2024年1月18日(木)開催 FINANCE FORUM「金融業界におけるデータ利活用がもたらすビジネスの進展」<アフターレポート>

2024年1月18日(木)開催 FINANCE FORUM「金融業界におけるデータ利活用がもたらすビジネスの進展」<アフターレポート>

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2024年1月18日(木)セミナーインフォ主催 FINANCE FORUM「金融業界におけるデータ利活用がもたらすビジネスの進展」が開催された。デジタル時代において、金融業界はますますデータ駆動型の変革を進めている。顧客のニーズを深く理解し、市場の動向を正確に捉えるために、大規模かつ多様なデータを分析し、ビジネスやサービスへ落とし込むことが重要だ。基調講演では、株式会社みずほフィナンシャルグループによるデータ利活用の現状と今後の展望についてご講演いただき、特別講演では、株式会社浜銀総合研究所をファシリテーターとし、株式会社群馬銀行、株式会社京都銀行、株式会社西日本シティ銀行、株式会社大分銀行の4行より、パネルディスカッションの形式で各行のデータ活用の取り組みについてご紹介いただいた。また、先進企業によるデータ利活用に役立つテクノロジーについてもご紹介いただいた。

  1. 〈みずほ〉のデータ利活用推進に向けた対応の方向性
    株式会社みずほフィナンシャルグループ 新田 孝明 氏
  2. データドリブン・イノベーション:Celonisが示す金融業界の業務プロセスの最適化と生産性向上
    Celonis株式会社 藤崎 律希 氏
  3. データ利活用の実態からみる“Multi-Cloud by Design”の価値とは?
    デル・テクノロジーズ株式会社 宗岡 匠 氏
  4. 地銀の共同化ビジネスによる継続的な金融DXの実現と今後の展望
    株式会社浜銀総合研究所/株式会社横浜銀行 影井 智宏 氏
    株式会社群馬銀行 小堤 謙介 氏
    株式会社京都銀行 嶋林 伸幸 氏
    株式会社西日本シティ銀行 小柳 謙三 氏
    株式会社大分銀行 貝塚 博俊 氏

〈みずほ〉のデータ利活用推進に向けた対応の方向性

基調講演

【講演者】
株式会社みずほフィナンシャルグループ
デジタル企画部 次長
新田 孝明 氏

<プロジェクトの立ち上げ>

まず、今年度の上期に実施した計画フェーズについてお話しする。〈みずほ〉のデータ活用における現行課題に加え、環境変化(外的要因)を踏まえた将来の戦略的なデータ活用への対応方針を検討してロードマップを策定した。現行課題に関しては、各部門へ大規模なアンケート調査を実施したうえで足元の課題を認識した。環境変化に関しては、今期注目が集まっている生成系AIの与える影響を踏まえ、大きな方向感を立てた。

<現行課題・将来の戦略的なデータ活用>

プロジェクトの立ち上げにおけるアンケート調査の結果から、5つの領域において、各部門の共通課題があることを認識した。1点目はデータマネジメントにおいて、社内共通の方針・ルールが未整備であり、またルール作成・管理する推進主体が不在であることだ。2点目はデータ整備において、様々なデータでデータ定義が不明であり、データ品質が低い(定義通りでない)ことだ。3点目はデータソリューションにおいて、データが散在し、かつ分析の試行や環境準備が困難となっていることだ。4点目はデータ活用推進において、各部門でデータ活用意識が不足し、業務・サービス展開までに時間を要していることだ。最後の5点目は人材育成において、企画人材のデータスキル不足や、分析人材自体が不足していることだ。

将来の戦略的なデータ活用として、生成系AI活用に向けた対応の検討が求められ、具体的には、生成系AIの活用に向けたデータマネジメント方針や体制、活用できるプラットフォームの整備、ユースケースの具体化、AI・データ活用人材の確保と教育機会の提供だ。

<現行課題・戦略的なデータ活用への対応>

グループ共通のルール・体制が未整備であることに対しては、データマネジメントオフィスを設置し、データマネジメント・AIガバナンスのルール作成・管理をすることで対応する。データ定義不明・低品質に対しては、データ辞書の整備、データ定義統一、マスタデータの品質管理などを行う。データソリューションの課題に対しては、データ抽出しやすい環境整備、エンティティ間でデータ共有する仕組み、非構造化データを蓄積できる基盤の構築などを行う。

