非金融でも注目したい世界のブロックチェーン活用と先進事例

非金融でも注目したい世界のブロックチェーン活用と先進事例

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活用が進むブロックチェーン。だが、その注目は金融用途や技術論に偏りすぎている。視野を広げれば小売や医療、エネルギー分野と、先進的な活用事例も見えてくる。各業界で競うように活用が進むブロックチェーンは自律協調型社会に向けた革新となるか。新たな社会システムの構築に向けたブロックチェーン活用事例と活用のポイントに迫る。

  1. ブロックチェーンに関する議論の偏り
  2. 非金融用途におけるブロックチェーンの活用事例① 小売流通分野
  3. 非金融用途におけるブロックチェーンの活用事例② エネルギー分野
  4. 非金融用途におけるブロックチェーンの活用事例③ モビリティ分野
  5. 非金融用途におけるブロックチェーンの活用事例④ 医療分野
  6. ブロックチェーンが創り出す自律協調型の社会システム
  7. 社会システムの革新に向けて

ブロックチェーンに関する議論の偏り

ブロックチェーンが連日のように世を賑やかしている。筆者は経営コンサルタントとして様々なイノベーションを支援することが多いが、ブロックチェーンは特に大きな可能性を感じさせる技術の一つだ。しかし、その一方で、世の中におけるブロックチェーンを巡る議論にはいくつかの偏りがあるように感じている。

  • 「技術論」への偏り
    ブロックチェーンはユニークな暗号技術に立脚していることもあり、(且つ、それが面白い仕組みであるがゆえに)どうしても専門家による技術論や学術的な定義論が先行しがち
  • 「金融用途」への偏り
    仮想通貨として注目を集めたことや、折しもFinTechブームのタイミングだったこともあり、どうしても金融用途に着眼した議論が先行しがち
  • 「できる論」への偏り
    以上の帰結として、どうしても「ブロックチェーンは何ができるか」の議論が先行しており、「何をすべきか」の議論が後回しにされがち

そこで、本稿では上記に対する課題提起として、専門的な議論や定義は他の先行文献に譲り、敢えて非金融分野におけるブロックチェーンの活用事例をもとにして、ブロックチェーンの社会的価値について考察したい。

まずは非金融分野において、どのような先行事例がグローバルに勃興しつつあるのか、その概要について紹介していく。

▼ブロックチェーンを基礎から学びたい方はこちら ブロックチェーンとは?金融業に革命を起こす新技術 入門編

非金融用途におけるブロックチェーンの活用事例① 小売流通分野

非金融用途におけるブロックチェーンの活用事例① 小売流通分野

IBMはSamsungとともに、ADEPT(Autonomous Decentralized Peer-to-Peer Telemetry)という実証プロジェクトを展開している。これは家庭用洗濯機にIoTを搭載することで、洗剤の残量低下を検知し、自動的に小売業者に洗剤供給を依頼できるようにすることを目指したプロジェクトだ。

この契約管理に、ブロックチェーンを活用したスマートコントラクトと称されるシステムが活用されている。従来の契約は、悪用や改ざんを防ぐために当事者間で契約書を結び、また特に大きな契約では第3者機関がその仲介として介在していた。

それに対して、スマートコントラクトは簡単に言えば、当事者間のやりとり(つまりネットワーク上のブロックチェーン)の中に契約や取引を記録するシステムである。ブロックチェーンを用いることで改ざん防止性を担保できるため、誰もがその正当性を確認でき、結果として(第三者機関がいなくとも)当事者間で自動的に契約執行・履行確認ができるようになる。

IBMのADEPTの話に戻ろう。従来であれば、消耗品の自動受発注をしようとすると、(不正な発注や供給を防ぐために)毎回発注契約や手続きが必要であった。それが、ブロックチェーンを用いることで、ユーザ側も小売側も契約の有効性をいつでも判断できるようになり、補充や支払いの一連のプロセスを自動的に実行することが可能になる。

当然ながら洗剤はあくまでも一例であり、それ以外の消耗品や、家電の修理発注など、様々な用途への横展開も期待され、IoT時代における小売流通の仕組みそのものを変革する可能性を秘めている。

図1:小売流通における活用事例

非金融用途におけるブロックチェーンの活用事例② エネルギー分野

非金融用途におけるブロックチェーンの活用事例② エネルギー分野

欧州では現地の電力会社らによって、再生可能エネルギーの制御・最適化に向けて、ブロックチェーンと家庭用蓄電池を活用した実証プロジェクトが進められている。ドイツは再生可能エネルギーの先進国であるが、逆に送電インフラの容量を超えた発電量が問題視され始めている。そこで、容量をオーバーした分を家庭が持つ蓄電池をバッファとして使う(=ユーザ側のアセットを借りる)ことで、需給全体の最適化を図ろうとしている。

その際に、電力の授受データを管理するために、ブロックチェーンが活用されている。これによって、互いに利益が絡み、且つ、リアルタイムでの授受が必要とされる電力のやり取りを、互いに正当性を保証しながらリアルタイムに実行できるようになる。

図2:エネルギー領域における活用事例

非金融用途におけるブロックチェーンの活用事例③ モビリティ分野

非金融用途におけるブロックチェーンの活用事例③ モビリティ分野

イスラエルのスタートアップ企業であるLa’Zoozは、仮想通貨を発行して分散型のライドシェアリングサービスを展開している。

従来のシェアリングサービスは、中央集権型の運営体が管理統制しているため、その意向によってサービス仕様が変更されたり、仲介者が介在することによって必然的に手数料の中抜きが発生したりしていた。

