地銀の共同化ビジネスによる継続的な金融DXの実現と今後の展望

特別講演
 
【講演者】
株式会社浜銀総合研究所 情報戦略コンサルティング部 グループ長
株式会社横浜銀行 ICT推進部 データマネジメントグループ エグゼクティブプロフェッショナル
影井 智宏 氏

【講演者】
株式会社群馬銀行
営業統括部 営業戦略室 推進役
小堤 謙介 氏

【講演者】
株式会社京都銀行
営業本部 営業統轄室 室長代理
嶋林 伸幸 氏

【講演者】
株式会社西日本シティ銀行
デジタル戦略部 副調査役
小柳 謙三 氏

【講演者】
株式会社大分銀行
営業戦略部 マーケティング室 推進役補
貝塚 博俊 氏

<共同MCIFセンターの機能>

共同MCIFセンターには2つの組織体があり、まず共同MCIFはNTTデータ様が主体である、地銀10行のビッグデータ基盤システム共同化サービスだ。もう1つの組織体はナレッジラボで、持続可能なビッグデータ業務支援のための機関であり、浜銀総合研究所が主体となっている。ナレッジラボは横浜銀行本店に存在し、専門家が複数名常駐、10年以上継続した組織運営を行っている。

共同MCIFの機能のハード面は、まず各行保有のデータベースがある。次にBIツールが各行環境にあり、BIツールで作成したプログラムは、バッチ機能により成果物の自動生成を可能とする。共同MCIFの特徴は、ナレッジラボからも各行のデータベースにアクセスできることだ。これによりナレッジラボから各行に対し、直接のアドバイスはもちろん、プログラム開発・提供などソフト面の業務支援が可能だ。またデータベースにはデータマートという10行共通のレイアウトを持つテーブルがあり、ここで開発されたプログラムは10行のデータでそのまま動くため、知財の水平展開ができる。このようにナレッジラボのソフト面の支援により、継続的なDXが実現可能だ。

<ナレッジラボの機能>

1つ目の機能は業務支援・人材育成で、人材育成は浜銀総研への派遣を前提とした1年間の育成カリキュラムが主な内容で、これまで累積70名の育成実績がある。また、特定のスキル習得を目標とした1週間程度の短期研修も実施している。2つ目の機能はデータ価値向上で、新たなデータ活用領域の模索や付加価値データの創出を行っている。その結果、ビジネスモデル特許を6本取得している。3つ目の機能はデータ活用環境向上で、システム面についてもベンダーと対等に語ることが可能だ。

<データ活用の現状>

データ活用で本当に必要なものは継続的な価値の実現だと我々は考える。データ活用における価値の構造は、1段目がデータプラットフォームとしての機能的価値、2段目がディープラーニングなどAIによる技術的価値だ。しかしコストを投下するだけではこれら2つを超越する価値は生まれない。よってナレッジラボの目指す価値とは、機能でも技術でもない「知的価値」であり、これがあって初めてコストを超過する価値を創造できる。

知的価値を実現するには元の情報資源を使うのではなく、新たな情報資源を創出する必要がある。自行情報資源には、法人顧客・商流・個人顧客等の情報があり、それらはCIFで管理されている。ここに国税が公表している法人番号情報を、住所と法人番号で自動附番する。法人番号をフックにCOSMOS2等の外部データを繋ぐことにより、純預金先であっても他行顧客であっても、その法人の業種・規模・商圏などを把握することが可能だ。さらに自行の顧客情報とCOSMOS2の代表者情報をマッチングすると、代表者の自行口座も探索でき、別途用意する家系情報を用いて、代表者の同一家系個人も法人番号で管理できる。このように、自行情報資源をCIFではなく法人番号で管理できるようになる。

<群馬銀行における法人分野でのデータ活用>

当行でのMCIFの活用領域は、店舗統廃合の影響等の各種分析、SFA等の営業支援、各種プロモーション、デジタル接点によるコミュニケーションだ。法人分野の新規開拓で、与信先に仕入先の紹介を依頼するためのリストを作成しても、財務内容を把握できない、遠方だとアプローチできないといった課題があった。そこで法人番号をキーにしてCOSMOS2と紐づけすることで、法人の事業規模や財務内容を把握できるようになった。このように質の高いリストを作成することで、営業の強化を図っている。

