- SBIグループのAI・データ利活用における組織戦略
- キーエンスの高収益を支えるデータ活用法と金融機関での活用事例
- お客様の声(VOC)のリアルタイム活用によるデジタルカスタマーサービス実現~SBI証券が目指す次世代お客様対応とは~
- 金融業界におけるWebサイトのユーザー体感データを最大限活用するには?
- DX時代のデータ統合~利便性とガバナンスを両立し、コストも最適化する新しいデータ統合手法~
- セブン銀行のチャレンジ~新サービスへのAI・データ活用 推進方法と着眼点~
SBIグループのAI・データ利活用における組織戦略
- 基調講演
【講演者】
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SBIホールディングス株式会社
社長室ビッグデータ担当
次長佐藤 市雄 氏
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【講演者】
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社長室ビッグデータ担当
アシスタントマネージャー鍋倉 由樹 氏
SBIグループは設立から20年を経過し、グループ会社は340社、従業員数は1万人に迫る規模となっている。約3,000万件の顧客基盤に対して適切なコミュニケーションを取り、より良いサービスを提供することが、我々の主なミッションだ。AI活用の目的は「顧客中心主義」を徹底することが目的である。SBIグループ事業構築の基本観の1つであり、創業当初から注力している点だ。
SBIグループのビッグデータ活用は2012年に始まった。最初の3年間はデータの蓄積がメインであったが、2016年からは実際の業務におけるAI活用が本格化している。活用事例は保険分野が多いが、多種多様な顧客の深い情報を利用できることが理由だ。その他にも金融サービスやデジタルマーケティングでも活用されている。
データは早期に活用の意思決定をすることが重要だ。機動的な実行部隊として、CoE組織:横断的専門組織が一般的になりつつある。当社では社長室直下にビッグデータ担当が置かれ、企画担当やデータサイエンティスト、エンジニアなどのメンバーで構成されている。データの収集・整備、分析基盤の構築、データ活用に向けた法的整備などが主な取組内容だ。さらに各事業会社にもビッグデータ担当を置き、グループ横断的な意思決定や最適化を行っている。
時間経過とともにデータ活用のプロジェクトが増加し、現在は80程度となっているが、データサイエンティストの不足が課題だ。そこでローカルCoE組織によるAI活用自走化を推進している。これまで社長室のビッグデータ担当で全ての分析業務を担ってきたが、今後は事業会社のローカルCoE組織でAI活用を進め、社長室ビッグデータ担当はその支援に回る。ローカルCoE組織においては市民データサイエンティストを育成し、自ら案件を回していくのが将来像だ。
AI活用自走化における教育は、市民データサイエンティストに加えて事業会社全体も対象とする必要がある。AIプロジェクトのフローにおいては、各立場のメンバーがそれぞれの役割を果たす。そのために必要な要素は、テーマの見極め、AIへの適切な期待値、データサイエンティストスキルの3点だ。AI活用の成功パターンは、組織のコンセンサスを得つつテーマを精査し、現場に寄り添いながら具体的にプロジェクトを進められる状態である。
事業会社全体に必要なスキルは、概要やイメージとしてAI・データ活用が理解できること、組織横断的なKPIと業務理解、問題提起の3点だ。当社ではAI勉強会として、AIによってできること、具体的な活用事例、機械学習ツールなどの講義を開催している。またテーマ創出ワークでは、専用のワークシートを活用して、KPIや課題・テーマを整理する。収益性や実現可能性の観点でテーマを精査し、優先順位付けを行う。リスクが低く、かつ高い収益性が見込まれるテーマが最優先となる。
市民データサイエンティストに必要なスキルは2つあり、データサイエンティストへの意欲関心や素養、ツールを利用してデータ準備からAI開発・検証・運用をある程度できることだ。これらのスキルを身に着けるため、全社向け勉強会や座学・実践トレーニングを実施している。