データ活用におけるプロセス・意識不足に対しては、AI・データ活用ビジョンの策定、活用のユースケース具体化を進めていかなくてはならない。人材育成の課題については、データ活用人材や生成系AI人材の早急な育成、グループ会社や外部リソースの活用が求められる。

<データ辞書の整備>

ここからは、今年度の下期から実施している実行フェーズについてお話しする。データ辞書の整備を開始するにあたり、データ基盤が複数存在すること、各基盤でかなりの数のデータテーブルを持っていることから、どこから手を付けるべきかが議論となった。結論として、今年度はユーザーアクセス数が最も多いデータ基盤で、かつ利用頻度の高いデータの辞書整備を実施することとした。来年度以降は、他のデータ基盤においても辞書整備を拡大していくことで、社内のデータ理解度を高め、データ利活用促進を図る。

現在、私の所属するデータマネジメントチームにデータ照会窓口を設置しているが、ユーザーからの照会に対し、回答までに時間がかかっている。データ定義を調査するだけでも相応の手間がかかっているのが足元の現状だ。将来的には、検索機能の向上や生成AI活用により、誰でも単独でデータを理解でき、データ抽出や加工ができる世界を目指す。

<データ品質管理プロセス>

データ品質管理での重要なポイントは、各部門のユーザー側と我々データマネジメントチームで、どのように役割分担をするかだ。品質管理は一度始めると中長期的にずっと続けていくため、それぞれのやるべきことを明確にしておく必要がある。我々はデータの欠損や異常値にかかる情報を開示するとともに、一部のデータにおいては整備済みのデータを還元することで、ユーザーがデータの調査・検証・補正に費やしている時間と労力を削減することを目指す。

<データ活用促進環境整備>

データ整備や品質管理に加え、データ活用推進のソリューションについても検討している。現行課題への対応や将来を見据え、必要な要件を整理中だ。現行課題として、データ抽出・加工・分析環境等に対応し、データ活用しやすい環境を提供する。将来への備えとして、データ活用業務・領域・ユーザー層の拡大と、それに必要なグループ横断的なデータマネジメント機能の提供に取り組む。

データソリューションにおいては、国内・海外の最新動向を踏まえたアーキテクチャを検討中だ。複数のデータ基盤をつなぐ「データハブ層」を持ち、その中でデータリッチな状態を作り上げて、データを使いやすい状態にするのが最新の事例だろう。当社にもかなり多くのデータ基盤が存在するが、時間や予算の関連で、1つにまとめ上げていくのは困難だ。それぞれの基盤をどう活用するかを考えるのが現実的なため、データハブ層のような方法も検討している。

<AI活用推進>

AI活用の具体的な進め方として、まずフェーズ1でChatGPTを社内導入し、社員に使ってもらう状況を作る。足元で進めているのが次のフェーズ2で、業務適用をするためのユースケースの具体化を進めている。最終的にはフェーズ3として、業務プロセスの改革と、お客さまサービスへの活用を目指している。

フェーズ3を目指すため、部の中にタスクフォースを組成しており、「企画・総括」「業務適用推進」「R&D」「責任あるAI(ガバナンス)」の4つのワーキンググループを作って進めている。現在は部内中心で進めているが、いずれは拡大して社内でCoEのような形で進めていきたい。

データ活用人材育成

データ活用のライフサイクル毎の、個々のスキルアップ研修は従来から存在していた。一方、研修が個々に分かれているが故に、受講していないスキルの抜け落ちが発生していた。また座学中心で業務への距離感があり、すぐに業務に結びつかないのも問題であった。これらの課題を踏まえ、データ活用の一連の流れを通した新規研修の組成を行っている。個々の既存研修を統合してパッケージ化するのに加え、座学だけでなく実際に手を動かしてもらうハンズオンでの実践研修としている。

現在は、初心者向けの研修として実施しているが、最終的にデータサイエンティストやビジネスアナリストへと育成することを視野に入れている。

おわりに

現在プロジェクトを進めている中で実感していることは、データ利活用推進には環境整備が非常に重要ということだ。データ整備・データソリューション構築・人材育成等、いずれも中長期的な取り組みが必要となる。例えばデータ整備について、手を付けてみて初めて分かったことだが、泥臭い作業が多く、効果が足元で見えにくい上に作業負担も大きい。データソリューション構築もそれなりのお金がかかるが投資対効果も見えにくいため、周囲からも理解されづらい。これらをボトムアップ的な取り組みで中長期的に完遂するのは難しいため、経営がデータ利活用の重要性にコミットし、トップダウン的に行うことが必要だと考えている。