バンキングだけでは食えない
超低金利状態が長期化する中で、金融機関の資金収益は減少の一途だ。しかし地域金融機関は、現在でも収益の多くを金利に依存している。国内業務粗利益に占める金利収益の比率をみると、2019年3月期で地方銀行は86.3%、第二地銀は89.7%と依然として高く、金利依存の一本足打法が続いていることがみてとれる。
価格競争の激化などで収益率が低下した業界では、2つの現象がみられる。1つは、企業の統合が進んでプレーヤーが少数化・大規模化することだ。過去の素材産業や小売業と同様、バンキング業界もそうした途上にあると言えるだろう。注意を要するのは、テクノロジーの進歩とともに環境変化が大幅に加速している点だ。統合に過度のコストと時間を費やすと、環境変化への対応が遅れるリスクを負うことになる。もう1つは、事業の多角化だ。バンキングだけで勝ち筋を見いだすのは容易ではない。求められるのは、強みを活用して新たな収益源の確立を目指すことだろう。金融庁もその方向性を容認している。
つまり金融機関は、統合する/しないにかかわらず、現行ビジネスの大幅な効率化を実現し、同時にそこで生じるリソースを新たなビジネスの立ち上げに注ぎ込むという「両利きの経営」に取り組む必要性に直面しているのだ。そして双方においてデジタルの活用は必至だ。
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デジタルでは全てが「つながる」
これまで企業は、ITを活用して、人手で行っていた業務をコンピュータに置き換えてきた。テクノロジーの発展とともに、置き換え可能な業務から順にIT化が進み、幅も深さも拡大した。その結果、かなりの効率化が達成されたが、一方で、システムは業務単位のタテ割りで作られ、しかもその入口と出口やつなぎ部分で人間の目や手に頼らざるを得ない部分は後回しになった。
しかしデジタル化では、スマートフォンやセンサーなどによって、情報が入口からデータ化される。そこから先は全て自動化が可能であり、物理的な作業は介在しないから、プロセスの刷新が可能になる。また、データは他のデータと組み合わせて分析することで新たな価値が生まれ、その価値はほぼ瞬時に提供できる。データの入口からサービス提供の出口までがリアルタイムでつながり、利用者のフリクション(コスト、手間、時間、心理的負担などの総称)は大幅に低減する。
バンキングのデジタル化だけでは不十分
近い将来、膨大な事務とルールの塊だった銀行業務は、その大半が機械化・自動化されるだろう。プロセスのほとんどはデジタル化され、紙やヒトの介在を必要としなくなる。店舗や窓口、バックオフィスでの作業はほぼなくなり、ヒトが行うのは、ルールやデータに基づくだけでは困難な判断や、対面や画面越しでの説明・相談・コンサルティング等が中心になると考えられる。バンキングは「場所」ベースから、「デジタル+ヒト」ベースへと移行していく。
ユーザーの金融行動は通常、何か別の目的を達成するための手段であるから、フリクションが小さいほど望ましい。手段であるバンキングのために銀行の支店を訪れることは、フリクション以外の何物でもない。したがって、金融サービスの入口がデジタルになるのは必然だ。さらに踏み込んで言えば、スマートフォン上で銀行アプリを起動することさえもフリクションとなりうる。
組み込まれてつながるバンキング
データの入口から出口までが「つながる」ことを別の観点から言えば、その間に存在する全ての主体がつながり、各々の役割を果たすということになる。つまり、プロセスに関わるユーザーや全ての組織がデータを軸に連携することで、ユーザーの経験の最適化が実現される。プロセスに参加する主体は、いずれも孤島ではないのだ。
したがって、デジタル化への取組みのポイントは、顧客の活動のプロセスの中に他のプレーヤーと連携して入り込むことになるだろう。デジタルの特性は、様々な活動主体がデータを介してリアルタイムに「つながる」点にあることを考えれば、顧客がデジタル上で目的に向けて行動する一連のプロセスの中に、他のサービスとともに金融手段が入り込み、それらがシームレスにつながることが望ましい。
現在でも、EC(電子商取引)で商品・サービス購入の支払いを行う場合は、ECサイト上でクレジットカード情報を入力すればよい。利用者からすれば、購買行動の中に組み込まれたカード支払いという金融機能が必要な場面で登場するから、フリクションが小さい。同様に、バンキングにおいても組込み化が今後の大きな方向性であると考えられる。さらに進めば、そこでアドバイスや提案を行うことも可能だろう。
バンキングの将来シナリオ
組み込み化が進むと、金融機関が商品開発、デリバリー、顧客接点等の機能をフルセットで保有・提供する必要はなくなるだろう。新しいビジネスモデルは、バンキングを包含しつつも、他とつながって特色あるサービスを提供するものになると予想される。ここではその方向性として、(1)インフラ化、(2)エージェント化、(3)プラットフォーム化の3つのシナリオを考えてみよう。
(1)インフラ化
耳障りのよくない言葉で言えば「土管」ビジネスだ。中を通るコンテンツには関係なく、利用の量や頻度等に応じて、あるいはサブスクリプション的に課金するモデルである。BaaS (Banking-as-a-Servise)はその一種と言える。
(2)エージェント化
金融面で顧客にとって「執事」的存在となり、業務代行、問題解決やアドバイス、非金融商品・サービス販売等の各種サービスからフィーを得るモデルである。現在、金融機関に対する業務規制の緩和が行われ、金融以外の様々なビジネスへの進出の機会が作られつつあるのは、この方向性に沿ったものと考えることもできる。前出のアレクサが提供していた機能もこれに含まれる。
(3)プラットフォーム化
プラットフォーム化は、リアル活動が非効率でフリクションが大きい「場」を見つけてデジタル化することを通じて、場の総取りを図るものだ。現在インターネット上が主流のプラットフォームは、今後「ネット+リアル」の方向へと進化すると考えられている。リアルが含まれることで、地域金融機関にも機会が生まれる。ポイントは、このフリクションが大きい「場」を見つけて、関係者を巻き込んだエコシステム構築を主導することだ。
「未来の銀行」実現に向けては、「バンキングのデジタル化」を超えて、「つながり」を前提とした大胆な取り組みを進める必要がある。デジタル化は脅威ではあるが、本来、それがもたらす変化は機会でもあるはずだ。ただし、非金融ビジネスの成功要因はバンキングとは異なる。「両利きの経営」成功のカギは、トップのコミットメントにある。その下で、経営、組織、人材、活動等にわたる大幅かつ速やかな変革が求められよう。
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- 寄稿
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株式会社 NTTデータ経営研究所上野 博 氏
金融政策コンサルティングユニット
エグゼクティブスペシャリスト