【連載】金融機関のM&Aの最新動向とポイント② 地銀の経営統合・提携の近時の動向と実務上の留意点

【連載】金融機関のM&Aの最新動向とポイント② 地銀の経営統合・提携の近時の動向と実務上の留意点

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様々な面で地銀の事業環境が変化している中、他の地銀・地銀グループとの統合は、経営効率化や、それにより生じた余剰人材を活用したビジネスの展開を図ることなどを可能とする。今回は、近時の地銀のいわゆる経営統合・提携の動向を紹介したうえで、特に経営統合についてあり得る選択肢・制度のポイントや実務上の留意点について解説する。

  1. 近時の地銀の経営統合・提携に関する動向
    (1)経営統合に関する動向
    (2)地銀による業務提携に関する動向
    (3)その他
  2. 経営統合の主な手法
  3. 地銀統合の手順と留意点
    (1)概要
    (2)基本合意書の締結
    (3)DDの実施
    (4)最終契約の締結
    (5)各種の認可

近時の地銀の経営統合・提携に関する動向

(1)経営統合に関する動向

マイナス金利政策による預貸ビジネスの収益悪化や人口減少による資金需要の減退等を要因とした構造的な事業環境の悪化(*1)等を踏まえた地銀の経営統合の動きが活発化して久しい。直近では、2022年10月、愛知銀行及び中京銀行が共同株式移転によりあいちフィナンシャルグループ(銀行持株会社)を設立した。また、2022年11月には、福岡銀行等を傘下に持つふくおかフィナンシャルグループ及び福岡中央銀行が、株式交換による経営統合を目指す旨の基本合意書の締結を公表した。
当局も、以下のとおり地銀再編を推進する施策を相次いで打ち出している。

  • 2020年11月:金融庁による「地域経営統合・再編等サポートデスク」の設置
  • 2021年3月:日本銀行による「地域金融強化のための特別当座預金制度」の開始
  • 2021年7月:改正金融機能強化法の施行による預金保険機構の資金交付制度の創設
  • 2021年11月:銀行の業務範囲規制や出資規制などを見直した改正銀行法の施行

脚注
(*1) 金融庁「2022事務年度 金融行政方針 直面する課題を克服し、持続的な成長を支える金融システムの構築へ」コラム8(2022年8月31日)。

(2)地銀による業務提携に関する動向

経営統合に比べて機動的かつ柔軟な連携が可能な業務提携も多く公表されている。
近時では、システム共同化、ATM相互利用、デジタル化推進、M&Aやビジネスのマッチング、海外拠点の相互利用など、その目的は様々である(*2)。2022年も、静岡銀行及び名古屋銀行が、各種システムやバックオフィス業務の共同化によるコスト削減、両行の顧客ニーズのマッチングによる地域貢献や新たな収益機会の獲得等を目的として、包括業務提携(「静岡・名古屋アライアンス」)の実施を決定した。
複数行によるアライアンスとして、福岡銀行等の9行による「地域再生・活性化ネットワーク」や千葉銀行等の10行による「TSUBASAアライアンス」もある。

脚注
(*2) 産経ニュース「加速する地銀の広域連携 本当の狙い」(2022年1月10日)。

(3)その他

「第4のメガバンク」構想を持つSBIホールディングスと地銀との間の資本・業務提携の動きもある。2022年5月には大光銀行との間で戦略的資本業務提携が締結され、これによりSBIホールディングスが出資する地銀の数は9行となった(2022年8月時点)(*3)。SBIホールディングスは、銀行業界初の敵対的TOBを用いて新生銀行も連結子会社化しているが、今後はSBI地銀ホールディングス(2022年10月に銀行持株会社の認可取得)をハブとして、グループ各社と提携先地銀の連携を推進させるとのことである(*4)。

脚注
(*3) SBIホールディングス「地域社会の課題解決に資する地方創生への貢献
(*4) SBIホールディングス「SBI地銀ホールディングス株式会社における銀行持株会社の認可取得および株式界や新生銀行株式の追加取得に関するお知らせ」(2022年10月11日)。

経営統合の主な手法

地銀を当事者とするM&Aとして代表的なものはいわゆる経営統合である。その主な手法としては以下の2つがある。

① 合併を行う手法
② 共同株式移転により銀行持株会社を設立して、その傘下銀行(100%子会社)となる手法

共同株式移転の手法は、銀行持株会社を通じて傘下の銀行間で経営資源の共有化等を進めやすいという特徴がある。したがって、まずは共同株式移転により銀行持株会社を設立し、その後に傘下の地銀同士の合併を行うというのが典型的な手法である。

地銀統合の手順と留意点

(1)概要

以下では、共同株式移転による経営統合を念頭にその手順と留意点を説明する。
統合を具体的に検討するに際しては、まず、当事者となる地銀が秘密保持契約の締結や専門家を選定した上で、統合の目的・手法・スケジュールについての協議を開始するのが一般である。合意事項については基本合意書を締結する。
その後、当事者双方がデュー・ディリジェンス(以下「DD」という。)を実施し、その結果を踏まえて最終契約の交渉・締結が行われる。これらの手続と並行して、株主総会の承認や、銀行法・独占禁止法等に基づく当局の認可等の取得に向けた準備も必要となる。その際には、統合当事者間での情報共有に関する独占禁止法上の規制や、国内外の証券規制との関係にも留意が必要となる。
金融庁の資料に挙げられた実例では、経営統合の基本合意からクロージングまで概ね1年から1年半程度の期間がかかっており、スケジュールを見据えるうえで参考になる(*5)。

