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量子コンピュータとは? 意味・背景・先進事例10選

量子コンピュータが実用化され始めた。2012年にD-wave社により商用化された量子コンピュータは、既存コンピュータの1億倍という超高速を記録。GoogleやIBMなどがしのぎを削り、MicroSoftはQ#という量子コンピュータの言語を発表した。コンピュータの世界は新たな次元に到達した。今、量子コンピュータの世界で何が起こっているのか、概観する。

量子コンピュータとは? 意味・背景・先進事例10選
  1. 量子コンピュータ登場の背景
  2. 量子コンピュータとは
  3. 量子コンピュータの先進企業とその取組事例
  4. 金融分野における量子コンピュータ活用の最新動向 (2018.03.16 時点)

量子コンピュータ登場の背景

量子コンピュータ(Quantum Computer)は1980年代に科学計算の用途で考案されたのが始まりで、理論的には明確なのにも関わらず計算機の能力が追いつかない分野を中心とした活用が期待されていた。ただ、技術的にも理論的にも難解で数々の研究者や開発者が全世界で日々切磋琢磨しながらようやく実用化の芽が出てきている状況である。その間にもハードウェア不在のまま暗号解読や検索、量子化学シミュレーション(Chemistry Simulations)などの多くのキラーアプリが考案され登場したことで、ますます大きな期待がかけられてきた。

2012年にカナダのD-wave社が商用化を行なった量子アニーリング(Quantum Annealing)という方式のマシンはこれまで考えられていた量子コンピュータとは異なる方式ではあったが、そのマシンの動作原理に一部量子効果が見られるのではないかと話題になった。2015年にGoogleとNASAが共同でその技術を使用したアプリケーションに既存計算機との比較で1億倍程度の高速化の効果が見出されたと発表したため、全世界で大きな話題となり、量子アニーリング方式だけでなく従来の量子ゲートモデルと呼ばれる方式の開発競争が再燃し、現在に至っている。

量子コンピュータの発展はめざましいものがあり、主に動作が不安定で外部環境に左右されるため、現在は開発各社が量子コンピュータを研究室に配置したままクラウド技術を使って全世界に自宅から量子コンピュータを使用できる環境を提供している。これらのクラウド技術との親和性もあり、急速に量子コンピュータアプリケーション関連の開発や研究が進んでおり、全世界で多くの企業が採用を決めている。

量子コンピュータとは

量子コンピュータとは

量子コンピュータとして話題に上がっているマシンは大きく分けて2方式あり、量子ゲートモデル量子アニーリングモデルと呼ばれるものである。量子アニーリングモデルは現在では専用機として認識され始めており、ここではより汎用性の高い量子ゲートモデルを取り上げて解説したい。

原理

量子コンピュータは物理の量子力学と呼ばれる学術分野の理論をもとに組み立てられている。

最も特徴的な性質として現在のコンピュータでは実現できない0と1の重ね合わせ計算を行うことができる。物理現象を利用することで、より少ない資源で多くの計算を行うことができ、高速化も期待されている。

量子ビット

量子コンピュータは現在のコンピュータと対応する形で量子ビットと呼ばれるものが用意されている。

量子ビットは0か1の値をとるのは同じだが、計算を行う過程で0でも1でもないあいまいな状態を取るように操作でき、その状態で計算を行うことで通常では順番に行わないといけない計算を一度に行うことができる。

量子コンピュータと量子ビット 図

量子計算

量子計算は主に上記の量子ビットに対して量子ゲートと呼ばれる論理演算を行う。量子ゲートは量子コンピュータ特有の演算で、ルールが決められており、それら新しいルールに沿って計算を行うことで通常の方法では計算時間がかかってしまう問題を高速に解くことが期待されている。

量子アルゴリズム

上記量子ゲートの演算を連続で行うことにより、量子アルゴリズムを作ることができる。量子アルゴリズムは既存アルゴリズムの流用ではなく新規に考案する必要があり、暗号解読や検索システム、組み合わせ最適化問題などの新しいアルゴリズムが日々開発されており、理論的に既存のコンピュータよりも高速なことが証明されているなど期待が高い。

量子コンピュータの先進企業とその取組事例

Google(グーグル)

Google(グーグル) https://www.google.com

米Google社は特に量子コンピュータの開発に積極的な企業だ。現在はUSサンタバーバラのJohn Martinis氏のチームを迎え、積極的に量子ゲートモデルの開発を行なっており、22量子ビットの実機開発を終え、現在量子超越性(Quantum Supremacy)と呼ばれる量子コンピュータが既存スパコンを明確に計算量で超えるという議論に向かって49量子ビットの開発と測定を行なっている。

