データ利活用の実態からみる“Multi-Cloud by Design”の価値とは?

【講演者】
デル・テクノロジーズ株式会社
システムズエンジニアリング統括本部
シニアソリューションアーキテクト
宗岡 匠 氏

<デル・テクノロジーズについて>

当社の目的は、人類の進化を牽引するテクノロジーを創出することで、日本のお客様の変革に貢献する真のパートナーを目指している。当社には2つの軸があり、コア領域はPC・ストレージなどITインフラ製品、成長分野はクラウド・エッジなど新しいテクノロジーだ。また、デル・テクノロジーズキャピタルというベンチャーをグループ内に保有しており、お客様のビジネスチャレンジをしっかりご支援する役割も果たしている。

<Multi-Cloudの時代>

世界的な傾向として何よりも重要なのは、Multi-Cloudの時代に突入していることだ。パブリッククラウド・オンプレ・エッジなど複数の環境を、お客様が主体的・戦略的に使い分けられるというのが我々の考えるMulti-Cloudの世界である。その理由は、投資・機能の最適化を図る必要があること、価格決定権など自律性を持つこと、データ活用・ビジネスへの適用を推進することの3つだ。

<“AIで企業を変革”のビックムーブが到来>

大きなトレンドとして、ChatGPTを始めとした生成AIもある。生成AIにおける成熟度モデルで、最初は実験的にAIを利用する段階で、汎用モデルで何ができるかを確かめるお客様は多い。次の段階は優先順位を付けるためGenAI CoE(戦略とガバナンス)の確立、PDCAの設計、ユースケースの評価など、計画的に推進する段階だ。

<生成AIにおける日本企業・団体の現状と傾向>

まずはAzure Open AIなどの汎用生成AIサービスでPoCを進めているお客様が多い。ユーザー展開は比較的容易だが、ユースケースによっては本格利用までハードルがある。汎用モデルは重厚長大なものも多いが、お客様がやりたいことをピンポイントで実行できることも重要だ。その意味でNTT tsuzumiをはじめとする日本語処理性能の高いLLMの開発も大きな傾向になるだろう。GPUの調達が困難なこともあり、CPUで動作可能な“超軽量版”への注目も高まっている。

汎用サービスでのPoCを進めた企業で、オンプレ基盤の調達を開始するところも見られる。生成AI先行企業が、コストと性能の観点からクラウドサービス依存からの脱却を企図しているのだ。ユースケースによって適材適所でLLMと稼働基盤を選択することが必要だとの結論である。

<デジタル先進企業・団体が抱える課題>

企業が抱えている課題は主に2つあり、1つ目はROIだ。デジタル施策を考える方は、色々やりたいことが明らかになってきていると思うが、コストの面がハードルになる。小規模なPoCは良かったが、本格活用フェーズに入った途端にクラウドコストが重くのしかかったというケースは多い。

2つ目の課題はTime to Marketで、社外はおろか、社内のデータすら繋げるには一苦労という企業も多いだろう。クラウドであろうがオンプレであろうが、環境の払い出しがビジネスの足を引っ張るわけにはいかないというところがあるが、デジタル部門やLOB部門の皆様が求めるスピード感になかなか追随できない。

<ROIの課題の具体例>

ROIの観点から、パブリッククラウドは意外と高額との声は色々な所で聞かれるようになった。その理由の1つ目は、高い利益率を前提とした価格設定になっていることだ。60%を超える粗利率を前提としており、変動費モデルの移行を行っても、結果としてTCOの増加のリスクが存在する。2つ目の理由は、利用規模が拡大するにつれ増加する“Hidden Cost”だ。LCCにも良く見られるが、シンボリックなサービス金額を全面にアピールする“Drop Pricing”の落とし穴である。3つ目はデータ利活用の面でも重要になるが、高額な“Egress Cost”が発生することだ。自分たちが必要とする環境でデータを連携するだけで高額なコストがかかり、ROIでペイできなくなる。

米国NASAからも、データ管理コストについて重大な懸念があることを提示するレポートが出ている。NASAが管理する地球科学データはAWSに保存されているが、データが指数関数的に増加し、コストと管理上の課題が増加すると予想されている。すべての地球科学データが1つのベンダーに保存されることにもリスクがあるが、他のプロバイダーに移行するためのコストも法外になる恐れがある。イグレスコスト対策のために、最悪の場合はサービス停止まで検討せざるを得ない状況だ。

世界的な音楽ストリーミングサービスプロバイダーにおける、クラウドコスト最適化事例もご紹介する。クラウドで実装していたサービスをオンプレミスに戻したところ、16億ドルから8億ドルへコストが下がった。ここで申し上げているのはオンプレミスのほうが良いということではなく、お客様が本当に実現したいワークロード・ビジネスアウトカムに応じて、適切な基盤を見極める必要があるということだ。

<Time to Marketの課題>

グローバルでデータは爆発的に増加しており、さらに厄介なことにデータは多数のシステムに分散している。このような環境でもデータをシームレスに繋げていかなければ、Time to Marketは実現できない。

この課題に対し、従来型のデータマネジメント・アプローチではなかなか太刀打ちできない。従来型とはデータベースからデータをETLやマルチコピーを経由してデータウェアハウスに格納する、あるいは構造化・非構造化データをとにかくデータレイクに貯めていくことだ。しかし、新たなビジネス要求が発生するたびにこのようなプロセスを回すのは限界がある。データの移動で遅延が発生し、データの精度が落ちてしまうのだ。

<デル・テクノロジーズが提供する価値“Multi-Cloud by Design”>

あらかじめ予期・デザインした形でITプラットフォームは構築していくべきであり、そのため当社が提唱をしているのが“Multi-Cloud by Design”だ。お客様がシンプルにクラウドのメリットを享受し、しっかりと全体の環境をコントロールし、Time to Marketに即応できるようなアジリティーを担保する。

Multi-Cloud by Designを端的に表現すると、クラウド間の違いを抽象化するOSのような存在だ。お客様が複数のクラウドを選択するには、クラウドをまたがって抽象化するレイヤーが必要となる。我々はオンプレミスのような”グラウンド”から、”クラウド”まで、一貫した運用環境のクラウド体験を提供する。グラウンドからクラウドへ、クラウドからグラウンドへ、双方向で利用できるような環境だ。

Multi-Cloud by Designで実現する世界のイメージでは、クラウド間で共通のストレージプラットフォームを展開する。オンプレミスで使っていたようなストレージを、クラウドでも使えるようにする。クラウドの違いを意識せずに、データを行き来させることが可能だ。例えばオンプレミスで動かしていたアプリケーションを、リソース不足のために一時的にAWSのリソースで動かすといったことができる。PoCのアプリをクラウド上でクイックに構築し、オンプレミスのデータに直接アクセスしてデータサービスを提供することも可能だ。クラウド上のアプリケーションを、より安定した性能を求め、オンプレに稼働場所を変更することもできる。

◆講演企業情報
デル・テクノロジーズ株式会社:https://www.dell.com/ja-jp