本講演のまとめとして、AI活用を自走化するには、 企業・組織全体的なAIの理解と市民データサイエンティストのスキルアップの両方が必要だ。企業・組織全体は、筋の良いテーマを見極めることと、AIへの適度な期待を持ってもらうことが重要となる。市民データサイエンティストはデータサイエンティストのレビューを受けつつ、トライ&エラーを繰り返しながらスキルアップを目指していく。
キーエンスの高収益を支えるデータ活用法と金融機関での活用事例
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【講演者】
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株式会社キーエンス
データアナリティクス事業グループ峯尾 翔太 氏
当社は、1974年の設立以来、FA用センサーをはじめとする高付加価値商品を通じて、製造業の現場の生産性・品質向上に貢献してきた。自動車や半導体、電子・電気機器、通信、機械、化学、薬品、食品など、製造業のあらゆる分野に25万社以上の顧客を持つ。過去25年間、平均10%を超える成長を遂げ、50%を超える営業利益率を支えているのがデータ活用にほかならない。
キーエンスは、以前から企業活動を科学的に捉え、合理的な判断をおこなうことを心掛けてきた。しかし、データの質や量が増えるつれ、特にビジネス部門においてデータを扱う難しさは増してきている。それをどのように解決するか。見えてきたのは、仮説を多くつくり出し、ビジネス課題との関係性を明示すること。そうすることで、施策をデータから見つけられるようになった。その経験を基に、ビジネスユーザーがプログラムなしでデータからビジネス課題の因果を発見し、施策を見つけられるように『KI』という分析ソフトを自社開発して活用している。
KIは、現在、伴走型の支援サービス「カスタマーサクセス」とともに外部に提供し、幅広い企業で活用されている。金融分野でも、みずほ銀行様といったメガバンクや都市銀行、岩手銀行様をはじめとする地方銀行および信用金庫、さらには野村證券様などの証券会社や、SMBC日興証券様・エムエスティ―保険様などの保険会社など、広範なユーザーを獲得している。
例えば、投資信託の販売、消費性ローンや事業性融資を提供するための顧客分析、店舗統合時の離脱顧客の予測など、テーマに合わせたアドホックな分析、渉外担当者の底上げを目指したハイパフォーマーの営業標準化分析などに役立てられている。
ここからKIのデモンストレーションをご覧いただく。専門的なスキルを持たないビジネスユーザーでも使いこなせることを前提に開発されたKIは、非常に高い操作性を誇っている。
例えば、金融機関ならCIF(Customer Information File)番号や預金残高などを含む顧客の属性データ、口座の入出金データ、運用商品にかかわる購入履歴データ、そして顧客のWeb上での行動履歴などをKIに取り込めば、KI がデータの内容を自動的に認識して、様々な分析テーマを自動的に提示する。ユーザーは、そこから任意のものを選択して、AI/機械学習技術を駆使した分析をすぐにおこなうことができる。
どんなお客様が投資信託などの金融商品を購入する可能性が高いか、預金残高や口座の入出金の特徴に応じた確率を定量的に示すなど、KIを通じてインサイトを簡単に得ることができる。
また、分析結果は簡単な操作で各営業店に配信できる顧客ターゲットリストにすることも可能。分析を即座に施策につなげていくことができる。ある金融機関は、リストの有力顧客にどれだけアプローチしているかを、営業担当者の評価に組み込んでいる。
いち早くデータの重要性とビジネスユーザーの課題に気付き、それをAI/機械学習技術を駆使した分析で進化してきたKI。既に現場での成果が証明されたツールを活用できるメリットは大きい。
また、当社が分析ソフトウェアKIとともに提供する「カスタマーサクセス」は、データサイエンティストなどによる伴走型の支援プログラムだ。単なるツール提供にとどまらず、他社事例やキーエンスの経験を踏まえたデータ活用ノウハウを活かしたサポートが、多くの金融機関様の支持を得ている。また、eラーニングによるデータ分析育成支援なども準備されており、データ人材育成の観点でも評価をいただいている。金融機関がデータを成長につなげるための最短距離のアプローチとしてほしい。
株式会社キーエンス:https://www.keyence.co.jp/ki
お客様の声(VOC)のリアルタイム活用によるデジタルカスタマーサービス実現
~SBI証券が目指す次世代お客様対応とは~
