2023年12月14日(木)開催 FINANCE WEBINAR「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の最前線」

2023年12月14日(木)開催 FINANCE WEBINAR「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の最前線」

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2023年12月14日(木)セミナーインフォ主催 FINANCE WEBINAR「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の最前線」が開催された。FATF第4次対日相互審査結果が公表され、各金融機関においては、2024年3月までに、「マネロン・テロ資金供与対策に関するガイドライン」の「対応を求めている事項」について対応を完了させ、AML/CFT体制を整備する必要がある。現場では限られたリソースの中で、具体的にどのような仕組みを作り運用すべきか等の課題に直面しているAML/CFT担当の方もいる。本ウェビナーでは、基調講演に株式会社三菱UFJ銀行、特別講演に株式会社静岡銀行をお招きし事例をご講演いただくほか、先進企業より最新動向と対策についてご講演いただいた。

  1. 三菱UFJ銀行におけるマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策
    株式会社三菱UFJ銀行 大島 知子 氏
  2. スクリーニング業務における課題と事例にみる次世代スクリーニング・システムのテクノロジー
    SAS Institute Japan株式会社 新村 和樹 氏
  3. 静岡銀行における継続的顧客管理共同化への取組み
    株式会社静岡銀行 望月 俊吏 氏

三菱UFJ銀行におけるマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策

基調講演

【講演者】
株式会社三菱UFJ銀行
グローバル金融犯罪対策部 グローバル金融犯罪対策室(日本)
室長
大島 知子 氏

AML / CFT / CPFを取り巻く外部環境

2024年の第3回フォローアップ報告までに、法制度審査の指摘のほとんどに対応していることが期待されている。日本は足許、2021年8月に公表した行動計画を概ねスケジュールにどおりに進捗しており、2024年までに第4次相互審査での法制度の指摘事項の改善を目指している。2022年4月、FATFは2025年から開始する第5次相互審査のメソドロジーとプロシージャ-を公表した。FATF全体の第5次相互審査のスケジュールは2025年から開始し、2031年までの6年間で一巡を予定している。第4次以前の平均10年間のサイクルを大幅に短縮し、各国がより頻度高く審査を受けられる点が今回の大きな変更点となる。2027年から2031年の4年間の内のいずれかの時期に、日本の第5次相互審査が行われる予定だ。

FATF第5次相互審査の概要

より対象国のリスクにフォーカスした構成の審査を実施することが、第5次相互審査のコンセプトだ。法制度審査、有効性審査とも、評価の方法は第4次から不変だが、審査項目に一部変更が見られる。法制度審査項目は40のFATF勧告、有効性審査項目は11の「I.O」から成り、審査項目毎に4段階で評価していく。審査開始からオンサイト審査までの審査期間を1〜2ケ月拡大し、審査で重点を置くリスクの検討と審査のスコーピング作業により時間を充てることになった。法制度審査においては、第4次フォローアッププロセスの評価結果をベースにフォローアッププロセス以降に法制度の変更があった項目のみ審査を行う方法に簡素化する。リスクベースのスコーピング作業と有効性審査に、より軸足を置くことになった。FATF全体会合で討議・採択される審査結果の成果物は、第5次相互審査では「KRAロードマップ」が、従来の「エグゼクティブサマリー」と「相互審査報告書(全文)」に加えて追加される。KRAは、改善提案の中でもっとも優先順位の高いもので、有効性審査の不合格水準の審査項目毎に2〜3個を上限に設定される。KRAロードマップはそのアクションプランであり、FATFと審査対象国が共同で作成するものだ。

FATF第5次対日相互審査フォローアッププロセスの概要

コンセプトは、厳格化とより結果を重視した評価プロセスだ。「重点フォローアップ国」「ICRG国」の分類基準を厳格化している。一方で「通常フォローアップ国」のフォローアップ報告は自己評価のみで、FATFによる分析はなくなった。重点フォローアップ国の改善報告も、毎年から3年後へと改訂されている。フォローアップでは、KRAロードマップの進捗状況を主に評価する。

<審査項目の内容の主な変更点

有効性審査では、最も金融機関に影響のある項目に変更が生じている。「金融機関等の監督(I.O3)」は金融機関・暗号資産交換業者の監督とAML・CFT対策、「金融機関等によるAML・CFT対策(I.O4)」はDNFBPsの監督とAML・CFT対策と、セクター毎の評価となる。なお金融機関の審査細目の内容は略不変だ。またFATFにおいて、第5次相互審査に向けてすでに改訂された勧告の一例として、「リスク評価・リスクベースアプローチ適用(勧告1)」が挙げられる。従来のマネロン・テロ資金供与に加えて、拡散金融に関するリスク評価・リスク低減措置の実施が、国、民間セクター双方に対して求められるものだ。

FATF第5次相互審査に向けた日本の対応

日本は第5次相互審査に向けて、法制度審査および有効性審査において大幅なレベルアップが必要な状況だ。2023年第2回フォローアップ報告にて、「テロ資金供与の犯罪化」「テロリストの資産凍結」「法人の実質的支配者」「DNFBPsに対する監督」の4項目が合格水準に格上げとなった。本邦当局は、FATF勧告対応法を2022年12月に成立させ、段階的に施行している状況だ。有効性の観点では、全銀協は取引モニタリング等の共同組織を設立し、業界全体の底上を図るとともに、金融機関は金融庁マネロンガイドラインに沿った体制整備を本格化させている。

