顧客起点のオンライン体験で非対面チャネルを強化する方法
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【講演者】
- 株式会社Sprocket
代表取締役CEO
深田 浩嗣 氏
<非対面チャネル強化における重要な考え方>
株式会社Sprocketは、Webやアプリにおける「新規顧客の獲得」と「既存顧客のリピート促進」を目的として、CX(顧客体験)改善のためのソリューション提供を進めている。仮説を立て、施策の設計から実施まで繰り返すことで顧客理解を深め、次の改善策を検討していく。そうしてPDCAのサイクルを回せば回すほど、顧客理解が深まっていく。こうした好循環を生むように支援を続けている。
コロナ禍を経て、金融系サービスのリアルからオンラインへ移行する動きは加速した。アンケート調査で顧客の声を聞いた結果、シニア層でも社会のデジタルシフトを実感する傾向が強く表れてきている。消費者の60%以上が金融のデジタルサービスを利用したいという意向を持ちながらも、インターネット利用に不安を感じている方も70%と多い。
ただ、オンラインでは顧客の顔や行動が見えてこない。顧客が困っている様子であっても直接声はかけられない。能動的な説明がしづらいという側面がある。このギャップを埋めるために、顧客の状況や理解度を推しはかりながら接客対応を考えていくことが重要だ。
<リアルな体験からヒントを得る>
「顧客接点となるサイトやアプリで、どのような体験設計をしていくべきか」を考える上で、リアルの店舗での体験は大きなヒントになるだろう。
例えば、リアルの店舗ではスタッフが顧客を観察し、顧客の反応や振る舞いから心理を読み解き、「お困り事はありますか」と声をかけたり、質問したりすることでニーズを把握。解決策を提案するなどのコミュニケーションをとっている。
ただし、そうしたスタッフの目配りすべてが「良い体験」につながるとは限らない。困っている様子にもなかなか気づいてくれない、話しかけられたくない、ニーズを無視して売り込みされても、必要ないものはほしくない。こうした顧客心理が働けば「良くない体験でがっかりした」と印象付けられてしまう。顧客をよく観察して、タイミングよくサポートができれば、「良い体験をした」という印象を残せるわけだ。
一方、オンラインには目配りをしてくれるスタッフはいないので、「気の利く対応」をオンライン側でどのようにデザインすべきか、考えることが大事になってくる。
<SMBC信託銀行の事例>
例えば、「店舗の接客を非対面チャネルで再現できないか」という要望を持っていたSMBC信託銀行さんの実例を見てみよう。
店舗での接客シーンを思い描いてみると、顧客の状況や様子を観察し、ニーズや適切なタイミングを見計らってアクションを起こすだろう。オンラインで相手の興味や関心の有無をどのように判断するかは試行錯誤が必要だが、ページを閲覧するなど、関心を寄せる行動をとっているユーザーならアクションを起こしやすい。
例えば、サイトを訪れていたユーザーが、為替レート一覧表などの外貨関連のページを開こうとしたら、興味や関心があると推測できる。そこで、ページ閲覧直後に外貨サービスの紹介を表示したら効果的なのではと仮説を立て、誘導の流れを作ってみたところ申し込み完了率が140%増加という結果が得られた。
もう一例はアプリの利用を促す声かけで、サイトを訪れたユーザーがトップページを開いた直後に、アプリリリースのお知らせとキャンペーンの訴求メッセージをポップアップ表示。その結果、詳細ページへの誘導に成功し、アプリの利用率も上がった。
ウェブサイトを訪れる会員であれば、アプリの利便性訴求は良いアピールになるので、最初に表示させることで存在に気づきやすくなり、キャンペーンも合わせて紹介することでお得情報をお伝えできることになる。
これらの誘導は、ページ上にリンクを表示しておくだけでは気がつかれない可能性があるし、頻繁に紹介メッセージを表示していてはユーザーをうんざりさせるだけだ。興味や関心があることが明らかなタイミングで紹介するのがカギとなる。
<四象限でコミュニケーションを設計する>
