独占禁止法とは?金融機関が知っておくべきこと

独占禁止法とは?金融機関が知っておくべきこと

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金融機関の行為が独占禁止法上問題となるのは、経営統合の場合だけではない。独占禁止法は、①私的独占、②不当な取引制限、③不公正な取引方法を3大違反類型としており、金融機関としてはその行為が、②不当な取引制限、③不公正な取引方法にあたり、独占禁止法違反として各種の制裁を受けないように注意をすべきである。本稿では具体的事例とともに、金融機関がおさえておくべき法務上の留意点について解説する。

  1. 独占禁止法とは
  2. 違反をした場合にどうなるか
    (1)行政上のペナルティ
    (2)刑事罰
    (3)民事責任(損害賠償)
  3. 金融機関が注意すべきポイントと事例
    (1)カルテル
    (2)優越的地位の濫用
    (3)5%ルール
    (4)不当表示
  4. 最後に

独占禁止法とは

独占禁止法は正式には「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」という名称の法律であり、①私的独占、②不当な取引制限、③不公正な取引方法を3大違反類型としている。さらに、複数の者による企業結合が、3大違反類型と同様の弊害を将来においてもたらす蓋然性があるため、「株式の保有、役員の兼任、合併、分割、株式移転及び事業の譲受け」についても規制を設けている。この企業結合規制については、昨今の地域金融機関の経営統合において重要な問題であるが、2018年8月2日のTheFinanceに詳述されているので、本稿では割愛する。

  1. 私的独占
    私的独占とは、『事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること』をいう。
    その解釈に「独占」の2文字に囚われてはいけない。独占をするだけでは違反とならず、排除や支配により競争の実質的制限をもたらして始めて違反となる。逆に、排除や支配により競争の実質的制限をもたせば、市場を独占していなくても違反となる。
  2. 不当な取引制限
    不当な取引制限とは、「事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」をいう。カルテルや入札談合が代表例である。
  3. 不公正な取引方法
    不公正な取引方法は、「自由な競争が制限されるおそれがあること」、「競争手段が公正とはいえないこと」、「自由な競争の基盤を侵害するおそれがあること」といった観点から、公正な競争を阻害するおそれがある場合に禁止される。
    不公正な取引方法については、独占禁止法に以下の5つの類型が列挙されているが、金融機関において一番重要なのは「優越的地位の濫用の禁止」である。
    Ⅰ 共同の取引拒絶
    Ⅱ 差別対価
    Ⅲ 不当廉売
    Ⅳ 再販売価格の拘束
    Ⅴ 優越的地位の濫用

    不公正な取引方法は、独占禁止法の5つの類型のほかに公正取引委員会が告示によってもその内容を指定している。この指定には、全ての業種に適用される「一般指定」と、特定の事業者・業界を対象とする「特殊指定」がある。

違反をした場合にどうなるか

独占禁止法に違反した場合のペナルティには、大きく分けて、行政上の制裁、刑事罰、民事上の責任の3つがある。

(1)行政上のペナルティ

ア 排除措置命令
排除措置命令とは、独占禁止法違反に当たる行為を排除するために、必要な措置を講ずべき旨の命令である。「必要な措置」としては、行為の差止め、事業の一部の譲渡以外に、将来同様の行為を行なってはならない旨の不作為命令、取引先や従業員への周知徹底措置、違反行為の予防措置等がある。

イ 課徴金
公正取引委員会は、独占禁止法に違反する行為を行った事業者に対し、一定の額の課徴金を国庫に納付することを命じることができる。課徴金納付命令の対象となる行為は、私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法のうちの共同の取引拒絶、不当な差別的対価、不当廉売、再販売価格、優越的地位の濫用等である。

(2)刑事罰

私的独占又は不当な取引制限をした者には、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金が科される。また、法人の代表者、使用人その他の従業者が、その法人の業務又は財産に関して私的独占又は不当な取引制限をしたときは、その法人に対しても、五億円以下の罰金刑が科される(両罰規定)。刑事罰の対象となる行為は、私的独占又は不当な取引制限であり、不公正な取引方法は対象とはならない。

(3)民事責任(損害賠償)

ア 独占禁止法第25条に基づく責任
独占禁止法第25条は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法による被害者に対し、損害賠償の責を負う旨を規定する。かかる責任は無過失責任ではあるが、排除措置命令が確定するか、排除措置命令がなされなかった場合には課徴金納付命令が確定した後でなければ、裁判上これを主張することができない。

イ 民法709条に基づく責任
独占禁止法第25条の要件を満たさない場合でも、民法上の不法行為(709条)を理由に損害賠償が認められることがある。最近の代表例としては、金融機関の事案ではないが、東京地判令和4年6月16日(複数の焼き肉店を運営する原告の、食べログを運営する株式会社カカクコムに対する独占禁止法違反(取引条件等の差別取扱い、優越的地位の濫用)を理由とする不法行為に基づく損害賠償が認められた事案)が、比較的記憶に新しい。

