するメッセンジャー)の開発プラットフォームを無償提供し始めた。いわば、スマホ上にバーチャルなドロイドを作れるわけだ。

利用企業にとっては手間をかけずにユーザと繋がる対話ツールが作れるし、Facebookにとっては、企業を多く巻き込むほどデータもたまり、人工知能の能力も高められる。「仲間と一緒に知能を磨く」賢いやり方だ。

Microsoftの人工知能への取り組み

Microsoftの人工知能への取り組み

Microsoftは、文字だけでなく音声による会話も含めて、対話支援の人工知能開発に取り組んでいる。自社のビジネスのクラウドサービス化を進める一環で、ユーザーとのインターフェースも徹底的に簡単、便利にしようとしている。

スマートフォン等を音声で操作可能にするインタフェース「Cortana」を提供するとともに、Facebookと同様に、自動対話支援ツールを他社も利用できるようにするなど、クラウドで様々なAPI(Application Program Interface)が用意されたプラットフォームとして提供している。

Amazonの人工知能への取り組み

Amazonの人工知能への取り組み

日本未発売のため表には載せていないが、Amazonも昨年から、リビングに置けるスピーカー一体型対話デバイス「Amazon Echo」を販売している。音声による様々な家電の操作や、質問への自動応答などが行える。

デザイン性も優れており、推定累積販売台数は300万台とも言われている。その裏にはAmazonが開発した人工知能「Alexa」が使われており、利用者が増えるほどに機能も賢さも進化しているとのことだ。

IBMの人工知能への取り組み

IBMの人工知能への取り組み

IBMは、昔から開発を進めてきた人工知能「Watson」の技術を、昨年より一般のソフトウェアデベロッパーに公開し始めた。

パートナー企業と一緒に、産業別に人工知能のソリューションを生み出す「エコシステム」を構築するのが狙いとのことで、企業の情報システム構築を担うSI(System Integration)企業らしいアプローチだ。 ヘルスケア、金融などの分野で適用事例も積み上がっていると聞く。

大手各社に共通する3つのポイント

大手各社に共通する3つのポイント

大手ITプレイヤー各社の取り組みを俯瞰すると、人工知能の能力向上、実用化を加速させるために、以下の3点が、共通していることが分かる。

  • それぞれに、大きな狙い、目指す姿を持っている
  • より多くのデータを集められるように、仲間をより多く集める工夫をしている
  • 特にデータが集まる「ヒトとの接点/インタフェース」に仕掛けを作っている

人工知能の使い方をITプレイヤー側だけでなく、利用者や企業側の知恵も集めて考えるという行動は、とても合理的であるし、多くの仲間を囲い込んだプラットフォームを築くための覇権争いともいえる。

なお、これら大手ITプレイヤーの後ろには、多くの人工知能関連ベンチャーが存在している。ある米国ベンチャーキャピタリストによると、2015年時点で世界にアクティブな人工知能関連ベンチャーは1,800社近く存在し、うち半数強が米国に集中している。

実は筆者の所属するDI(ドリームインキュベータ)の投資先も含まれるが、筋のよい米国の人工知能関連ベンチャーの経営者や優れた研究者たちは、ほとんど皆、個人どうしが密に繋がっている。

大手ITプレイヤーたちは、自身に足りない技術、あるいは人材を、そのようなネットワークの中から競い合うように取り込んで補完し、それぞれが描く将来構造の実現を目指している。

人工知能の活用に積極的な大手製造業プレイヤー

人工知能の活用に積極的な大手製造業プレイヤー

次に人工知能を活用する側の動きを見てみたい。「人工知能は今後、機械やロボットなど”ものづくり”との融合が必要になるので、日本も優位に立てるはずだ」などと言われることも多いので、本稿では特に製造業に焦点を当ててみる。

動きの顕著なプレイヤーとしては、米GEや独Siemensが挙げられる。それぞれ、狙いや対象領域には多少の違いはあるが、互いに競い合いながら構築を進めるIoTのプラットフォーム上で、データ解析や状況推測に人工知能を活用している。

人工知能を利用してサービス企業への転換を進める米GE

GEの航空機関連事業では、従来の「高性能なエンジンを造って売る」というビジネスから、「快適で効率の良い運航をサポートするサービス」にビジネスモデルを切り替えるために、エンジンの状況、燃費、飛行状態といった航空機の運航に関わるあらゆるデータをセンシングし、集めた大量のデータの相関関係を人工知能で解析し、快適で低燃費な飛行や、故障ゼロの運航の実現をサポートしている。

そして、そのために構築したデータ解析の基盤「Predix」を、風力発電や鉄道など自社の他事業でも使うと共に、自身が提唱するIoTの世界、「Industrial Internet」のプラットフォームとして、他企業にも広く提供している。

「考える(スマート)工場」の実現を目指す独Siemens

一方、Siemensが狙うのは、ドイツが国ぐるみで進める製造業革命「Industry 4.0」のコンセプトに沿った、クラウドを使った「考える(スマート)工場」の実現・提供だ。

センサーを備え、全てネットに繫げられた生産ラインと、そこからクラウドに集められたデータを解析する人工知能により、高効率で柔軟な生産を実現する工場、例えばカスタムメイドの多品種な商品を低コストで量産できるような生産システムを提供しようとしている。

データを全てクラウドに集めるので、生産だけでなく、設計から物流、販売まで、サプライチェーン全体の最適化までサポートできるという構想になっている。

日本の製造業の人工知能への取り組み

日本の製造業の人工知能への取り組み

日本の大手製造業では、GEやSiemensほど大掛かりに仲間を集めて囲い込むような動きはあまり見られないが、例えば、産業ロボットのファナックは、「ディープラーニング」に取り組む日本のベンチャーPreferred Networksや米CISCOなど複数の企業との協業により、人工知能による制御が組み込まれた産業ロボットシステムを提供しようとしている。

各ロボットや生産設備は全てネットワークに繋がりデータ処理されているが、Siemensと異なる点は、データをクラウドで集めるのでなく、工場内のサーバ群(「フォグ」と呼ばれる)に集めて迅速に解析し、リアルタイムに設備制御を行えるようにしている点だ。工場内(フォグ内)で処理するほうがスピードも早いし、セキュリティも高い、ということがアピールされている。

一方、個別企業の動きとして注目に値するのはトヨタ自動車だ。今年1月に、米国に人工知能の研究所(TRI)を独立組織として設立し、人工知能やロボティクス分野の第一人者である元DARPAのギル・プラット氏をCEOとして招聘した。

完全自動運転車など、国内では規制や様々なしがらみで試行しづらいような最先端の研究を、日本ではなく海外で、外部から一流プレイヤー達を集めて推進する、というような動きは、これまで日本の大企業ではあまり見られなかった。今後の成果に期待したい。

以上、今回は人工知能をめぐる大企業の動きをグローバルで俯瞰してみた。次回では、このような動きの中で日本企業が世界で勝つためには何をすれば良いのかを考えてみたい。

▼筆者:竹内孝明氏の関連著書
3000億円の事業を生み出す「ビジネスプロデュース」戦略

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