<京都銀行におけるデータ活用の現状>

当行の営業企画部門では、3つの領域でデータ活用に取り組んでいる。1つ目は営業支援・ターゲティングで、2つ目は本部企画・意思決定、3つ目は業務効率化だ。京都銀行の共同MCIFユーザーID数は、2020年度以降の4年間でおよそ3.7倍、利用部署も新たに4部署拡大した。

営業企画部門の事例を1つご紹介すると、店舗・ATM戦略策定では、漠然としたイメージの定量化や関係者が納得できる説明が求められた。そこでMCIFによって不足データを創出し、顧客単位で影響の尺度を新たに定義し、意思決定に繋がる分析やデータに基づく仮説構築・論理展開ができた。経営層だけでなく実務担当者にも分かりやすい事例であり、活用拡大を実現した。

<大分銀行における事例紹介:コールセンター強化>

当行では特に営業部門においてデータ活用が積極的に行われている。営業部門における活用で、特に共同化のメリットを享受している領域が2つある。1つ目はデータ加工で、情報資源を創出する取り組みだ。自行のIT部門などに頼りすぎずに営業部門が取り組めることが特筆すべきポイントだ。2つ目は営業支援で、情報資源の価値を営業施策で発揮するため、共同MCIFにサポートをいただいている。

営業推進上の課題として、限られた営業人員、ソリューション営業等による負担増加、個人分野の効率性への懐疑がある。「個人分野の集約営業」をコールセンター機能強化によって解決した事例をご紹介する。PDCAで誰に電話するかのPlanでは取引明細を活用したローンターゲティングを多数用意し、電話をするDoの段階ではナレッジラボの特許技術を利用してお客様の在宅曜日を推定して本人対話率の向上に繋がった。Checkでは課題や疑問に対してデータから事実ベースで回答することで、納得を得ながら進めている。最後のActionでは取引明細を家計簿のように表現する「家計データ化」などにチャレンジしている。

<西日本シティ銀行におけるデータ活用の現状>

共同MCIFがスタートした2013年からは、主に銀行内のデータを現場で活用する取り組みを行ってきた。2020年にMAツールを導入し、活用するデータ・領域ともに広がってきた。2023年からは、お客様のWeb行動データを収集・活用し始めた段階だ。

デジタルマーケティングに関して、お客様の属性データやトランザクションはもちろんのこと、お客様のデジタル上の反応もMCIFに入れている。MCIFが司令塔となりMAツールに指示を出し、MAツールがOne to Oneでコミュニケーションを行う。BtoB領域では、名刺データの活用を進めている。大手の名刺管理ツールによって名刺データはできていたが、銀行内のデータとうまく紐づいていなかった。そこで名刺情報を銀行内に自動連係する過程で銀行の顧客情報を付与し、MAツールにも連係した。

営業分野以外でも活用が進んでおり、グループ会社との名寄せを自動化することで、共通与信先の管理を省力可した。人事ではデータから退職しそうな人を見つけ出す研究を始めている。またMCIFを活用することでAMLの高度化にも繋がっている。

<今後の目指すべき姿>

群馬銀行ではこれまでデータ分析によってお客様のニーズを推定し、特定商品・サービスを案内するといった一方通行型のアプローチが多かった。今後は純粋な情報提供などでアプローチし、ホームページの行動ログから直接ニーズを把握していきたい。

京都銀行では「データドリブン経営への変革」を掲げている。担当者としては、ビジネス・デジタル技術に関して当事者双方の想いをくみ取り金融DXを推進していきたい。ユーザー目線でシステムがどうあるべきか、ベンダーの方とも対等に向き合う。

大分銀行の担当者としては、データ価値を発揮する分野をさらに広げていきたいと考えている。同時に、本部人員にも限りがあるため、自動化やナレッジ転用により効率的に推進していく。

西日本シティ銀行では、お客様に「今回も西日本シティ銀行でいい」と思っていただけるような関係性を構築していきたい。そのためにデータを活用した「線でつながる顧客体験」を提供していく。