2024年3月14日(木)開催 MANAGEMENT WEBINAR「製造業界で進むデジタルと体制整備」<アフターレポート>

2024年3月14日(木)開催 MANAGEMENT WEBINAR「製造業界で進むデジタルと体制整備」<アフターレポート>

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2024年3月14日(木)セミナーインフォ主催 MANAGEMENT WEBINAR「製造業界で進むデジタルと体制整備」が開催された。製造業界を取り巻く環境は急速に変化し、昨今の物価上昇や世界情勢の影響もある中で、将来の競争力を促進するための先端技術の活用に注目が集まっている。人材不足の問題や運用コスト等の課題への解決策を導くと同時に生産性向上のため、生成AIやデータをどのように活用していくのか、基調講演にて株式会社デンソー、特別講演にて株式会社リコーに最新事例をお話しいただいた。

  1. デンソーが取り組む自働化の進化系
    ~生成AIでヒトとロボットが一緒に働ける世界を創る~
    株式会社デンソー 成迫 剛志 氏/榎本 敦之 氏
  2. データ仮想化プラットフォームで実現する現場で広がるデータ活用
    東京エレクトロン株式会社 服部 秀郎 氏/NSW株式会社 島田 雄次 氏
  3. アバナードが考える製造業DX
    アバナード株式会社 播磨 隆弘 氏
  4. ものづくり現場のDXによる働き方変革
    ~リコー流のDX展開・実践メソッドと実践事例のご紹介~
    株式会社リコー 森田 雅則 氏

デンソーが取り組む自働化の進化系
~生成AIでヒトとロボットが一緒に働ける世界を創る~

 

基調講演
 
【講演者】
株式会社デンソー
研究開発センター 執行幹部
クラウドサービス開発部 部長
成迫 剛志 氏

【講演者】
株式会社デンソー
クラウドサービス開発部 自働化イノベーション課
担当課長
榎本 敦之 氏

I have a dream

生成AIやロボットが生活の一部になる世界が来るのではないか。ロボットといえば、人型ロボットや癒し型のロボットがフィーチャーされるが、工場のようにアーム型ロボットと一緒に働く世界観もある。複数の人間と複数のロボットによる協働作業で何かを作るといった、人協調型ロボットも実現されつつある。

家庭内でロボットと一緒に料理を作ったり家事をしたり、チャイルドケア、介護や医療のサポートを任せたりする世界観もあるだろう。ドローンのようなロボットが、重たいものや荷物を運んでくれる未来が来るかもしれない。車も自動運転になり、自律的に動く機械が街に溢れてくる。街の中でヒトとロボットが一緒に生活して、より良い社会を作ることになるだろう。

<製造業の置かれている状況>

予期しないパンデミック、頻発する自然災害など、製造業を取り巻く外部環境に変化が生じている。こういった外部環境の要因により、製造する「製品が変わる」「場所が変わる」「作業者が変わる」ようになってきた。自動車業界では、電動化や安全性の向上を目指した新技術が台頭し、エンドユーザーのニーズの多様化により製品自体が急激に変化していく中、差別化されたオンリーワンなモノが求められている。

製造現場での変化

従来は、良い機能のものが安く大量に売れる時代であった。車載部品業界の生産現場は、決まった生産期間中に決まった供給量を安定的に出す生産、つまり大量生産を目指すことが主流であった。品種の集約、製品共通化、加工法標準化、生産数量調整により、大量生産に持ち込むことで生産性の向上を実現していた。

近年では、多様化するニーズ、変化する社会課題によって、製品寿命も生産量も確定できない生産が増えている。この領域では、新しい製品製造案件が次から次へと起きては消えていくため、少量多品種生産を行う必要がある。

TPS(トヨタ生産方式)

少量多品種生産は、TPS(トヨタ生産方式)とあい通じるところがある。TPSは、お客様に良いものを安く早く届けることを目的とする。不良を流さずに様々な種類の製品をどんどん作る「自働化」、必要なものを必要なだけ作る「ジャストインタイム」を柱に、現地現物で改善活動を行いながら生産活動を行ってきた。今後はマーケット変化への即応が求められることから、さらなる自働化が重要になる。

<今までの自働化とこれからの自働化>

今まではヒトが設備の横にいて、設備を常に監視していた。最近のTPSの自働化では、機械が異常を検知してヒトに通知し、ヒトは通知があった設備の異常時のみ対応して生産活動を継続する。しかし今までの自働化では、変化が起こるたびに設備から呼ばれ、結果としてヒトが設備に張り付くこととなってしまう。これからの自働化で重要になるのは、機械が状況を判断し、自ら行動することである。度重なる状況変化に対して判断を行い、機械が行動を起こし、生産活動を継続していくのだ。