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【講演者】
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カラクリ株式会社
取締役 VP of Sales麹池 貴彦 氏
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【講演者】
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株式会社SBI証券
カスタマーサービス部
デジタルコミュニケーション課長飯島 正二 氏
当社はカスタマーサービスの力でビジネスを前進させるテクノロジーカンパニーだ。CS自動化・最適化ソリューションの『KARAKURIシリーズ』を提供している。メンバーはAIのエンジニアが非常に多く在籍し、主要商品にはチャットボット、smartFAQ、有人チャットツールなどがある。これまでSBI証券様や三井ダイレクト損保様など、大企業を中心に顧客対応のDX推進をサポートしている。金融業界でもチャットボット活用が進んでいるが、本日はこれまでと少し違う、会話データを活用した新たな取組みについてお話しする。
自社の調査によると、金融系サービスについて疑問や不安を感じたとき、71.4%のユーザーは問い合わせをせずにサイトを離脱してしまう。不満を持ったが問い合わせをしなかったユーザーであり、我々はサイレントカスタマーと呼んでいる。問い合わせを行わなかったユーザーのうち、45.6%が他のサイトや店舗で再度購入したという調査結果もある。
さらにメルカリ様のデータによると、悪い体験をして問い合わせをしたお客様が最も継続利用率が高い。自社の調査に戻ると、問い合わせをしたユーザーの44.6%が再購入をし、問い合わせ対応がスムーズだった場合は76.2%のユーザーが再購入を希望している。これらの調査結果から、適切な問い合わせ対応をすることによって顧客の流出を防げることが分かる。さらに、契約・継続意向が高まり、LTV(Life Time Value)の最大化につながるのだ。
サイレントカスタマーはどれだけの人数がいるのか。当社はグッドマンの法則を基に、月間の問い合わせ人数の20倍と推測する。月間に1,000人の問い合わせが来るなら、2万人がサイレントカスタマーだ。LTVが5万円の場合、5万円×2万人で10億円の機会損失が発生していることになる。
サイレントカスタマーを救済するには、ベストプラクティスを蓄積したうえで、守備範囲の拡大、積極的アプローチが鍵となる。ベストプラクティスの蓄積において、たとえばチャットボットの場合はオンライン上の応対品質の向上が必要だ。当社顧客のメルカリ様の事例では、チャットボット利用者は12倍に達し、日々の改善で高い解決率をキープしている。
守備範囲の拡大とは、顧客が問い合わせしやすいチャネルの提供だ。リアルタイムのコミュニケーションやセルフサービスチャネルの導入に加え、従来のチャネルも含めたマルチチャネルサポートも求められる。当社はAIセルフサービスを起点とした問い合わせの導線を提供し、チャットボットやメールだけでなく人が対応すべきケースもカバーできる。チャネルが増えれば運用負荷が増加するが。当社サービスでは1つのナレッジ・データソースから複数チャネルの運用管理ができる。
積極的なアプローチとして、問い合わせ行動や行動データなどを基に、どこでどんなボトルネックが発生するかを予測。発見したボトルネックに対し、より適切な接客を実現できる。
ここからSBI証券様の事例をご紹介する。ベストプラクティスの蓄積として3,000問を超えるQAデータ構造の最適化や、お客様からの問い合わせデータからのチャットボットを改善に取り組まれている。守備範囲の拡大に関してはQAデータを基盤としてチャット・FAQ・お問い合わせフォームに活用されている。FAQページの検索体験が向上し、対応満足率の向上やFAQの問い合わせの削減といった効果が生まれた。またリアルタイムのサジェスト機能によって、自己解決による離脱率が向上した。積極的なアプローチとしてQAと顧客接客ツールの連携対応により、サイレントカスタマーへ能動的にアプローチし、高いQA満足率につながった。
カラクリ株式会社:https://karakuri-ai.co.jp/
金融業界におけるWebサイトのユーザー体感データを最大限活用するには?
