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コーポレートガバナンスとは?企業価値を高める仕組み 入門編

コーポレートガバナンス・コードにより、コーポレートガバナンスは「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」へと進化した。正しいコーポレートガバナンスの運用はステークホルダー全体の利益に繋がる。今、注目のコーポレートガバナンスの全体像を解説する。

コーポレートガバナンスとは?企業価値を高める仕組み 入門編
  1. コーポレートガバナンスとは
  2. 攻めのガバナンスとしてのコーポレートガバナンス
  3. コーポレートガバナンス・コードとその背景
  4. 誰のためのコーポレートガバナンスか
  5. まとめ

コーポレートガバナンスとは

近時、我が国において「コーポレートガバナンス」が話題になることが多い。とはいえ、「コーポレートガバナンスとは何か」と問われると、確立した定義があるわけではなく、とらえどころのない概念でもある。

コーポレートガバナンスとは、極めてわかりやすく言えば「より良い企業経営が行われるための仕組み」である。それでは、何をもって「より良い企業経営」というのであろうか。

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攻めのガバナンスとしてのコーポレートガバナンス

攻めのガバナンスとしてのコーポレートガバナンス

従来のコーポレートガバナンスの理解

我が国において、コーポレートガバナンスという言葉が一般的に用いられるようになったのは、1990年代のバブル経済崩壊後の企業不祥事をめぐる議論においてであった。このため、我が国においては、コーポレートガバナンスを「適法な経営が行われるための仕組み」として捉える傾向があった。

「攻めのガバナンス」としてのコーポレートガバナンス

一方、「失われた20年」といわれる日本経済の低迷の中、日本企業の低収益性の1つの要因が、コーポレートガバナンスの脆弱性にあるのではないかとの危機感が生まれた。

それとともに、コーポレートガバナンスとは、より本質的には、「効率的な経営により企業のパフォーマンスを上げ企業価値を向上させるための仕組み」を指すとの理解が強まった。

政府が2014年6月下旬に公表した「『日本再興戦略』改訂2014」において、我が国の成長戦略(第三の矢)における「日本の『稼ぐ力』の強化」の主要施策として、「企業統治(コーポレートガバナンス)の強化」が掲げられた。

そして、「成長戦略の一丁目一番地」の方策として策定された「コーポレートガバナンス・コード」(2015年6月1日に上場会社に適用開始)では、コーポレートガバナンスは「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する」と定義されている。

これは正に、コーポレートガバナンスを、企業価値を向上させるための仕組みとして捉え、その強化を図ろうとするものである。近時、このようなコーポレートガバナンスの捉え方を「攻めのガバナンス」と呼ぶことも多い。

コーポレートガバナンス・コードについて

本コード(原案)において、「コーポレートガバナンス」とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。

本コード(原案)は、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものであり、これらが適切に実践されることは、それぞれの会社において持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応が図られることを通じて、会社、投資家、ひいては経済全体の発展にも寄与することとなるものと考えられる。

– 金融庁
コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方

コーポレートガバナンス・コードとその背景

コーポレートガバナンス・コードとその背景

エージェンシー問題とコーポレートガバナンス

そもそも、なぜ企業にコーポレートガバナンスが必要となるのであろうか。これは、伝統的に、企業の所有(株主)と支配(経営者)が分離すると、両者の利害が一致しなくなるという、いわゆる「エージェンシー問題」のためと説明されている。

エージェンシー問題とは

エージェンシー問題とは、プリンシパル(委託者)の委託を受けたエージェントが、委託者の利益のために行動しないことによる取引の失敗のことだ。これは、エージェントとプリンシパルの間に利害の対立があり、同時に両者の間に情報の非対称性(通常、エージェントの方が情報は豊富だ)があることによって起こる。

– 楽天証券
エージェンシー問題としての金融危機

例えば、経営者は、不必要に贅沢な本社ビルの建造や、経営者自身が好む非生産的な事業への投資など、会社の利益よりも自分の利益を重視した行動に走るかもしれない。

株主自身が、株主の利益に合致した経営を行っているかについて、経営者の行動を逐一チェックできれば良いが、それは現実的に不可能である。そこで、「エージェンシー問題」の対応として、どのようにして経営者に株主の利益に合致した経営をさせるかが、コーポレートガバナンスの議論の出発点であった。

コーポレートガバナンス・コードによる株主利益の向上

米国においては、企業経営における株主利益の最大化のための具体的方策として、株主利益を代弁する立場からの独立社外取締役による経営者のモニタリング、経営者報酬における業績連動型報酬制度などのインセンティブ・スキームの導入などが行われてきた。

