【金融業界必見】DX人材育成のプロセスと事例紹介


本記事では、金融業界におけるDX人材育成の重要性から、具体的な育成プロセス、金融機関の取組事例を解説します。

  1. DX人材育成の重要性
    (1)DX人材が求められる背景
    (2)DX人材の役割
    (3)DX人材に必要なスキル
    (4)経済産業省が提唱するDX人材
  2. DX人材育成のプロセス
    (1)DX人材育成のステップ
    (2)育成のポイント
  3. 金融業界におけるDX人材育成の事例4選
    (1)事例1:三菱UFJ銀行の取り組み
    (2)事例2:横浜銀行の取り組み
    (3)事例3:第一生命の取り組み
    (4)事例4:SOMPOホールディングスの取り組み
  4. DX人材育成の未来
    (1)DX人材育成の未来
    (2)金融業界に求められるこれからのDX人材育成
目次

DX人材育成の重要性

DX人材が求められる背景

デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が、ビジネス界で頻繁に耳にするようになったのはここ数年のことです。その背景には、テクノロジーの進化がビジネス環境を大きく変化させ、企業が競争力を保つためには、これまでの経営手法やビジネスモデルを見直し、デジタル化を進める必要があるという認識が広がっています。
一方で、デジタル化の推進には専門的な知識やスキルを持った人材が必要となり、DX人材の育成が急務となっています。このDX人材が求められる背景には、社会全体のデジタル化の波、企業の競争力向上の必要性、そしてテクノロジーの急速な進化があります。

DX人材の存在は企業の競争力向上と持続可能な成長に重要な役割を果たしています。これからのビジネス環境において、DX人材の育成は多くの企業にとって優先度の高い課題となっています。

DX人材の役割

先述したとおり、DXは、企業が今後生き残るための不可欠な要素であり、その中心に立つのがDX人材です。
DX人材の役割は以下のように多岐に渡ります。

  1. 全社的なデジタル化の推進
  2. 新たなビジネスモデルの創出
  3. 既存ビジネスのデジタル化
  4. データ駆動型の意思決定への移行
  5. 組織文化の変革

DX人材は組織文化の変革者として企業の競争力を高め、ビジネスの成長と持続性を確保するためのキーパーソンとなります。

DX人材に必要なスキル

ITスキルそのものだけでなく、様々なスキルセットが求められます。
DX人材に求められる技能として、ITリテラシー、データ分析能力、プロジェクト管理能力、そして異なる専門領域の人々と協働して課題解決を進める能力を挙げています。
これらのスキルセットは、デジタル化が進む現代のビジネス環境で不可欠となっており、組織全体としてのデジタル変革を推進するためには、DX人材の育成が欠かせないとされています。

スキルカテゴリ 詳細
テクノロジー理解と適用 クラウドサービス、AI、ビッグデータなどの最新テクノロジーに関する知識やソリューション開発の経験
リーダーシップとコミュニケーション チームを牽引し、異なるバックグラウンドを持つメンバー間のコミュニケーションを円滑に進める能力
戦略立案 組織のビジョンを共有し、具体的な戦略に落とし込む能力
柔軟性と自己啓発 新しい技術やトレンドを迅速にキャッチし、学習する姿勢

経済産業省が提唱するDX人材

経済産業省は、DX人材を「デジタル技術を理解し、ビジネス課題を解決するための新しいビジネスモデルやサービスを創出できる人材」と位置づけています。前述のスキルに加え、生成AIの浸透に伴い、2024年6月には「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方2024」をとりまとめています。

生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキル
生成AIの業務での活用により知識や技術が補填されるため、DX推進人材はより創造性の高い役割としてリーダーシップや批判的思考などパーソナルスキルやビジネス・デザインスキルが重要となります。
DX推進人材には「問いを立てる力」や「仮説を立て・検証する力」、に加えて「評価する・選択する力」が求められます。
求められるスキル
・ビジネスアーキテクト:選択肢から適切なものを判断する選択・評価する力
・デザイナー:独自視点の問題解決能力、顧客体験を追求する姿勢
・データサイエンティスト:利活用スキル(使う、作る、企画)、背景理解・対応スキル(技術的理解、技術・倫理・推進の各課題対応)
・ソフトウェアエンジニア:AIスキル(AIツールを使いこなす)、上流スキル(設計・技術面でビジネス側を牽引)、対人スキル
・サイバーセキュリティ:AI活用の利益とリスク評価、社内管理スキル、コミュニケーションスキル

