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生保は「貯蓄」商品、損保は自然災害対策がカギ

保険業界の2020年3月期決算は、生命保険会社が減収減益、損害保険会社が増収減益であったが、生命保険会社、損害保険会社とも経営の健全性については確保されている。本稿では、JA共済総合研究所の小塚氏が保険会社の概況について解説する。

生保は「貯蓄」商品、損保は自然災害対策がカギ
  1. コロナ禍の影響は軽微
  2. 自然災害が決算に影響
         ※本記事は筆者の個人的意見であり、所属する組織の見解ではない

コロナ禍の影響は軽微

生命保険会社の2020年3月期決算に影響した事象として、外貨建商品販売の縮小、新型コロナウイルス感染拡大防止が挙げられる。外貨建商品販売の減少による保険料等収入などが経常収益の減少につながった。コロナ禍に関しては、保険販売、保険金支払いへの顕著な影響は認められず、経済の停滞による日経平均株価の低下などから資産運用費用の増加として表れた。具体的に生命保険協会の生命保険事業概況に基づき確認する。全42社計の新契約年換算保険料は、個人保険が前期比37.8%減、個人年金保険21.7%減、第三分野(医療保障・生前給付保障など)27.7%減だった。新契約件数は、個人保険7.6%減、個人年金保険6.5%減であることから、契約当たりの保険料縮小、外貨建商品などの減少の影響が大きい。

また、2019年度第4四半期の新契約実績では顕著な減少が認められなかった。緊急事態宣言発出後の対面販売の減少などは2021年3月決算への反映となること、日本生命、第一生命とも非対面販売を検討していると報道されていることなどに注目していきたい。

収支面では、保険料等収入が前期比6.4%減、資産運用収益1.1%減から経常収益は3.5%減であった。保険金等支払金2.6%増、責任準備金繰入額41.9%減、資産運用費用92.8%増から経常費用は2.0%減となった。この結果、経常利益は前期比26.9%減、当期純利益は29.8%減となった。

自然災害が決算に影響

一方、損害保険会社は、損害保険協会発表の損保決算概況(全28社計)に基づき数値を確認する。火災保険、自動車保険の増収などから正味収入保険料は前期比2.6%増だった。台風15号、台風19号など国内自然災害にかかる正味支払保険金が4430億円と2018年度に次ぐ金額だったため、正味支払保険金は前期比5.6%減。前期6109億円を計上した責任準備金戻入は、今期100億円の責任準備金繰入となり、保険引受利益は前期比51.1%減だった。

生命保険会社と同様、金融市場の低迷により資産運用収益は前期比13.2%減、資産運用費用は55.4%増、経常利益は前期比31.0%減、当期純利益は32.4%減であった。当期の保険収入・支払ベースの効率性を表すコンバインド・レシオは損害率の減少から前期より5.1%改善し96.5%であるため、責任準備金繰入と資産運用収支の悪化が影響したとみられる。なお、金融庁が発表している主要損害保険会社決算の概要でも、大手損保3グループの連結決算でも正味収入保険料は前期比1944億円増、経常利益は1920億円減であった。

保険事故発生の可能性は小さいが、事故発生時の経済的損失が大きく保険掛金が小さいと、保険契約は有効だ。保険事故発生の可能性が大、事故発生時の経済損失が小、保険掛金が高い場合、保険活用とともに、企業なら資本などリスクバッファ活用、個人なら貯蓄による対応との比較となる。この観点から今期決算の特徴を考えたい。

生命保険会社は、外貨建商品の販売減少が大きな影響を与えた。外貨建商品の加入者が合理的に選択していたなら、生命保険分野では「保障」だけでなく「貯蓄」商品が認知され、一定の市場競争力を有していることとなる。つまり、「貯蓄」商品の選好により決算が影響される状態に至っているとみる。

一方、損害保険は自然災害の頻発により保険事故増大が大きな要因となる。今回の決算同様、今後も責任準備金繰入などが必要だ。今期以上に自然災害が増えれば、保険掛金の引き上げ、再保険の費用増など損害保険会社経営に影響する恐れも。自然災害の頻発に応じた補償提供を行うのであれば事故発生の多い保険となり、補償提供スキームなどの検討が必要となる可能性もある。生命保険会社、損害保険会社とも、引き続き、加入者のニーズに適切に対応した保険商品の提供を期待したい。

寄稿
JA共済総合研究所
調査研究部
次長
小塚 英夫 氏
1984年全国共済農業協同組合連合会入会。
JA共済連の業務とともに、日本経済研究センター、
全国厚生農業協同組合連合会に出向。
2017年4月よりJA共済総合研究所に出向。
趣味はコントラクト・ブリッジ
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【寄稿】
JA共済総合研究所
調査研究部
次長

小塚 英夫 氏

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