2024年3月7日(木)開催 FINANCE WEBINAR「金融業界のデジタルマーケティング最前線」


2024年3月7日(木)セミナーインフォ主催 FINANCE WEBINAR「金融業界のデジタルマーケティング最前線」が開催された。デジタル化が急速に進む中で、金融機関におけるオンラインでのサービス提供や情報発信がますます重要になっている。飽和した金融リテール市場において、顧客接点をより強固にし、収益を高めるためにデジタルマーケティング戦略に積極的に取り組む金融機関が増えている。本ウェビナーでは、金融業界におけるデジタルマーケティングの先進的な取り組み事例として、株式会社三菱UFJ銀行と株式会社横浜銀行より、オンラインを通じた顧客コミュニケーションにおける取り組みやデータマーケティングについてご紹介いただくほか、先進企業より、デジタル上での顧客接点の課題や顧客体験の改善についてポイントをご紹介いただいた。

目次

スマホアプリ「はまぎん365」を中心とした横浜銀行のデータマーケティング戦略

特別講演
【講演者】
株式会社横浜銀行
デジタル戦略部 マーケティング戦略室長
小糠 純 氏

<「はまぎん365」が誕生するまで>

「はまぎん365(サンロクゴ)」は、3代目の横浜銀行個人顧客向けバンキングアプリとして、2023年4月にサービスを開始。365日、いつでもそばに寄り添っていきたいという思いを込めたネーミングになっている。サービス開始直後は初期障害が発生するなど厳しい状況だったが、顧客の声を踏まえて改善に努めた結果、今ではアプリ利用者は105万人を数え、月間起動回数も6回程度と、よく使われるアプリに成長している。

初代の「残高照会アプリ」は、2015年12月にサービスを開始。対象機能をストレートに伝えたネーミングで、シンプルでわかりやすい機能も相まって利用者は順調に伸びた。やがてインターネットバンキングの機能をアプリでもできるようにして欲しいとの声が高まったことから、2021年1月から2代目の「はまぎんアプリ」にリニューアル。振込やカードローン業務を機能追加した。利用者数は順調に増え、100万人を超える顧客からの支持を得た。利用者が増えるにつれて多種多様な要望が生まれ、100万人の顧客と接点を持てるチャネルは営業に生かすべきという行内の声も強まり、アプリ上でのマーケティング活動を本格的にできるアプリへとリニューアルする運びとなった。

それまでの「はまぎんアプリ」も十分高い評価を得ていたが、システム上の制約に阻まれて柔軟な拡張ができないという物足りなさから、自社開発へと舵を切った。クイックに改善できて拡張性のある仕組みにしたいという狙いから「はまぎん365」はスクラッチで開発している。

<顧客の声によって進化するアプリ>

「はまぎん365」の強みは、パーソナライズしたOne to Oneコミュニケーションができるマーケティング機能だ。ただし、現状で対応しているのは基本的な業務機能が中心で、店舗機能を全て代替できるまでには到達していない。サービス開始以降、顧客の声を聞きながら、毎月1回以上は機能改善を重ねている。

前作アプリから機能を大幅に強化して、ボタン配置から色、アイコンに至るまでデザインを一新してのリニューアルとなったことで、前作アプリに慣れていたユーザーからは混乱の声が上がった。ユーザー数が増えた後のリニューアルは影響が大きいことを思い知らされた。リニューアルで、デザインや対応するOSバージョンを変えるには慎重な検討と多角的な試験工程が必要だと痛感する経験となった。

こうした顧客の声を踏まえた改善も、自社開発したアプリであれば速やかな対応が可能になる。今後も継続的にアップデートしていく予定だ。

<データマーケティング戦略で「はまぎん365」が果たす役割>

「はまぎん365」はサービス開始時に既存のバンキング機能を移行し、安定稼働を確認した後に半年程度かけてデータ収集機能やコミュニケーション機能を段階的に拡張。今では次の3つのサイクルによるマーケティング活動を始めている。

■顧客からの多種多様なデータ収集を通じて顧客理解を深める

■収集したデータに基づくOne to Oneコミュニケーション

■ニーズが顕在化したタイミングでの営業アプローチ

3つのサイクルを経て、最終的に顧客ニーズに適した商品販売につなげていくことが目標だ。今は顧客理解を深めるためのデータを能動的に収集するにはどうしたら良いか、試行錯誤を繰り返している。

<「はまぎん365」によるデータ収集のしくみ>

「はまぎん365」では、アプリ内の1300ヶ所以上に計測ポイントを設け、顧客単位でデータを収集・蓄積。代表的なデータ収集ポイントは、次の4つだ。

■ピックアップ:アプリのトップページ上に表示している商品一覧カードで、顧客属性や取引状況に応じて表示を出し分けている。

■For YOU:顧客ごとに興味関心がありそうな記事コンテンツを選別。記事の閲覧行動によって、内容はパーソナライズされていく仕組みだ。「動的チャット」も興味関心を探れる機能。アプリ上で会話をするように吹き出しでメッセージが表示され、アクションを促す。一問一答の簡易的なアンケートにも使えるようになっている。

