日本版スチュワードシップ・コード改訂 7つの重要ポイント


2017年5月29日、日本版スチュワードシップ・コードの改訂版が公表された。日本版スチュワードシップ・コード改訂版を理解するためには、フォローアップ会議と有識者検討会での議論を押さえることが重要だ。本稿では、今回の改訂の経緯から公表された改訂版の7つのポイントを弁護士がわかりやすく解説する。

  1. はじめに
  2. 改訂ポイント① 「コンプライ・アンド・エクスプレイン」への期待
  3. 改訂ポイント② アセットオーナーによる実効的なチェック
  4. 改訂ポイント③ 運用機関の利益相反防止に向けた取組み
  5. 改訂ポイント④ パッシブ運用におけるスチュワードシップ活動の在り方
  6. 改訂ポイント⑤ 集団的エンゲージメントの明文化
  7. 改訂ポイント⑥ 議決権行使結果の個別公表
  8. 改訂ポイント⑦ 議決権行使助言会社のガバナンス・体制
  9. まとめ
目次

はじめに

平成29年5月29日、「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」(以下「有識者検討会」という。)は、「日本版スチュワードシップ・コード」の改訂版が、パブリックコメントを経て確定したことを公表した。

スチュワードシップ・コードは、機関投資家が、「スチュワードシップ責任」(機関投資家が、建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)などを通じて、投資先企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、「顧客・受益者」(最終受益者を含む。)の中長期的な投資リターンの拡大を図る責任をいう。)を果たすための諸原則であり、平成26年2月に策定・公表された。

今回の改訂は、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下「フォローアップ会議」という。)が、同会議第6回から第10回までの審議の結果を「機関投資家による実効的なスチュワードシップ活動のあり方~企業の持続的な成長に向けた「建設的な対話」の充実のために~」と題する意見書(以下「意見書」という。)にてとりまとめ、スチュワードシップ・コードの改訂を提言したことを受けて、有識者検討会における改訂に向けた3回にわたる議論を経て、取りまとめられたものである。

スチュワードシップ・コード改訂版は、以上のようにフォローアップ会議及び有識者検討会での議論を踏まえたものであることから、これらの会議体にてどのような議論があったのか押さえることが、内容を理解するために重要となる。

改訂事項のうち特に重要と思われる以下の7つのポイントについて、なぜ改訂に至ったのか、フォローアップ会議及び有識者検討会での議論を踏まえて解説する(※1)。

  1. 「コンプライ・アンド・エクスプレイン」への期待
  2. アセットオーナーによる実効的なチェック
  3. 運用機関の利益相反防止に向けた取組み
  4. パッシブ運用におけるスチュワードシップ活動の在り方
  5. 集団的エンゲージメントの明文化
  6. 議決権行使結果の個別公表
  7. 議決権行使助言会社のガバナンス・体制

1 上記のうち、①コンプライ・アンド・エクスプレイン、⑤集団的エンゲージメント及び⑦議決権行使助言会社は、有識者検討会ではじめて提起された論点である。なお、本稿で取り上げなかった改訂事項として、ESG要素(指針3-3)及び運用機関の自己評価(指針7-4)がある。

なお、スチュワードシップ・コード改訂版は、改訂箇所を赤字で表示した修正履歴付バージョンも公表されているので、改訂箇所を確認するにはそちらを参照するとよい。

また、スチュワードシップ・コード改訂版の趣旨を理解するためにはフォローアップ会議及び有識者検討会での議論を適宜把握することが重要と考えていることから、本稿ではこれらの会議体におけるメンバーの発言及び資料を引用する際には、それらのリンクを付したので参照の便宜とされたい。

改訂ポイント① 「コンプライ・アンド・エクスプレイン」への期待

改訂ポイント① 「コンプライ・アンド・エクスプレイン」への期待

スチュワードシップ・コードは、原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明するという、「コンプライ・オア・エクスプレイン」アプローチを採用している。

有識者検討会の議論において、機関投資家はコンプライしていることを表明しさえすれば、その実質が伴っていないにも関わらず、エクスプレインしなくてもよいという実態があることから、「コンプライ・アンド・エクスプレイン」又は「ノット・コンプライ・アンド・エクスプレイン」、つまりあるスチュワードシップ・コード原則をコンプライしたか否かにかかわらず同原則に関する取組みについて説明責任を負うべきという趣旨の指摘があった(※ 2)。