そこで、同社はブロックチェーンを利用した仮想通貨を用いて、乗用車の空席を売買するライドシェアリングプラットフォームを用意した。それによって、分散型で仲介者が入らずともP2Pで取引が成立できるような(換言すれば、P2Pの取引で互いに信頼性を担保できる)、シェアリングエコノミーの基盤の構築を目指している。

非金融用途におけるブロックチェーンの活用事例④ 医療分野

非金融用途におけるブロックチェーンの活用事例④ 医療分野

米国のスタートアップ企業であるBitHealthは、ブロックチェーンを用いることでヘルスケアデータを安全に記録保管するサービスを開発している。ビッグデータ時代を迎え、ヘルスケアデータは今後様々な場面での活用が期待されているが、そのためには侵害からの保護や高い信頼性が求められる

同社はブロックチェーンを用いることで、(医療機関ではなく)ユーザ自身がヘルスデータを安全に保管しながら医療機関にも提供できるようなシステムを目指している。

医療分野では他にも偽造医薬品を防止するためのブロックチェーン活用も進められている。特にサプライチェーンが未整備な新興国では、偽造医薬品は依然として深刻である。ブロックチェーンが持つ「書き換え出来ないデータストア」という特徴を活かして、製薬会社も利用者も真正性が確認できるようになる。

ブロックチェーンが創り出す自律協調型の社会システム

ブロックチェーンが創り出す自律協調型の社会システム

上述のように、ブロックチェーンは金融分野だけではなく、社会システムを広く変える可能性を持つ。そして、各事例に共通的に見られるブロックチェーンの価値は、より昇華して表現すれば、「自律協調型社会に向けた革新」と表現できるのではないか。

これまでの社会システムは、規制や統治者によって中央集権的に管理されるか、もしくは相互信頼や市場原理などによって自由放任的に管理されるか、そのどちらかであった。

ブロックチェーンは単純に言ってしまえば、取引の中に管理機能が埋め込まれることで、特定の管理者がなくとも信頼が担保された社会が可能になる。

要は社会のガバナンス(統治機構)が、規制でも市場原理でもなくアーキテクチャ(仕組み)で担保される新しい社会システムが実現される。

図3:ブロックチェーンによる新たな社会システム

では、なぜ「自律協調型」の社会なのだろうか。それが求められる背景には、現在の社会システムに対する個々人の漠然とした不安があるように思える。

フラット化しない社会

経済のグローバル化が進む中、労働力確保のための(文化を跨いだ)移民や(地域内での)経済格差など、社会はフラット化することなく、ますます多様化と複雑化を増しており、画一的な統治機構はもはや機能しない。

結果、従来のような統治のメカニズムでの限界が不安視されつつあり、統治者に頼らずとも多様性を包摂できるような新たな統治スキームが必要となっている。

成長期の終焉

グローバルにて経済成長の鈍化が懸念される中、将来の継続的成長を前提とした従来路線の大規模投資に頼った社会基盤整備はますます難しくなっている(重厚長大な社会インフラ投資だけではなく、将来のリターンを期待した年金などの大規模運用も同様)。

結果、大きな政府に頼る必要のない(且つ個々人に負荷を寄せすぎない)より柔軟性に富んだ統治が必要となっている。

コミュニティへの回帰

シェアリングエコノミーに代表されるように、地域やコミュニティの中で資源を最適化するサービスが拡大しつつあり、改めてコミュニティの価値が注目されている。

一方で、現在の社会は、古き良き昔のように村社会の相互信頼に頼れるほど単純ではない。単に過去の統治システムへと回帰するわけではなく、新たな統治が必要となっている。

以上のように、将来の社会に対する漠とした不安が、新たな社会システムの再設計を求めており、それが昨今のブロックチェーンへの期待の根底にあるようにも見える。

社会システムの革新に向けて

社会システムの革新に向けて

ここまでに、いくつかの非金融分野における先行事例を紐解きながら、ブロックチェーンの可能性について大局的に考察してきた。そこから見えてくるのは、「社会システムを自律協調型に変革する」ツールとしてのブロックチェーンの可能性であり、それは非常に大きなイノベーションの萌芽を感じさせる。

しかし、その裏返しではあるが、大型のイノベーションであるからこそ、その企画・実行に向けてはいくつかの留意事項が存在する。そこで最後に、ブロックチェーンに関する企画従事者に向けて、筆者が感じている3つの要諦を紹介したい。

アーキテクチャの再定義

ブロックチェーンは社会システムのガバナンスそのものを変える可能性を有する。つまり、既存の規制や産業構造などを暗黙の前提としていては、そのポテンシャルは発露できない。

既存の前提に囚われることなく、社会や産業のアーキテクチャを再定義する姿勢が求められる。

オープン・イノベーション

ブロックチェーンは非常に革新的な技術である。一方で、社会システムを革新するという視点からすると、要素技術の一つでもある。

社会システムとしての革新に向けては、IoTなどの周辺技術はもちろん、さらには社会工学やRegTechなどの広い技術が求められるため、幅広いパートナーを巻き込んだイノベーション推進体制が求められる。

社会課題視点からのビジョン構想

前提に囚われずにアーキテクチャを見直すためには、また、広くパートナーを巻き込んでいくためには、求心力あるビジョンが欠かせない。そして、ビジョンの求心力はその視座の高さに比例する。

つまり、ブロックチェーンという技術キーワードではなく、作りたい社会像や解決したい社会課題など、より大局的視点に立ったビジョン構想と発信が求められる。

以上、ブロックチェーンについて、敢えて大局的な観点からその社会的価値について考察してきた。本稿が非金融分野における、ブロックチェーンを活用したイノベーションの一助となれば幸いである。

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