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【講演者】
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アカマイ・テクノロジーズ合同会社
シニア・ソリューション・エンジニア金児 仁史 氏
新型コロナウィルスの影響により、金融業界でも非常に大きな変化が起きている。利用者側の変化として、ネットサービスの新規利用、 ネット手続きを利用する個人顧客数やスマートフォンアプリの口座開設数が増加している。さらに働き方にも変化があり、対面営業を重視していた大手生命保険会社も営業方針を見直し、ネット経由での顧客との関係構築に舵を切った。
一方でオンライン化の流れには注意点もある。アメリカでは新型コロナ対策の給付金の振り込みをユーザーが確認するため、複数の銀行でアクセスが殺到し障害が発生した。今後もオンライン上でのアクセスは増加することが予想され、Webパフォーマンスの管理がより重要性を増している。
Webパフォーマンス改善がビジネスインパクトをもたらす事例は多数ある。GoogleやAmazonの事例では、ページのロード時間を短縮すると離脱率の改善や売上増につながった。また米国のクラウド会計ソフト会社のIntuitは、1秒ごとのパフォーマンス改善でコンバージョン率が2~3%改善した。
Adobe社の調査によると、ページの読み込みが遅いと最もイライラすると回答したユーザーが32%、18~34歳では41%に及ぶ。ページの表示時間の遅さは、ブランド力低下につながる懸念があるのだ。金融機関も例外ではなく、当社の『mPulse』というWebパフォーマンスのモニタリングソリューションのデータを見ると、金融機関でもWebパフォーマンスが低下すると直帰率が悪化することが分かる。
ここ数年のWebサイトの変化として、コンテンツはよりリッチになっている。高画質な画像やファイルにより、Webサイトのサイズ・画像サイズはともに上昇している。また、サードパーティー(自社ドメイン以外)のコンテンツは、SNS・広告・データ分析といった多彩な機能をWebサイトで提供しているが、一方でパフォーマンスの管理が複雑になっているのが課題だ。ある大手金融機関のドメイン毎のリクエスト割合を集計したところ、サードパーティーのコンテンツが76.0%と大半を占めていた。
Webサイトのパフォーマンス指標は多様だが、今後はCore Web Vitalsが重要となる。具体的には3つの指標で成り立っており、LCP(閲覧ページの最大コンテンツの表示時間)、FID(ユーザー入力に対して応答するまでの時間)、CLS(累計レイアウトの移動を示すスコア)だ。75パーセンタイル値でLCPは2.5秒以内、FIDは100ミリ秒以内、CLSは0.1以下が望ましいとされる。
Googleによるとこの基準を満たすサイトでは、離脱率がニュースサイトで22%、ショッピングサイトでは24%改善したとの報告がある。さらにSEOにも関連があり、2021年5月より検索アルゴリズムにも導入される予定だ。これら3つの指標がどうなっているのか、今から確認してみてはいかがだろうか。独自調査では、現状の金融機関のCore Web Vitalsを見ると、CLSに関して企業間で大きな差があり、対策ができていない企業も多いのではないかと想定している。
Webサイトの分析ツールは山ほどあるが、3種類を紹介する。ほとんどの企業が利用するのがGoogle Analyticsなどに代表されるマーケティング分析ツールだ。Webパフォーマンス分析については、シンセティックモニタリングとリアルユーザーモニタリングがあり、シンセティックモニタリングはサーバが決められた箇所を計測するツール、リアルユーザーモニタリングは実ユーザーの体感データを測定できるツールだ。
当社にはリアルユーザーモニタリングの『mPulse』というパフォーマンス管理ツールがある。パフォーマンスデータとコンバージョン/収益データを掛け合わせることで、パフォーマンスデータとビジネス指標の関係性を可視化できる点が特徴だ。Core Web Vitalsもリアルタイムで確認でき、ユーザー体験やビジネス成果の改善ポイントの知見が得られる。当社には分析エンジニアも在籍しているため、データを活用した改善提案も可能であり、サイトのユーザー体験の向上のためにサポートしていく。
アカマイ・テクノロジーズ合同会社:https://www.akamai.com/jp/ja/
DX時代のデータ統合
~利便性とガバナンスを両立し、コストも最適化する新しいデータ統合手法~
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【講演者】
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Denodo Technologies 株式会社