2 有識者検討会第2回議事録佃秀昭メンバー第1発言及び高山与志子メンバー発言等

そこで、スチュワードシップ・コード改訂版の前文13では、

「なお、原則を実施しつつ、併せて自らの具体的な取組みについて積極的に説明を行うことも、顧客・受益者から十分な理解を得る観点からは、有益であると考えられる。」

という一文が追加され、コンプライ・アンド・エクスプレインの趣旨に沿った対応をすることを期待している。

なお、これはあくまでもコンプライ・アンド・エクスプレインへの期待を表明するものであって、スチュワードシップ・コードの「コンプライ・オア・エクスプレイン」の枠組み自体を変更するものではない。

改訂ポイント② アセットオーナーによる実効的なチェック

改訂ポイント② アセットオーナーによる実効的なチェック

スチュワードシップ・コードでは、改訂前も投資運用会社などの「資産運用者としての機関投資家」(運用機関)と、企業年金基金などの「資産保有者としての機関投資家」(アセットオーナー)を区別した記載はされていたが(前文第7項)、フォローアップ会議及び有識者検討会では、特にアセットオーナーの役割と責務を意識した議論が行われた。

そして意見書では、アセットオーナーは、インベストメント・チェーン(資金の拠出者から、資金を最終的に事業活動に使う企業までの経路)(※ 3)において、最終受益者(年金加入者、投資信託購入者、生命保険契約者など)のより近くに位置し、直接、最終受益者の利益を確保する責務を負う立場にあると位置づけられた(※ 4)。

3 インベストメント・チェーンのイメージとして、有識者検討会第1回事務局説明資料9頁が参考になる。

4 意見書5頁Ⅲ

他方で、アセットオーナーについては大要以下のような課題も指摘された(※ 5)。

  1. 特に規模の小さな企業年金基金では人的側面、費用的側面でリソースに限界がある(※ 6)。
  2. 企業年金基金では母体企業による影響力が及ぶなどの利益相反の懸念がある(※ 7)。
  3. 企業年金基金によるスチュワードシップ・コードの受入れが少ない。

以上のような議論を受け、スチュワードシップ・コード改訂版では、意見書の提言を基本的に受け入れ、大要以下のとおりアセットオーナーに実効的なスチュワードシップ活動を求めている。

  • 「アセットオーナーは、最終受益者の利益の確保のため、可能な限り、自らスチュワードシップ活動に取り組むべき。自ら直接的に議決権行使を含むスチュワードシップ活動を行わない場合には運用機関に実効的なスチュワードシップ活動を行うよう求めるべき(1-3.)。」
  • 「アセットオーナーは、運用機関による実効的なスチュワードシップ活動が行われるよう、運用機関の選定や運用委託契約の締結に際して、議決権行使を含め、スチュワードシップ活動に関して求める事項や原則を運用機関に対して明確に示すべき(1-4.)。」
  • 「アセットオーナーは、運用機関のスチュワードシップ活動が自らの方針と整合的なものとなっているかについて、運用機関の自己評価なども活用しながら、実効的に運用機関に対するモニタリングを行うべき(1-5.)。」

5 フォローアップ会議第7回事務局説明資料のほか、上記本文①~③までの各脚注を参照。

6 フォローアップ会議第8回議事録ACGAジェイミー・アレン事務局長第3発言、有識者検討会第3回議事録冨山和彦メンバー第5発言等。

7 フォローアップ会議第8回議事録岩間陽一郎メンバー第2発言、有識者検討会第3回議事録加藤貴仁メンバー第3発言等。

改訂ポイント③ 運用機関の利益相反防止に向けた取組み

改訂ポイント③ 運用機関の利益相反防止に向けた取組み

フォローアップ会議では、「投資先企業に対し、当該運用機関のグループ企業、または当該運用機関内の他部門が金融商品・サービスを提供している場合」など、「金融グループ系列の運用機関について、親会社等の利益と運用機関の顧客の利益との間に存在する利益相反を回避したり、その影響を排除するための措置が必ずしも十分に機能していないケース」が多いことが指摘された(※ 8)。

8 フォローアップ会議第7回議事録小口俊朗メンバー発言及び上田亮子メンバー発言等並びに意見書2頁Ⅱ.1.

