2021年 銀行法改正についてわかりやすく解説【初心者向け】


「銀行法」は2021年5月に改正され11月に施行され、金融機関の業務領域の拡大が可能となって以降、2023年に入ってからもデジタル化の進展等に対応した顧客等の利便向上・保護の観点から「金融商品取引法等の一部を改正する法律案」が提出され、金融機関のビジネスを取り巻く環境は変化し続けています。
本稿では、2021年改正の銀行法の背景と要点を整理したうえで、2023年に提出された新たな動きと各社の取り組み事例を取りあげます。

  1. 2021年 銀行法改正の要点
    (1)主な改正点
    (2)施行日
  2. 銀行法改正の背景
  3. 2021年 銀行法改正のポイント
    (1)業務範囲規制の見直し
    (2)出資規制の見直し
  4. 銀行業高度化等会社とは
  5. 銀行業高度化等会社 各社の取り組み
    (1)三井住友フィナンシャルグループ
    (2)三菱UFJフィナンシャル・グループ
    (3)東京きらぼしフィナンシャルグループ
  6. 銀行法改正に関する金融庁公式の問い合わせ先
  7. まとめ
目次

2021年 銀行法改正の要点

(1)主な改正点

銀行法とは、銀行の業務の公共性にかんがみ、信用を維持し、預金者等の保護を確保するとともに金融の円滑を図るため、銀行の業務の健全かつ適切な運営を期し、もって国民経済の健全な発展に資することを目的とする法律で1981年に制定されました。
2021年5月、銀行法が改正され「業務範囲規制」と「出資規制」の見直しによって、内容の大幅な緩和がされています。つまり金融機関は規制が緩和されたことで、業務領域の拡大が可能になりました。
2023年に入ってからも、デジタル化の進展等に対応した顧客等の利便向上・保護の観点から「金融商品取引法等の一部を改正する法律案」を提出しています。
さらに2021年の改正に加えて、銀行等の営業所の設置に係る手続の見直しなどの規制緩和要望に対応するため、「銀行法施行規則の一部を改正する内閣府令(案)」も公表されています。

(2)施行日

銀行法改正の施行日は2021年11月22日です。

▼2017年の改正法についてはこちら▼

改正銀行法で何が変わる? オープンAPIとFinTechの推進

銀行法改正の背景

2021年に銀行法が改正された背景には、以下の3つが挙げられます。

  • 社会経済の構造的な課題
  • 新型コロナウイルス感染症等による影響
  • 銀行等の状況

「社会経済の構造的な課題」では、少子高齢化による人口減少、地方における生産人口の減少が挙げられます。内閣府の調査によれば、生産年齢人口は2065年に約4,500万人となる見通しとなっており、2020年と比較して約2,900万人減少するとしています。とくに地方は過疎化などがより深刻なものになると予想されています。
こうしたこれまでの社会構造が変化することで、経済の要である銀行も変化した社会構造に対応したものでなくてはなりません。

2020年に流行した新型コロナウイルス感染症は、ビジネスのあり方を大きく変え、非対面でのサービス提供やデジタル化の促進が求められるようになりました。大都市圏でも地方でもニーズが変わることはなく、企業はこれらに早急に対応が必要です。銀行や金融業界は人材や技術提供など企業のサポートを行い、デジタル化の促進に加え、地方においては地方創生への貢献も求められています。

銀行の状況として、低金利政策や資金需要が減少してしまったことにより、これまでの本業のみで事業を継続していくには難しい経営環境にあります。加えて企業側も余剰資金を積み上がり、間接金融部門における緩和的な融資態度が常態化していると指摘されています。
さらに金融機関に対しては、各種支援制度の紹介や業務効率化(IT化・デジタル化)に関する支援など、これまでの業務範囲を超えた支援を受けたいというニーズも広がっています。
こうした背景から、変わっていく社会の中で経済の要である銀行としての役割を果たすため、銀行法を改正し、「業務範囲規制」と「出資規制」の見直しに至っています。

2021年 銀行法改正のポイント

(1)業務範囲規制の見直し

元来の銀行業務では、経営の健全性を保つために「固有業務(預金又は定期積金等の受入れ、資金の貸付け又は手形の割引、為替取引)」「付随業務」「他業証券業務」「法定他業」に限定されていました。
2021年の改正では、デジタル化や地方創生などの持続可能な社会の構築を実現するために、限定されていた「銀行本体」および「銀行の子会社・兄弟会社」へ業務範囲の緩和が以下のように発表されています。

<銀行本体が認められた参入業務>

  • 自行アプリやITシステムの販売
  • データ分析・マーケティング・広告
  • 登録型人材派遣
  • 幅広いコンサル・マッチング

<銀行の子会社・兄弟会社が認められた参入業務>

  • フィンテック
  • 地域商社(在庫保有、製造・加工原則なし)
  • 自行アプリやITシステムの販売
  • データ分析・マーケティング・広告
  • 登録型人材派遣
  • ATM保守点検
  • 障害者雇用促進法に係る特例子会社
  • 地域と連携した成年後見

デジタル化がテーマとなっている銀行法改正において、自行アプリやITシステムの販売が個別の認可なしで可能になったことは顕著な例と言えます。銀行が単独で開発したシステムや事業者と共同で開発したアプリなどを、企業に対して販売ができ、本業での収益が厳しい経営の改善や、デジタルを活用した持続可能の社会の構築に貢献できます。
銀行が行う創意工夫によって、これまで手が出せない分野の業務まで手が回るようになったことは、大きな見直しです。

