「~開発期間、コスト大幅削減~SOMPOひまわり生命のローコード開発導入事例」
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【講演者】
SOMPOひまわり生命保険株式会社
情報システム部 IT開発グループ
金田 幸男 氏
<SOMPOひまわり生命とは>
1981年創業にアイ・エヌ・エイ生命として事業をスタートした。現在はSOMPOグループ中核4事業である国内損保、国内生保、海外保険、介護シニアに加えて、新たにデジタルやヘルスケアの領域においても事業戦略を展開し、約2,000万人の顧客を抱えている。
ひまわり生命は国内生保事業を担い、SOMPOグループの中でも大きな役割を果たしている。
VISION-健康応援企業
生命保険といえば、かつては万が一の際に死亡保険金をお支払いする、残された家族のために入るものであった。近年では医療保険やがん保険など入院費用のために入る自分のための保険が主流だ。
今後、保険はどう進化していくのか?弊社では健康寿命を長くすること、つまり健康でなくなることが新たなリスクになると考えている。そこで健康応援企業になるというビジョンを6年前より掲げ、商品開発を行ってきた。
健康応援企業が提供する価値
万が一の際の金銭的サポートに加えて、毎日の健康に寄り添っていく。金銭的リスクだけでなく、健康でなくなるリスクを減らす。このようなコンセプトのもと、保険機能(インシュアランス)と健康応援機能(ヘルスケア)を組み合わせた「インシュアヘルス」という新たな価値を提供している。
2016年以降は次々と健康サービスアプリを、2018年以降はインシュアヘルス商品の提供を開始し、現在は第9弾のがん保険まで発売済みだ。
インシュアヘルス商品の特徴は、禁煙などの条件を満たすことで保険料を安くする、差額の保険料をキャッシュバックするなどが挙げられる。健康になることで顧客にメリットのある保険を、市場に提供しているというわけだ。
保険商品自体の概念を変える新しいチャレンジの1つがネットによる保険商品の提供と考え、今回お話しするネット商品基盤が必要となった。
<ネット専用商品の開発の背景>
弊社ではネット商品第2弾のLinkxPinkプロジェクトの際に、ローコード開発の取り組みを行った。結果としてネット向け商品の開発期間を半減し、コストを従来の6分の1に圧縮できた。本日は、高速・低コストをなぜ実現できたのかをお伝えしたい。
商品開発に至った背景には、デジタル化の急激な進行と消費者の行動の変化がある。消費者はピンポイントでほしいものをスピーディに手に入れられるようになったことから、保険市場においてもスピーディな商品投入が求められている状況だ。
しかし当時は、商品開発上の課題がいくつかあった。商品開発を行うシステム基盤は、あくまで従来の対面販売用の商品開発プラットフォームであったからだ。基幹システムの改修に、非常に多くのコストがかかる。また従来のウォーターフォール型開発手法においては、1年を超える開発期間を必要としていた。
そこで弊社では、高速・低コストで市場投入するための新たな仕組みとして既存の基幹システムとは別に「ネット商品基盤」の構築を決めた。
<ネット商品基盤コンセプトの3要素>
ネット商品基盤は「ローコードプラットフォーム」とするほか、重厚長大な基幹系システムから分離させた「疎結合アーキテクチャ」、商品開発時の影響を極小化する「シンプルな商品とシステム」の3要素からなる。
ローコードプラットフォーム導入については、複数製品を比較・検討した結果、生産性とコスト面で秀でたPega Platformの採用を決めた。とくに従量制による課金体系は、商品特性や販売動向に応じて過度なコストをかけずに対応できることから選択の決め手となった。
Pega Platformによる開発イメージ
事務処理はBPM図を用いて、事務部門と検討を重ねる。BPM図も、簡単にGUIベースでケースの作成が可能だ。そのケースから、自動的にフローを作成できる。GUIや自動生成機能を用いることで、コーディングを最小限に減らした開発が可能になる。
ケース、フロー、操作画面は、Pega Platformで管理する。これによって、基盤をまたがるインターフェースを介した一元的な管理が可能になる。
疎結合アプローチ
疎結合アプローチの狙いとは、従来の基幹システムからネット商品基盤を切り出し、コストがかかる基幹システムの制約を取り払うことだ。商品の契約にまつわる契約マスターの情報を、ネット商品専用に切り出して管理している。つまり申し込みを受けてからの事務処理なども、従来の基幹システムから切り離されるわけだ。
ネット商品のコンセプトは機動性であることから、システム化は最低限の部分のみに留めている。重い事務処理や管理業務の開発は、代替手段があるものは極力行わなず、残った事務処理・管理業務は手作業あるいはRPAで補うことにした。
シンプルな商品とシステム
ただし商品が複雑になると事務が複雑になり、手作業が回らなくなる。そこで当基盤で扱う商品とシステムはシンプルなものと決め、あらかじめ制約を設けた。代表的なところでは、特約を付加しない、保険料払込はクレカによる月払いのみ、契約内容の変更は不可といった制約だ。
顧客向けの申し込み画面は、Pegaの機能に加えてデザイン性を整えるためにコーディングをした。一方、社内の事務処理画面はデザイン性にとらわれずPegaのGUI機能を活用して作成し、コーディングを極力行わないようにした。
<高速・低コストを実現できた理由>
プロジェクトの目的である高速・低コストを実現するためにはローコードプラットフォームの導入だけでは不十分であり、疎結合アーキテクチャ、シンプルな商品とシステムの3要素が重なりあうことが大事だ。しかし現実はそう簡単ではなく、多くの難しい課題を克服する必要があった。
3つのネット商品基盤コンセプトと各課題の解決
ローコードプラットフォームの導入にあたっては初期コスト投下、長期に渡る運用コスト増と開発費減のバランスを見極め、意思決定する必要がある。
疎結合アーキテクチャと言っても、完全に基幹システムから分離はできない。そこで制約をあらかじめ決定するなどしてコンセプトを明確にしておき、将来的にも切り分けた部分を維持する必要がある。
シンプルな商品とシステムは、ローコード開発の根幹だ。しかし開発を担うシステム部門と、従来型のフルスペックのシステム機能を求める利用部門との間で思いが対立することがあった。そのため役員レベルで趣旨や目的を理解してもらい、トップダウンによる対応が必要であった。
課題を解決した結果、開発期間は半減し、ローコードプラットフォームのフロー生成を用いることで管理系機能の効率化を実現した。ネット商品基盤上で開発する規模を圧縮し、コスト自体も6分の1まで圧縮することに成功した。
成功のポイント
利用部門とシステム部門が一体となり、3要素を理解しネット商品基盤のコンセプトを会社として貫いたことにある。この結果、ローコード開発プラットフォームの能力を最大化し、生産性と品質を両立できた。
ローコードプラットフォームの優位性を打ち出しておくこと、さらに商品制約を設けておく。そうすれば、フローの自動作成やGUIで開発作業を進めることができる。
今後の課題と展望
開発力の安定化、さらなるローコスト化を目指して、ローコード開発の戦略的内製化を進めているところだ。ローコードプラットフォームの活用範囲を拡大し、代理店とのコミュニケーション基盤への導入などネット商品以外の領域への適用も検討している。
またSOMPOグループ内へも展開しており、グループ内横断で内製化を推進している。これにより、ローコスト化をさらに進めていけると期待しているところだ。
<結びに>
本日は、SOMPOひまわり生命におけるローコード開発事例をご紹介し、ローコードプラットフォーム導入にあたって考慮すべきポイントを3つお話しさせていただいた。ローコード開発をご検討されているようなら、参考になれば幸いだ。