脚注
(*5) 金融庁金融審議会「銀行制度等ワーキング・グループ」第5回事務局説明資料(2020年11月9日)23頁。

(2)基本合意書の締結

上記(1)のとおり、統合の目的・手法・スケジュールに関する初期段階の合意事項については基本合意書を締結する。DDの結果等を踏まえ後日内容が変更される可能性を考慮して、法的拘束力を有しない前提で締結されることが通常である。
関係当局への相談等についても、基本合意書に係る協議の段階で必要に応じて開始することになる。

(3)DDの実施

銀行持株会社設立後に傘下となるグループ会社(システム子会社やコンサルティング子会社など)の統廃合の可能性がある場合、DDの対象はグループ会社にまで広げる必要がある(*6)。法令遵守状況の検証に際しては、法令だけでなく、中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針(以下「監督指針」という。)等の当局のガイドラインが重要となる。

脚注
(*6) 細野真史「地銀再編のスキームとデューディリジェンス」ジュリスト1482号21頁。

(4)最終契約の締結

共同株式移転を行う場合、会社法上作成が必要な共同株式移転計画(会社法772条)に加え、統合条件の詳細を規定した統合契約等が締結されることが多いが、その中で最も重要な条件は統合比率である。役員が自らの善管注意義務を果たすという観点からも、第三者算定機関の株価算定書等を踏まえた比率の設定が重要となる。
最終契約では、クロージングの前提条件等として、銀行法や独占禁止法等の関係法令等に基づき統合実現に必要となる認可等の取得を定めることになる。

(5)各種の認可

① 銀行法

共同株式移転においては、銀行持株会社の設立の効力発生日までに銀行法上の認可を受けなければならない(銀行法52条の17第1項第1号)。審査基準は概要以下の通りであり(銀行法52条の18第1項)、銀行認可の場合に準じて審査が実施されるに準じて行われる(監督指針III-4-11-2も参照)。

(i) 設立される銀行持株会社及びその傘下となる地銀等の収支の見込みが良好であること
(ii) それらの自己資本の充実
(iii) 銀行持株会社の役員構成等に照らし、傘下銀行の経営管理を的確・公正に遂行できる態勢となっていること

正式申請から認可処分までの標準処理期間は1か月と定められている(銀行法施行規則40条1項)が、補正や追加資料が提出された場合などはこの限りでなく(同条2項)、また、正式申請前に予備審査を経ておくことが実務上重要となる(銀行法施行規則39条、監督指針III-4-15)。
以上のほか、銀行持株会社及び銀行の「常務に従事する取締役」の兼職の認可(銀行法7条1項、52条の19第1項)や各種の届出(銀行持株会社の設立、役員等の選退任、銀行持株会社の5%超の議決権を保有する株主に関するもの)も必要となる。

② 独占禁止法

独占禁止法上、一定の規模の共同株式移転については公正取引委員会(以下「公取委」という。)への事前届出が必要となる(独占禁止法15条の32項)。地銀による共同株式移転の場合、通常は事前届出の対象となる(*7)。公取委による審査は第1次審査と第2次審査に分かれており、詳細な審査が必要と判断されれば、第2次審査に進み、審査期間が長期化する。ふくおかフィナンシャルグループと十八銀行の経営統合では審査期間が2年を超えた。クリアランスの条件として一定の問題解消措置(例えば、他の金融機関への貸出債権の移管等)が必要となる場合もある。
このような前例等も踏まえ、2020年に一定類型の地銀統合等を対象とした独占禁止法の特例法が成立した(以下「特例法」という。)(*8)。統合の当事者となる地銀が、金融庁長官に対して特例法に基づく申請(基盤的サービス維持計画の提出)を行い、認可基準に適合していれば経営統合の認可を受けることで、独占禁止法の適用を回避できるというもので、より迅速な手続を期待できる。もっとも、認可基準を満たした基盤的サービス維持計画の実施(最長5年間)と金融庁への報告という独占禁止法とは異なる負担が生じる(特例法7条1項)面があることに留意が必要である。

脚注
(*7) 池田賢生=藤井大悟「地方銀行の経営統合の実務および留意点」金融法務事情2103号11頁。
(*8) 金融庁「地域金融行政について」15頁(2022年1月)。

大澤 貴史 氏
寄稿
牛島総合法律事務所
パートナー弁護士
大澤 貴史 氏
2011年12月弁護士登録、2017年5月米国カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校修了(LL.M.)、2017年から2019年まで金融庁(マネロン・テロ資金供与対策企画室、法令遵守等モニタリングチーム等)での勤務を経て、2020年1月より牛島総合法律事務所にて実務再開。金融規制や金融当局への対応が問題となるM&A、支配権争奪、不祥事対応等を取り扱う。
冨永 千紘 氏
寄稿
牛島総合法律事務所
弁護士
冨永 千紘 氏
2014年中央大学法科大学院修了。2015年12月弁護士登録。主として、コーポレート・ガバナンス等のコーポレート全般、M&Aを含む企業間取引や経営支配権をめぐる紛争、不祥事対応を中心に取り扱う。
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