「金融業界におけるデジタルドキュメントの要件と活用のヒント」

岩松 健史 氏
【講演者】
アドビ株式会社
プロダクトスペシャリスト
岩松 健史 氏

<金融機関における顧客接点のデジタル化とドキュメントのデジタル化>

特に銀行においてはリテール営業においてはお客様が支店へ来店し、法人営業においては各支店の営業担当が顧客を訪問し融資等の営業をかける支店集約型であったが、昨今、より効率的な経営を行う事を目的とし、支店を減らし顧客接点をデジタルへシフトする傾向が顕著となっている。個人顧客においては、支店を訪れることなく、コールセンターとダイレクトバンキングが主流になり、法人においては、法人ごとにパーソナライズされたポータルによるコミュニケーションを取るといったケースが増えてきている。

また、顧客接点がデジタル化している中でもう一点重要な点として、デジタルドキュメントの重要性が挙げられる。以前から日本では、個人金融資産に占める銀行などへの預貯金(間接金融)の割合が欧米諸国に比べて高かったが、NISAを含めた投資信託が銀行の主力製品になりつつあり、個人が投資商品を購入する直接金融が増えている。そのため、銀行や証券会社が配信する投資信託や株についてのリアルタイムな情報を、個人がタブレットやスマホから得る機会が増えており、こういった様々な顧客の参照環境も考慮していく必要がある。

では投資関連情報を外部へ出したり、インターネット上でのファイル共有、契約書のやり取りをしたりする場合等にドキュメントをどうやって保護するのか。社内であればファイアウォールの中で文書の参照権限をつけるなどして保護および管理できるが、一度社外に出すと制御はできない。その為、文書管理自体ではなく、ドキュメント自体へ非改ざんや再利用の制限等のセキュリティ対策が重要となっている。

<金融機関の渉外活動における課題と今後の方向性>

今までは訪問における対面営業が一般的であった金融業界においても、コロナ禍において、業務のテレワーク化により、今までのように企業担当の対面でのコミュニケーションが困難になった。これからはWeb会議を使ったオンライン商談だけではなく、商談後の署名等の契約行為のデジタル化の要望も増えてくると考えられる。

<金融機関のドキュメント業務へのAdobeのソリューションの適用>

これらの課題を解決する為に、アドビではPDFを中心としたドキュメントソリューションで金融機関のお客様のドキュメント業務のプロセスの自動化や、より信頼性のあるドキュメントの取り交わしをできるようにする、といった事を行っている。

<PDF Services APIを活用した金融ドキュメントの自動作成例>

金融機関では月報、目論見書、ディスクロージャー誌、アナリストレポート等、投資家のお客様向けに提供しているドキュメントがある。アナリストレポートの業務としては、株価の動向やニュース等の投資家向けの最新の情報を、インターネットや既存のドキュメント、業務システムからの情報等を組み合わせ、尚且つ考察などを組み込んだレポートをお客様へ提供する必要があり、リアルタイム性やスピードが求められている。

アドビではこれらの業務をお客様の要望に沿ったリアルタイムなドキュメントの提供を実現させる「PDF Services API」を提供している。これはPDFの変換や編集、データの差し込み、データの抜 き出しや解析を行う強力なクラウドベースのAPIセットである。これらを活用することにより、様々なソースから取得したデータや既存文書から抜き出した情報をもとに金融関連のドキュメントを自動生成できるようになり、文書作成の工程が簡略化され、スピードが上がるわけだ。

<様々なデバイスからのドキュメントの参照:Acrobat Liquid Mode>

デジタルドキュメントは、PC、Webブラウザ、タブレット、スマートフォンなど様々な顧客の参照環境に応じて最適化されることが重要である。 株式・債券投資、投資信託の需要が高まっていることから、お客様は金融機関からの様々な情報を入手する機会が増えているからだ。
そこでアドビは、モバイルデバイスでの文書の閲覧体験を画期的に向上するPDFの機能「Liquid Mode」の提供を開始している。表示するデバイスを認識して、このデバイスのサイズにどういった表示方法が適切かAIで診断し、その上で参照デバイスにとって適切な表示を行うのである。また、自動的に目次を自動生成したり、文章の段落の折りたたみや拡張文字サイズやレイアウトの変更、画像のタッチ表示や拡大、表のレスポンシブ表示など数多くの機能が含まれる。これらの機能によって前述のアナリストレポートやその他様々なドキュメントがスマートフォンでも参照性良く表示させることが可能となる。
ただし現時点では日本語に完全には対応しておらず、開発を早急に進めている。

