【NFT×金融】金融業界におけるNFT活用の二つの視点


本記事執筆時点(2023年12月)において、私たち一般消費者が利用するSNSやブランド、ゲーム会社など、幅広い業界で「NFT」が活用されるようになり、少しずつではあるものの着実にNFTが一般消費者の中に広まり始めてきた。本稿では、こうした環境変化を見据えながら、金融業界におけるNFTの活用方法について解説する。

  1. NFTとは
  2. 業界別主要事例・ユースケース
  3. 金融ビジネスにおける活用方法
目次

NFTとは

NFT(Non-Fungible Token)は、ブロックチェーン技術をベースにした「代替不能なデジタルデータ」を指し、実体は、スマートコントラクトというブロックチェーン上のプログラムである。現在、このNFTを様々な場面で見聞きすることが増えてきた一方で、その良さや意味が分かりにくいと感じる人も少なくない。一般消費者がNFTを理解しにくい理由は、技術者やクリエーター、起業家、投資家など多岐にわたる立場から説明されているためと筆者は理解しているが、どのような説明であれ、ビジネスの視点からNFTの活用を考える場合、以下の3つの特長を押えておくことが重要である。

図表1:NFTの3つの特長

特長1:代替不能性(希少性創出やアイデンティティ証明)
一つ目の特長は、代替不能性である。私たちは、日常生活において、スマホの写真を友達に送りあったり、パソコンで作成した資料をコピペしたりと、当たり前のようにデジタルデータを複製している。コピー元のデータとコピー先のデータは同じものであり、これゆえ、データに希少性(=価値)を持たせることができない点が、これまでのインターネットの課題であった。NFTは、この課題を解決しデータの希少性を保証することができるという特長を持っている。具体的には、それぞれのNFTは、固有の識別情報(例えば、作品の作者、作成日時、所有者情報など)を持ち、それがブロックチェーン上で確認可能であり、複製や変更が不可能なため、NFT所有者はデジタルアセットの正当な所有権を確立し、それが確実に証明されることで、インターネット上でのデジタルアセットの希少性と独自性を実現し、新たな所有権の概念を提示している。

特長2:取引可能性(n次流通促進)
二つ目の特長は、取引可能性である。ブロックチェーン技術の活用により、特定のアプリケーションなどに閉じることなく、オープンな市場で、自由にNFTの移転や取引をすることができる。これにより、従来以上に自由な取引が可能となることで、データの流通が活発化する。

特長3:プログラマビリティ(自動化)
三つ目の特長は、スマートコントラクト処理による自動化である。先述の通り、NFTの実態はスマートコントラクトというプログラムであるため、例えば取引が発生するたびに実行することを埋め込むことができる。これにより、例えばNFTが流通するごとに著作者にロイヤリティー支払いを行うことなど、特長2と組み合わせることで、新たな体験を提供することが可能になる。

以上の特長をもつNFTは、2023年末現在、様々な産業において、多様な用途・ユースケースの取り組みが始まっている。その規模は、年々大きくなっており、ある調査会社の試算では、2030年に30兆円規模になるとの予測もある(注1)。こうしたトレンドを見据え、金融機関としてはどのように、NFTを活用するべきであろうか。これを考えるに先立ち、まず次章にて、金融以外の業界において活用が進む、NFTの代表的な事例・ユースケースを紹介する。

脚注
注1)非代替性トークン(NFT)の世界市場:規模、シェア、成長分析-タイプ別(物理資産、デジタル資産)、用途別(収集品、美術品)、最終用途別(個人、商業)-産業予測(2023年~2030年)

業界別主要事例・ユースケース

図表2:業界別の主な事例・ユースケース

【アパレル・小売業界】
➤NFT販売による収益化:Louis Vuitton、GUCCI、Tiffany&Co.など
➤ファンのエンゲージメント強化:Nike「.SWOOSH」
アパレル・小売業界におけるNFT活用事例としては、多くのハイブランドがNFT業界に参入している。Louis VuittonやGUCCI、Tiffany & Co.などは、自社ブランドのNFTアイテムを作成・販売し、これによる収益化を試みている。一方で、NIKEはNFTスニーカーなどの販売だけでなく、独自のweb3プラットフォーム「.SWOOSH」を運営している。このプラットフォームでは、デジタルコレクションのリリースやコミュニティを通じたNFTの作成が行われ、所有者向けのフィジカルアイテムの事前注文やデザイナーとのコミュニケーション機能が提供されている。NIKEは、デジタル空間の普及を意識しつつも、ファンとブランドのエンゲージメント強化を図るため、将来に向けた戦略的アプローチを取っている。