そこで、スチュワードシップ・コード改訂版では、意見書の提言を基本的に受け入れ、利益相反に関する指針について大要以下の点について加筆がなされている。

  • 「運用機関は、議決権行使や対話に重要な影響を及ぼす利益相反が生じ得る局面を具体的に特定し、それぞれの利益相反を回避し、その影響を実効的に排除するなど、顧客・受益者の利益を確保するための措置について具体的な方針を策定し、これを公表すべき(2-2.)。」
  • 「運用機関は、顧客・受益者の利益の確保や利益相反防止のため、例えば、独立した取締役会や、議決権行使の意思決定や監督のための第三者委員会などのガバナンス体制を整備すべき(2-3.)。」
  • 「運用機関の経営陣は、自らが運用機関のガバナンス強化・利益相反管理に関して重要な役割・責務を担っていることを認識し、これらに関する課題に対する取組みを推進すべき(2-4.)。」

また、フォローアップ会議では、「運用機関に、自らの金融グループの販社サイドから運用経験のない社長を送り込むのではなく、バイサイドアナリスト経験やCIOの経験があり、フィデューシャリー・デューティーやスチュワードシップ精神をしっかりと理解している経営トップを選任することが極めて重要」といった人事面での指摘もあったことを受け(※ 9)、スチュワードシップ・コード改訂版では以下のとおり加筆がなされている。

「機関投資家の経営陣はスチュワードシップ責任を実効的に果たすための適切な能力・経験を備えているべきであり、系列の金融グループ内部の論理などに基づいて構成されるべきではない(7-2.)。」

9 フォローアップ会議第7回議事録佃秀昭メンバー発言及び冨山和彦メンバー発言等並びにフォローアップ会議第8回事務局資料「利益相反をめぐるこれまでの議論」

改訂ポイント④ パッシブ運用におけるスチュワードシップ活動の在り方

改訂ポイント④ パッシブ運用におけるスチュワードシップ活動の在り方

フォローアップ会議及び有識者検討会では、近年、年金の株式運用などにおいて、パッシブ運用の比重が高まっている一方で、以下のような課題があると指摘された(※ 10)。

  • パッシブ運用は、アクティブ運用と異なり、株式を売却する選択肢がないため、エンゲージメント(投資先との対話)及び議決権行使を通じて中長期的な企業価値を向上させる必要性がより高い一方、パッシブ運用の対象となる全社でこれらを実施することは困難である。
  • パッシブ運用はTOPIX型など保有銘柄数が多いため、保有銘柄を例えばJPX400などに絞るか、又はエンゲージメントを行う投資先を、時価総額が大きい企業や不祥事など重大な問題がある企業に絞り込む必要がある。
  • パッシブ運用は低コストであることが性質上求められているため、エンゲージメントにかかるコスト負担には厳しい制約がある。

10 意見書Ⅱ.3.、GPIF「平成27年 日本版スチュワードシップ・コードへの対応状況について」(フォローアップ会議第6回資料)2~3頁及びフォローアップ会議第7回事務局資料

以上の議論を受けて、スチュワードシップ・コード改訂版では、パッシブ運用の在り方について、以下のとおり追加されている。

「パッシブ運用は、投資先企業の株式を売却する選択肢が限られ、中長期的な企業価値の向上を促す必要性が高いことから、機関投資家は、パッシブ運用を行うに当たって、より積極的に中長期的視点に立った対話や議決権行使に取り組むべきである(4-2.)。」

改訂ポイント⑤ 集団的エンゲージメントの明文化

改訂ポイント⑤ 集団的エンゲージメントの明文化

集団的エンゲージメント(複数の機関投資家が協同してエンゲージメントを行うこと)は、大量保有報告制度上、①これを行うと投資家間で議決権等の権利行使の合意があったとして、「共同保有者」に該当して株券等保有割合を合算され、報告義務が発生するのではないか、また、②「重要提案行為」に該当するとして特例報告制度(※ 11)が利用できないのではないか、といった法的な問題点があるが、これまでの法制度の下でも、「(議決権行使の)合意」及び「重要提案行為」の解釈によって、集団的エンゲージメントは可能であることは、すでに金融庁「日本版スチュワードシップ・コードの策定を踏まえた法的論点に係る考え方の整理」(平成26年2月26日)によって確認されていたところである(※ 12)。

11 日常的に反復継続して株券等を取得処分する金融機関の事務負担を軽減するために、大量保有報告書の提出頻度、期限、開示内容について一定の緩和、軽減を図る制度。

12 このほか、有識者検討会第2回議事録田中亘メンバー発言による、投資家間で議決権行使の合意が認められることは実際には殆どなく、かつ、合意をしたという趣旨は含まないというディスクレイマーの付記により法的リスクを軽減できるとする見解が大変参考になる。

しかし、有識者検討会では、スチュワードシップ・コード上明文の規定がないために、海外機関投資家から、大量保有報告規制により、集団的エンゲージメントを実施することの制約がかかるのではないかという懸念が生じていること、また、集団的エンゲージメントは欧米諸国のスチュワードシップ・コードでは重要な行動原則として明文で位置づけられている旨の指摘があった(※ 13)。