今回の我が国のコーポレートガバナンス・コードにおいても、独立社外取締役の複数選任(原則4-9)と独立社外取締役による経営のモニタリングの強化(補充原則4-10①等)、持続的な成長に向けた健全なインセンティブとなる中長期的な業績連動報酬等の導入(補充原則4-2①等)など、経営と株主利益とを一致させるための方策が強く推進されている。

また、我が国においては、資金調達における間接金融の比率が高かったことや、株主持ち合い構造の下で、株主・投資家の経営への影響力が低く、これが企業経営から緊張感を奪っていたと指摘されていた。

そこで、コーポレートガバナンス・コードにおいては、合理性のない持合い株式の解消に繋がることをも意図して、政策保有株式の保有の合理性の検証と開示・説明の強化が盛り込まれた(原則1-4)。

日本版スチュワードシップ・コード

また、機関投資家の建設的な働きかけによって投資先企業の成長を後押しするよう、機関投資家側の意識改革を図るため、2014年2月には、機関投資家が、建設的な対話を通じて投資先企業の中長期的な成長を促すなど、その受託責任を果たすための原則である「『責任ある機関投資家』の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》」が策定・公表された。

誰のためのコーポレートガバナンスか

誰のためのコーポレートガバナンスか

株主利益重視のガバナンスに限界はあるか

このように、近年の我が国の一連のコーポレートガバナンス改革においては、「株主によるガバナンス」の強化が強く意図されている。

もっとも、このような株主利益重視のガバナンスについては、我が国においては、株主の短期的な利益追求への圧力が弱かったために、日本企業は短期的な利益を犠牲にしてでも、長期的な視野での投資を行うことができ、このことがイノベーションを産む源泉であった筈である、との懐疑的な見方もある。

コーポレートガバナンス・コードとショートターミズムの回避

欧米においても、投資家や市場関係者が短期的な利益を追求する結果、経営者も安定的な事業経営を行うことを阻害し、短期的視点の経営を招くという、いわゆるショートターミズム(Short-termism)の問題が、リーマンショック後に盛んに問題とされた。

このようなショートターミズムに陥ることを回避する必要性については、コーポレートガバナンス・コードにおいても強く意識されている。

すなわち、コーポレートガバナンス・コードが企業に求めるのは、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上であり、そのような目的のために企業が「建設的な対話」をすることが求められるのは、中長期的な視点で投資を行う投資家である。

2014年2月に策定された「日本版スチュワードシップ・コード」においても、機関投資家は中長期的なリターンを目指すべきことが繰り返し強調されている。

ステークホルダー全体の利益に配慮したコーポレートガバナンスを

このほか、「株主によるガバナンス」については、企業経営において、株主価値の最大化ではなく、様々なステークホルダー全体への利益への配慮が必要であるとの指摘がある。

特に、我が国においては、近江商人の「三方よし」(「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」)という心得に示されるとおり、歴史的に、ステークホルダー全体の利益が重視されてきたとも指摘されている。

現代社会においては、企業があらゆるステークホルダーからの要求に応えるため、社会的・環境的問題等への適切な配慮を行うべきであるという、企業の社会的責任(CSR)への対処を求める社会的圧力は強くなっており、CSRを軽視した経営を行った場合、短期的な利益を上げられたとしても、中長期的には、社会的な信用・信頼を喪失し、その企業価値を喪失する可能性が高い。

例えば、海外では、サプライチェーンにおいて児童労働・強制労働が行われていることが発覚して不買運動に発展した例や、我が国においても、ブラック企業との批判を浴びることで企業価値が大きく毀損される事例が存在している。

企業が社会の一員として存続、発展していくために、企業を取り巻く様々なステークホルダーへの配慮が不可欠であるとすれば、中長期的な視点で考える以上、株主利益の最大化は、その他のステークホルダーの利益と、基本的に合致するともいえそうである。

一方で、コーポレートガバナンスの目的を、株主利益の最大化を超えて、ステークホルダー全体の利益の総和の最大化と位置付ける見解も提唱されている。

また、前記のとおり、「コーポレートガバナンス・コード」においては、コーポレートガバナンスを「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する」と定義しており、コーポレートガバナンスの規律における主要な起点である株主の利益を重視しつつも、その他のステークホルダーへの配慮が欠かせないことが謳われている。

まとめ

2015年は我が国の「コーポレートガバナンス元年」と呼ばれた。これは、政府の旗振りの下、我が国の成長戦略として、各種のコーポレートガバナンス改革が推進されたことによるものである。

このような取組みの下、日本企業が、我が国の伝統を踏まえた企業経営の長所を活かしつつ、資本市場との健全な対話の中で収益性を高めることができるかが、今後問われるといえよう。

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太子堂 厚子 氏 【 寄稿 】
森・濱田松本法律事務所
パートナー弁護士

太子堂 厚子 氏

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