この量子超越性が明確に示されれば以降スパコンを含めた既存の計算機は特定領域での計算において量子コンピュータをうわまることができなくなり、さらに量子コンピュータの開発が加速される見込みである。また、近い将来米Google社のクラウド計算サービスへの量子コンピュータの提供が発表された。

また、米Google社の親会社であるアルファベット傘下のベンチャーキャピタルであるGVは米国内での他方式のイオントラップ方式を使用したIonQという企業にも出資を行なっている。ちなみにIonQには米Amazonも出資を行なっていることで話題となっている。

IBM(アイ・ビー・エム)

IBM(アイ・ビー・エム) https://www.ibm.com

米IBMは早くから量子コンピュータの開発を進めてきた企業で、現在唯一米Googleと量子超越性を含めた議論で量子コンピュータ開発のしのぎを削っている。彼らの特徴はすでにクラウド経由で全世界から量子コンピュータを使用できる状態にあることで、登録することで個人で5量子ビットのマシンを無料で使用し、計算を行うことができる。

そのため、全世界の研究者やアプリケーション開発者はそれらのサービスを利用し、議論を行なっている。また、商用での利用には企業向けのプランもありより大きな量子ビットのマシンが使用できる。

MicroSoft(マイクロソフト)

MicroSoft(マイクロソフト) https://www.microsoft.com

米MicroSoft社は現在量子コンピュータ本体は開発中だが、世界中に抱える膨大なWindowsの開発者向けに量子コンピュータをプログラミングできる新しいQ#言語が人気だ。

Visual Studioと呼ばれる開発環境にインストールすることで自分で量子コンピュータ向けのプログラミングを行い、シミュレータと呼ばれる量子コンピュータの挙動を再現した仕組みによって実際の量子コンピュータと同様の計算を行うことができる。ちなみに量子コンピュータがなくても簡単な問題や小さい問題は私たちの持っているPC上で量子コンピュータを模擬した形で同様の計算を行うことができる。

Intel(インテル)

Intel(インテル) https://www.intel.co.jp

半導体大手の米Intel社も最近量子コンピュータに力を入れている。ヨーロッパのデルフト工科大学と組み、超電導方式の量子コンピュータのチップの開発を加速させている。現在49量子ビットの試作を行なったとアナウンスしており、より動作の検証や周辺開発アプリケーション環境の整備とともに市販を行うなどの可能性も捨てられない。

Rigetti(リゲッティ)

Rigetti(リジェッティ) https://rigetti.com

カリフォルニアの米Rigetti社は注目のベンチャー企業の一つだ。IBMの量子コンピュータ開発出身の研究者が米国の最大手企業を相手にシリコンバレー方式で開発を行なっており、ITベンチャー企業らしく洗練され使いやすいソフトウェア環境が話題だったが、最近急速に技術力をつけており、19量子ビットの実機を発表した。また、アプリケーションも話題の分野をカバーしているのが特徴で、機械学習やAI、創薬、量子化学計算など既存の流行分野を的確に抑えている。

D-Wave(ディー・ウェイブ)

D-Wave(ディーウェーヴ) https://www.dwavesys.com

カナダのD-wave社は現在の量子コンピュータ開発競争に火をつけたベンチャー企業で、その他の企業とは異なる方式での開発や商用化を進めている。主に組合せ最適化問題と呼ばれる問題を得意とし、他の方式よりも消費電力が大幅に少ないのも特徴となっている。米Goldman sachs社なども出資しており、金融や機械学習、創薬への応用が期待されている。クラウド経由だけではなく本体の販売も行なっており、価格は10億から17億と言われている。

Alibaba(アリババ)

Alibaba(アリババ) https://www.alibaba.com

2018年に本格的に量子コンピュータ開発に参入してくるのが中国勢だ。その中でも先陣を切って話題となっているのが中Alibaba社で上海に中国科学院と共同で量子コンピュータの研究所を開くという。中国は現在10量子ビットの開発が済んでいるといわれており、かつ超電導量子ビットの開発に欠かせない希釈冷凍機などの調達を2018年に大幅に行なっているため、急速に力をつけて開発レースに参加してくるものと思われる。

Accenture(アクセンチュア)