■モーダル:これまで収集したデータを踏まえて、興味関心度合いが高そうな個別商品に絞って、ニーズがありそうな商品バナーを表示。顧客の行動に応じて内容を変えていく。

■シミュレーション:コミュニケーションシナリオの中に組み込んで、よりパーソナルな情報を必要とする「シミュレーション」機能に誘導。顧客が入力したデータが集まれば集まるほど、ライフプランを知るきっかけになる。

収集したデータは、次の3つの種類に大別して整理している。

■ニーズデータ:個別商品に対するニーズの有無。ニーズデータは営業アプローチをするためのきっかけとなる情報。現状のデータ収集量は、1日あたり2400人分。

■ライフイベントや興味関心情報:潜在ニーズの掘り起こしやナーチャリング(顧客育成)に使うインサイト情報。2024年1月時点で80万人以上から収集したデータ量があり、ここから次のコミュニケーションにつなげるフラグ(Communication Trigger Flags、CTF)を用意。現時点で、約500種類あるCTFに基づいてコミュニケーションシナリオのバリエーションを増やしている。

■資産、収入・支出情報:顧客を取り巻く家族に関する情報など顧客理解を深める貴重な情報。現状では数千人分のデータ量しかないので、今後さらに収集に注力する予定だ。

<入手したデータに基づき次のコミュニケーションへ>

収集したデータに基づき、顧客ごとにパーソナライズしたOne to Oneコミュニケーションを実現。顧客のアクションから分析したインサイドデータの約500種類のフラグを、コミュニケーションの起点としている。フラグに応じて選別された記事コンテンツが表示され、その記事も閲覧されるようであれば興味関心度が高い顧客というフラグが立ち、営業アプローチに入る。このような閲覧履歴に基づいたリレー方式のコミュニケーションを展開している。

収集したデータは、「はまぎん365」のアプリにある「ピックアップ」や「For YOU」内に優先的に表示されるコンテンツの表示順などにも反映している。どのような記事が閲覧されたかという閲覧情報に基づいてCTFが付与され、顧客ニーズを掘り起こすとともに、次のコミュニケーションを生み出していく。それを繰り返すことで、顧客にとって興味関心の高い情報を提供できるようになり、申込率が増え、一定確率で成約に至るケースも表れている。効果は出ているので、さらにPDCAを回してブラッシュアップしていく構えだ。

長期的なスパンでナーチャリング活動を進められるように、2022年9月にはお金と暮らしのコラムサイト「ハマシェルジュ」を開設。保険やローン、投資信託などの金融関連のテーマを中心に約180本の記事コンテンツを掲載しているが、直接的な商品訴求はせず、ライフイベントの中で遭遇する潜在的な悩みやニーズを顕在化していくためのツールだ。

「はまぎん365」や「ハマシェルジュ」を通じて、顧客ごとにどのような情報に関心があるのかを図りながらナーチャリング活動を展開するデータマーケティングで、確度の高いニーズを成約に結び付けていく。

<今後の展開>

データマーケティングをより進化させていくためには、データ入手源である「はまぎん365」アプリの利用者を増やしていくことが重要になる。全顧客数500万人の3割にあたる150万人のユーザーに利用いただくことを目標に、定期的な機能改善を継続して利便性を高めている。アプリ利用の頻度が高まれば収集するデータも増やせるので、アプリ開発の内製化に向けた体制を構築し、速やかなUI改善を図る。

次世代はデジタルとヒューマンを一体化させた個人営業を目指す。アプリ上でのコミュニケーションを通じてビジネスチャンスを探り、収集したデータによってデジタルやリモートでアプローチしてみた結果、一定の資産を持つ顧客であれば営業担当者へ連携するという流れを想定し、次の3層のコミュニケーションをデジタルでつなぎ、人が背中を押す体制で効率的な営業を推進する構えだ。

■Tech Touch(フルオート接客):デジタルにより自動化された接客

■Middle Touch(セミオート接客):コンタクトセンターによるリモート接客

■High Touch(マニュアル接客):営業担当者による対面接客

営業アプローチはセグメントに関わらず、データマーケティング起点で自動化してフルオート接客でもセミオート接客でも手続きを完結できる仕組みを整備し、顧客理解を深めながらライフイベントに応じて顧客ごとに適したパーソナライズレコメンドを実現。金融案件での困りごとの相談相手として想起されるよう、今後も地道な活動に取り組んでいく。

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