プリセールス・エンジニア平井 孝典 氏
当社は1999年に創業し、20年間データ仮想化を専業としてきたソフトウェア・カンパニーだ。業種を問わず、グローバルで850社以上の企業でサービスを採用頂いている。2020年版フォレスターウェーブにて、データ仮想化のみを扱う専業ベンダーとしてエンタープライズ・データ・ファブリックのリーダーに選出された。またガートナーのデータ統合ツールにおけるマジッククアドラントにおいてもリーダーに位置付けられている。
20年前に当社は「データを複製せずになんとか統合できないか」という想いから、リアルタイムデータ統合・配信基盤の提供をスタートした。日経新聞のアンケートでは、データがあるが使える状態になっていない企業が35%に及ぶ。総務省の調べでも、データ収集・管理に係るコストの増大が、産業データの取扱いや利活用の障壁となっていることが分かる。データ仮想化はこれらの課題の解決に有効なソリューションとして、非常に注目されているテクノロジーだ。また、データ主導型社会では「つながること」と「全体最適」が重要であり、データ仮想化がDX(デジタルトランスフォーメーション)の基盤として認識されるに至った大きな理由である。
データ仮想化のコアとして、データ統合とデータマネジメントがある。さらに論理データレイヤであること、リアルタイム配信ができるという特徴が加わる。データ仮想化によって、データソースとデータ利用者の間にデータ仮想化層が入ることにより、不要なデータコピーやバケツリレーがなくなる。データをコピーしないため、ユーザーはデータをリアルタイムで利用可能だ。これに対しETLはDBを抽出・変換して別のDBとするために利用するもので、データ仮想化とは棲み分けができる。
データ仮想化は成熟したソリューションであり、ガートナーの調査対象企業の35%以上が使用している。またガートナーは、2022年までに企業の60%はデータ仮想化を採用するだろうとの予測も発表した。
ここからはデータ統合にフォーカスしてお話しする。データ統合にはコンソリデーション、フェデレーション、インテグレーションの3種類のモデルがあるが、それぞれ一長一短がある。データ仮想化はインテグレーションの一種だが、物理統合ではなく論理的な統合を定義する。またフェデレーションの進化系でもあるが、アナリティカルなユースケースにも対応可能だ。データ仮想化は品質・コスト・納期・柔軟性のいずれにおいても欠点がなく、バランスの取れたモデルと言える。
データ仮想化により、物理的な複製なしで論理的にデータを統合すると、短期間で高品質なデータ基盤を構築することができる。より早く、より正確にビジネスへ適応する柔軟性を備えることが可能だ。全社的なガバナンス・セキュリティの実現も容易で、ITコストの最適化も図れる。なおデータ仮想化と従来の方式は直交する技術であり、お互いに補完関係にある。仮想化を導入しても、従来の物理的なDBが不要になるわけではない。
最後にデータ仮想化のユースケースをいくつかご紹介する。BIに代わる汎用的なデータ提供層や、データへのアクセスポイントとガバナンスの一元化だ。動的で行列レベルの詳細なアクセスコントロールも可能となり、ユーザーによって見える範囲を細かく管理できる。その他、仮想的なデータマートの構築、段階的なシステム移行、アプリのモダナイゼーションなどにも役立つ。
データ仮想化は、仮想統合か物理統合かの二者選択だけではなく、物理統合のみで進めるか、物理統合+仮想統合で進めるかも選択しに含め、最適化を図るべきだ。データ仮想化は必須の技術になりつつあり、前向きにご検討いただきたい。
Denodo Technologies 株式会社:https://www.denodo.com/ja
セブン銀行のチャレンジ
~新サービスへのAI・データ活用 推進方法と着眼点~
- 特別講演
【講演者】
- 松橋 正明 氏
専務執行役員
セブン銀行のデータ活用として、本日は我々がチャレンジしているアクティビティについて紹介する。具体的には(1)チャレンジャーバンクとしてのセブン銀行の取り組み(2)新たなスタイルを目指したAI+データ活用の現状(3)組織運営の工夫について紹介する。
まず(1)チャレンジャーバンクとしてのセブン銀行の取り組みについて紹介する。セブン銀行の新たな取り組みとして、直近では次世代ATMの配置がある。ATMはセンターシステムや保守などと情報通信しながらタイムリーに動く必要があるため、IoTの技術をふんだんに活用している。また、現金精査の業務をなくし電子突合をする現金運用の革新を行い、現金を数えるのは年に1回程度に抑えるプロセス改革を行っている。
