2023年8月22日開催ONLINE EXECUTIVE CONFERENCE「地銀DXの真髄 〜地域人材を活かすその秘訣とは〜」<アフターレポート>

2023年8月22日開催ONLINE EXECUTIVE CONFERENCE「地銀DXの真髄 〜地域人材を活かすその秘訣とは〜」<アフターレポート>

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2023年8月22日(火)、レッドハット株式会社と株式会社セミナーインフォの共催によるONLINE EXECUTIVE CONFERENCE「地銀DXの真髄 〜地域人材を活かすその秘訣とは〜」が開催された。

地域の金融機関が金融DXを通して実現するべき最も大きな目標は「地域の活性化」だ。その為には地域の企業や人材と協働し、「地域に根ざしたDX」を推進していく必要がある。本セミナーでは、地域の金融機関がこれから担うべき「デジタル・イネイブラー」としての役割に必要な要素について探求した。これらの内容は地方銀行のみならず、アライアンスを組む他の金融機関にとっても示唆深いものとなった。

  1. 「北陸銀行の地銀DX ~地域顧客DX支援と人材育成~」株式会社北陸銀行 コンサルティング営業部 第4グループ ITコンサルチーム 石田 彗史 氏
  2. 「モダンアプリケーション・プラットフォームによる地域DXの可能性」レッドハット株式会社 ソリューション営業本部 エンタープライズソリューション営業部 セールススペシャリスト 大村 真樹 氏
  3. 「自社サービスと受注サービス開発の違いから地域金融機関にとっての理想の開発スタイルを模索する」株式会社マネーフォワード エックスカンパニー カンパニー執行役員 兼 カンパニーCOO 亥子 友基 氏

「北陸銀行の地銀DX ~地域顧客DX支援と人材育成~」

講演者の写真
【講演者】
株式会社北陸銀行
コンサルティング営業部 第4グループ ITコンサルチーム
石田 彗史 氏

<ワークスタイル変革のポイントは業務・人事・システム>

地方銀行を取り巻く環境の厳しさが指摘されている中、北陸銀行ではビジネスモデルの転換やコスト削減、効率改善などへの取り組みを進めることで、実績効果を積み重ねている。例えば、社内IT化を促進させ、2017年度にはグループウエアを活用したペーパーレス化に着手。月間240万枚の印刷枚数を170万枚へと約30%削減、前年同月比で300~700万のコスト削減効果を果たした。

ただ、既存の業務ルールでは印刷物が欠かせないシーンもあり、単純にペーパーレス化を進めれば業務の効率化が図れるわけでもない現状が浮き彫りとなり、根本から業務の見直しや改善すべきポイントが見えてきている。

ワークスタイルの変革に取り組むには、基盤であるシステムに加えて、業務と人事も合わせた三位一体で改善に取り組んでいくことが不可欠。今はまだ道半ばと考え、今後も引き続き継続していく構えだ。

<北陸銀行の強みを生かして、取引先に価値を提供>

北陸3県を基盤に、全国に広域な店舗網を展開する北陸銀行。そのネットワークを生かすとともに、グループ内にある北銀ソフトウエア株式会社や、北陸コンピュータ・サービス株式会社との三位一体の連携を強みに、総合的なお客さまサポートを展開している。

ITサポートの一環として手掛けているのがITコンサルティングで、専門家が中立的な立場から総合的に判断し、顧客のニーズにマッチしたITツールの導入から定着まで総合的にサポートしていく体制を構築している。

顧客の中には、サイバーセキュリティやインボイス制度、電子帳簿保存法(電帳法)などへの対応を進めたいのに、IT人材を確保できないなどの理由により、思うように進まないという課題を抱えている企業が少なくない。北陸銀行では、解決のためのツールの比較検討やDX推進セミナーの開催などを通じて、顧客の課題解決に寄り添っている。

<IT支援事例1:AIを活用した需要予測のシステム構築を提案>

北陸銀行では顧客の課題解決に向けて、どのような支援を実施してきたのか、いくつかの事例を紹介する。

1つ目は、AIを活用した需要予測のシステム構築を提案した事例だ。
食品廃棄や在庫不足によるチャンスロスに苦慮していた富山市内の食品製造業者から相談を受け、グループ内企業の北銀ソフトウエアと協働し、現状をヒアリングしながら業務を分析。分析データをもとに、AIが需要予測を作成し、適切な発注や在庫管理のできるシステムを構築した。