Accenture(アクセンチュア) https://www.accenture.com

アプリケーション開発においても多くの企業がしのぎを削り始めている。Accenture社はカナダのベンチャーで量子コンピュータソフトウェア企業の1qbit社と共同で量子コンピュータ向けのアプリケーション活用領域を研究しており、既存の量子コンピュータ向けのアプリケーションを大幅に拡大し、顧客の要望に応えられるように準備を進めている。

金融分野における量子コンピュータ活用の最新動向 (2018.03.16 時点)

量子コンピュータとは

野村證券と東北大学が量子コンピュータで提携

野村ホールディングスと東北大学がカナダの量子コンピュータベンチャーであるD-wave社のマシンを活用してフィンテック分野の実証実験を行うという。現在想定されている実証実験は、ポートフォリオ選定の最適化と株価予測であるという。

主にD-wave社はイジングマシンというGoogleやIBMとは異なる組み合わせ最適化問題に適した専用マシンを使用していて、ポートフォリオ最適化問題の時間発展では、個別銘柄のリターンと銘柄間の相関係数Jijを考慮したリスクアバースを想定し、そこにトランザクションコストを導入して計算を行い、最適なアセットを導き出す計算をアナログマシンを利用して行う。

株価の変動予測では、与信評価などで使用される財務諸表の数値やテキストデータの特徴量を導入したクラスタリングなどの手法も使用することができる。どちらにしろ実証実験はこれから行われ、国内で本格的な金融への大規模な導入は珍しいので動向を期待して見守っていきたい。

モンテカルロシミュレーションの高速化

GSが期待しているモンテカルロシミュレーションの高速化は主にイジング型の量子コンピュータに期待される機能だ。イジング型の量子コンピュータはハードウェアとしてネットワーク構造を構成し、現在の高速計算やスパコンで使用されるモンテカルロシミュレーションと呼ばれるモデルを、アナログに実現し高速化するという特徴を持っている。

モンテカルロシミュレーションはリスク計算などで使用される乱数を使用した計算機のシミュレーション方法であるが、量子コンピュータのもともと持っている乱数性や探索性がこれらのシミュレーション手法を消費電力と速度の観点で大きく更新する可能性を持っていると考えられる。

量子アニーリングによる為替アービトラージ

量子イジングマシン、量子アニーリングを使用して為替のアービトラージ計算を行う手法も開発されている。量子イジングマシンでは、「コスト関数」や「制約条件」と呼ばれる初期条件を複数用意し、それを数式で接続して計算を行う。為替のアービトラージでは、最大利益かつアービトラージを構成するループを作り出す制約条件と呼ばれる数式をプログラミングし、計算を行う。

ただ、アービトラージ計算はトランザクションを考慮しても微小な数値を拾う必要があり、現状では量子コンピュータの揺らぎやエラーが比較的多い状態で、精度の良い計算を行うのは多少厳しい状態ではあるため理論やハードウェアのさらなる高速化や高精度化が期待される。

ポートフォリオ最適化問題

量子イジングマシン、量子アニーリングで最も有名な金融計算の一つがポートフォリオ最適化問題である。銘柄の個別のリターンの他に、銘柄間の相関係数を考慮したリスク計算を導入し、組み合わせ最適化問題として問題を解く。通常の離散ポートフォリオ最適化問題、時間発展を考慮したモデルや、木構造をとって銘柄間の相関を考慮するQuantum Hierarchical Risk Parityなど、さまざまな手法が提案されている。

特徴選択アルゴリズムと与信評価、機械学習

量子イジングマシン、量子アニーリングでは{0,1}の2値を活用した分類問題も多く提案されている。特徴量を活用し、複数の特徴量同士の相関関係を考慮した組み合わせ最適化問題としての機械学習での分類アルゴリズムも有望なエリアである。また、最近ではより機械学習の活用を行うためにサンプリングモデルと呼ばれる確率分布を活用したモデルが広く使われており、より深層学習との統合などを目指したモデル作りなども進んでいる。

MUFG Digitalアクセラレータ

3月16日、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループとその子会社である株式会社三菱東京UFJ銀行から新事業の取り組みとして、アクセラレータ・プログラム「MUFG Digitalアクセラレータ」の第3期に弊社MDR株式会社が「量子コンピュータアプリケーション及びハードウェア開発」の事業内容として採択されたことが正式リリースされた。詳細はこれから順次明らかになっていくと思われるが、4ヶ月間の事業化前提のプログラムなので量子コンピュータを活用したビジネス応用の実例として経過を見守ってほしい。

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湊 雄一郎 氏 【 寄稿 】
MDR Inc.
CEO
ソフトウェアエンジニア

湊 雄一郎 氏

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