静岡銀行における継続的顧客管理共同化への取組み
- 特別講演
【講演者】
- 株式会社静岡銀行
コンプライアンス部 マネロン等金融犯罪対策統括グループ長
望月 俊吏 氏
<静岡銀行における継続的顧客管理の業務スキーム>
2019年に実施されたFATF第4次対日相互審査の結果が2021年8月に公表され、日本は一定の評価を得たものの、継続的な顧客管理などリスク低減策に対する課題が示された。対象先数が多いことから、効率的かつ実効性の高い情報更新が金融機関にとって大きな課題だ。
<全体スキーム>
弊行ではWebおよび書面の2つの手段で、お客様から回答を受けている。Web上の回答フォームは、電通国際情報サービス(以下、ISID)の協力を得て、独自フォームを構築した。書面回答の発送から、コールセンター運営、データ納品までを対応するにあたり、弊行内では人員等のリソース面で無理があることからTOPPANに依頼している。経費削減の観点から、案内DMによるWEB誘引をフェーズ1として、1番費用のかかる封書回答DMと入力コストを最小限に抑えるスキームとした。
<AML/CFT全体スキームフロー>
全体のフローとしては、まず対象顧客を抽出した上で、対象顧客データをプラットフォームにアップロードする。この対象顧客データをもとにDMを作成・郵送した上で、情報の確認をお客様に依頼する。Webまたは書面による回答をプラットフォームに取り込み、データ化した上で、回答データをAMLシステムにアップロードすることでKYC情報を更新する流れだ。アクションの不正検知システム「Detecker」を口座開設時だけでなく、継続的顧客管理における情報更新の際にも利用している。AMLシステムは、フィルタリング、取引モニタリング、疑わしい取引の届出、KYC情報の更新・蓄積を行うAML・CFTの中核システムだ。スコアリング方式による顧客リスク格付を行うシステムと連携しているために、最新のKYCデータに基づき顧客リスク評価を実施し、最新の顧客リスク評価に基づき取引モニタリングを行うというFATFや金融庁からの要求事項を踏まえたスキームを構築している。
<工夫と課題>
回答情報をデータ化し行内システムに反映させるほか、将来の法令・ガイドライン等の改正にも柔軟に対応できるように、柔軟性・拡張性の高いSalesforceを活用している。Salesforce基盤のセキュリティに加え、データ暗号化などの対策によりセキュリティを強化しながら、金融庁ガイドライン等に対応可能なスキームを実現した。Web回答フォーム構築時に工夫した点は、複数デバイス対応、本人確認および不正検知、プルダウンによる選択回答など回答しやすいUI、回答状況をリアルタイムで確認可能とした点などだ。かかる費用の抑制については、複数金融機関で継続的顧客管理を共同化すればコスト削減の余地があると考えた。
<継続的顧客管理スキーム共同化の取り組み>
弊行のスキームをプラットフォーム化し、2021年11月より共同化運用を開始した。DM・アンケートのレイアウト統一による回答率の向上を図っているほか、システム開発費およびコールセンター・データ化の業務委託を参加金融機関でシェアし、DM発送数の平準化による効率的な人員体制を敷くことでコスト削減を実現している。弊行の実績をもとにした顧客属性による傾向分析、効率的かつ適切な運用、およびデータ化ルールを参加金融機関に提供することで業務効率化・厳正化につなげている。参加金融機関と業務委託先との間でコンソーシアムを設立し、AML/CFT態勢の高度化を目指す。2023年12月時点で7銀行・2信金の合計9つの金融機関が参加し、業態を超えて共同化に取り組んでいる。
<共同化による導入金融機関のメリット>
共同化による運営は、継続的顧客管理に必要なWebフォーム、DM、事務局、コールセンターそれぞれにおいてメリットが大きい。中でも、初期導入コスト・運用コストを金融機関数によって按分が可能になることから、単独金融機関による運営と比べて、大幅なコスト削減となるコストメリットが1番だ。共同化は、収益をうまないために厳しい目が向けられがちな継続的顧客管理の課題解決につながると考える。
<TOPPAN事務局>
共同化事業の立ち上げ段階からTOPPANが参画していることから、実務運用視点を含む最適な設計・適切な改善を実施できている。事務局処理において、AI-OCRや独自の審査システムを用いることで、書類チェック時間の短縮やミスの軽減、作業状況の見える化を実現し、品質の向上・作業時間・費用の削減を図っている。回答の不備事項訂正のための「不備状」制作も標準装備しており、不備発生時における不備処理から不備状発行までをシステム化し、手間のかかる不備対応を効率化している。記入負荷の少ないデザインを工夫しているほか、金融機関の指定フォーマットに合わせたデータ作成も可能な体制だ。
<コールセンター>
コールセンター共同化により、弊行の実績に基づく「業務フロー」「FAQ」「トークスクリプト」を活用できるために、初期導入の手間を削減できるほか、熟練した担当者による対応で応対時間を削減し、処理件数向上につなげている。たとえば1名の担当者で、複数の金融機関の対応が可能になることから、必要最小限のコストでの運用が可能になる。なお共同化は業務面のみであり、顧客情報を共有化するものではない。物理的セキュリティ、技術的セキュリティ、人的セキュリティなどセキュリティ面での安全性は、TOPPAN側で十分に確保されている。
<Webプラットフォーム>
高品質なサービスを安く利用できるほか、要件定義を簡略化し、ハードウェア・ソフトウェアの調達が不要なSalesforceを活用することによって短期間でサービスインが可能になる点がメリットだ。共通基盤上に複数金融機関が利用できるWebフォームを構築しており、テンプレートをベースに導入金融機関ごとに設定を行い導入できるスキームとなっている。
<参加金融機関のコンソーシアム設立>
参加金融機関は、TOPPANおよびISIDと共にコンソーシアムを設立している。制度変更への対応方針を協議・共有、参加金融機関の運用開始までの総合支援や運用課題・解決策の共有、新しい取り組みに対するノウハウ・コストの共有を目的とするものだ。リスクの特定、顧客管理、疑わしい取引の届けなどの情報交換も積極的に行っており、自らのAML/CFT態勢の高度化はもちろん、参加金融機関の底上げ、地域のお客様を金融犯罪から守ることにもつながっていると自負している。
<課題と今後の展開>
現状の回答率は30%程度と低いために、回答率向上が課題だ。課題解決のポイントは、一般預金者等への周知と回答チャネルの拡大と考える。そこでDM発送先のATM操作画面にアンケートの案内文を表示したり、郵便物返戻先がATM操作時に住所変更を促す案内文を画面に表示したりして回答率向上を図っている。今後は、回答率向上に向けて往復ハガキの導入を、応答率・回答率向上に向けてボイスボットの導入を検討している。回答チャネルの拡大を目指し、提携先のセブン銀行ATMの画面を活用して、顧客情報の更新や外国人の在留期間の更新確認ができるように準備を進めているところだ。また顧客周知の強化は、一金融機関単独での周知には限界があるために、銀行協会・信金協会連名で継続的顧客管理への協力依頼の広告を県広報誌へ出すことで、金融界共通の取り組みであることを一般の預金者であるお客様に周知していく。