既存のデジタルチャネルの中でコミュニケーションの取り組みを考えるとき、重要なのは「視点」と「ニーズ」の2軸で考えることだ。視点の場合は、顧客視点なのか、企業視点なのかで異なる。また顧客側にニーズの自覚がある場合とない場合で、情報の受け取り方は大きく異なる。この2軸で情報を整理しながらコミュニケーションを設計して、アプローチすることで「良い経験」をつくり出しやすくなる。
視点とニーズを2軸に四象限で表すと、次の4つのエリアに分けられる。
×売り込み:ニーズの自覚がない、企業視点の情報
○気の利く提案:ニーズの自覚がない、顧客視点の情報
○つまずきケア:ニーズを自覚している、顧客視点の情報
○後押し:ニーズを自覚している、顧客視点の情報
企業視点で「伝えたい」を優先した情報は、ユーザーがニーズを感じていなければ「売り込み」だと感じてしまう。良かれと思っていても、顧客の視点を無視したことになり逆効果になるので避けた方が良いだろう。
これが顧客視点で「気になる」情報であれば、ニーズのありなしに関わらず歓迎されやすい。ユーザーがニーズを自覚していなければ「気の利く提案をされた」と感じて、好意的に情報を受け取りやすくなる。実際、今まで紙での明細を受け取っていたユーザーに、紙の明細は有料化する可能性があるので、いつでも閲覧できるWeb明細への切り替えを打診してみると、申し込み完了率は大きく飛躍した。顧客が気にするようなことは、やはり大体共通化してくるため、「このような不安はありませんか」と典型的な疑問を問いかけるだけで不安解消に一役買うことになる(つまずきケア)。
企業視点の情報だったとしても、顧客ニーズとマッチしていれば、「後押し」の役割を果たすことになる。例えば、支払方法の変更サービスの案内情報をクレジットカード会員が明細画面を開いているタイミングで表示するのは、企業視点ではあるけれど、支払方法を調整したい振る舞いを見せている顧客にとっては渡りに船の状況だ。このように、行動からひも解いてメッセージを表示していくことで、実際に成果につながる施策になる。
<落し穴を改善しながらPDCAサイクルを回す>
コミュニケーション設計の過程では試行錯誤がつきもので、はじめから成果を出せるわけではない。PDCAのサイクルがしっかり回るかという観点で整えながら、改善を繰り返すことが重要だ。
PDCAの重要さはいうまでもないが、どのフェーズにも落し穴があって、しっかり回せることが意外に少ない。
P(Plan:仮説立案)の段階では、見切り発車が起きやすい。仮説が立っていないので何を検証しようとしているのか見極められない失敗が起きやすい。検証すべき内容を明らかにしてから取り組もう。
D(Do:実行)の段階ではリソース不足で実現が難しく、長期間かかる企画に着手してしまうと試す頻度が少なくなってPDCAがうまく回らなくなる。客観的にリソースを確認して、できることから着手することだ。
C(Check:振り返り)の段階では、検証に必要なデータ不足でチェックが進まないことがある。データ不足は取り返しがつかず、同じことをもう1回やり直さないといけないため、時間のロスが大きくなる。振り返りのことまで考えて、検証材料を揃える意識が大切だ。
A(Action:改善)の段階では、学びを得たのに改善に活かせないことがある。顧客の心理状態をひも解いた上で、こういう反応の場合はこうなるという学びを得て、改善策につなげるのが本来の着地点だ。あとはCとA、振り返りと改善を定常的に繰り返して習慣化していくことで、PDCAサイクルを回していくことが成果につながる結果を見出しやすくなる。
<Sprocketがグッドスパイラルを創出する>
非対面チャネル強化の重要性は分かっていても、部署間の連携を図るための合意形成や運用リソースの確保には手間ひまがかかる。そのため、システムがうまく育たないなどの課題が生じやすい。
Sprocketではシステム改修などの大きな負担をかけなくても、専任のコンサルタントがツールやプラットフォームを駆使することで、顧客に合わせたCX体験を創出できる。顧客を鮮明に理解して成果を生むための好循環、すなわち「グッドスパイラル」を作っていけることが強みだと自負している。
◆講演企業情報
株式会社Sprocket:https://www.sprocket.bz/