(2)出資規制の見直し

銀行はこれまで原則として、一般事業会社への出資は基準議決権数(銀行:5%、銀行持株会社:15%、信用金庫:10%)までに制限されていました。
しかし法改正によって、非上場の地域活性化事業会社に対して議決権100%の出資が可能になりました。さらに出資が認められる会社の要件についても、ベンチャービジネス会社や事業再生会社など「早期の経営改善・事業再生支援や、中小企業の新事業開拓の幅広い支援を可能とする観点から、出資可能範囲・期間を拡充する」と明記されたことで、緩和されています。
また、銀行が海外で買収した外国子会社・外国兄弟会社についての規制も緩和されています。従来は原則5年以内の売却が必要でしたが、改正によって買収後10年間は業務範囲規制にかかわらず会社の保有ができ、現地における競争上の必要性があれば継続的に保有することも可能になりました。
出資規制が見直されたことで、より積極的な融資による地域経済活性化への貢献や海外競争力強化への貢献ができます。

銀行業高度化等会社とは

銀行業高度化等社会とは、2016年に銀行法改正によって導入されたもので、以下のように定義されています。

<銀行業高度化等社会の定義>
「情報通信技術その他の技術を活用した当該銀行の営む銀行業の高度化若しくは当該銀行の利用者の利便の向上に資する業務若しくは地域の活性化、産業の生産性の向上その他の持続可能な社会の構築に資する業務又はこれらに資すると見込まれる業務を営む会社」

金融機関は銀行業高度化等社会を活用して、「フィンテック」や「登録型人材派遣」「システム設計・プログラム販売等」などの業務を営むことが、認定基準が緩和されたことにより可能になりました。
この銀行業高度化等社会を活用することで、「銀行本体では参入できない事業への参入ができる」「本業の収入に依存しない事業を営むことができる」などのメリットがあります。

銀行業高度化等会社 各社の取り組み

(1)三井住友フィナンシャルグループ

三井住友フィナンシャルグループでは、デジタルサービスの展開に力を入れています。
2019年には弁護士ドットコムと共同で設立した電子契約サービス「SMBCクラウドサイン」、2020年8月にサービスを開始した法人向けSaaSプラットフォーム「Plari Town」は、サービス会員数が9,000社を超え、経営課題解決のサポートを行っています。
さらに2021年7月には、株式会社電通グループとともに「株式会社SMBCデジタルマーケティング」を設立しています。同社はSMBCの顧客に対して、金融・非金融に止まらない新たな付加価値を提供することをコンセプトに、金融ビッグデータを活用した広告・マーケティング事業を営む会社です。属性情報や利用履歴から、顧客の興味関心のある内容を推察、該当する企業に対してターゲット層の提案を行い、広告メディアとしての役割を果たしていく考えです。
実際に行った広告配信では、一般的なクリック率を上回る結果を得たとしており、今後もデジタルマーケティングの拡大を目指していきたいとしています。

(2)三菱UFJフィナンシャル・グループ

三菱UFJフィナンシャル・グループでは、早くから銀行業高度化等社会に対応するため、2017年にJapan Digital Design 株式会社を設立しています。銀行業高度化等に資するシステム開発や販売、コンサルティングおよび人材育成などの業務を行っています。
また、2022年7月にはサイバーエージェントと提携し、デジタル広告事業を開始することを発表しました。背景には銀行法改正によって、広告・マーケティング業務への参入が銀行にも認められ、非金融事業として新たな収益源としたい狙いがあります。
具体的には銀行が抱えている預金者情報から事前に同意を得た利用者に対して、広告主の広告をスマートフォンやパソコンに表示させます。利用者はニーズに合った広告内容となり、広告主はターゲットに合った利用者に効果的な広告配信が可能です。

(3)東京きらぼしフィナンシャルグループ

東京きらぼしフィナンシャルグループでも、業務領域の拡大をしています。
2022年6月には、広告代理店である株式会社ビー・ブレーヴを完全子会社化にすると発表しました。同行は中期経営計画として、「お客さまの新しい価値を創造する東京発プラットフォーマーとなる」を掲げており、顧客の多様なニーズに応えるためのプラットフォーム構築の一環として、同社を子会社化しました。銀行法改正によって認められた広告企画などの事業を内製化し、顧客が抱える広告宣伝やマーケティング分野の課題解決に努めていきたい考えです。
さらに2023年5月には、三菱商事と業務提携を行い、同行が持つデジタル金融事業における知見とサービスを提供するとしています。三菱商事が持つ事業地検やDX推進力や専門人材を組み合わせることで、事業パートナーの成長、地域生活者の利便性向上に貢献していきたいとしています。

銀行法改正に関する金融庁公式の問い合わせ先

銀行法改正に関する金融庁公式の問い合わせ先は、以下の通りです。

<問い合わせ先>
https://www.fsa.go.jp/news/r4/ginkou/20230329.html
金融庁監督局総務課監督調査室
Tel 03-3506-6000(代表)(内線3706、3852)

まとめ

2021年の銀行法改正によって「業務範囲規制」と「出資規制」が見直され、あらゆる分野へ提供できるサービスや施策は広がりました。社会経済の変化やデジタル化の促進の流れから、銀行も変化に対応できる体制を整えることは、社会経済の基盤を整えるためには大切と言えます。
今後は金融サービスに止まらない、ノウハウや人材など新たな価値提供が銀行には期待されています。銀行が地域貢献の役割を果たした先に、持続可能な社会の実現があるでしょう。

寄稿
株式会社セミナーインフォ
TheFinance編集部
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