今後、経済産業省の対応として、「デジタルスキル標準(DSS)」の見直し、「デジタルガバナンス・コード」の見直し、AI学習機会の裾野の拡大、生成AI時代に求められる継続的な学びの実現に向けた環境整備に取り組んでいくとされています。

参照:経済産業省「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方2024」

DX人材育成のプロセス

DX人材育成のステップ

DX人材の育成は、一定のプロセスが必要です。

  1. 企業のビジョンと目指すDXのゴールを明確に設定する。
  2. DX人材に求められるスキルや知識を明確に定義する。
  3. 育成プログラムを設計する。
  4. プログラムを通じて継続的な学習機会を提供し、新しいスキル習得を奨励する。
  5. 各ステップでの成果を定期的に評価し、フィードバックを提供する。
  6. 育成の最終段階で、新たに習得したスキルを業務に取り入れ、実際の成果を上げる支援をする。

このように、DX人材育成は明確なステップを踏みながら、企業全体のDX推進を目指す重要なプロセスです。

育成のポイント

DX人材の育成におけるポイントは、その学習プロセスに密接に関連しています。

  1. 全体的なビジョンと目標を明確に設定する・・・DX人材が何を達成すべきか、どのスキルを習得すべきかを理解する
  2. 具体的なスキルセットを身につけるためのプログラムやトレーニングを提供する・・・データ分析、プログラミング、AIなど、DXに関連する多くの分野
  3. 実際のプロジェクトに参加し、実践的な経験を積む・・・実際に参加することで、理論的な知識だけでなく、経験に基づいた洞察力を養う
  4. 定期的なフィードバックを通じて、個々の成長を評価し、学習プランを調整する・・・何が得意で何が不得手なのか定期的に観測し、さらなる能力値を伸ばす

これらのポイントを踏まえて、企業はDX人材の育成に効果的に取り組むことができます。

金融業界におけるDX人材育成の事例4選

事例1:三菱UFJ銀行の取り組み

三菱UFJ銀行は、金融業界におけるDX人材育成に積極的に取り組んでいます。
その一環として、2017年には全社的なDX推進組織「Digital Transformation部」を設立しました。デジタル技術の導入・活用を通じてビジネスプロセスの革新を進めるとともに、DX人材の育成にも注力しています。

また、三菱UFJ銀行・三菱UFJ信託信託銀行・三菱UFJモルガン・スタンレー証券ではデジタル人材育成プログラムを実施しています。

デジタル中核人材を育成するための実践的な選抜プログラムはこれまで延べ約300人が受講しました。また、中核人材候補を発掘・育成する公募型研修プログラムは延べ約750人が受講しています。さらに、全社員のデジタルリテラシー向上のため、銀行ではITパスポート相当のeラーニングを必修としていることに加え、外部資格取得を促す「デジタルスキル認定制度」を導入し、1,791人がゴールド認定を取得しました。

デジタル人材の育成プログラム(銀行)

こうした取り組みにより、三菱UFJ銀行は、従業員のデジタルスキルを高めるとともに、金融業界におけるデジタル変革の推進役としての役割を果たしています。

参照:三菱UFJ銀行「プロ度追求」

事例2:横浜銀行の取り組み

横浜銀行では、金融業界におけるDX人材育成に特異な取り組みを展開しています。
IT・デジタル部門の専門人財を増強していくために、IT・デジタル部門を希望する行員を対象とした選抜型の実務研修「DXアカデミー」を実施しています。2022年度は、DXアカデミーの修了者24名に「DXライセンス」(社内資格)を認定しました。

また、「デジタル推進部」を設置し、DX推進のための専門部署として活動しています。この部門では、デジタル化による業務改革を推進し、新たなデジタルサービスの開発を行っています。

