人工知能(AI)ビジネスに参入する前に!成功の3要素と勝負のツボ

人工知能(AI)ビジネスに参入する前に!成功の3要素と勝負のツボ

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人工知能(AI)の開発において日本は大きく出遅れた。今後、機械やロボティクスとの融合が進む中で、「ものづくり」が得意な日本はうまく巻き返せるのだろうか。本稿は人工知能の全2回連載の第2回目。日本の製造業が人工知能で勝ち抜くためのポイントに迫る。

  1. 日本は「人工知能の価値」で勝負できるのか
  2. 日本は「人工知能を使ったビジネス」で勝負できるのか
  3. 人工知能の活用で勝負するためのポイント①:ビジネスモデルの飛躍的な変革
  4. 人工知能の活用で勝負するためのポイント②:オープンイノベーション
  5. 人工知能の活用で勝負するためのポイント③:「データ」の重視
  6. まとめ

日本は「人工知能の価値」で勝負できるのか

一口に「人工知能で勝負する」と言っても、「人工知能自体の価値で勝負する(直接的に儲ける)」のと、「人工知能を使って自分のビジネスを進化させて勝負する(間接的に儲ける)」のとでは、その方法も可能性も異なってくる。以下、2つの方向での勝負の仕方について考えてみたい。

「人工知能自体の価値」の勝負では出遅れている

「人工知能自体の価値で勝負する」方向では、前回紹介した大手ITプレイヤーやGE、Siemensのような、大掛かりに仲間とデータを囲い込むような仕掛けを築き、自分のルールで全面支配するプラットフォーマーが、最も利益を享受できる。

このような動きにおいては、残念ながら日本は今のところ出遅れ感が否めない。やはりここは、「ものづくりに長けているから」というだけで勝負できる土俵ではなさそうだ。

ソフトバンクの取り組み

製造業の範疇からは外れてしまうかもしれないが、敢えて事例を挙げるなら、ソフトバンクの動きは注目に値する。

感情認識ロボットPepperは、ベンチャー買収による事業化から始まり、仲間を巻き込んだ用途開発、IBMやGoogleとも提携した人工知能強化、そしてアプリケーション流通の仕組みづくりなど、良く練られたプラットフォームビジネスのように見える。

土俵をずらして戦うならば日本にも望みはある

一方で、プラットフォーマーによる全面支配をうまく逃れたり、土俵をずらしたりして戦う方法ならば、日本にも勝機はありそうだ。何かしら「尖ったところ」にフォーカスし、プラットフォーマーですら利用したくなる領域を築いて勝負することになる。

ファナックの取り組み

例えば、前回ご紹介したファナックの「工場内に閉じた、人工知能を活用できる産業ロボットシステムの提供」などは、プラットフォーマー側からの支配を逃れて、うまく価値がフォーカスできている例だと感じる。

参考までにSiemensの上側(クラウド)から攻める動きと、ファナックの下側(工場)から攻める動きとを以下の図で対比させてみた。

Simenceはデータを全てクラウドに集めることで、サプライチェーン全体の最適化を価値提供しているのに対し、ファナックは工場内(フォグ内)にデータを集め、徹底的に生産プロセスの最適化の価値提供を試みている。

2】Siemensとファナックの、製造業に対するアプローチの違い

オムロンの取り組み

また、土俵をずらすという観点では、オムロンが提唱している「IoTで集まるセンシングデータの流通市場」の構想は、人工知能の進化にとって必ず必要になる「データが集まる仕組みの構築」にフォーカスしており、価値が高い取り組みになると思われる。

オムロンはこのデータ取引やマッチングの手法について特許も押さえており、グローバルでいち早くデータ流通の取引の標準になれれば、日本がこの領域をリードすることも不可能ではないはずだ。

▼筆者:竹内孝明氏の関連著書
3000億円の事業を生み出す「ビジネスプロデュース」戦略

日本は「人工知能を使ったビジネス」で勝負できるのか

日本は「人工知能を使ったビジネス」で勝負できるのか

では、「人工知能を使って自分のビジネスを進化させて勝負する」方向では、日本は世界と勝負できるのだろうか。これについては、やり方次第で日本の全製造企業に勝機がありうると言える。

製品の設計・生産から、製品供後のメンテナンス・サービスにおける顧客対応まで、各プロセスで人工知能やロボティクスを活用した効率化や生産性向上を図ることが可能であるし、前回ご紹介したトヨタが取り組む完全自動運転車などのように、商品そのものを人工知能の活用によって一層役立つものに進化させることも可能なはずだ。

ただ、その勝機は日本だけでなく世界の全製造企業に同様に訪れるので、抜きん出て「勝つ」ためには、大きく3つほど意識すべき点があるように思っている。

人工知能の活用で勝負するためのポイント①:ビジネスモデルの飛躍的な変革

人工知能で勝負するためのポイント①:ビジネスモデルの飛躍的な変革

人工知能を活用した効率的な生産、人工知能が組み込まれた便利な商品の開発、のレベルは遅かれ早かれどんな企業でも実現できるようになる。初めは付加価値として認知されても、やがては差異性が無くなり価格転嫁が難しくなる恐れがある。