【不動産業界】
➤不動産宿泊券の分割所有:Not a hotel
不動産業界でのNFTの代表的な事例の1つに、「Not a hotel NFT」が挙げられる。これは、郊外の高級別荘を日単位で利用できるメンバーシップサービスであり、NFTを購入すると、47年分のランダムな宿泊権が得られる。2年目以降の宿泊日は同じ日だが、宿泊先は毎年ランダムに変更される。また、日程が合わない年があれば、その年の利用権を販売することで利用者は、収益を得ることができる。この仕組みにより、事業者は別荘建設コストを早期に回収できるメリットがある一方、利用者は繁閑期の影響を受けず、リーズナブルな価格で非日常を体験できるメリットがある。同様の仕組みは高級不動産だけでなく、高級車など他のアセットでも採用されています。これらの事例はNFTとしての先進性や事業合理性だけでなく、シェアリングエコノミーの観点から既存の施設を最大限に活用する効果的な例であると言える。

【エンターテインメント・ゲーム業界】
➤チケットNFT:複製・転売防止、ファンとのロイヤリティー向上
➤Game-Fi:金融要素をエンターテインメントに組み込んだ新たな市場
エンターテインメント業界では、チケットNFTの事例が挙げられる。これまでのデジタルチケットでは複製や転売が問題視されてきたが、NFTの特長を活用することで転売防止だけでなく、アーティストなどのファン証明によるロイヤリティー向上などの新たな可能性が探られている。
同様に、ゲーム業界では、Axie InfinityやSTEPN、HEAL-ⅢなどのGame-Fiの事例が挙げられる。これらのサービスは、NFT化されたデジタルアイテムによってトークンを獲得し、その価値を高めることで、金融要素をエンターテインメントに組み込んだ新たな市場を形成している。Game-Fiを金融視点で語れば、NFT化されたデジタルアイテムによってトークンを稼ぐ「インカムゲイン」に加え、NFTの価値を高めることで売却時の「キャピタルゲイン」を得る投資的要素をゲーム体験に取り入れているということにある。これにより、新たなユーザー層をゲーム市場に取り込み、さらなる発展が期待されている。

【広告業界】
➤トークングラフ:ウォレット内のNFTからユーザー属性を把握
➤web3サイネージ:広告研の小口化による収益増加、承認欲求の充足
広告業界におけるNFTの事例として、トークングラフ・マーケティングが挙げられる。NFTは通常、ユーザーのウォレットに保管され、その内容は第三者が閲覧可能できる(特長2)。この特性を利用し、事業者はユーザーの属性を把握し、クーポンやキャンペーンなどのマーケティング手法に活用していくというのが、このマーケティング手法である。さらに、同じ特性を利用することで、利用しないクーポンの転売を可能にし、それによるユーザー同士の繋がりから新たなビジネスの可能性が検討されている。
また、別の事例として、イベント会場などでのデジタルサイネージをweb3化する取り組みもある。具体的には、デジタルサイネージを特定のウォレットアドレスに紐づけ、そのウォレットに格納されたNFTデータが表示される仕組みである。これにより、事業者はライブ会場などに設置されたデジタルサイネージの枠を小口化して販売し、新たな収益化につなげることができる一方、ファンは自身のコレクションを表示することで承認欲求を満たすことができる。

【インフラ業界】
➤参加型設備維持:保有設備の点検保守業務をインフラ愛好家により一部代行
最後に、インフラ業界における事例を紹介する。インフラ業界は、保有設備の点検・保守による維持管理が重要な業務になっているものの、高齢化や人材不足により、担い手不足が大きな課題になっている。東京電力パワーグリッドは、この課題に対し、「消費者による点検保守代行」を発表した(注2)。
鉄柱や鉄塔には、鉄道のようにそれ自体を愛するコアなファンが多く存在し、美しい夕暮れや晴天を背景に鉄塔を被写体に写真を撮影し、それをコレクションにしている。このようなコアファンの活動を保守点検の一環として活用しようという、野心的なプロジェクトが同社から発表された。撮影頻度(点検頻度)や撮影方法(点検箇所)など、点検としての品質を確保するために、従来の保守点検費の一部をユーザーに還元するというGame-Fiの要素も取り入れられていると聞く。2024年のリリースとのことではあるが、担い手不足に直面するインフラ業界において、新たなアプローチがどのように受け入れられ、業界の将来にどのような影響を与えるかが興味深いところである。