このシステムにより食品廃棄や在庫不足といったチャンスロスに効果を発揮するのはもちろんのこと、発注担当者の負担軽減という付加的な効果も生まれた。これまで発注業務の担当者は、欠品しないように、在庫過多にならないようにするために、日常業務で大きなストレスを抱えがちだったが、需要予測が立つことにより、業務上の負担が大きく軽減された。この取り組みは「日本DX大賞2022」の支援機関部門の優秀賞に選出されるなど、対外的にも高く評価されている。

<IT支援事例2:地域の企業変革を後押しするITコンサルティング>

2つ目の事例は、富山県で50年以上続く繊維製造販売メーカーを支援した取り組み。海外製品の台頭により競争が激化している繊維製造販売業界で、地域の産業雇用を守っていくために企業の変革を決意した企業に対して、在るべき姿へと導くコンサルティングをスタート。

急激な変革は難しいために、在るべき姿として「人の力を最大化できる組織」を最終目標に据え、段階を追って取り組むべき支援の流れを整理。20年以上前の機械が今も現役として稼働するなど、機械自体には大きな構造変化がない環境の中で、足場を固めながら人の意識を変えようとする改革を進めた。

まずは製造業の職場環境改善の基本となる5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・しつけの徹底)を通じて、仕事への意識付けを実施。従業員それぞれに「前よりも良くなった」という実感を持たせるともに、「社内が変わろうとしている」という空気感の醸成に注力することで、現場の中から改善案が自然と生まれてくるような土壌づくりを目指した。

「人の手による作業とデジタルの融合」を指針としたロードマップは、年単位で目標を設定。1年目は5Sの改善サイクルを定着化させつつ、意識の改革を図った。次のステップとして2年目からITやデジタル技術の導入を検討。工場内でのPoC(実証実験)、IoTシステム導入と段階を経て、受注シミュレーションに向けたタブレットの導入まで進んでいる。

<北陸銀行の新サービス:ほくほくBiz-Management>

2023年4月から新たなITコンサル支援として、「ほくほくBiz-Management」(以降、ビズマネ)の提供を開始した。

ビズマネはクラウド型のERPサービスで、受発注業務に関するペーパーレス化、システムによる一元管理などの業務効率化を促進する。法改正により新たに制度化されたインボイスや電子帳簿保存法(電帳法)への対応に加え、売掛金の消し込み、見積書や請求書の作成、帳票の受注などの日常的な業務負担の軽減を支援するサービスになっている。

主契約の「販売ワークス」では、受発注の伝票のやり取りを電子化し、販売・仕入・在庫管理業務の流れを効率化。必要に応じてオプションを追加すれば機能が拡張され、伝票入力から月次の集計、決算書の作成など、財務会計業務を総合的にサポートする「会計ワークス」や給与計算業務を支援する「給与ワークス」なども活用できる構成だ。

<税理士向けインボイスセミナー>

企業を直接支援するだけでなく各種関係者と情報を共有したり、連携を取り合ったりすることで、幅広いチャネルからの情報発信ができ、間接的な支援体制の強化にもつながる。その一例が、税理士向けセミナーの開催だ。

中小企業などでは、経理業務を税理士がサポートしているケースも多いため、税理士を対象としたセミナーを開催し、インボイスや電帳法に関する情報提供や、新サービスの紹介などにも努めている。

<地銀DXの真髄>

地銀を取り巻く状況を見る限り、DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性は感じるものの、短期間で一足飛びに実現できるものではない。まず自分たちの現状を正しく把握し、顧客が望む姿、行員として在るべき姿をしっかりとメイクアップしていくということが重要だ。現状を理解していくことで、解決していくべき課題、課題解決に向けて必要になる取り組みなどが見えてくる。

北陸銀行におけるDXは、3段階のステップを踏んで進めてきた。第1段階が手書きからデジタルへと移行して自社内の業務を効率化させる「デジタイゼーション」。第2段階がデータの共有化により、ノウハウを蓄積し、お客さまへと新たな価値を提供する「デジタライゼーション」。こうした段階を経ることで、第3段階として新しい価値創造を図る「デジタルトランスフォーメーション」への取り組みをスタートさせてきた。まずは基盤を構築して足場を固めた上で、一歩ずつ進めていくスタイルは、銀行内部の取り組みも、顧客支援の観点も同じだ。

これからも北陸銀行は、積み重ねてきたノウハウを余すところなく活用し、失敗も一つの情報として共有しながら、顧客の課題解決に寄り添い、幅広い支援を展開していく。

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