これらの取り組みを通じて、横浜銀行はDX人材の育成とデジタル化の推進を図っています。

参照:コンコルディアフィナンシャルグループ「人財戦略」

事例3:第一生命の取り組み

第一生命の取り組みは、全社員が取り組むものとしてDX人財レベルを3段階に分けて育成しています。デジタル技術を理解し活用できるDX活用人財の育成は各組織に配置した約800名の「DX推進担当者」を中心に、全体の底上げを図っています。

また、組織を牽引できるDX中核人財、ビジネスモデル変革を起こすことのできるDXプロ人財の発掘・育成には、DXに関わる組織を中心に2,000名規模の外部アセスメントを実施しました。その結果を踏まえ、実践形式の研修、実務経験を積む為の異動やグループ外企業へのキャリアローテーション、ベンチャー企業へのレンタル移籍など幅広い経験を通してDXを進める風土の醸成と社員の学び・挑戦を支援しています。

これらの取り組みを通じて、第一生命は「DX認定事業者」に認定されています。

参照:第一生命ホールディングス「雇用と人財育成」

事例4:SOMPOホールディングスの取り組み

SOMPOグループでは全社員がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する上で必要な人材であるという理念のもと「人を変え、仕事を変えて、会社を変えていくこと」を目指し、2021年度からデジタルワークシフト(デジタル人材育成)を実施しています。
DXを実現するために求められる能力は多岐にわたるため、全社員を、

①高度な専門スキルを有する「DX専門人材」
②デジタル施策を企画しDX推進の核として組織を牽引する「DX企画人材」
③デジタルを活用したお客さまへの価値提供の担い手である「DX活用人材」

の3区分に分類し、それぞれの役割に応じた研修を実施しています。
「DX企画人材」が企画したものを「DX専門人材」が実現し、「DX活用人材」が活用する、というサイクルを循環させ、グループ全体のDXを加速させていきます。

参照:SOMPOホールディングス「人材育成」

DX人材育成の未来

DX人材を育成していくうえでの注意点

DX人材を効果的に育成するためには、いくつかの重要な視点を持つことが求められます。

視点 説明
パーソナライズされたアプローチ DX人材の育成は、個々の能力や特性を考慮したカスタマイズが必要である
組織全体の一部としての捉え方 単なるITスキル習得ではなく、組織全体のDX推進の一環であると共通認識を育てる
ビジネス要件と技術の結びつけ 育成プログラムでは、ビジネス要件と技術的な理解を結びつけることが必要となる
実務に則した育成プログラムが求められる
柔軟性と更新の必要性 DXは進化しているため、育成プログラムも柔軟に常に更新が必要となる
継続的な学習と成長 DX人材の育成は一度限りのイベントではなく、継続的な学習による成長である

金融業界に求められるこれからのDX人材育成

金融業界におけるDX人材育成の未来は、ますます重要性が増し、これからのDX人材育成は、単に技術的な能力を持つ人材を育成するだけでなく、変化に対応できる柔軟性と創造性を持つ人材育成が求められます。また、金融業界特有のリスクマネージメントの視点も必要不可欠となります。

具体的には、AIやブロックチェーンなどの最新技術を理解し、それを適切に活用する能力が求められます。また、新たなビジネスモデルを創出し、それを実現するためのプロジェクトマネージメントのスキルも重要となります。さらに、金融業界では、高度なセキュリティ管理や、厳格な規制への対応など、他の業界とは異なる要件が存在します。そのため、これらの要件を理解し、それに対応する能力も求められます。

このような要件を満たすDX人材育成には、組織全体での取り組みが必要です。そのためには、組織内のDX推進体制の強化、教育プログラムの整備、キャリアパスの設定など、多面的なアプローチが求められます。また、外部の専門機関との連携も重要となり、そのためのパートナーシップの構築も必要となります。

これからの金融業界におけるDX人材育成は、これまで以上に高度なスキルと広範な視野が求められます。そのため、組織全体での取り組みと、個々の人材の自己啓発が重要となります。

寄稿
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TheFinance編集部
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