RegTech(レグテック)とは?海外事例に見る規制×技術の可能性


RegulationとTechnologyを掛け合わせた造語「RegTech」。今、この概念が効果的・効率的な金融規制への対応を実現するとして注目を集めており、欧米を中心に新たなサービスが続々と生まれている。RegTechは後手に回っている金融犯罪対策の決め手となるだろうか。概念や背景を説明し、海外の事例を紹介する。

  1. 注目されるRegTech(レグテック)とは
  2. 高度化する金融犯罪対策におけるブロックチェーンの活用
  3. 海外事例① マネーロンダリングの検出効率の向上
  4. 海外事例② KYCオペレーションの効率化
目次

注目されるRegTech(レグテック)とは

RegTech(レグテック)とは

RegTechは「Regulation(規制)」と「Technology(技術)」からなる造語で、技術によって金融規制を管理することを意味している。現在、北米や英国を中心に活発化しており、この領域にブロックチェーンの活用が期待されているのだ。

RegTechが注目される背景

RegTechが注目される背景には、リーマンショック以後の金融機関への規制の強化とそれに伴うコンプライアンス費用の肥大化である。

リーマンショック以後、金融機関はその運営体制を厳しく監督されることとなり、十分すぎるほどのリスクヘッジと自己資本比率の底上げなどが実施された。実際に、ゴールドマン・サックスの報告によるとコンプライアンス費用は、2009年の70億ドルから2014年には100億ドルへと急速に増加していっている。

コンプライアンス費用が増大といってもいまいちピンとこないかもしれないので補足をしておくと、代表的な例に「KYC(Know Your Customer)」と呼ばれるものがある。これは、銀行口座を開設したことのある人なら必ず行っているはずだが、氏名や住所、運転免許証など本人確認が可能な情報を管理しておくことだ。

万が一にもマネーロンダリングなどの犯罪行為に銀行口座が利用された際、政府等が捜査を行いやすくするため、顧客情報を保管しておくことが義務付けられている。口座を開設する側も面倒な作業であるにも関わらず、それを全ての顧客分をひとつひとつ確認し、保管し、管理することを考えると膨大な手間がかかることが想像していただけるだろう。

仮想通貨と法定通貨の交換を行う取引所においても、改正資金決済法の施行により顧客情報の管理が義務付けられることとなっている。

これは一例に過ぎず、金融機関は多大なコストをかけて様々な規制への対応を余儀なくされているのだ。

▼筆者:森川夢佑斗氏の関連著書
ブロックチェーン入門

高度化する金融犯罪対策におけるブロックチェーンの活用

高度化する金融犯罪対策におけるブロックチェーンの活用

上記で説明したように金融機関は多大なコストをかけて社内体制を強化している。それにも関わらず、世界中で起きているマネーロンダリングの被害額は、年間で2兆ドルにも及ぶと言われている。カナダの2016年時点でのGDPが1.5兆ドル、同じくGDP下位117カ国の合計が1.9兆ドルであることを考えると、その額が莫大であることが理解できるだろう。

国連の報告によると、金融犯罪の複雑化かつ高度化により、FATF(The Financial Action Task Force:金融活動作業部会)の努力も虚しく探知できているマネーロンダリングの額は、全体のボリュームの約1%未満と言われている。

金融犯罪への対応が追いつかない原因

① データの不完全性

この原因のひとつには、金融機関同士の取引データの共有ができていないがための、データの不完全性にある。

金融機関に記録される取引データの中から、マネーロンダリングと思しき取引を検出するソフトウェアは発達しているが、その取引が本当に怪しいかどうかの目視確認に、コンプライアンス専門家の時間の大半は割かれている。実際、目視確認の結果、検出されたデータの99%が誤ったものとされている。

これはソフトウェアアルゴリズムが原因というよりは、金融機関が個別にデータを持っているために、同一人物の取引であったとしても一貫しての追跡が困難であったり、途中で取引データが欠損してしまうといったことが原因となっている。

