Embedded Financeの事例分析と今後の展望


Embedded Finance(エンベデッド・ファイナンス)は2020年ごろから広く使われるようになった。金融事業者と非金融業者が協力して実現するサービスであり、Fintechの最新形態である。国内の金融機関でも取り組みが始められている。本稿では、Embedded Financeの概要を解説し、海外事例を紹介するとともにSME向けEmbedded Financeの可能性について考察する。

目次

海外の成功事例

国内では住信SBIネット銀行、新生銀行、GMOあおぞらネット銀行、ふくおかファイナンシャルグループ傘下のデジタル銀行であるみんなの銀行の取り組みなどが知られている。特に住信SBIネット銀行は「NEOBANK」というブランドでEmbedded Financeを積極推進しており、JAL、Tマネー、ヤマダ電機といった著名企業との協業をスタートさせている。とはいえ、まだ国内Embedded Financeはまだ始まったばかりであり、明確な「勝ちパターン」は模索中といえるだろう。

しかし海外ではすでに、AppleやUberなどの世界的大企業を含む多くの非金融事業者がEmbedded Financeに取り組み、成功を収めている。ここでは、Appleの取り組み事例を紹介する。2019年にApple社が同社として初めて発行したクレジットカード「Apple Card」は、Embedded Financeの大型事例として知られている。チタン製の物理カードもあるが、これはアプリ決済できない場合のための予備的な位置づけ。その本質はアプリ利用をメインとするバーチャルカードであり、そのアプリが提供するユーザー体験(User Experience; UX)にはAppleらしいユーザー本位主義が貫かれている。

「Apple Card」の金融機能を担っているのは、米国の大手銀行であるGoldman Sachs。リテールバンキングには新規参入したばかりだが、API経由でのEmbedded Financeを武器に大手ユーザーを獲得する戦略でAppleとの提携を実現。「Apple Card」においては、Goldman Sachsが入会審査やカード利用の承認判定処理などを含むクレジットカード業務全般を担いつつ、Appleに対しては利用明細等のカードデータをリアルタイムで連携するというフォーメーションだ。

カード業務から解放されたAppleはアプリUXに注力し、従来のカードアプリとは大きく異なる斬新な使用感で「Appleらしさ」を遺憾なく発揮。支出の振り返りや利用額の返済といった家計管理面での自然な利用導線も功を奏したのか、「Apple Card」は「米国クレジットカード史上最速の拡大を記録した」と言われたほどの成功を収めた。「Appleならでは」のクレジットカードを熱狂的に受け入れたユーザーはiPhoneからAndroidスマホに乗り換えようなどとは思わない。つまり、AppleはiPhoneユーザーのさらなる囲い込みに成功。そしてリテールバンキングに進出したばかりのGoldman Sachsは、Appleのブランド力を活用して一気に数百万のカードユーザーを獲得することができた。Embedded FinanceがもたらすWin-Win-Winの好例である。

なお、AppleのEmbedded Financeはもう一つある。メッセージアプリであるiMessenger上でお金を送りあえる「Apple Pay Cash」だ。こちらはBaaSとEmbedded Financeに特化したモバイル銀行Green Dotの金融機能を組み込むことで実現している。

Goldman Sachsのほうも、「Apple Card」の成功を足掛かりとしてEmbedded Financeへの取り組みを加速。2020年には小売の両雄であるAmazonとWalmart、そして格安航空会社のJetBlueとともに、後払いやビジネス融資という与信型のEmbedded Financeを展開している。

森岡 剛 氏
寄稿
株式会社インフキュリオン コンサルティング
マネジャー
森岡 剛 氏
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