脚注
注2)電力アセットを活用した参加型社会貢献コンテンツの検討を目的とした覚書の締結について

金融ビジネスにおける活用方法

ここまで、多様な産業におけるNFTの活用事例を紹介してきた。これらを踏まえ、最後に、金融ビジネスへの活用方法を検討していく。
NFTは、これまで価値を持たせることが難しかったデジタルデータに、様々な価値を付与できる技術である。価値を、仮に経済的価値と非経済的価値に分類すると、それぞれに対し、金融ビジネスへの活用が考えられる。

経済的価値の観点での活用は比較的容易に想像がつきやすい。保険業に関連するところでは直接的に、新たな保険の対象としてとらえられ実際にアートNFTなどを中心にその盗難等を補償する保険が登場している。また、銀行業に関連するところでは、NFTを担保に法定通貨を融資する事例も登場している。また、前述の例では、Not a Hotel NFTが、今後、新たな担保資産や保険対象として位置付けられる可能性も考えられる。また、エンターテインメント業界でみたGame-Fiの事例では、ゲーム内のアイテムをトークン化することで、経済的な価値を生み出す試みが行われている。このようなゲーム内経済の発展は、与信や資産担保といった金融サービスの新たな市場を生み出す可能性を秘めていると考える。

では、非経済的価値の観点ではどうだろか。NIKEの「.SWOOSH」の様に、コミュニティ育成、ファンとの関係性強化といった取り組みが、金融ビジネスへどのように関連してくるのか。エンターテインメント業界でのチケットNFT、アパレル業界でのNFT活用やコミュニティ形成は、ファンへのロイヤリティー向上や独自価値の創出に繋がることが期待されているが、このような価値の創造は、金融サービスにおける与信や担保にも影響を及ぼす可能性があるのか。これらの問いに対して、筆者は、二つの方向性を考える。
一つは、金融機関がこれまで文字通り「金(=経済的価値)」を「融」通してきたように、非経済的価値という新たな価値を融通する機能を提供する方向性だ。例えば、NFTを所持するユーザーのコミュニティ参加度合いや忠誠心を統計的に分析し、それを他サービス利用の条件として活用する等の様に、お金では買えない価値に着目した新たなビジネスモデルを構築する可能性がある。
もう一つの方向性は、こうした非経済的価値の創造や融通は、ゲーム会社やアパレル事業者に任せ、伝統的なフィアット経済との連携に徹するという方向性だ。
web3に参入している企業の多くは、デジタル化された価値に基づくトークンエコノミクスの構築に取り組んでいる。自社が発行する様々なトークンを使いながら経済圏を創り上げ、金融的な事業を進める構想だ。例えば、これまでのゲーム各社は、広くユーザーを集めた上で、広告収入とコアユーザーによる課金でビジネスを創っていたが、これからは、ユーザー同士のトークン取引や、トークンに基づく金融的サービス(与信や為替)による手数料ビジネスへと、ビジネスモデルを変革する可能性もある。
この時、金融機関は、こうした事業者をサポートする形で対応していくというのが、この方向性である。具体的には、デジタル上のトークン経済圏と、フィアット経済圏の仲介役(架け橋)として、積極的にデジタル市場に既存の金融資産を融通したり、金融機関がこれら事業者のアライアンスオーナーになったりする等である。これにより、デジタル市場が成長し、その成長の恩恵を受けて、フィアット経済圏も拡大するというストーリーを描くことである。この実現のためには、トークンエコノミクスやトーク内ゼーションに対する理解やリスク把握、他業種のコミュニティやサービスの評価・アセスメントができる人材の獲得・育成等が必要となる可能性もある。

このように、金融ビジネスにおけるNFTの活用方法を妄想も含め考えてきたが、ただ一つ、確実なことは、以上で示したいずれの方向性においても、web3というテクノロジーがもたらす新しい社会や暮らしの発展に、既存の金融機関が果たす役割は大きいという事だ。

本稿は、筆者登壇セミナーの一部である。本内容を含めweb3と金融業界の関わりについて興味がある方は、下記より詳細をご覧頂きたい。

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寄稿
アビームコンサルティング株式会社
金融ビジネスユニット シニアマネージャー
森田 直樹 氏
大手SIerを経てアビームコンサルティングへ参画。主に金融機関に対する新規事業開発等を支援。近年は、スタートアップとの共創プロジェクト等をリードする傍ら、web3やメタバースに関するコンサルティングサービスや、自社でのPoC活動に注力。
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