② KYCオペレーションの重複コスト

金融機関同士でのデータ共有に関する問題は、もう一つある。それは、KYCオペレーションの重複コストだ。

KYCについては、先程述べたが、各金融機関はそれぞれの顧客に対して、個別にそのオペレーションを行っている。金融機関の顧客の一人であるみなさんならご理解いただけるだろうが、提出する書類や情報はどの金融機関でもほとんど同じだ。

しかしながら、金融機関はそれらを個別に行い管理することを義務付けられている。昔の全てを書類で管理する時代であれば納得できる話だが、これだけデジタル化が進んでいるなかではナンセンスと感じられる部分もあるはずだ。

重要書類のデジタル化の際には、データの改ざんなどの問題がつきまとう。さらにそれを金融機関同士で共有するとなると、不正を行われないかといったセキュリティの問題も出てくる。そういった理由で未だにデータの共有化はうまく進んでいない現状と言えるだろう。

つまり、金融機関同士で安全にデータを共有できる仕組みが求められているのである。そこで、分散型取引台帳とも呼ばれるブロックチェーンに注目が集まっているわけだ。

ブロックチェーンを用いて金融機関同士で安全なデータ共有が可能になることで、マネーロンダリングの検出効率の向上や、KYCオペレーションの効率化とコスト削減を図ることができる。

以下では、海外事例を紹介する。

RegTech海外事例① マネーロンダリングの検出効率の向上

RegTech海外事例① マネーロンダリングの検出効率の向上

Coinfirm(コインファーム)

海外ではすでにそのような事例が登場している。一つは、「Coinfirm(コインファーム)」というプロジェクトで、ビットコインアドレス毎に、アカウントのリスクを算出するサービスを提供している。

今後、ビットコインを利用した取引が増大した際に、そのビットコインがマネーロンダリングに利用されているものでないかを調査する必要が出てくる。

そういった際に、Coinfirmのサービスが役立つわけだ。ブロックチェーン上においては、金融機関の間で現在起きているようなデータの断絶は起きないため、従来よりも効率的かつコストが低く検知が可能だ。

現在は、ビットコインに対応しているが今後その他の仮想通貨にも対応予定であり、ブロックチェーン上でのあらゆる資産やアカウントのリスク調査を行うサービスとなっていくだろう。

その他にも、ビットコインの取引データを監視する「Elliptic(エリプティック)」というサービスも存在する。

RegTech海外事例② KYCオペレーションの効率化

RegTech海外事例② KYCオペレーションの効率化

KYCオペレーションの効率化という点では、以下2つのアプローチがある。

  1. 個人を特定するID自体をブロックチェーン上に記録する方法
  2. KYCを完了した証明をブロックチェーン上に記録する方法

ブロックチェーン上にID情報を記録する方法

ブロックチェーン上にID情報を記録するプロジェクトとしては、「uPort」、「Tierion」などが存在する。これらのプロジェクトは、ブロックチェーン上に個人のID情報を記録し、外部からも参照可能にする

ブロックチェーンに一度記録されると、外部からの改ざんの危険性などがなくなるため、改ざんされていない正しい情報として参照することができる。

KYCを完了した証明をブロックチェーン上に記録

Factom

KYCを完了した証明をブロックチェーン上に記録するものとしては、「Factom」があげられる。Factomは、文書が存在したという記録をビットコインブロックチェーン上に記録することで、証明するサービスを提供している。

こちらも先程のID情報の例と同じく、ブロックチェーン上に記録されることで、正しい情報として参照することができる。

もちろん、記録された情報自体の真偽までをブロックチェーンが担保することができるわけではないので、その部分についての解決は必要だが、どちらも注目されている分野である。

今回紹介した以外にも、RegTech分野でのブロックチェーン活用は登場してきている。ゴールドマン・サックスの調査によると、ブロックチェーン技術の導入によりコンプライアンスコストを年間30~50億ドル削減できるとも予測されており、同分野でのブロックチェーン活用には今後も期待していきたい。

▼筆者:森川夢佑斗氏の関連著書
ブロックチェーン入門

寄稿
アルタアップス株式会社
代表取締役CEO
森川 夢佑斗 氏
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