2024年3月7日(木)開催 FINANCE WEBINAR「金融業界のデジタルマーケティング最前線」

2024年3月7日(木)開催 FINANCE WEBINAR「金融業界のデジタルマーケティング最前線」

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2024年3月7日(木)セミナーインフォ主催 FINANCE WEBINAR「金融業界のデジタルマーケティング最前線」が開催された。デジタル化が急速に進む中で、金融機関におけるオンラインでのサービス提供や情報発信がますます重要になっている。飽和した金融リテール市場において、顧客接点をより強固にし、収益を高めるためにデジタルマーケティング戦略に積極的に取り組む金融機関が増えている。本ウェビナーでは、金融業界におけるデジタルマーケティングの先進的な取り組み事例として、株式会社三菱UFJ銀行と株式会社横浜銀行より、オンラインを通じた顧客コミュニケーションにおける取り組みやデータマーケティングについてご紹介いただくほか、先進企業より、デジタル上での顧客接点の課題や顧客体験の改善についてポイントをご紹介いただいた。

  1. MUFGにおけるデジタルマーケティングを通じた顧客コミュニケーション変革
    ~現中計での取組みと新中計に向けた課題~
    株式会社三菱UFJ銀行 鎌田 克志 氏
  2. 顧客起点のオンライン体験で非対面チャネルを強化する方法
    株式会社Sprocket 深田 浩嗣 氏
  3. スマホアプリ「はまぎん365」を中心とした横浜銀行のデータマーケティング戦略
    株式会社横浜銀行 小糠 純 氏

MUFGにおけるデジタルマーケティングを通じた顧客コミュニケーション変革
~現中計での取組みと新中計に向けた課題~

基調講演

【講演者】
株式会社三菱UFJ銀行
デジタルサービス推進部 データ・マーケティング室長
鎌田 克志 氏

<「世界が進むチカラになる」ことを目指して>

コロナ禍を機に、来店客数の減少、インターネットバンキングの利用拡大が進んだことで銀行を取り巻く環境は一変。デジタル接点を軸とした顧客コミュニケーションを再構築していくことが迫られている。こうした背景を踏まえ、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)の中核会社の1つである三菱UFJ銀行では、デジタルマーケティングを活用しながら、各種取組みを進めている。

MUFGは2021年4月に事業活動の指針となるMUFG Wayを定め、グループのパーパス(存在意義)を「世界が進むチカラになる」と定義した。デジタルマーケティングもこのパーパスに基づいて戦略が組まれている。MUFG Wayを踏まえて策定した中期経営計画(2021~2023年度)では、デジタルトランスフォーメーション、強靭性、エンゲージメントという3つの経営方針に基づき、「金融とデジタルの力で未来を切り拓くNo.1ビジネスパートナー」を目指すことを掲げた。デジタルマーケティングの取組みも、この大きな戦略における一つのピースと位置付けている。

<デジタルマーケティングに取り組む前の環境認識>

振込の約6割、税公金の支払いの8割がデジタル上で実施されるほどインターネットバンキングの普及が進み、店頭に足を運ぶ顧客数は減少。さらに、超低金利・マイナス金利の長期化が進む中でネット専業銀行・新興フィンテック企業などの参入もあり、価格競争が激化した結果、利ざや手数料率は低下した。一方、プライバシー意識は世界的な高まりを見せ、改正個人情報保護法の施行に加えて、欧米のプライバシー規制も強化。3rd Party Cookieの制約などの技術的な動きも見られた。

こうした環境の中で、パーパスである「世界が進むチカラになる」ためには何をすべきかについて議論を重ねた結果、「お金の不安の解消を通じ、顧客エンゲージメントを向上」させていくという答えにたどり着き、その実現に向けて戦略の方向性として次の3つの柱を定めた。

■デジタル上でのコミュニケーション強化

■顧客軸でのLTV(Life Time Value、生涯収益)向上

■1st Party Data・オウンドチャネルの活用促進

<デジタルマーケティング組織の設置>

三菱UFJ銀行のデジタルマーケティングの取組みは「デジタルマーケティング組織の設置」「顧客ニーズの把握」「マーケティング施策の展開」という3つのステップに分け、時には複数のステップを同時並行させながら施策を進めてきた。

ステップ1では、2021年4月にデジタルマーケティングの専担組織「データ・マーケティング室」を組成。商品・サービスを横断しながらマーケティングとデータ分析を水平統合型でまとめる体制に転じた。

この組織の利点は、特定の商品・サービスにとらわれず、顧客視点で考えて意思決定する体制がとれることだ。商品・サービスごとに散在していたデジタルマーケティング人材を集結させたことで、スキルやノウハウが集約され、全体のレベルが底上げされるという相乗効果も生まれた。機動的な予算のリアロケーション、マーケティングツールの共用化など、業務の汎用化や運用効率向上を図れた点もメリットだといえよう。今ではパートナー企業を含め、総勢100名体制で日々デジタルマーケティングに取組んでいる。

<顧客ニーズの変化を把握>

次のステップでは、「エンゲージメント指標(KPI)」の設定や改善ポテンシャルを分析し、顧客ニーズを把握。顧客エンゲージメントを向上させるための指標を明らかにした。

「NPS(ネットプロモータースコア)」のもととなる推奨意向をベースに、取引と相関の高い指標を分析。特に重要視すべきは「ホームページの内容・わかりやすさ」「Eメール等での情報提供のわかりやすさ」だと分かった。

