実質的な「ルールベース」による証券モニタリング

実質的な「ルールベース」による証券モニタリング

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2020年6月26日に公表された、「今後の証券モニタリングの基本的な考え方」について森・濱田松本法律事務所の宮田氏がポイントを解説する。

  1. 「検査・監督基本方針」を補完
  2. 法令違反行為の検知と再発防止
  3. 「業務編」は着眼点の結晶

「検査・監督基本方針」を補完

2020年6月26日、証券取引等監視委員会(「証券監視委」)は、「今後の証券モニタリングの基本的な考え方」(「証券モニタリングの基本的な考え方」)を公表した。金融庁は、金融を巡る環境の変化に対応するため、これまで検査・監督のあり方に関する見直しに取り組んできた。2018年6月、「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」を策定・公表し、金融機関に対する検査・監督の目指すべき方向性とその実現のための手法について整理した。

「検査・監督基本方針」は、対象を特定の業態に限ることなく、金融庁が所管する全ての金融機関などの検査・監督全般に共通する基本的な考え方と進め方を内容としているが、「証券モニタリングの基本的な考え方」は、金融商品取引業者などに対する検査・監督に関し、「検査・監督基本方針」を補完するものと位置づけられる。

これにより、金融庁が進めてきた金融機関に対する検査・監督のあり方に関する改革は、一つの節目を迎えたものと思われる。今後はその運用の定着と高度化を図りつつ、金融業を取り巻く環境、市場の動向、技術の進展や社会の関心に応じて、その態勢や考え方について、柔軟かつ不断に見直しを続けていくことが期待される。

法令違反行為の検知と再発防止

「証券モニタリングの基本的な考え方」では、証券モニタリングの進め方として、①ルールベースの検証②法令違反行為などの根本原因究明および将来の最低基準抵触の蓋がいぜんせい然性評価の2つの手法を示している。前者の「①ルールベースの検証」は、市場の公正性・透明性の確保および投資者保護という金融行政の目的と、市場の番人である証券監視委の根源的な役割に照らし、引き続き、金融商品取引法および関連法令といった最低限度のルールを基に金融商品取引業者などの業務の適正性を検証することとしている。

一方で、法令の趣旨・目的に遡さかのぼって保護すべき重要な法益などを踏まえた検証を行うこととし、重箱の隅をつつく形式中心のモニタリングではなく、実質的な観点からの検証を行うことを強調している。

後者の「②法令違反行為などの根本原因究明および将来の最低基準抵触の蓋然性評価」は、ルールベースの検証を通じて法令違反行為などを検知しつつ、その根本原因の究明や将来の法令違反行為など発生の蓋然性の評価を行い、法令違反行為などの再発防止・予防を図る考えを示している。

「業務編」は着眼点の結晶

「金融商品取引業者等検査マニュアル」(「証券検査マニュアル」)は、金融商品取引業者に対して、証券監視委が検査を行うにあたり、その着眼点を示したものであるが、「証券モニタリングの基本的な考え方」では、証券検査マニュアルを廃止することとした。

証券検査マニュアルのうち「態勢編」は、検査の対象者における態勢整備の状況やリスクの所在を把握する上で有効と思われる確認項目を例示しているものであるが、その大部分において「金融商品取引業者等の総合的な監督指針」と内容が重複していることから、当該監督指針へ引き継ぐこととされた。

他方、「業務編」は、態勢の整備を前提として、業務運用面において、検査の対象者の法令などの遵守状況などを確認するための項目を記載するものであり、従来のチェックリスト形式による一律の検証には有効なものであった。

しかしながら、個々の金融商品取引業者などが抱えるリスクに応じた検証が求められている中、その有効性は薄れてきたと考えられ、また、証券検査マニュアルの記載項目に依拠した業務プロセスの構築が、形式面のみを重視することにつながるおそれがあるとして廃止されることとなった。

しかしながら、「業務編」における着眼点については、これまで証券監視委が検査を通じて蓄積してきた着眼点の結晶とも言える。証券モニタリングの進め方としても、ルールベースの検証に比重が置かれている中においては、証券検査マニュアルの廃止後も、金融商品取引業者などについて、最低基準を理解し、遵守する一つの方法として利用することは引き続き有益と思われる。

寄稿
森・濱田松本法律事務所
パートナー
宮田 俊 氏
2008年弁護士登録。
2015年ニューヨーク州弁護士登録。
日本証券アナリスト協会検定会員。
公認不正検査士。
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