金融機関が注意すべきポイントと事例

(1)カルテル

金融機関によるカルテルと言えば、真っ先に思い付くのは、店頭表示預金金利や貸出金利(プライムレート)のカルテルであるが、それが違法であることは広く認識をされており、現在では実務的には有り得ないであろう。しかし、昨今でも金融機関によるカルテルが全く無い訳ではない。例えば、競合関係にある金融機関のディーラー間の情報交換も、情報交換が継続的に行われることによって価格についての相場間が形成され、黙示のカルテル合意の成立につながっていくことが懸念される。対消費者取引の例では、公正取引委員会は、ATM設置箇所について約40%と相当のシェアを有する複数の提携金融機関が、共同してATM手数料を引き上げることやその具体的な額を取り決めることは、独占禁止法上問題となると考えられるとの見解を示している。さらに、対象は価格だけではない。かつて、有力都市銀行がATM営業時間について話し合いを行ったところ、公正取引委員会から口頭注意を受けたことがあるので注意が必要である。

(2)優越的地位の濫用

金融機関における優越的地位の濫用としては、かつては歩積両建預金が代表例であった。歩積両建預金は、貸し手という優越的地位を利用して預金を積ませることが問題であるが、独占禁止法上は、その問題となる対象は預金に限らない。金融機関で取り扱う全商品である。
公正取引委員会は、平成17年12月2日、三井住友銀行に対し、優越的地位の濫用を理由とし、違反行為の排除措置をとるよう勧告を行った。その違反行為の具体的内容は、金利スワップを、事業者に対し、融資の条件である旨を明示ないし示唆するなどしてその購入を押しつけた、というものである。
平成18年6月に公正取引委員会から「金融機関と企業との取引慣行に関する調査報告書」(金融取引報告書)が公表された。金融取引報告書では「取引上優越した地位にある金融機関が借り手企業に対して次のような行為を行うことは、独占禁止法上問題となると記載されている。

◯債権保全に必要な限度を超えて、融資に当たり定期預金等の創設・増額を受け入れさせ、又は預金が担保として提供される合意がないにもかかわらず、その解約払出しに応じないこと。
◯借り手企業に対し、要請に応じなければ融資等に関し不利な取扱いをする旨を示唆して、自己の提供するファームバンキング、デリバティブ商品、社債受託管理等の金融商品 サービスの購入を要請すること。

比較的最近では、金融庁が平成30年10月5日にスルガ銀行に対して発した行政処分の理由の1つとして、「シェアハウス向け融資を含めた投資用不動産融資を実行する際に、カードローン、定期預金、保険商品等の様々な商品を抱き合わせて販売しているが、これらの取引は、顧客にとって経済合理性が認められない取引となっており、顧客保護上不適切な業務運営となっている。こうした取引の中には、銀行法第13条の3第3号(抱き合わせ販売)に違反する行為が一定数認められる」ことが掲げられている。抱き合わせ販売は、銀行法第13条の3第3号違反であると同時に、金融取引報告書から明らかなとおり、優越的地位の濫用行為とであり独占禁止法上も違法である。

(3)5%ルール

独占禁止法第11条は、銀行又はその子会社は合算して、国内の一般事業会社の議決権の5%を超えて取得し、又は保有することを禁止している。このことは、銀行の営業担当者には周知されていると思われる。このルールで気を付けないといけないのは、担保権の行使又は代物弁済の受領により株式を取得する場合である。このような場合は、原則として5%ルールが適用されないが、1年を超えてそれを保有しようとするときはあらかじめ公正取引委員会の認可を受けなければならない。

(4)不当表示

不当景品類及び不当表示防止法(以下、「景表法」)は、現在は消費者庁が所管する法律であるが、かつては独占禁止法の特別法として公正取引委員会が所管をしていた。
景表法は、「優良誤認表示」や「有利誤認表示」を禁止している。かつて、1年中「キャンペーン」金利を適用していることが有利誤認表示として問題となったことがある。

最後に

独占禁止法違反の法的な制裁は、行政上の制裁、刑事罰、民事上の責任があるが、昨今、世の中の眼がコンプライアンスに厳しい中、独占禁止法違反(の疑い)が報道された場合のレピュテーションリスクも大きい。金融機関は、社会的に“強者”として、ネットやSNSで叩かれ易い立場にある。特に、独占禁止法違反の中でも、優越的地位の濫用は、“弱い者いじめ”として、ネットやSNSで叩きたい人の餌食になり易いので、金融機関としては慎重に配慮すべきである。

▼著者登壇のセミナー
金融機関における外部委託の法務実務とリスク回避対応ポイント
著者写真
寄稿
KOWA法律事務所
弁護士
池田 聡 氏
経歴:1989年旧日本興行銀行、2002年みずほ銀行、2013年弁護士
資格:弁護士、システム監査技術者
書籍:『元銀行支店長弁護士が教える融資業務の法律知識』(日本実業出版社) 『ITシステム開発「契約」の教科書』(翔泳社) 『中小企業の「銀行交渉と資金繰り」完全マニュアル』(共著/日本実業出版社)
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