13 有識者検討会第1回議事録ケリー・ワリングメンバー及び小口俊朗メンバー発言並びに有識者検討会第2回議事録の各メンバーの議論

そこで、スチュワードシップ・コード改訂版では、以下のとおり集団的エンゲージメントについて明文化がなされている。

「機関投資家が投資先企業との間で対話を行うに当たっては、単独でこうした対話を行うほか、必要に応じ、他の機関投資家と協働して対話を行うこと(集団的エンゲージメント)が有益な場合もあり得る(4-4.)。」

改訂ポイント⑥ 議決権行使結果の個別公表

改訂ポイント⑥ 議決権行使結果の個別公表

スチュワードシップ・コード策定時には、個別企業・議案ごとに議決権行使結果を公表すること(以下「個別公表」という。)について議論はなされたものの、スチュワードシップ・コード上の明文化までは至らなかったが、フォローアップ会議における以下のような指摘から、意見書では個別公表を行うことの重要性が提言された(※ 14)。

14 意見書3~4頁Ⅱ.2. のほか、以下の本文①~③までの各脚注を参照。

  1. 運用機関による議決権行使の透明性向上及び最終受益者への説明責任。
  2. 米国ではSEC規則で投資信託について個別公表が義務付けられている、英国では義務付けはないものの、個別公表を行っている機関投資家が多い、投資家団体であるICGNの採択するICGN原則では個別開示を求めている(※ 15)といったグローバルでの動き。
  3. わが国では運用機関は金融機関グループの系列であることが多く、グループの顧客企業による会社提案議案に反対する議決権行使を行いにくいという利益相反の問題があることから、個別開示はこの利益相反問題の懸念を払拭するため(※ 16)。
  4. 個別公表しない方が受益者の利益が図れると考えるのであれば、その点についてエクスプレインして、説明責任を果たせば足りること(※ 17)。

15 フォローアップ会議第9回資料「『ICGNグローバル・スチュワードシップ原則』の概要」指針5.3

16 フォローアップ会議第9回冨山和彦メンバー提出資料「個別の議決権行使結果の開示についての意見書」

17 フォローアップ会議第10回議事録小口俊朗メンバー第1発言等

以上のフォローアップ会議での議論を受けて、スチュワードシップ・コード改訂版では、以下のように個別公表について明文で定められている。

「…機関投資家がスチュワードシップ責任を果たすための方針に沿って適切に議決権を行使しているか否かについての可視性をさらに高める観点から、機関投資家は、議決権の行使結果を、個別の投資先企業及び議案ごとに公表すべきである。それぞれの機関投資家の置かれた状況により、個別の投資先企業及び議案ごとに議決権の行使結果を公表することが必ずしも適切でないと考えられる場合には、その理由を積極的に説明すべきである。議決権の行使結果を公表する際、機関投資家が議決権行使の賛否の理由について対外的に明確に説明することも、可視性を高めることに資すると考えられる。(5-3.)」

他方で、フォローアップ会議及び有識者検討会では、個別公表については、賛否の結果のみに過度に関心が集まり、運用機関による形式的な行使を助長したり、企業と運用機関の対決色が強調されるなど、円滑な対話が阻害される懸念から、慎重な意見も存在した(※ 18)。

18 意見書Ⅱ.2.、フォローアップ会議第9回議事録江良明嗣メンバー発言、西山賢吾メンバー発言、フォローアップ会議第10回議事録内田章メンバー発言、有識者検討会第1回議事録濱口大輔メンバー発言、清水博メンバー発言等

そこで、このような懸念に配慮して、スチュワードシップ・コード改訂版では、指針5-3.において以下の注記がなされている。

「個別の議決権行使結果を公表した場合、賛否の結果のみに過度に関心が集まり、運用機関による形式的な議決権行使を助長するのではないかなどの懸念が指摘されている。

しかし、運用機関は、自らが運用する資産の最終受益者に向けて、活動の透明性を高めていくことが重要である。さらに、我が国においては、金融グループ系列の運用機関が多く見られるところ、こうした運用機関において、議決権行使をめぐる利益相反への適切な対応がなされていない事例が多いのではないかとの懸念を払拭するためにも、個別の議決権行使結果を公表することが重要である。」

改訂ポイント⑦ 議決権行使助言会社のガバナンス・体制

改訂ポイント⑦ 議決権行使助言会社のガバナンス・体制

議決権行使助言会社は多くの機関投資家が議決権行使に際してその意見を参考にすることから影響力が大きくなっているところ(※ 19)、改訂前スチュワードシップ・コードにおいても、機関投資家に適用される規律は同様に当てはまる旨(前文8)が規定されていたが、有識者検討会では、議決権行使助言会社について以下の指摘が新たになされた。