エンゲージメント調査は四半期ごとの実施を継続し、戦略施策の見直しに反映している。この3年間でエンゲージメント指標に上昇傾向が見られることから、取組みの成果が表れつつあると感じている。

<マーケティング施策の展開>

デジタルマーケティングを進めていく中で得たノウハウを生かし、WebセミナーやSNSなどを利用した「コンテンツマーケティング」、「One to Oneコミュニケーション」などを展開することで裾野を拡大。加えて「広告事業」を新規事業としてスタートさせ、BtoBtoCモデルへのビジネスモデルの転換も図っている。

<施策事例1:コンテンツマーケティング>

三菱UFJ銀行は2013年にFacebook、2015年にX(当時はTwitter)の公式アカウントを開設。さらに2022年3月からはインスタグラムの公式アカウントを開設し、幅広い層へ充実した金融情報を提供できる体制を構築した。

お金に関する情報を幅広く提供する窓口として、コラムサイト「アップユー」をリニューアル。狙いどおり「確定申告」や「新NISA」などのキーワード検索からの流入が増加し、年間約1000万セッションの規模感にまで拡大。SEO面での成果もあり、アシストコンバージョン数も着実に増加している。

コラムだけでは伝えきれないリッチな情報は、Webセミナーとして動画形式で配信。これまで15回のセミナーを開催し、今では最大1万人を集客できるプラットフォームにまで成長した。銀行単体での商品・サービスのみならず、グループ会社のソリューションを活用した幅広い金融サービスを対象とし、中にはセミナー参加者の約1割が商品購入に繋がる事例も出るなど、顧客満足度を高めるにとどまらず、グループベースでの事業成果にもつながっている。

若年層のリーチ拡大と金融リテラシーの底上げを図って、インスタグラムも活用。SNSならではの双方向性を通じて若者の声も収集している。アカウント開設からまだ2年弱でフォロワー数は約2万人まで増加。金融機関の公式アカウントとしてはトップ3に入る規模にまで成長している。

<施策事例2:One to Oneコミュニケーション>

One to Oneコミュニケーションは、顧客一人ひとりに適切なタイミングで必要な情報を届ける仕組みだ。従前から顧客ごとに適した情報提供には取組んできたが、よりきめ細かい対応を図るため、コミュニケーション種類の拡充を進めてきた。実績として、この2年半で2.5倍、数にして約1000本のコミュニケーションを実装または自動化している。

例えば、投資信託の取引に関するコミュニケーション例では、機械学習モデルに基づくスコアリングやホームページの閲覧状況等のデータをベースに投資信託の購入を検討している顧客をターゲティング。NISAや売れ筋商品の案内などから情報提供コンテンツへの誘導を図る。相場の変動で価格が乱高下した際には、長期投資を促すコラムをご紹介。積立取引で残高不足になったときには、翌月の振替日を通知するなど、丁寧なコミュニケーションで顧客の気づきを促している。

こうした、きめ細やかなシナリオを積み重ねた結果、コンバージョン数が4割増加したシナリオ、あるいはチャンレートが10%低下したシナリオなど、顧客の行動変容に繋がる実績も生まれ、顧客とのつながりは着実に濃さを増している。

<施策事例3:広告事業>

デジタルマーケティングのためのインフラを活かし、収益の多様化を図るための取組みとして、昨年1月から他社広告の配信事業「Bank Ads」をスタート。事業化にあたってはサイバーエージェント社とアライアンスを組んだ。まだ開始1年程度ながら銀行の持つ信頼性の高いデータを基にしたセグメンテーション、最大3300万人の顧客へのリーチ、銀行の自社媒体という希少性・信頼性もあり、すでに数十社から引き合いがきている。極端に多くの広告を同時配信することはできないが、ビジネスモデルの拡張を図る上で非常に重要な取組みになると考えている。

なお、広告事業の鍵となる顧客データは、広告主にも事業パートナーにも一切提供することはなく、三菱UFJ銀行が厳重に使用・管理するビジネススキームとなっている。

<新中期経営計画に向けた課題認識>

この3年間で三菱UFJ銀行のデジタルマーケティングは大きな変化を遂げ、顧客から一定の支持を得られたが、エンゲージメントを高めていくための取組みは終わらない。2024年4月からスタートする次期中期経営計画では「グループ総合力の発揮」「デジタルとリアル・リモートとの融合」「データ利活用の更なる高度化」の3つを課題認識している。

グループ連携による取組みは、MUFGと顧客の双方にとってメリットが大きく、Win-Winの関係を築けるだろう。さらに連携力を高め、様々な金融取引をMUFGにまとめたくなるような顧客体験を実現できるようにグループ総合力を発揮する施策を具体化させていく。

MUFGの強みはデジタルに加えて、リアルの店舗、コールセンターやオンライン相談などのリモートチャネルも同時に利用できる点にあると自負している。この強みをさらに活かすコミュニケーションを実現するために、デジタルのサービスとリアル・リモートとの融合を深めていく予定だ。

サービスの連携強化によりグループベースで顧客の声を収集し、データの利活用を高度化していけば、きめ細かいコミュニケーションが実現できる。データを活用した新規ビジネスの展望も見えてくるだろう。

外部のパートナー事業者の力も借りながら、これらの課題を一つ一つ実現していくことで、CX(顧客体験)の更なる進化につなげていく所存だ。