<契約関連の対応:Adobe Acrobat Sign>

顧客接点のデジタル化に伴い、契約業務の電子化を検討されている金融機関も多いと考えている。アドビでは、クラウド上に、電子サインソリューションとしてAcrobat SignのAPIを公開している。Acrobat SignのAPIのメリットは、既存の営業支援システムや融資支援システム等の切り替えのタイミングを待たずに、かつ大幅に改修することなくボタン1つでシステム連携が可能な点だ。既存のアプリケーションに変更を加える必要がなく、大きな開発不要でノーコードあるいはローコードで連携できるのである。

具体的に説明させていただくと、標準で用意しているWebのユーザーインターフェースもしくは業務システムからAcrobat Signが呼び出され、アップロードされた契約書が取引先へ送られる仕組みだ。取引先側でPC、タブレット端末などから署名が完了すると、非改ざん性や本人性の証明、監査レポートなどドキュメントの最終化の処理を行いキーボードによるタイプでも手書きでも署名は行う、といった仕組みとなっている。

<融資支援/営業支援システムへの電子契約の組み込み>

アドビはWebのAPIを公開している為、様々な開発を行うことができ、また様々な融資支援/営業支援システムのプラグインが用意されており、開発することなくノーコード・ローコードで既存のシステムと連携することが可能である。連携される事で、業務システムに格納された情報と文書の連携ができるだけでなく、署名者情報を業務システムから取得し署名依頼をし、署名済み文書を業務システムに自動で送信して保管する事ができるのだ。

<アドビのソリューション導入事例>

ある米国大手銀行では、行政より委託されたコロナ対応CARES法によって促進されたローン業務において、手順書や申込書などPDFファイルのやり取りにファイルの不整合が生じるという課題があった。そこですべてのドキュメントをスクリーニングする事でセキュリティ、コンプライアンス、相互運用性等のリスクを洗い出し、Adobe Acrobat ProでPDFツールの標準化などの対策を行いドキュメントの整合性の問題を排除した。

Royal Bank of Scotland様では、学生向けのローン関連でAdobe Acrobat Signを採用いただいている。学生向けの口座開設、住宅ローン申請、各種バンキング、お客様向けサービスなど年間200万トランザクション以上の契約処理をAdobe Acrobat Signで対応する事で、審査の自動化、ローン申込期間の短縮、顧客満足度の向上を実現した。

日本国内ではソニー銀行株式会社様に、住宅ローン契約締結プロセスにおいてAdobe Acrobat Signを採用いただいている。Salesforceとの連携によって、従来は1~2週間であった契約プロセスが、ボタン1つで契約送信から締結までの時間は最短5分で完了するようになった。また実印・印鑑証明書や郵送による本人確認手続きが不要となり、契約者負担の低減にも繋がっている。

他にも、アドビと凸版印刷が共同で、マイナンバーカードを活用し、非対面での本人確認を可能にする「マイナ本人確認」サービスを提供している。従来のメールアドレスでの認証に加えて、Adobe Acrobat Sign では2要素認証として電子サインにおける本人認証にマイナンバーカードの認証を追加した。

<まとめ>

1つ1つのプロセスを別々のアプリケーションでデジタル化をしても全体の効率化に繋がらない場合も多く、ドキュメント業務のプロセス全体をデジタル化することを検討することが重要だと考えられる。Adobeドキュメントプラットフォームはクラウド上でのPDFの共有やコメント等、その繋ぎとなるようなサービスを提供している。是非ドキュメント業務のプロセスの効率化の一助として検討していただきたい。

1 2 3
この記事へのご意見をお聞かせください
この記事はいかがでしたか?
上記の理由やご要望、お気づきの点がありましたら、ご記入ください。