19 日本投資顧問業協会による議決権行使助言会社の利用状況アンケート結果について、有識者検討会第2回事務局説明資料4頁参照。

  1. 議決権行使助言会社は、その影響力が増す一方で、形式的な助言に終始しているという評価がある(※ 20)。
  2. 議決権行使助言会社は、機関投資家向けに議決権行使の助言サービスを提供する一方で、その評価対象となっている企業に対して取締役会評価のサービスを提供しており、利益相反の懸念がある(※ 21)。
  3. 議決権行使助言会社の人的資源は、定時株主総会の開催日が集中しているというわが国の実態に対応できる程度に十分か懸念がある(※ 22)。
  4. 米国及びEUでは、その影響力から、議決権行使助言会社の規制(米国では登録制等、EUでは開示規制)導入が審議中である(※ 23)。

20 有識者検討会第2回冨山和彦メンバー提出資料「スチュワードシップ・コード改訂に関する意見書」有識者検討会第2回議事録佃秀昭メンバー第2発言等

21 有識者検討会第2回議事録佃秀昭メンバー第1発言等

22 有識者検討会第2回議事録上柳敏郎メンバー発言等

23 有識者検討会第2回事務局説明資料5~6頁

そこで、有識者検討会でのこれらの指摘を受け、スチュワードシップ・コード改訂版では議決権行使助言会社の体制について以下のような加筆がなされている。

「議決権行使助言会社は、企業の状況の的確な把握等のために十分な経営資源を投入し、また、本コードの各原則(指針を含む)が自らに当てはまることに留意して、適切にサービスを提供すべきである。また、議決権行使助言会社は、業務の体制や利益相反管理、助言の策定プロセス等に関し、自らの取組みを公表すべきである。(5-5.)」

まとめ

スチュワードシップ・コード改訂版は、金融庁の事務局がフォローアップ会議と有識者検討会での審議結果のエッセンスを(おそらく公開された会議体の議論の外においても様々な調整を経て)まとめたものであって、その行間を理解するためには、本稿でも適宜引用したこれらの会議体の議事録と配布資料を読むことが最も近道であるし、また、これらの会議体の議論を通じて、わが国の機関投資家によるスチュワードシップ活動上の課題は、わが国の金融機関グループの特殊性や人事・雇用慣行等を背景とする構造的な問題と密接不可分なものであることがわかり、極めて興味深く読むことができるので、議事録の一読を是非お勧めしたい(※ 24)。

今回の改訂で解決を目指した機関投資家の課題とは、「利益相反」と「ガバナンス」という2つの問題に集約されるといえる(※ 25)。

そしてこの問題は、金融機関グループの傘下である機関投資家のみでは解決不可能であり、その親会社グループである金融機関グループ全体での問題の理解と取り組みが必須となる(※ 26)。

また、このようなスチュワードシップ・コード改訂の動きは、機関投資家のみならず、その投資対象である発行体企業にとっても決して無縁ではない。

発行体企業は、①主に金融機関グループの顧客の立場から利益相反の問題に深く関与している場合が多いこと、②アセットオーナーとしての企業年金基金のガバナンス問題はその母体である発行体企業による取り組みを要すること、そして、③スチュワードシップ・コードはコーポレートガバナンス・コードと「車の両輪」と言われ(※ 27)、実効性ある対話は機関投資家側のみならず、発行体企業の不断の努力を要するからである(※ 28)。

以上から、スチュワードシップ・コード改訂版は、直接の名宛人である機関投資家関係者のみならず、その親会社である金融機関グループの中核企業や、発行体企業のガバナンス担当者にとっても必読と言える。

スチュワードシップ・コードの改訂版はまだ確定したばかりで、機関投資家内部の検討を経てこれから改訂版を反映した公表がなされていくものであるが、本稿が改訂版を検討する際の一助となれば幸いである。

24 特に、自ら「爆弾発言」と評する冨山メンバーの各発言・意見書は、刺激的な内容であるが、構造的な問題をより直截に把握することができる。

25 有識者検討会第1回議事録上田亮子メンバー発言参照

26 フォローアップ会議第10回西山賢吾メンバー提出意見書1頁参照

27 「日本再興戦略改訂2015」43頁

28 コーポレートガバナンス・コード第5章「株主との対話」参照

柴田 堅太郎 氏
寄稿
柴田・鈴木・中田法律事務所
弁護士
柴田 堅太郎 氏
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