当社はサービスの独自性も重視しており、海外カードへの対応、在住者向けの送金/デビット機能、バリアーフリーなど、社会課題解決につながるユニークなサービスも展開している。直近では、スマホATM取引、新アプリeKYC、ペイメントサービス、マイナンバー対応などの新サービスも実装している。最近は多角化も進めてきており、セキュリティ関連の不正検知/本人確認事業(ACSiON)、外国人専用ローンに対応した外国居住者事業(SEVEN GLOBAL REMIT)を展開している。
オープンイノベーションとして、社会変革を起こしている異業種・異分野の技術やサービスとの連携も進めている。具体的には給料や報酬の受け取り、在住外国人のビザ管理やバイト・就労支援、投資サービスがある。また、セキュリティ・AIといった裏側のテクノロジーも、スタートアップ企業様と連携を進めている。データ系企業との連携が多いのが最近の特長だ。セブン銀行はTech企業として外部連携を意識し、内製にこだわらずお客さま視点を重視している。
次に(2)AI・データ活用の取り組みについて紹介する。
あらゆる産業は再構成されていくので、自己改革を進めるようにしている。我々は20年前からデータ活用を進めてきており、その一例がATMの紙詰まりによる障害の改善だ。ゴムの材質を変えるためのデータをエンジニアに届け、データ活用によるATMの改良を続けた結果、ATMの紙詰まりは劇的に減少した。
AIによる機械学習は破壊的な技術である。当社は通常、社会課題に対するウォンツがあり、そこから技術を探してくる流れであった。しかしAIはウォンツが生まれる前から先に技術面を進めておかないと淘汰されてしまうと考え、研究を始めた。現在は、現金需要予測、金融犯罪対策、定期点検レスなどを実装している。ATMの定期点検レスについては、数百台保守しないATMで検証し、必要なデータ要素を次世代ATMにフィードバックして実現した。
現金需要予測については将来お金の使い方が変わると予測し、ホワイトボックス型AIを利用。現場投入は精度を高くしてから行うよう求められることが多いが、トライアル&エラーで高度化するものと考えている。それによって、現場と一緒にAIを育てることができる。AIや予測では、予想どおりの答えが出ないのが常であり、大きな成果を生むには数年越しの対応が必要になることもある。今あるデータにこだわらず、本来あるべきデータを作ることが重要だと考える。またAIはリリース後が勝負であり、開発後のチューニングも重要だ。最終的にはAIに最適化するためのデータを作ったものが勝つと認識している。
当社はデータ活用3rdステージが始動し、内製化を進めている。データを活用した独自商品を作りたい想いで専門チームを立ち上げた。最初に行ったのが「ATM設置候補探索」で、人口や消費データなどを分析することで、今まで気づかなかったポテンシャルの高い場所を見つけることができた。また、お客様からの明示的な同意を必ず取得する前提で、電子マネーnanacoの利用状況をローンサービスの与信審査に活用する実証実験を開始した。
最後に、これらを推進するための(3)組織運営の工夫について紹介する。
まずAI・データラボをイノベーションチーム内に設置した。データサイエンティストは1名のみで、異なるスキルと価値観を有するメンバーで、アメーバ運営を推進している。実際にやってみて分かったのが、たくさんのテーマを回していくためには社内コンサルスキルが最も重要であるということである。メンバーは、ビジネス理解、データ準備/分析、提案書にまとめる総合スキルを上げる取り組みを毎週行っている。立ち上げ期は、小規模テーマを1人でこなし、全体スキルを身につけるように心がけている。いかにドメイン知識を短時間で得るか、ビジネス側でデータを使って何がしたいかを考えていく点、分析が目的にならないようにする点、データ準備力等が重要である。
メンバーには「期待を超える」よう現場指導している。ユーザー側のリクエストを上回ることで初めて満足を得られるということを持論としており、データを活用すればもっと高みにいけるのではないか、というアプローチを大事にしている。
分析ツールは固定せずに頻繁に入れ替えている。ツールは各自好きなものを使い、なるべく色々試すようにしている。同じツールを使い続けると習熟度は上がるが、最新の技術に触れなくなる懸念があるためだ。ツールを入れ替えることで、環境を変えることによるセキュリティ等の付随的な知識を付けるようにしている。現在一番試しているのはNEC様の『dotData』で、データ加工からモデル作成まで一気通貫でできるツールであり、飛躍的に生産性を高める期待がある。
新しい取り組みは組織を跨ぐため、ミッションにこだわっていては時代に取り残されてしまう。暴走気味に動くチームを作って試行錯誤し、エンジニアを自走させ早く実現することが重要だ。そして、オープンに活動して社内連携を深めていく。リーダーは自ら考えて勘を働かせ、柔軟に軌道修正することが求められる。どう必要なデータを作り出し、データの再編を行うかがゴールへの近道だと考えている。失敗を許容し、チャレンジできるカルチャーが大事である。