それを避けるためには、「どうすればヒトのノウハウや手間を全く必要としない商品/サービスに仕立てられるか」、「その時お金の儲け方は、今とどう変えるべきか」というレベルの構想を描けていることが肝要ではないかと考える。

例えば、最近トヨタがタクシー配車サービスのUberに資本参加したが、もしこれが、「車の売り切りモデル」から、「運転のできない高齢者が、ドライバー不在でも人工知能により自在に移動できるサービス」や、「人工知能を使って最適化した自動移動のカーシェアサービスを直接提供、あるいはカーシェアの企業に提供する」といった、サービスモデルへの転換などが長期目標に据えられているとすれば、そこに至る途上では様々な新しい価値、ビジネスモデルが生み出され、おそらく付加価値の維持や転換の可能性も広がるだろう。

前述したGEの「航空機エンジン」の例でも、センシングからデータ解析、運航指示まで、極力人手を介さずに行われていたり、人材もハードよりソフト要員が増員されていたりするなど、業界の常識を超える構想が、価値を継続させる源泉になっていくのだ。

人工知能の活用で勝負するためのポイント②:オープンイノベーション

人工知能で勝負するためのポイント②:オープンイノベーション

人工知能の分野で勝負するためにビジネスモデルの飛躍を構想するならば、多くは一社で達成できるようなレベルを超えた話になるので、自前主義を捨て、目的をもった連携(補完)が必要になる。

最近、各社とも「オープンイノベーション」を意識して、産官学連携や協業の取り組みを加速している。

これはとても良い動きだが、企業に実状をお聞きすると、オープンイノベーションや連携のゴールが具体的でなかったり、セレンディピティ(共創による偶然性)を過度に期待したりしているなど、連携すること自体が目的になっているケースも多い。そこから結果を出すのは容易ではなさそうだ。

ここで勝敗を決するのは、以下の一連の行動を、意識して進められるかどうかではないだろうか。

  1. 自分が実現したいのはどんな状態なのかという構想、イメージを持つ
  2. それをやるために、自分が守るべきもの(クローズ)と自分に足りないもの(オープン)は何なのかを理解する
  3. 足りないものの補完に向けて、早期に連携や取り込みを意思決定し、行動する

例えば、建設機械メーカーのコマツは、自動運転やドローンによる現場測量サービスなどへとビジネスを進化させていく過程で、国内外のドローンやロボットベンチャーと次々に連携しているが、そのスピード感は、上記の様なポイントを意識されているが故になせるわざだと感じる。

人工知能の活用で勝負するためのポイント③:「データ」の重視

人工知能で勝負するためのポイント③:「データ」の重視

大手ITプレイヤーから製造業まで、人工知能に取り組むほとんどの企業が「どうやってデータを集めるのか」に腐心していることは、前述してきたとおりだ。

人工知能を進化させる上で、最も足りないものや補完すべきものは、実はハードやソフト、アルゴリズム以上に「データ」であることが多い。

トヨタ自動車の人工知能研究所(TRI)のギル・プラットCEOも、「日本企業はハードにこだわり過ぎだ。これからはデータへの投資がものづくりへの投資を上回る時代がくるかもしれない。」と言う。

コマツが人工知能を活用してビジネスモデルを急速に進化させられるのも、建設機械をネットワークでつないで常時状態管理・制御が出来る仕組みKOMTRAXにより、データを集める基盤ができているからだ。

ITプレイヤーたちがチャット・ボットや自動対話デバイスなど、顧客接点での仕掛け作りにフォーカスしているのも、そこが一番データを集められる場だと認識しているためと思われる。

ビジネスに活用できるレベルに人工知能を進化させたいなら、優れたハード、ソフト/アルゴリズムの開発に偏らず、必要なデータをいかに早く大量に集めるかも同時に考えていくことが不可欠なのだ。

まとめ

結局のところ、よく言われる「日本は“ものづくり”や“すり合わせ”が得意だから、この先は人工知能に機械やロボティクスが必要になってくるので、日本企業も優位に立てるはずだ」という論調は、間違ってはいないが、そのような単純なロジックでもない。

先行プラットフォーマーからの支配を逃れるための仕掛けや、人工知能をベースにビジネスモデルを飛躍的に変革する構想など、工夫した企業だけが世界で勝負できる、ということがお分かりいただけたのではないだろうか。

今回は製造業にフォーカスして話を進めたが、人工知能の活用領域を考えると、物流、建築施工、医療、介護など、人やモノとのリアルな接点が多数存在して、リアルなデータが広く集めやすく、まだまだ効率化や生産性の向上が必要な領域においては、製造業同様、工夫することで日本が世界で勝負できる余地は十分あると思われる。

ただし、技術もビジネスも、仲間を巻き込みながら加速度的に進化している。「自社に何が足りていて、何が足りていないのか」をきちんと理解し、世界レベルで足りないものを補完する行動に先手を打って出ることが、勝機をモノにするには不可欠だ。

筆者も、そしてDI(ドリームインキュベータ)としても、日本企業が人工知能自体、あるいは人工知能を活用して進化させた商品やサービスで、世界レベルで勝負していける様に、ビジネスプロデュース支援を一層強化していきたい。

▼筆者:竹内孝明氏の関連著書
3000億円の事業を生み出す「ビジネスプロデュース」戦略

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