「モダンアプリケーション・プラットフォームによる地域DXの可能性」
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【講演者】
レッドハット株式会社
ソリューション営業本部 エンタープライズソリューション営業部 セールススペシャリスト
大村 真樹 氏
<次世代のITインフラを考える上で避けては通れない「コンテナ」>
Red Hatはエンタープライズでの利用に最適なコンテナアプリケーション・プラットフォーム「Red Hat OpenShift」を提供する。
「コンテナ化」はこれからのITインフラあるいはクラウドの利活用を考える上で避けて通れない技術だ。
かつてべアメタルサーバを中心にITインフラを構築・運用していた時代は、ハードウエアとソフトウエアが一体化していて、アプリごとにサーバやOSを個別に用意する必要があり、サーバリソースを柔軟に有効活用するのは困難だった。
やがて、仮想マシン(VM)が登場すると、サーバ上にハイパーバイザー(仮想化レイヤ)を置くことで、ゲストOSを複数載せてサーバリソースを有効活用する仕組みが構築された。ただし、階層構造が複雑化するので管理が煩雑になり、整合性を担保するためのアップデート対応も要する。これらを解決するひとつの手段として「コンテナ化」がある。
コンテナ化という技術は、ソースコードやミドルウエアなど、アプリケーションを動かすために必要な最小限の要素を一つのパッケージにまとめ、インフラを跨いで持ち運び、展開することができる技術である(可搬性)。また、アプリケーションやシステムを構成する各機能(ログイン機能、在庫管理機能 等)ごとにコンテナ化し、疎結合化させる事で、各機能ごとの依存関係を気にせず継続的な開発、素早い機能リリースが可能となる(マイクロサービス化)。
なお、コンテナはそれ単体では閉じた存在になるので、運用する際は、一つ一つのコンテナを管理する指揮官のような存在(コンテナオーケストレーター)が必要になる。このコンテナオーケストレーターの役割を果たすオープンソースのソフトウエアが「Kubernetes」だ。Kubernetesは事実上のスタンダード(デファクトスタンダード)となっており、この「Kubernetes」が展開されていれば、オンプレミスでもクラウドでも、ベアメタルでも仮想マシンでも、特定のインフラや技術に依存することなく、あらゆるインフラの上でコンテナをアプリケーションとして動かすことができるようになる。
開発チームと運用チームが連関しながらサービスの継続的な開発・リリースに取り組むDev/Opsにおいても、コンテナ化の技術を活用することでメリットが得られる。一例として、コンテナの開発は開発チーム側が担い、複数のコンテナを安定的に動かすための基盤の運用を運用チーム側が担うという役割分担が可能になる。
開発チーム側と運用チーム側では、それぞれに役割があるため、関心事、重視する点が異なる。開発チーム側の関心事は「機能の追加改修やPDCAサイクルの速度を上げること」だが、運用チーム側は「アプリを安定的に動かしたい、インフラ都合でアプリ運用に影響を与えたくない」という思いがある。コンテナ化という技術を活用することで、アプリケーション側とインフラ・運用側のデカップリングが可能となり、結果的に両者の間の摩擦を減らすことができる。結果として、アプリケーションのリリース速度を上げる為の体制実現が目指せる。
こうしたコンテナや「Kubernetes」などの技術、開発・運用環境を支えるITインフラ・アーキテクチャがあって、初めてDev/Opsやアジャイル開発が可能になると言っても良い。
<金融DXに必要な「デ・ア・イ」>
地方銀行が置かれている状況に鑑みると、全世界的なインフレ、中央銀行の金融政策の急速な方針転換などを受けて、米国の地方銀行への取りつけ騒ぎ、スイスの老舗銀行の破綻などがニュースになるほど、金融不安が増している。また、ビジネス環境も厳しい状況だ。IT系をはじめとした非金融業のプレーヤーが参入してきて、競争を激化させている。地銀は生き残りをかけて証券会社との連携、地域をまたいだアライアンスの強化、地域内での合従連衡などの策を講じている状況だ。こうした取り組みを通じて、地方銀行は喫緊の「PBR1倍割れ問題」への対応も含め、収益能力の向上、資本効率の向上を求められている。
この様な状況の中で地方銀行が、これまで通り地域の顧客から選ばれる金融機関で居続けるためには、地域のお客様の課題解決に積極的に関与し、顧客本位なビジネス・サービスを展開していくことが必要だ。金融庁も銀行に対して、顧客本位なビジネス・サービスへの転換を強く要請している。その実現のための中核となるのが「金融DX」だ。
金融DXの実現に必要な要素として、Red Hatが着目しているのが「デ(デジタル)・ア(アジャイル)・イ(イケてる)」である。その必要性を個々に見ていこう。
一つ目の「デジタル」はすでに多くの銀行が着手し、スマートフォンアプリやウェブサービスの展開を推進している。バンキングアプリなどはその最たる例で、自社開発したり、他社とパートナーを組んで推進したり、それぞれ手法はバリエーションがあるが、皆同じ方向を目指していると言えよう。