少量多品種生産の自働化アプローチ

これからの自働化のイメージは、ハンバーガーショップである。オーダーが入ると出来立ての商品をすぐに提供しなくてはならず、時間帯によってオーダーの量がバラつき、さらに対応する側の従業員の人数やスキルにもバラつきがある。状況判断・予測を行い、適宜、人を最適に配置して仕事を回すハンバーガーショップの仕組みは、製造業が求めるオンデマンドな自働化と同じ仕組みだ。

<Generative-Al-Robot Technology>

ロボットの普及を阻むのは、「導入の壁」と「運用の壁」である。使いこなすプランニングや実装するエンジニアリングなど、導入には非常に高い専門性が要求される。運用にはメンテナンスのほか、製品および工場のレイアウトの変化に応じて都度プログラム変更が必要になる。

製造業で求められるのは、ヒトのように判断して、オンデマンドな生産を可能にする自働化である。これを実現するために、導入の壁と運用の壁を突破した「Generative-Al-Robot Technology」を開発した。現時点でのAI技術と製造業のロボット制御技術を活用し、周囲の状況を判断して働くロボットである。

<提供する価値>

口頭指示による行動生成、現場指示による役割の切り替え、自由なヒトとロボットの置き換え、ロボットがヒトから知見を蓄積、ロボットによる未習熟者への支援などが可能になる。つまりロボットとヒトの協働による、オンデマンドな自働化の実現がGenerative-Al-Robot Technologyの提供価値である。

システム概要

ロボットとヒトの協働にあたって必要な会話と対話を成立させるために、音声合成機能やヒトとの双方向のインターフェース、役割やパーソナリティを持つ。会話により対等な協働が、対話によりヒトが気づきを得て成長することが可能になるのだ。

行動の選択肢について、生成AIが生成したプログラムを事前の検証なしに利用することにはリスクが伴う。そこで、これまでデンソーが検証・蓄積してきたロボットプログラムを活用し、ロボットがそれらを組み合わせるアプローチを採用した。Generative-Al-Robot Technologyは、ソフトウェアのほとんどをクラウドに配置しているために、ロボットをインターネットに接続すればすぐに自働化できる。

<工場での活用可能性>

開発期・衰退期には、少量多品種生産が行われる。決められた作業だけではなく、臨機応変な段取り替えや不具合対応を、現場のノウハウで乗り切って行う必要がある。しかしながら、十分な経験やスキルを持った人員を、今後も確保できるかは未知数だ。そこで様々な背景を持つ作業者一人ひとりの特徴に合わせて、Generative-Al-Robot Technologyが状況を判断した上で、適切な支援を行っていく。これにより、ヒトとロボットが相互に補完・成長しながらモノづくりを行う環境を作ろうとしている。

工場に向けた活動と並行して2023年12月、焼酎のお茶割りを作って提供するデモを実施した。音声でインタラクションして、ロボットがその場でユーザーの要望に沿った飲み物を提供する。生成AIで言葉の揺らぎを吸収し、振る舞いが変化することも確認できた。デンソー社内では、カフェのデモを実施している。ウェイターロボットが注文を聞き、バリスタロボットがコーヒーを淹れるのだ。音声でロボット間、あるいはロボットとヒト間で共通言語による会話が行われており、ヒトとロボットの境界を無くす検証を実施中である。2024年1月には、ロボットが販売員としてお客様にお声がけをして、自然な会話を経てお客様に合った商品を提案するデモを行った。

<人とロボットが共生する嬉しさが溢れる世界の実現に向けて>

ある調査によると生成AIの経済効果は35兆円、中小企業だけでも11兆円あるそうだ。従来の製造業におけるデジタル化やDX、機械による自動化・効率化とは次元の違うこと起きていく。大規模言語モデル(LLM)が業種別に与える影響は、銀行、保険、証券、法務には約70%、情報産業は約60%と予想される一方で、製造業、小売業、ヘルスケア領域は30〜40%にとどまるそうだ。

Microsoftの製品名Copilotは、生成AIの特徴をよく表す。生成AIは人間と一緒に働き、人間のよきパートナー、よき相談相手になる。ソフトウェアの世界では生成AIの経済効果は出やすいが、リアルな世界ではなかなか生成AIの効果は出にくい。そんな中、まだ研究開発段階であるが、弊社は生成AIの可能性をリアルな世界に持ってこようとする試みを行っている。サイバーだけでなく、リアルな世界でも賢くて使いやすいロボットと一緒に働き、良きパートナーになろうとしているのだ。

1年後にはどのくらい進化しているかわからないというスピード感で、研究開発を行っている。本日の講演を、何らかのアクションに繋げていただければ幸いだ。