特殊詐欺被害対策

政府は2023年3月17日の第36回犯罪対策閣僚会議にて、「SNSで実行犯を募集する手口による強盗・特殊詐欺事案に関する緊急対策プラン」を決定・公表した。金融庁関連施策は、「預貯金口座の不正利用防止対策の強化」「帰国する在留外国人による預貯金口座の不正譲渡防止」である。

<銀行におけるAML / CFT / CPF態勢整備

当行では、マネーローンダリング・テロ資金供与、経済制裁違反、贈収賄汚職を総称してグローバル金融犯罪と定義している。それらに対する国際基準の態勢構築を目指し、米国ニューヨークを本部とする「グローバル金融犯罪対策部」を中心に、これらの領域に関する対応や態勢の高度化を進めている。ニューヨーク本部に加え、日本、米州、欧州、アジアの地域対策室からなる合計1100名強の組織であり、日本では400名程度の従業員が従事している。

<グローバル金融犯罪防止のための効果的な管理態勢の要素

グローバル金融犯罪防止態勢の中でコアとなるのは、KYC、取引フィルタリング、取引モニタリングの3つのプロセスだと考える。これら3つのプロセスがリスクベースで有機的に相互に連携し、有効に機能することが重要だ。たとえばKYCは、本人確認のほか、プロファイルを把握して適切にリスク格付けを行い、格付けに基づいた閾値でモニタリングを行う。金融機関が把握するプロファイルとの対比で、異常な資金の動きがないか検知・調査を行い、疑わしい取引は警察庁に報告する。こうした枠組みにはシステムや人的投資が必要で、経営の理解と支援が不可欠だ。

<当行のグローバル金融犯罪関連手続

「グローバルスタンダート」という基本手続をニューヨーク本部が定め、各地域対策室がこれをもとに域内をカバーする体制だ。国内外当局の期待目線、海外主要外銀のベストプラクティスを取り入れて制定されたものだが、日本の法制度や商習慣と差分があり、日本のお客様の基盤にストレートに適用することは困難である。日本はその顧客基盤の大きさから、3年計画でKYCのグローバルスタンダード導入プロジェクトに取り組んでいるところだ。

<資金移動業者、決済・収納代行業者等のリスク

「資金移動業者」は、安価な手数料で迅速かつ確実に資金を移動させられる利便性から、マネロンに悪用されるリスクが高い。法制度や取引システムの異なる外国へ犯罪収益が移転され、その追跡が困難になるといった為替取引に共通するリスクがある。「暗号資産交換業者」は、移転記録が非公開、移転記録の維持・更新に脆弱性を有するものが存在することから追跡が困難でありマネロンに利用されるリスクが高い。また利用者との取引を非対面で行っており、取引における匿名性が高いというリスクがある。「決済・収納代行業者」の中には、外国送金と同様の機能を国内の顧客に提供する事業者も存在するため、マネロンのリスクが高いと認識している。

<当行における取引時確認・KYCの対応

当行においては、顧客との口座取引等に際しては、犯罪収益移転防止法に則った取引時確認や取引開始後のKYC情報更新を必ず行っている。当該顧客の属性、当行との取引関係が高リスクである場合には、設問票を用いた追加的なデューデリジェンスを実施して、情報のコントロールに努めている。追加的なデューデリジェンスの実施は、たとえば持ち込まれる取引の内容が、口座名義人に帰属しない資金、背後にいる真の取引依頼人からの預り金であるケースだ。まず事業者の提供サービスおよび当行口座の利用方法を確認して、口座取引にかかるリスクを特定し、サービスのリスクに対する事業者側のAML態勢を確認して、当行として取引の可否を判断する。

<改正外為法への対応

FATF第4次審査の勧告に沿ってAML・CFT対策等を強化し、金融制裁措置等の実効性を確保するべく、改正外為法が新設される遵守基準省令とともに2024年4月1日に施行される。外国為替等取扱業者は、経済制裁リスクの評価やリスク低減措置並びに態勢の整備が遵守基準省令に基づき義務化され、違反が認められる場合には財務省は罰則等を課すことが可能になる。遵守基準省令の新設を受け、財務省は現行の外国為替検査ガイドラインを、外為法令遵守に関する考え方や解釈を示すと共に、外為検査の指針を示す改正ガイドラインとして再整理し、パブコメを経て2024年4月1日付で施行する予定だ。改正ガイドライン施行に伴い、制裁リスク評価やリスク低減措置の態勢整備、外貨両替取引が外為法上の「支払および支払の受領」に位置付けられたことに伴う顧客スクリーニングの態勢整備などの対応を要する。ただしパブコメにおいて、経済制裁リスクとAMLリスクを総合的に特定評価していれば充足すると明確化されているために、新ガイドラインの内容を踏まえて各行は現実的なアプローチで整備していくことになる。基本的には制作リスクが高いとされる非居住者の人格、エネルギーセクター・商社などの業種、送金や貿易などのクロスボーダーサービスの取引量や所在国、取引国を精査のうえ、自身の事業と顧客プロファイルを照らし合わせてリスク度合いを評価していくことだと認識している。