二つ目は、開発手法として着目されている「アジャイル」。変化に応じて、めまぐるしく変わる顧客のニーズに応えるためには、時代や要望に即して、機能を素早くリリースし、顧客からのフィードバックを得て、またそれらを反映して、という順応性が大事になる。そのためには、開発体制も、ITインフラも、組織文化も「アジャイル」を推進できることが不可欠だろう。
最後の「イケてる」が示す意味は、ユーザーエクスペリエンスの向上だ。金融業界では法律に基づいた多くの規制が働いているため、できること・やれることは決まっている。そしてそれは競合他社とも全く同じである。であれば、そうした定められた制限の中で、他社と差別化を図ろうとするには、エクスペリエンス・体験を良くするしかない。
例えばスマートフォンアプリでは、どんなに多機能であっても、操作が煩雑でユーザー体験を損ねているものより、機能はシンプルでも直感的に操作できて触っていて心地が良いアプリのほうが、より良いエクスペリエンス・体験を提供できることになる。また、「イケてる」を実現し続けるためには、「アジャイル」が欠かせない。つまり、新しい技術を取り入れてPDCAを高速で回せる環境を作り、「顧客本位」を実現し続けていくことが重要だ。
<地方銀行が主導する地域DXの世界>
なお、これまで取り上げてきた「金融DX」は地方銀行に限った話ではなく、金融サービスを提供する企業に共通するテーマだ。その上で、地方における経済、産業、人材の創出が期待される地方銀行においては、「地域の、地域による、地域のためのDX」が求められる。
地方銀行が、地域の人材や企業に対してヒト・モノ・カネ・情報・インフラなどのリソースや場を提供することで、地域のIT人材やIT企業は活性化する。活性化した地域企業は、地域の住民や企業にデジタルサービスを提供し、デジタル体験を向上しながら、地域の課題解決を進めていく。その結果が、地方銀行に還元される。こうした地域内の循環を作ることが、「真の地域DX」の目指すべき姿ではないだろうか。
この地域循環を巻き起こすための仕組みやインフラは、ITベンダーやコンサルティング企業などのサポートを得るとしても、やはり地域の金融機関、地方銀行がプロジェクトオーナーシップを持って、主体的に金融DXに関わるプロジェクトを進めていくべきだと考える。例えば、プロジェクトの企画起案に関する主導権を持っているか、プロジェクトの目的や達成したいことなどのドキュメンテーションを自ら行えているか。地域に根差した事業者に仕事を発注できているか。こうしたプロジェクトを実現する為の意思決定・実行力や、進行管理に主体性を発揮するのがプロジェクトオーナーシップだ。プロジェクトオーナーシップを持って地域のお客さまに寄り添い、ニーズを拾い上げることができれば、解決すべき課題の特定や可視化、具体的なアプリケーションの開発などのプロセスは外部パートナーの手を借りても問題ないだろう。その外部パートナーとして、地域に根ざした事業者を積極的に巻き込めることが理想である。
Red Hatはそうした地域の事業者とのコラボレーションを実現するためのITインフラを整え、またそのために必要な「知見」を提供することで、地方銀行の働きをサポートできると考える。
<特定のインフラに依存しないITプラットフォームでの開発>
特定のインフラ及び技術に依存したアプリケーションの開発・運用は、企業に制約を課し、アジリティを低下させる。地域に根を下ろした事業者とのコラボレーションという観点で言えば、独自仕様のレガシーなITインフラ・運用の仕組みは、これまで受発注の実績が無い地域のシステム開発会社やFinTech系の新興ベンダーがプロジェクトに参画する上で大きな障害になる。これは顧客本位なビジネス・サービスを実現する上でディスアドバンテージになり得る。
特定のインフラや技術に依存せず、誰もが活用できるオープンな技術を使って、効率的にアプリケーションを開発して世に出すことができる開発体制がITプラットフォームとして整っていれば、課題解決のためにしなければならないことに集中して取り組むことができる。そうした開発・運用環境を実現させるのが「オープンハイブリッドクラウド」だ。
Red Hatが提供する「Red Hat OpenShift」は、まさにオープンハイブリッドクラウドの実現を目指している。あらゆるインフラ上で一貫したコンテナアプリケーションの開発・運用体験を提供する。コンテナ技術によってアプリケーションとインフラはデカップリングされていることは、何も内製化していなくても恩恵を享受できる。例えば、地域のアプリケーション開発会社は、いつもの慣れた環境で開発、コンテナイメージの作成を行い納品する。納品先では、自社のポリシー等に応じた試験やセキュリティタスクをパイプライン上で実施し、サービスリリースまで一気通貫で実施する。
Red Hatはこうしたプラットフォームを提供するにとどまらず、コンサルティングサービスも提供している。「Red Hat Open Innovation Labs」だ。クラウドネイティブなアーキテクチャー、アジャイル開発を可能とする組織の在り方、具体的な知識と経験を提供するソリューションだ。Red Hatは、誰にでも開かれたオープンな技術から得られる恩恵を組織に蓄積させ、クラウド時代およびアジャイル時代に向けた変革をサポートしていく。